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しんせかい  作者: 日陰四隅
第一章 リンネ
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プロローグ②

「しっかし大将も懲りないねぇ」


 一直線に伸びる遺跡の道を化け物に追われながら前を行く傭兵が言った。


「どういう、意味だ、カズヤ」


 息荒く途切れ途切れに俺は叫び気味に言い返した。


「他意はないぜ、そのまんま。良くもまぁあんな化け物相手にコミュニケーションをとろうと思うのが信じられないっていってんだよ」


 走りながら肩を竦めて傭兵ことカズヤは不思議そうに言った。


「俺は、お前ら、薄情者とは、違うんだよ。いいか、俺はな、どんな奴、でも、コミュニケーション、が、成立する、んだったら、親友に、なれる、と、信じて、いる、平和、主義、者、なんだ、ぜ」


 これは嘘偽りない。俺自身出自はどうだ容姿はどうだとして、会話が成立しコミュニケーションが成立するならばどんな相手だろうと仲良くなれると信じている。もちろん、好き好き相性はあるだろうけども。


「主殿の博愛精神は天井知らず故なぁ」


「なんか、含みが、ある、いい、方、だな、アオエ」


 はてさて、とそらとぼける侍ことアオエ。


「嘘つけ、この前飲み屋で取っ組んでたじゃねぇか」


「それはそれ!」


 んな都合のいい話があるか? 呆れたようにカズヤは言った。


「それより、お前ら、いい加減にしろ」


「「何が?」」


「何が? じゃ、ねぇ、んだよ、いい、加減、助けろ! こちとら、テメェら、みたいに、体力、お化け、じゃ、ねぇんだ」


 向こうは侍とか傭兵とか言われている一般人とかけ離れたフィジカルをしている連中。こちとらちょっと人とは違う能力を持ち合わせたただの一般ピーポー。当然ながらその体力差も天と地。


 しかもこの遺跡の通路何故か遺跡の中心に向けて下がる傾斜で作られている。


 大体階段で作れよと思う。しかし、あの化け物を封印するための遺跡なら納得もできるが、いや、ねぇな。あの怪物ものともしてやがらねぇ!


 いいとこ侵入してきた阿呆を怪物のエサにするための構造にしか見えない。きっとそうに違いない。


 前の2人とはただでさえ体力差があるというのにこの傾斜角。すでに少し前から太ももやらふくらはぎが悲鳴を上げている。


 そんな俺の様子を知ってか知らずか、前を走る2人は顔を見合わせ。


「いや、俺等も結構辛いぜ?」


「某病弱故」


 実に余裕綽々に言った。


「嘘つけ!」


 叫んだと同時に足がもってかれた。原因はあれだ、あの怪物の体液。甘咬みというか吸われたというか、全身に塗れていた唾液が足に達し、突っ掛かりのない石床を滑らしたのだった。


「あっ」


 我ながらなんとも間抜けた悲鳴。身体は虚空に浮き、盛大に腹這いで石床へと叩きつけられた。


「あ、盛大に行きやがった!」


 振り返ってこちらをみたカズヤが言った。


 俺はというと無防備に胸から床に落ちたお陰で悶えていた。


 右へ左へ床を転がっていると次第にずれ落ちていっていることに気づいた。


「ちょ、ちょちょちょちょっとぉぉぉっ!?」


 傾斜の理由はそういう事か! というかあの化け物、反芻みたいな機能があるのか?

 

 うつ伏せで必死にこの場にとどまろうとするが、唾液で滑る手足は無情に滑るだけ。そして。


「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!?」


 すべり台のごとく綺麗に来た道を戻った。


「どうする、傭兵殿?」


「どうもこうもやるしかねぇだろ、エセ侍」


 然り、とアオエが返すと二人同時にブレーキを掛ける。その様子を必死で手足で止まろうとしながら見守る俺。いや、やる気になってくれたのは大変嬉しいがもう少し前にやる気になってくれないかな!


 滑り下る俺は接近する怪物に近づく。


「とぉまぁれぇぇぇぇぇぇっ!」


 摩擦がなくなり滑る身体を手足で必死に止めようとする。それが功を奏してか、滑り落ちる速度が次第に落ちていった。


 目に見えた変化は少ないものの着実に勢いは削がれ、そしてついに俺は静止したのだった。


「…………止まった」


 ホッと胸をなで下ろす。瞬間、身体の左右に化け物の前足が落ちた。


「あ。」


 謎の影が差し、恐る恐る見上げると化け物の姿。野郎は口を開ききって生臭い息を吐きかけていた。


 そして、上がる右前足。


「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!」


 蹲って意味のない防御姿勢を取った俺。数秒後にはぺちゃんこになる、そう思った瞬間。


 怪物の頭が炸裂した。


「ほら、こっちだ化け物!」


 声が聞こえる方向を振り向く俺と怪物。見れば坂上に足を開いて、曰く擲弾と呼ばれる爆弾を射出する銃器を勇ましく構えるカズヤの姿。


 その雄々しい佇まいが大変素敵なのだが。


「俺が相手してやんぜ、バケモン!」


 そういって擲弾を連続で射出した。というか、それはお前!


「俺がいること忘れんなぁぁぁぁぁぁっ!」


 連続する爆発。吹き荒れる熱風と衝撃。あの野郎今俺が化け物の真下にいるってわかってんだから連続で爆発物を射出するんじゃねぇ!


 数にして5発。弾倉に残った弾を放出しきった射出機を構えたまま、真正面を見据えるカズヤ。

 

 俺の頭上で黒煙が上がっている。直撃した化け物は全く動かなくなった。死なないにしても何かしらダメージが入っていると信じたい。


 まもなく晴れる煙。現れたのが皮膚が焦げただけの怪物の姿だった。


「いやぁ、やんなるね。こっち来てからこんなんばっかだぜこの世界」


 呆れたように言うカズヤは手早く射出機を折った。


 化け物は今の攻撃で標的を俺からカズヤに変えたようで、真正面に佇む奴に威嚇するように鳴き声を上げた。そして、走り出す。俺は蹲る。


 その間もカズヤは手慣れた素早い動きで弾倉の空薬莢を排出し、青い弾を2発、緑の弾を1発込めて閉じた。


「それじゃアオエ君、いつも通りよろしく」


「あいわかった」


 鳴きながら接近する怪物の足を狙い、カズヤは擲弾を射出した。


 放たれた弾は見事に着弾。発生したのは青い光だった。直後、化け物が前のめりに倒れ込んだ。


「お見事」


 カズヤの隣で佇んでいたアオエが言った。


 まもなく怪物は身体を起こした。頭を振って一鳴きすると再び走り出そうとして。


「…………!」


 怪物は擲弾が直撃した足が凍りついていることに気づいた。


「流石M&A社特注の冷凍魔法弾だぜ。面白いように氷やがる」


 まるで玩具をもらったような子どもの笑みを浮かべたカズヤは、化け物の反対の足に狙いを定めた。


「そらもういっちょ!」


 再び射出。弾は吸い込まれるように怪物の足に直撃し凍てつかせた。


「それじゃあ、後よろしく」


 カズヤはアオエに言うとポンと肩を叩いた。


「承知」


 そういうと腰に差していた刀と呼ばれる剣を手に取った。右足を前に出し、腰を沈め、腰の左横あたりで鞘に収まった刀を持ち、その柄に右手を添えた。


 両足が凍りつき、その場で身悶える化け物を前にして静かに息を吐き、そして弾けるよう疾走った。


 カズヤはそのアオエに向けて射出機を構えた。


「それじゃあいくぞ! 3!」


 始まるカウントダウン。


「2!」


 その声を聞いてアオエは踏み込んだ。


「1!」


 瞬間、アオエは跳ぶ。同時にアオエに向けてカズヤは擲弾を射出した。


 空に緑の線が描かれる。擲弾は真っ直ぐアオエに突き進み、直撃した。


 直後、緑色の輝きとともに荒れ狂う風が吹き荒れる。それに乗るかのようにアオエがすっ飛んだ。


 疾風の如く吹っ飛ぶアオエは化け物との彼我の間を一瞬で詰め、腰に構えた刀を鞘から引き抜いた。


 そのまま威嚇する化け物の頭を斬りつけ、吹き飛ぶ勢いのまま一直線に身体を両断した。


 噴き上がる紫色の体液。天井や壁、遺跡のいたるところを紫色に染め、五月雨のように降りしきる体液を躱し、アオエは優雅に着地した。


「さっすがアオエ先生。綺麗に真っ二つだよ」


 射出機を両肩に笑うカズヤは言い。


「動かぬ畜生を斬るなんぞ造作もない。自慢にはならんよ」


 刃に付いた体液を払い、刀を紙で拭うアオエはカズヤに向けて言った。


「よーしお前ら、俺に何か言うことはないか?」


 ただ一人。腐った魚と糞が混じり合った雨にうたれながら、床に腕をつき、体を起こしている俺は臓腑の底から吐き出すような声で言った。


「散々であったな主殿」


 実に他人事のように言うアオエ。


「ま、ご愁傷様ってやつだ」


 諦めな、とふざけたことを抜かすカズヤ。そして俺はキレた。


「お前らぁぁぁっ!!」


 怒りに身を任せて立ち上がった。しかし、その時俺はある重要な事を忘れてた。


「あっ」


 立ち上がった瞬間綺麗にバランスを崩した。そう。この怪物の体液よく滑るのである。


「あああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 腹這いのままくるくる回って真っ逆さまに神殿底に滑って行く。


「助けろ!」


 落ち行く先、佇むアオエに俺は叫ぶ。野郎は近づく俺を見て心底嫌そうな表情を浮かべ。


「いや、某今の主殿に触れるのはちょっと」


 さっと横に身を引きやがった。


「テメェェェっ!!」


 回りながら叫ぶ俺。本当に嫌そうな表情を浮かべるくそったれに一矢報いると無理くり手足で反対の壁へと近づく。そうして壁に触れるくらいまで近づくと、俺はそれを蹴飛ばしアオエめがけてすっ飛んだ。


「主殿!? ここぞとばかりに器用な事を!!」


 ざまみろ。流石に予想外だったか焦るアオエはとっさに跳び上がる。だが、それも想定内。こちらは端から飛び上がる気で手と足を駆使し、そして俺も跳び跳ねた。


 心持ちと準備の差。咄嗟に跳ね上がったアオエの飛距離は俺から逃げるには足らず、俺は奴の足を掴んだ。


「フッ」


「そこまでして!」


 そのまま滑る勢いで奴を引き倒した。


「地獄まで道連れじゃぁぁぁっ!」


 叫ぶ俺。


「童か! 素直にひとりだけ亡者になればよかろうて!」


 アオエは普通にキレて頭を蹴りカマしてきやがった。


「お達者で〜。ごゆるりと〜」


 唯一他人事のようにひらひらと手を振り俺達を見送るカズヤ。だが甘い。アオエを倒した時点で次の流れは決まっている。


 散々人の頭を蹴っていたアオエが止まる。すぐさま坂上を見やり腰に手を回した。


 そこからは流れ作業。手にした物を上へと投げやる。それは重りのついた縄で、カズヤの足元にまわり、器用に絡みつけた。


「フッ」


 アオエは悪い笑みを浮かべた。


「あ、おま、ふざけっ…………、」


 余裕ぶっこいていたカズヤが咄嗟に対処しようとしたがもう遅い。成人2人分の重量のかかった縄は綺麗にカズヤの足を刈り。


「死なば諸共よ!」


「んなぁぁぁぁぁぁっ!!」


 三人仲良く遺跡のそこに落ちていった。

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