プロローグ①
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
男の悲鳴が木霊する。いや、第三者視点で冷静に語っているけれども実際に叫んでいるのは絶賛俺である。
ちなみに、俺が誰かといわれれば名前はケージ。歳は23歳。成人男性。リンネ管理局内部調査部北方管理課第一調査係所属の国家公務員である。あ、内部調査部といっても組織の内部調査を行うのではなく、リンネ国内、主に首都アルストロを中心と見据えた際に国土内にある北部の調査を行っているしがない公僕だ。
そして、国内北部の何を調査しているのかといわれれば聞いて驚け、それはなんと異世界からやってきた住人達である。
「くーるーなーよー、この化け物!」
堪らず叫ぶ俺。一つ誤解しないでほしいのは俺が差別主義者で異世界から来た存在を化け物呼ばわりしている訳ではないということだ。
何せ絶賛俺を追いかけている異世界からの来訪者は肌は灰色、頭は口だけ、しかもその口の周りに頭足類の頭足部にた触手を擁した、この外見から化け物としか形容しようがない生物だからである。
さて、どうでもいい事だが頭足類というのはつまるところタコやイカの海産物を指す。だが、推定俺を捕食しようとしているこの怪物は生意気にも海の生物の特徴を有しながら、その頭から胴体は四肢のある爬虫類に類似しているのだ。
まぁそれが10センチメートルぐらいの爬虫類だったから可愛げがあるのかもしれない。
…………ごめん、やっぱり無理。で、背後から迫る怪物は推定6メートル以上は超える巨体である。もはや可愛げのかけらが微塵も感じられない。
しかも皮膚は人肌っぽく、おまけに前後足が人の手に似ているのが余計に嫌悪感をさそう。よくもまぁこんな出来損ないの人間の怪物みたいな生き物が生まれる世界があるものだと感心する。
ともあれ、外見で判断するのはいささか大人げなくかつ子供っぽい。いくら人類から月とすっぽんくらいに離れていようとコミニュケーションが可能ならば友好関係が気付ける可能性があるのだ。博愛主義と平和主義を掲げている俺としては見た目が醜悪だとしても、最初から敵性生物として取り扱うのは同じ生命として失礼に当たると思ってる。
もっとも、連れの二人はそんなこと微塵も思っていないらしく、傭兵の男は"いつも通り餌になりに行きやがった"とのたまい、自称刀持の推定サムライと呼ばれる人種は"懲りぬなぁ"と呆れたように言いやがった。
今に見てろと二人に息巻き、“喰われるか、交友関係が成立するか賭けるか?”、“賭けにならぬなぁ”と背後から聞こえる戯言を聞き流しながら諸手を広げ、敵意がないアピールをしながら怪物に迫り、異生物間の交流の懸け橋にならんと怪物とのコミュニケーションを図って俺は見事玉砕したのだった。
そりゃもう頭からバックリと。口の周りに触手があるんだから少しは警戒心出して触るとかしろよと思うが、そんな躊躇を一切見せずに即頭からかぶりつかれたのには恐れ入ったね。よっぽどお腹が減っていたのかしらん。
とまぁ、そんな感じで危うく化け物の糞になりかけたんだが何故助かったかと言われれば必死の抵抗おかげである。というか、2人助けろよ。
幸いに化け物に歯は無く、上半身まで丸呑みにされ後もう少しで胃の中にご招待みたいなところでこちとら食われてたまるか、と逆に齧り付いてやった。どうやら化け物にも痛覚があったらしく人の体を咥えたまま長い首を持ち上げ、金切り声のような悲鳴をあげ、そのまま苦しそうに左右に振ったのだ。
生理的に吐き気を催しそうな悪臭と、耳の真横で黒板に爪を立てられたような不快な鳴き声に耐えながらしばらく噛みついていると急な浮遊感に襲われた。ピンクと赤黒が入り混じった肉の世界から、古びた石材に囲まれた何処ぞの遺跡に見事生還。若干叩きつけられ気味の着地だったが五体満足なので良しとする。
少し痛む腰をさすりながら立ち上がり、何もせずにただ佇んでいる優秀な2人の"契約者"を睨みつけた。すると、傭兵の方がこちらを指差した。
振り返ると先ほどの化け物が口を開いたままこちらを見て(?)いた。俺が噛みついたから警戒をしているのだろう。耐え難い匂いの生暖かい息を吐きかけられながらこちらも一歩も動けずにいた。ヘビに睨まれたカエルとはまさに今の状態だ。
しばらく考えるように止まっていた怪物だが、何か思いついたように不快な鳴き声をあげ、首を持ち上げ天井を仰いだ。瞬間、地に着いていた前足を持ち上げた。
成る程。獲物が攻撃してくるなら動かない状態にしようとするのは確かに道理。だが待ってほしい。それを喰らったら俺は良くて重症、最悪即死である。
なので咄嗟に振り返りつつ、迫る前足を身を沈めながら巧みに躱す。そのままの勢いで前に飛び込むように前転をかまし、見事着地。そのまま振り返ることなく走り出した。
背後からは明らかに怒気の含んだ鳴き声。せっかくの獲物を逃がした化け物の魂の叫びだ。
うるせぇ! エサになってたまるか!
構わず走り続ける俺。そして何が不愉快かといえばあの棒立ちしていた2人が俺が逃げると見ると否や振り返って走り出しやがったことである。
「あ、この野郎テメェら! この穀潰し共が一体誰がテメェらの金払ってんと思ってんだ!」
「「国!」」
しっかり2人揃って叫んでんじゃねぇ!
こうして話は冒頭に戻るのである。
流石に思いつきで書き続けるには無理があったので書き直しで再掲載です。定期的に止まります。