第9話 新たなる出会い
初登校当日、お母さんとお父さんに見守られながら、玄関で靴を履いた。
「マーくん。忘れ物ない? 体調は大丈夫?」
「マコト。同級生にいじめられたり、なにかされたら、すぐに遠慮なく言うんだぞ!」
ここまで過保護だと、こっちも甘えたくなる。
「昨日、準備したから大丈夫!! 体調も大丈夫だよ!」
「同級生と波長が合わなければ、すぐに言うね! 心配してくれてありがとう。」
二人とも、泣きそうになりながら、見守っている。
「アオイ姉ちゃんは先行ったの?」
「アオイちゃんなら、今日は日直当番だからって早めに、行ったわよ」
「そうなんだ。バス一緒だから、一緒に行こうと思ったんだけどな……」
行きしなに、小学校について聞こうと思っていたが、また今度にしよう。
「ごめんな。ランドセル、アオイのお古で」
お父さんが、申し訳なさそうに言った。
色々な手続きや準備物で、お金がなくなり、ランドセルだけアオイのお古になった。
「そんなことないよ!! ランドセル以外に関しては、全部新しいし、俺、赤好きだからこのランドセルがよかった!!」
俺の返答を聞いて、お父さんは号泣した。
「色々とありがとうね!! じゃあ、遅刻しちゃうかもだから、行ってきます!!!」
そういって、見守る両親にバイバイと手を振って、家を後にした。
◇
バス停に着いた。
バスの定期券がポケットに入っていることを確認した。
(用意周到。新生活早々、しくじったら、後に引くからね)
そうやって、自信満々にバス停を待っていると、真横に誰かが来た。
(こんな田舎の朝に、バスを待つなんて、俺以外にもいるんだな)
チラッと横の人物を確認してみると、女子高生だった。セーラー服の女子高生。アオイと同じ制服である。
もしかすると、この女子高生。アオイといつも高校に通っている『アカネ』という子ではないだろうか。以前、お父さんの会話で聞いた名だ。今日は、アオイは日直で早めに学校に行っているらしいが、日直がなければ、この時間帯だろう。
そう思考を巡らせていると、横からとてつもない視線を感じた。
多分、横の女子高生に、見られている。
もう一度、チラッと見た。目が合った。
その女子高生は、ニコッと笑い、頷いた。
「おはようございます。いつも、このバスに乗るんですか?」
さすがに、何も喋らないのは、気まずいと思い、話しかけてみた。
「おはよう。大当たり! 君に7ポイントを授けよう」
あぁ、この人には、話しかけないほうがよかったと、後悔した。
「君、見かけない顔だね」
「まぁ、最近引っ越してきたばかりなので。このバス停を使うのも初めてなんです」
不気味な笑みを浮かべながら、こちらをジロジロと見てくる。
「ふぅ~ん。道理で見ない顔だ。それよかさ、なんでそんなにランドセルボロいの?」
謎の少女は問い詰めるように聞いてきた。
「姉からのお古なんで」
俺は、けだるく答える。
なぜだか、この謎の少女には、あまり触れなうほうがいいと感じた。ただ、田舎のバス停。来るバスも、なかなか、来ない。
「お姉ちゃんって何歳?」
「えっ……。 お姉さんと同い年くらいじゃないですかね」
とはぐらかす。
ただ、よくよく考えてみると、アオイの年齢はあやふやだった。高校生ということは認知しているが、何年生で何歳だったかまでは、わからない。
すると、その少女はクスッと笑って、小バカにするように質問してくる。
「同い年くらいって、自分のお姉ちゃんなんでしょ」
小バカにされたので、少しムキになって、答える。
「信じてもらえないと思うんですけど、俺、一か月前に拾われたんですよ。なので、家族の細かいプロフィールまでは、把握してません」
そう言い放ってやった。やった? いやいや、見ずしらずの人間に何話してるんだ……。
「へぇ~。それは奇遇だね。実は私も、おとといこの街に、住み始めたんだよ」
「えっ……。 本当ですか?」
「本当!本当!! 実は私たち、ご同輩ってやつ?」
俺は思わずツッコんでしまった。
「同輩って、仕事仲間でもないですし。だったら、自分のほうが一か月前なんで、上ですね」
「君、言うね~」
なんか雰囲気が良い。
こんな絵になるようなことが起きていいのだろうか。快晴の朝に、セーラー服の女子高生とバス停で駄弁るなんて。生きててよかった。
まぁ、俺がランドセルを背負った小学生だから、からかう為に、話しかけたのだろう。
そんなことをあれやこれやと想像していると、少女はこちら側に体を向けた。
「ねぇ、君。」
「実はお姉さんって、人間じゃないんだけど、気づいてた?」
その少女から出た問いかけに、唖然とした。