第8話 新生活
津曲家に、養子になって、1か月くらいがたった。4月頭にこの家に居候を開始したので、5月になる。
そして俺はというと、ランドセルを前に、胸を高鳴らせていた。
なんと、明日から俺は、小学3年生として、学校に通い始めるのだ!
新しい体験をすることで、失った記憶が、蘇ってくるかもしれない。そう思いながら、明日の用意を鼻歌交じりで、行っている。
お父さんが、『新しい家族になるんだから、部屋も必要だろう』と言って、物置になっていた部屋を大掃除し、自分の部屋にしてくれた。
家族も部屋も手に入れたことで、正直、失った記憶はどうでもよくなりつつもあった。
準備を終え、自分の部屋でくつろいでいると、姉であるアオイが部屋に入ってきた。
「よお。明日の準備は終わったかい。」
声のかけ方が女の子っぽくない。
家族になってから、距離が近くなり、お姉ちゃんというよりは、姉御って感じだ。
「うん! ちょうど、今終わったとこだったよ」
「明日は、緊張するなぁ。自己紹介とか大丈夫かな」
アオイが、羨ましそうに見てくる。
「初々しいねぇ~。私も戻りたいよ……。小学生なんて、なんも考えなくていいもんねぇ~」
毒のある言い方だ。ただ、この気にせず話しかけてくれるあたりが、家族って感じで、嫌にならない。
「アオイ姉ちゃんの小学生時代ってどんなんだったの?」
ここぞとばかりに、アオイは、答えた。
「そりゃ~。モテモテだったね。」
「ファンクラブも出来たし、専属の護衛隊もいたもんだよ。女子からも――」
まぁどうせ嘘だろうけど、美人だから、否定もできない。
アオイの自慢話はまだ続いている。
「そうだ。俺が行く小学校って、アオイ姉ちゃんが行ってた学校だったよね」
アオイの話を遮るように、話題を変える。
「そうそう!!桃江東小学校。小学校の中でも、都市伝説が多くて有名なところだよ。もちろん、怖いほうの都市伝説ね……」
俺のことを入学早々に、ビビらせようと思っているのだろうが、全くもって怖くない。都市伝説はあくまで噂話。どうせ、当時の在校生が、噂話に尾びれを加えまくった、ホラ話に過ぎない。
「しかも、最近殺人事件も、モモトウ『桃江東小学校の略』であってたらしいよ」
殺人事件ね―― 殺人事件!?
今から新しい新生活が始まる場所で殺人事件……。不穏すぎる。
俺のビビった顔をみて、満足してか、アオイは自分の部屋へ帰っていった。
「まさか、その殺人って。犯人捕まったんだよな……」
そう心配していると、アオイが捨て台詞を吐きにきた。
「その殺人事件は、まだ犯人捕まってないんだって……」
アオイは、にやにやと笑みをこぼしながら、もう一度、自分の部屋に帰っていった。
新生活、これからが楽しみだぜ……。