第6話 第一歩
お風呂に入って、パジャマに着替えた。子供用のパジャマは、女の子のモノしかないらしい。
「そりゃ、一人っ子っぽいから、こうなるよな」
かわいいお花の絵がプリントしてあるパジャマだ。はたから見たら、凄く滑稽に見えるだろう。
そんなことはどうでもいい。俺は今から、アオイさんと添い寝することになっているのだ。
アオイさんから一緒にお風呂に入ろうと誘いを受けたときは、嬉しさと驚きを隠せなかったが、すぐに断った。だからといって、添い寝が大丈夫というわけではない。普通に緊張するし、できれば別々で寝たい。
添い寝なんて、絶対に寝れない。余計疲れるはずだ。でもあまり断りすぎると、感じが悪いし……。
そう思いながら、アオイさんの部屋のドアを開けた。
なんとそこには、すでに爆睡しているアオイさんがベットで、大の字になっていた。
(めっちゃ、寝とる……)
自分が思い描いていたものと乖離と高低差がありすぎて……
「風邪ひくわ」
◇
目覚めは最悪だった。
布団はアオイさんがほとんどを占領してるし、ベットの割合も8:2くらいだ。泊ったことはないが、これはカプセルホテルのほうが寝やすそうだなと、潜在的に思った。
「おはようございます。アオイさん……! 朝ですよ」
昨日アオイさんから、『寝坊癖があるから起こして』と、モーニングコールを引き受けた。
「うへぇ? あんた誰?」
「自分は、マコトです。昨日から、この家で、居候することになったものです」
アオイさんはハッとした顔で、笑いながら、起きた。
「ごめん、ごめん。忘れてた。昨日はちゃんと寝れた?」
「おかげさまで、ぐっすりと眠ることが出来ました!」
いや、全然眠れていない。緊張して眠れなかったというより、アオイさんの寝相が悪すぎて、睡眠妨害を受けていた。
二人で、一階のリビングに行くと、すでに、アオイママが朝食を作ってくれていた。
アオイパパとママは、自分たちより先に起きており、朝食を食べていた。
「じゃあ、アオイは高校に行って、マコトくんは、僕と一緒に色々と調べ物をしよう」
「えぇ、いいなぁ~。私も学校休んで、一緒に遊びたい……」
「コラコラ。アオイはテスト近いんだろう。アカネちゃんもいつもの時間に、バス停で待ってるだろうし、いっぱい勉強してきなさい。僕たちも、別に、遊びに行くわけでもないんだぞ」
「ケチ!!」
横にいるアオイママが、その言い合いをみて、クスクスと笑っていた。
今まで味わってきたことのないこの感覚。この家庭の雰囲気を見ていると、胸が苦しくなった。家族団らんで、食卓を囲み、会話がある。
なぜだか、今、孤独に対して、とてつもない恐怖を感じた……。
◇
アオイパパは、丁度仕事が休みということで、まずは、一緒に児童相談所に行った。
結論、家族にあたる人物は、特定できず、手掛かりもなかった。
そしてわかったのが、そう簡単に、養子縁組になったり、戸籍が確定するなどは、難しいということで、他の福祉事務所や警察にも相談に行くことになった。
「ごめんね。昨日は、張り切って、マコトくんは家族だ! なんて大見え切ったけど、僕にはこの先どうなるか……」
アオイパパはとても悲しそうな顔で、謝罪してきた。
「自分のことは気にしないでください!! なんなら、いきなり無理を言って、上がり込んで、迷惑をかけたのは、自分ですから。なにより、わざわざ、せっかくの休みを使ってまで、寄り添ってくれたことに、とても感謝しています!」
「マコトくん……」
アオイパパが泣きそうになっていたので、肩をさすって、慰めた。
ここまで俺のことを考えてくれるなんて、きっとこの家族ぐらいだろう……。もし、この家族と一緒に、いられるならどれ程、幸せか。そう頭の中で、強く思った。
その時――
ガガガガガガガガガガ
いきなり頭のなかで、ノイズが鳴り響いた。
これは……。そうだ!! ブランコに乗る前にも、この感じ……。
あまりのノイズの大きさに、目を閉じ、顔をしかめた。
ノイズがだんだんと小さくなり、おさまってきたので、目をあけた。
目を開けて広がっていたのは、なんと、津曲宅のリビングだった。