第3話 はじめまして
あれ? 俺、なんでブランコに乗ってるんだっけ……。
とある公園の、ブランコに乗っていた。ここがどこの公園かわからない。それ以前に、自分が何者なのか、わからない。そもそも、俺って子供だったっけ? 自分の身体を見て、疑問が沸いた。自分自身のことなのに、客観的に感じている。
何かを思い出しそうで、思い出せない。なんで自分が子供なのか。自分であることに、疑問を抱き、そしてその疑問にすら疑問を抱いている。まるで、夢の中にいるようだ。途方に暮れる間もなく、脳裏によぎったのは……。
(もしかして……。 帰る場所ない……)
ポケットの中を確認してみる。
「やばい……。何も持ってない」
財布も携帯もない。連絡する手段も、空腹を満たす手段もない。絶望的な状態で、考え付いた答えはたった一つ。
「よし。警察へ行こう!!」
◇
公園から出て、何時間くらいたったのだろうか。足の裏にマメが出来るほど、歩き続けている。よくよく考えたら、交番の位置も知らない。交番に着いたとしても、名乗る名前すら知らないのだから調べようがない。もし捨てられた身であるならば、一生、孤独に生きなければならない……。思考回路がすべて、ネガティブへと直結する。
「ていうか、田んぼしかないじゃん……」
歩いて気づいたが、自分が思っている以上に、田舎だった。見通しの甘さも、計画性のなさもあきれるほどだ。
疲労がつのり、小さい体のせいか、体力も底を尽きようとしていた。そんな時、遠くでベンチに座っている女子高生を、見つけた。
あぁ、女神よ。
重たい足を引きずりながら、その女子高生のもとへ歩み寄る。
「すみません。恐れ入りますが、なにか、食べるモノはありますでしょうか? よかったら、分けて頂けると幸いでございます……」
ボソボソとかすれ声で尋ねた。そんな哀れな自分を見た、見知らぬ女子高生は、慌てふためいていた。
「僕、どうしたの? なんで、そんなにボロボロなの? お腹すいているの?」
彼女は心配そうにしている。
「自分は―― 」
自分が置かれている状況を伝えようとした瞬間、電撃が走った。雷に打たれたこの感覚の原因は、彼女が持っているスマートフォンのキーホルダーである。
“桃”のキーホルダー……。
桃……。桃? そのキーホルダーを見てから胸が苦しくなった。
なんで、こんなに苦しいんだ……。たかだか、キーホルダーごときに、なにを動揺しているのか、わからない。この複雑な感覚が、大事なことだと潜在的に感じた。
「ねぇ、やばくない……? 救急車呼ぶよ。」
胸を押さえている俺をみて、彼女は駆け寄った。
「大丈夫です。ご心配頂き、ありがとうございます。お腹すきすぎて、ちょっと、気分が悪くなっただけで、今は治りました」
彼女はホッとした顔になった。
「よかった……。そんなに、お腹すいてるならウチに来なよ。見た感じ、訳ありなんでしょ」
彼女が本当の女神に見えてきた。
「今、こんなこと言うのも変だけど、僕、ませてるね。大人としゃべってるみたい」
と彼女は笑いながら言った。
「私は、津曲 アオイ(つまがり あおい)っていうんだけど、そこに家があるから、丁度よかったね!」
この流れるような、急展開。記憶を失った身からすると、とてもありがたい。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、お邪魔いたします!!」
そして、アオイの家へと向かった。