第2話 特異点
二転三転、目まぐるしく物事が起きすぎて、心の整理ができない。
水死体。
死体だぞ。動揺と焦り、はきけ、色々なものがこみ上げてくる。今すぐ逃げたい。何もかもなかったことにして、やり直したい。あの時、桃が食べたいなんて、思わなきゃよかった。
雨の音、車が通る歪な音、濁流のように流れる川の音。雑音までもが、頭に無理やり入ってくる。入り組んだ感情と雑音とが、頭の処理を妨害する。
あっけにとられていると、その死体は、こちらのほうへ流れてきた。考えもなしに、身体が勝手に、その死体を川から引き上げる。
引き上げて、やっと気づいた。
(美しい……)
その死体は、まるで生きているようだった。あまりにもきれいな状態であるため、生きているものだと、誤認する。脈拍はなく、肌は異常に白い。まだ幼く、見るからに異邦人である。性別は、男の子?だろうか、中性的で息を飲むような美しさである。
そうやって見とれていると、その少年の胸ポケットに、先ほど落ちていた桃のバッジが付
いていたことに気づく。
「これさっき落ちてた――――――」
言葉を遮るように、死体であるはずの手が動き、素早く、真の手首を掴んだ。
「――――――!!!」
恐怖のあまり、声が出なかった。
死体であるはずの目が開き、真の目を睨んだ。
一切の雑音が消え、すべての感覚が、研ぎ澄まされる。そして研ぎ澄まされた視覚は、その白髪の少年にむかう。なぜだが、目が離せない。離したくても、離せない。
その純粋で、生気のない目に魅了される。息を飲むのも、ためらう。
「君は――――――」
その異様な少年に話しかけた瞬間、少年の口は開く。
「 探 し て 」
息も絶え絶えに、か細い声で真に訴える。
その瞬間、すべてが真っ白になった。