第13話 妖怪会議
6時間目が終わり、帰りの会が始まる手前で、同じクラスの男の子が話しかけてきた。
「津曲くん! 僕、瀬戸 入江っていうだけど、一緒に帰らない?」
転入初日から、嬉しい誘いだ。初めての友達になれるかもしれない。
「もちろん、いいよ!!」
そう言った瞬間、気がついた。
(俺バスで来たんだった……)
バスで登校しているのなんて、自分くらいしかいない。別学年では、いるだろうがほとんどが、徒歩か自転車である。
ただ、初めての友達になれるかもしれない。
『早く帰ってきてね』と言ってくれた両親には申し訳ないが、遠回りして帰る決意をした。
「途中で親に、電話かけたいから、公衆電話に寄ってもいい?」
イリエくんはスマートフォンをポケットから出した。
「大丈夫!! スマホあるから!」
(おお、現代っ子)
流石の現代っ子、ポケットにはスマホが入っている。
「さすがイリエくん!! 途中で借りるね」
「うん!!」
こうして、イリエくんと帰路を共にすることになった。
◇
掃除も、帰りの会も終わり、みんな和気あいあいと帰りの準備をしている。
俺はというと、ポケットに入っていた、例の紙切れを眺めていた。
(もし、今日。全てが変わるなら、この幸せも変わってしまうのだろうか……)
すると、後ろからイリエくんが飛んできた。
「おまたせ!! 帰ろっか!!!」
その勢いと、満面の笑みをみて、悩みが全て消え失せた。
田舎道を歩いていると、遠くの方にボロボロの廃墟が見えた。
いかにも、幽霊が出そうな場所だ。
「あそこの廃墟、凄いね。」
「あそこは、この街でも有名な心霊スポットなんだよ! 昔、テレビ番組で取り上げられたんだけど、その回だけお蔵入りになったらしいよ」
やはり、見た目だけじゃない。あの威圧感。『ニンゲンクルナ』って感じが滲み出ている。
「話変わるんだけど。津曲くんって、ここにくる前は、どこにいたの?」
直球、質問がきた。
(この質問が1番答えにくいんだよなぁ)
「ここにくる前は、海外にいたんだ!」
大体この返しで、切り抜けられる。
さっきも学校で、散々言われてきたが、うまく返せた。なぜなら、みんな、外国の土地の地名を知らないだけに深くまで質問してこれないからである。
「へぇ〜。そうなんだ! 何処らへんの国?」
(おっ。詰めてくるなぁ こう言う時は……)
「バングラデシュだよ!!」
バングラデシュはアジア有数の親日国家。
日本人が多くいた地域に住んでいたから、現地の言葉は喋れないよで、論理が組める。
そして何より、小学生がそこまでは知らないだろう。
「へぇ〜。そうなんだ」
(よし勝った! だてに、記憶喪失体験者じゃねぇんだぜ……)
微妙な空気になっていたので、話題を変える。
「ここら辺で、お化けとか幽霊とか、怪奇現象で有名な話とかないの?」
「うーん……。あっ! 雲外鏡って妖怪が有名だよ!」
聞いたことのない妖怪だ。
「ウンガイキョウ? キョウって事は、鏡の妖怪見たいな?」
「そうそう! ありとあらゆる存在を、真の姿に、映し出すと言われてるんだ」
「化けた妖怪なんかもその鏡で、正体がわかるらしいよ!」
妖怪にしては、優しい奴だな。
人間の味方なのだろうか。
(待てよ……。その妖怪がもし、本当に、ここにいるとするなら)
「俺の正体がわかる!!」
思わず、大きい声が出た。
「俺の?正体……?」
イリエくんはキョトンとした顔でこちらをみる。
「ごめん! 独り言だよ」
「それより、イリエくん。妖怪に随分と詳しいね」
話をそらしてみた。
「イリエ でいいよ!」
「よかったら、僕もマコトくんのこと、マコト って呼んでもいい?」
友達っぽい流れになった!
「もちろんだよ!! よろしくね、イリエ!」
「うん! よろしく、マコト!!」
(最高……)
これぞ青春。若者って、感じになった。
「そうだ! 友達のよしみで、これ見せてあげる!!」
そう言って、イリエが、ボロくて古い書物をランドセルから出してきた。
「うわぁ、凄い!! 歴史ある本みたいだね」
年代物であることは、素人目でもわかる。
その本を開いてみると、筆のようなモノで殴り書きのように記されていた。
「なんかの図鑑みたいだね」
「そうなんだ! あんまり字は読めないけど、妖怪の絵と名前は分かるでしょ」
よくみてみると、確かに、見覚えのある妖怪が載っている箇所がある。
「勝手に、妖怪図鑑って思ってみてるだけど、時々この本から声が聞こえるんだ……」
(声が聞こえる……?)
「今、変な奴だなって思ったでしょ」
「いや! 思ってないよ。 それより、この本から異質なオーラを感じる」
さっきから、この書物を持っていると不思議な感覚に苛まれる。
「無理を覚悟で聞くけど。この本を一日だけ貸すことってできない?」
もし、この本が本当の怪異なのなら、今日会う人たちの中で、知っている人がいるかも知れない。
「いいよ!」
「やっぱ駄目だよ……。えっ!いいの?」
「うん!ただ、壊さずに返してね!」
イリエは、簡単に許可をくれた。
「本当に、ありがとう。 この恩は、絶対返すから!」
「そんなこと、気にしなくていいよ!!他の子達は怖くて開けないって人が大体だから」
「逆に嬉しいよ! 信じてもらえる人に出会えて!!」
そう言って、そのボロい書物を受け取り、ランドセルにしまった。




