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第12話 悲しい過去

 過去の自分が、走馬灯のように見えた。


 過去の俺は、暗闇の中で、泣いていた。

 孤独感と床のつんざくような冷たい感じが、身に染みてわかる。

 何もない暗闇の中で、悲観的になっていると、次は、何処からともなく、声が聞こえた。


『嫌い…』『なんで出来ないんだ……』『面白くないもん……』『あの人あんま、好きじゃない……』『もっと、自分を持った方がいいと思うよ……』


      『出来損ない……』


 あらゆる人の声が、頭の中で、暴れ回る。

 今まで受けたことのない罵声罵倒が、リフレインする。


 憎悪と苦しみが入り混じった声。恐怖を感じたが、この冷たい感覚は見覚えがある。


 そして、その雑音が消えた時には、ホームルームが終わっていた。





 四時間目が終わったら、昼休みになる。

 俺は昼休み、体育館の裏でたそがれていた。


 朝、聞いた雑音は、昔のトラウマだろう。

 記憶を失う、本当の俺。

 その時の俺は大人だった。

 薄々気づいてはいたが、やはり今の俺は、記憶を失う自分とは違う……。


 昔の俺を取り戻したいが、今のこの幸せは、絶対に手放したくない。

 そう考えていると……


     『探・し・て……』


 頭の中に、その言葉が入ってきた。

 白髪はくはつの少年……。そうだ!!白髪の少年だ!


(思い出したぞ!! 大人の俺は、確か河川敷で散歩してた。)


 完全ではないが、記憶が、まばらに蘇ってくる。


(桃のバッジをつけた少年が、川で流されていたから、助けたんだ……)


 記憶を失う手前まで、思い出せる。

 ただ、なぜ河川敷に行ったのか、思い出せない。


 そうして、記憶を辿たどっていると、知らないうちに、青年が横に座っていた。


「うわぁ!? なんですか!!」


 変な声が出た。


「そんな、お化けを見たみたいに、反応されると、悲しいなぁ」

「まぁ、ある意味あってるけど」


 その青年は、高校生くらいだろうか。ドが付くほどのイケメンだ。座っていてもわかる高身長。鼻筋も綺麗に通っていて、綺麗な瞳だった。 


「もしかして、あなたも幽霊かなんかですか……?」


 その謎の青年は、感心した表情でこちらを見てくる。


「お!察しがよくて、嬉しいよ。ただ、半分正解で半分外れかな。『あなたも』 ということは、リコに会ったね」


 リコは、今日の朝、バス停であった妖怪の少女だ。


「はい、会いました。半分外れの意味を聞いてもよろしいですか?」


 恐る恐る、聞いてみる。


「フフフ…。噂では聞いていたけど、変な子だね君は」


 青年は、ほくそ笑む。


「僕は、彼女のような妖怪じゃないよ。安心して。」

「ただ、人間かと言われると、それもまた違う。それが半分ハズレの意味だよ」


 『妖怪とは違うが、人間でもない。』


 これは、リコに言われた言葉と似ている。

(ということは、この青年も、俺と同じタイプ!!)


「自分も、リコさんに同じこと言われました! もしかして、自分とお兄さん、同じタイプだったりします?」


 それを聞いた青年は、またほくそ笑む。


「いや、違うよ。」

「僕はあくまで、ベースは人間。とある『モノ』を使って、妖怪と同じもしくはそれ以上の力を手に入れている。」

「それに対して君は、そもそもが人間ではない。」


 求めていた答えと違い、落胆した。


(ということは、俺。人間じゃないんだ……)


「そんなに落胆しないで。その謎に対して、僕たちも傍観するつもりはないから」

「リコって妖怪が言ってたと思うけど、秘密の場所に集まって、君と話がしたいんだ。」


 俺はその言葉を聞いて、すかさず答えた。


「本当ですか!? 自分に出来ることがあれば何でもします!! 集会でも、なんでも!」


 青年は紙切れを渡してきた。


「その言葉を、待ってたよ。 それは集会する場所。今日はそれを渡しにきたんだ」

「時間は、夜の9時」


「今日のですか?」

「そうだよ。遅れないようにね」


 その言葉を言い残し、青年は去っていった。


 暗い感情が一気に晴れた。


(よかった…… 進展があって…… あっ!)


「名前聞くの忘れてた」

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