第12話 悲しい過去
過去の自分が、走馬灯のように見えた。
過去の俺は、暗闇の中で、泣いていた。
孤独感と床のつんざくような冷たい感じが、身に染みてわかる。
何もない暗闇の中で、悲観的になっていると、次は、何処からともなく、声が聞こえた。
『嫌い…』『なんで出来ないんだ……』『面白くないもん……』『あの人あんま、好きじゃない……』『もっと、自分を持った方がいいと思うよ……』
『出来損ない……』
あらゆる人の声が、頭の中で、暴れ回る。
今まで受けたことのない罵声罵倒が、リフレインする。
憎悪と苦しみが入り混じった声。恐怖を感じたが、この冷たい感覚は見覚えがある。
そして、その雑音が消えた時には、ホームルームが終わっていた。
◇
四時間目が終わったら、昼休みになる。
俺は昼休み、体育館の裏でたそがれていた。
朝、聞いた雑音は、昔のトラウマだろう。
記憶を失う、本当の俺。
その時の俺は大人だった。
薄々気づいてはいたが、やはり今の俺は、記憶を失う自分とは違う……。
昔の俺を取り戻したいが、今のこの幸せは、絶対に手放したくない。
そう考えていると……
『探・し・て……』
頭の中に、その言葉が入ってきた。
白髪の少年……。そうだ!!白髪の少年だ!
(思い出したぞ!! 大人の俺は、確か河川敷で散歩してた。)
完全ではないが、記憶が、まばらに蘇ってくる。
(桃のバッジをつけた少年が、川で流されていたから、助けたんだ……)
記憶を失う手前まで、思い出せる。
ただ、なぜ河川敷に行ったのか、思い出せない。
そうして、記憶を辿っていると、知らないうちに、青年が横に座っていた。
「うわぁ!? なんですか!!」
変な声が出た。
「そんな、お化けを見たみたいに、反応されると、悲しいなぁ」
「まぁ、ある意味あってるけど」
その青年は、高校生くらいだろうか。ドが付くほどのイケメンだ。座っていてもわかる高身長。鼻筋も綺麗に通っていて、綺麗な瞳だった。
「もしかして、あなたも幽霊かなんかですか……?」
その謎の青年は、感心した表情でこちらを見てくる。
「お!察しがよくて、嬉しいよ。ただ、半分正解で半分外れかな。『あなたも』 ということは、リコに会ったね」
リコは、今日の朝、バス停であった妖怪の少女だ。
「はい、会いました。半分外れの意味を聞いてもよろしいですか?」
恐る恐る、聞いてみる。
「フフフ…。噂では聞いていたけど、変な子だね君は」
青年は、ほくそ笑む。
「僕は、彼女のような妖怪じゃないよ。安心して。」
「ただ、人間かと言われると、それもまた違う。それが半分ハズレの意味だよ」
『妖怪とは違うが、人間でもない。』
これは、リコに言われた言葉と似ている。
(ということは、この青年も、俺と同じタイプ!!)
「自分も、リコさんに同じこと言われました! もしかして、自分とお兄さん、同じタイプだったりします?」
それを聞いた青年は、またほくそ笑む。
「いや、違うよ。」
「僕はあくまで、ベースは人間。とある『モノ』を使って、妖怪と同じもしくはそれ以上の力を手に入れている。」
「それに対して君は、そもそもが人間ではない。」
求めていた答えと違い、落胆した。
(ということは、俺。人間じゃないんだ……)
「そんなに落胆しないで。その謎に対して、僕たちも傍観するつもりはないから」
「リコって妖怪が言ってたと思うけど、秘密の場所に集まって、君と話がしたいんだ。」
俺はその言葉を聞いて、すかさず答えた。
「本当ですか!? 自分に出来ることがあれば何でもします!! 集会でも、なんでも!」
青年は紙切れを渡してきた。
「その言葉を、待ってたよ。 それは集会する場所。今日はそれを渡しにきたんだ」
「時間は、夜の9時」
「今日のですか?」
「そうだよ。遅れないようにね」
その言葉を言い残し、青年は去っていった。
暗い感情が一気に晴れた。
(よかった…… 進展があって…… あっ!)
「名前聞くの忘れてた」




