第10話 怪異
目の前の少女は、『自分が人間ではない』と豪語した。
思考が停止する。
この少女はさっきから、ふざける癖がある。『人間ではない』発言も、そのふざけた内に入るとは思うが、最初に会った時から変だ。この少女からは、人間とは違う、異質なオーラを醸し出している。
「証拠に。ホラ!」
そう言って、目の前に落ちていた空き缶を手も使わずして、凹まして見せた。
唖然としている俺を見て、またクスクスと笑っている。
「これで、『人間じゃない』ってこと、信じてもらえた?」
そう言った後、彼女は真顔になった。
「わ、わかりました。お姉さん。人間じゃないなら、何なんですか? サイキックかなんかですか?」
動揺しているのを悟られないように、答えた。
その少女は、瞬きを一切せずに、こちらをずーと見ている。
逃げたい気持ちを抑えながら、耐えしのぐ。
すると、こちら側に、バスが向かっているのが見えた。
(良かった。やっときた)
バス停に、バスが着く間際で、その少女は口を開いた。
「私は妖古と呼ばれる怪異。妖怪のうちの一つでもある。いずれまた、会うだろうから、具体的な話は省くね。」
「人間の名前は、夜久 リコ(やどめ りこ) 最近、とある事情で、この周辺に引っ越してきたの」
彼女は、淡々と自己紹介した。
「このバス停にはお世話になるから、今後も、よろしくね。マコトくん!」
「えっ! 何で俺の名前知ってんですか!!」
「だって、ランドセルに書いてあるし」
そうだった……。 ランドセル側面に、フルネームで、自分の名前シールが貼ってあった。
「見た感じ。マコトくんも、人間じゃないみたいだし、怪異仲間としても、よろしくね」
人間じゃない?
俺は正真正銘、人間だ!! いや、待てよ。俺って、人間だよな……。
よくよく考えてみると、記憶喪失中なので、自分自身の事を、何にも知らない。何者なのかも知らないままだった。
もしかすると、このリコという少女は、俺の記憶喪失問題を解決するキーになるかもしれない。
来たバスに、ニ人とも乗った。
田舎のバスなので、ガラガラだ。ニ人で同じ席に座る。初登校初日に、まさか、ここまで進展が起きるなんて想像も出来なかった。
このリコという少女は、先ほど、ニ週間前にこの町に来たと言っていた。ということは、お父さんの言っていたアオイと一緒に、登校している『アカネ』とは違う。
「実は、自分。一ヶ月前に、記憶喪失になって、それ以前の記憶がないんです」
身の上話を話すのは、リスクはあるが、進展がある以上、そのリスクも致し方なし。
しかもなにより、リコと話していると、何でか勝手に、色々な事を話してしまう。
「ほうほう。珍しいねぇ、記憶喪失」
「妖怪も十分、珍しいですよ」
「そうかもね〜。でも案外、身の回りに、紛れ込んでるよ。と気づかれてないだけでね」
リコは、ニヤニヤと笑いながら言った。
紛れ込んでるって。まるで、宇宙人みたいに言うけど、見分け方とかあるのだろうか。
バスの中で、妖怪についての話を聞いた。
どうやら、妖怪には大きく二つに分かれていて、異名があるらしい。
妖古と怪人。
総称して、妖怪。
怪人の方は、有名だ。いわゆる、吸血鬼や狼男、シェイプシフターあたりだ。簡単に言うと、人型の怪異といったところである。日本だと、口裂け女もその類らしい。
もう一つの妖古というのは、人型とは限らない。大妖怪というカテゴリーが、あるらしいが、その大妖怪のほとんどが、妖古にあたる。
怪人より知能が高く、白兵戦や肉弾戦といったものより、妖術を使用した自然災害・幻術・念力が主力である。
バスの中で聞いた話は、こんな感じで、ほとんどが妖怪に関してのものであった。
その会話の中で、恐る恐る自分がどこにあたるか聞いたところ。
「君は、妖怪ではないよ。そして、人間でもない」
だそうだ。
(じゃあ、なにもんなんだよ)
尋ねる前より、謎が深まった。
そうして、妖怪に関して話していると、先に小学校近くのバス停に、着いた。
「ありがとうございました。自分の謎は深まりしたが、この世界の不思議に近づけた気がします」
そういってバスから出ようとした俺の腕を掴んで、リコは言った。
「マコトくん。君は、思っているより、深刻な状況におちいっているわ。いずれまた、そのことについて、話し合おう」
そう言って、彼女はウィンクをした。
俺はそれに対し、会釈し、バスから出た。
かなりの情報量に、戸惑いはあるものの有益な情報を得た。
記憶を取り戻す一手が打たれたことに、ウキウキになり、その足で学校へ向かった。




