第1話 異変
仏滅の日、叔父が死んだ。
頭から、その死が離れない。なぜだか気が気でない感じがする。もう若いとは言えない年齢になったのだが、結婚とは無縁。結婚どころか、お付き合いしている異性もおらず、だらだらと月日が流れている。
仕事も趣味も生活も、もうどうでもいい。すべてがどうでもいい……。
そう自暴自棄になっている男、桃木 真は、コンビニスイーツを買った帰りである。
妙に、桃が食べたいという感情でいっぱいになった。
柄にもない。いつもはこんな執念まがいの感情とは、無縁であるのだが、どうしても抑えられなかった。 “桃“そのものが食べたかったが、近所に八百屋もスーパーもないため、仕方なく、コンビニの桃スイーツなるモノを買ったのである。
帰り際、ふと河川敷に行きたくなり、いつもとは違うルートに変更した。
最近、突発的な行動が目立つ。どれもこれも、叔父が死んでからになるだろう。死人のよ
うな眼で、淡い死のにおいを漂わせながら、うつむき、帰路につく。
家に着く中腹あたりで、気づいた。
(叔父が死んだ日は仏滅……そして今日も仏滅だ―――――― )
なにかとんでもないことが起きるというわけではないのに。迷信だと自分でも思うし、何よりおみくじも幽霊も、モンスターも信じないタイプだ。神様とエイリアンは信じるタイプではあるけど……。 奥に挟まったこの感じが……怖い。
恐怖心に苛まれていると、今、雨が降っていたことに遅れて気づいた。風邪をひいては、仕事に響くと思い、小走りで歩こうと思ったときに、足元に違和感をおぼえた。
(桃の形の……なんだこれ?)
足元をよく見てみると、桃の形のバッジが落ちていた。
(桃が食べたくて突発的にコンビニに行って、その帰りに、桃のバッジが落ちているなんて
こんな偶然あるか。変だ。しかも、今日は、仏滅だぞ……。もしかして、落雷で死ぬとか…
…。)
杞人天憂。考えても仕方がないのだが、恐怖心がみるみる膨れ上がる。
もう一度、下を見てみると、先ほどまであったバッジがなくなっていた。
一気に、安堵した。自分が見ていたのは、不安な気持ちが作った幻だと確信できた。フゥとため息と安堵が混ざった息が思わず、漏れた。
安心して、帰路に戻ると、川のほうで、ボチャンと何かが水に沈む音が聞こえた。そちらのほうへ目をやると、川でヒト型の何かが、浮かんでいるのが見えた。
(人?いやいや、マネキンかなんかだろう…)
恐る恐る、確認しに行く。予想は外れた。
マネキンではなかった。
「ヒトだ…。」
最悪だ。今日は厄日だ。まさか、コンビニに行った帰りに、そりにもよって……
水死体を見つけるなんて。