ワンコイン地球(300円)
毎年、変わらぬ景色を見ながら猫を撫でる。
騒がしいが愛おしい音。
子供の声が一番聞こえる祭り。
夏祭りは季節を感じさせてくれる。
もうすぐ花火が打ち上がる頃だろうか。
自作したかき氷を食べながら風流を楽しむ。
テレビも消していて、エアコンも消えていた。
音を楽しむためだけに。
わびさびってやつだ。
夏休み真っ盛りだからまだ暑いものの、かき氷のおかげで体感はヒンヤリ。
──シャク、シャク
メロン美味しい……。
──シャク、シャク
あれ、さっきまで冷たかったのに冷気を感じない?
──シャク
食べようと口を開けて。
「おい!」
「!……はえ?」
唐突に聞こえていた声に意識が戻る。
上に見えるのは、眼。
眼が6つ。
3人組。
「約束の時間にコないと思ったら、寝てんなよー」
なんのことかと眼をパチパチしているとはぁとため息を吐く男の子。
「今日は3年に一度しかない日なんだぜ?」
そう言われてからハッとなった。
ああ、そうか、今日は祭りだ。
私の知る記憶の中の祭りと違う形式だけど。
どちらかと言うと企業のプレゼンに近い催しだ。
それを一般公開している。
子供にとっては娯楽の少ないこの星での娯楽扱い。
なんだろう、すっぱい気持ちになる。
もっと楽しいことがあるのだと言いたくなった。
「早く行こうぜ」
わくわくしている彼らに水を差したくなくて言わなかったけど。
強引に手を引かれて引きずられるように連れて行かれる。
痛い、痛いってば。
寝過ごした身で我慢した。
無邪気に歓声をあげる声が聞こえ、会場についた。
まんま、メッセだ。
起業家達が自分たちの商品を紹介している。
子供に向けての商品もあるが、娯楽を知る身としては、大人向けにしか見えない。
子供向けにしてはいささか渋い。
楽しめるだろうが、それは子供の娯楽を知らないからこそ。
(ここは地球じゃない。私が生まれたのは違う惑星……ココル)
自分の中にある最新の記憶。
私はかつて地球で生まれ、死に、ここで新たに生まれた。
ココルは魔法のある世界。
電気もあるけど魔力もある。
不思議な世界だ。
魔法科学も発達していて、科学革命は出来そうにない。
でも、娯楽に関してだけ何故か殆ど見当たらない。
進みすぎた弊害なのかな。
友人たちに手を引かれながら、ぼんやりと上の空で色々考えていく。
見れば見るほど大人をターゲットにしている。
サーカスはあるけどトランプがない。
これは……私に作れと天命が?
いや待てよ、竹とんぼとかコマ回しの方が手っ取り早く作れるぞ。
ココル星のメッセを回り終えた彼らの興奮を聞き流して、ザザッと家に帰る。
見ててつまらなくはないが、作りたくて堪らない。
友人たちとあっさり別れる。
3人で盛り上がってたし、上の空の私がいても白けただろう。
先ずは紙に書いて、木を得ねば。
父に木を切っていいか聞く。
魔法科学の教授をしている人だから色々教えてもらえそう。
「父さん」
「……ん?ん!?え?エイナがしゃ、喋った!?」
私はかなり無口で殆ど上の空な子だったから喋ったことにかなり驚いていた。
「木をね、切りたいの」
初おねだりに即叶えてくれた。
父は親ばか、母も親ばか。
「ママ!ママ!エイナが!」
言いつけに行く親はまるで初めてアンヨを出来た赤ん坊を見て興奮する人みたい。
私はそれ程ぼぅっとしてるから。
「なんですって」
マッマはすっとんできた。
「木を切って削りたい」
「まぁまぁ!なんてめでたいの!」
興奮具合にこっちはびっくり。
胴上げされそうなくらいのテンションで木を切ってくれた。
魔法でするスパッと。
「ありがとう」
大切に抱いて部屋へ戻る。
素人設計図を書きながら寝た。
翌日も仲良し3人組がやってきてメッセに連れ回された。
その中で投げ売りセールでナチュラルに惑星が売られていて、惑星クオリティだとビビる。
3人組のことも紹介しておこう。
一応3人の中で一番リーダーっぽい男の子、ティップ。
やんちゃで今も私の手を引いているのがブラウ。
二人と私を優しく見守る系の年上ノンノ。
お節介3人組。
私は無口でぼんやりしているから枠組入れにくい子として認識されて居たのに、彼らは構わず私を誘ってくれる。
3人組は人気者なのに、尖ってない。
「投げ売り……300円」
子供の小遣いを意識している。
なんとなく見ていたら眼が飛び出るかと思った。
「地球が……売ってる……! 投げ売り300円でッ」
今世紀初めての衝撃。
おいおいおいおい。
売ってちゃ駄目だろ。
詳しく聞くと特に有名でもないマイナーの星だと思われていて権利がこんなに安いらしい。
惑星の権利とは、つまり私は地球の所有者で惑星をどう扱っても良いという事だ。
これは、これは買うべき?
私以外に買うこともなさそうだし、300円で安いし。
ワゴンみたいな値段だから、財布からお金を出す。
「この惑星が欲しいです」
売ってる人に言うと渡される。
うわぁ、地球買っちゃったよ。
パワーワードじゃん。
三人が興味津々で買ったものを見る。
「惑星なんて買うなんて、お金の無駄遣いにならないか?」
ブラウがこちらを心配という顔で見る。
うん、子供にとっては惑星は手に余るイメージだ。
持て余すものなのだろう。
「この惑星、気になる」
惑星のステータスが書かれたものを見ると防御やエネルギーと表示される。
帰って調べないとなんのことかわかんないや。
「ふーん、ま、他のところ行こうぜ」
人生最大の買い物を終えて手が震えているが、彼らにとっては軽い気持ちで先を進める。
まぁ、下手に悪い人に地球の権利が行かなくて良かった。
三人組を置いて帰るのも後味が悪いので付いていく。
せっかく誘ってくれたんだもんね。
善意で連れてきてくれているから、なんとか回る。
三人はそれぞれ楽しそうに回ると互いにアレが良かったと報告し合う。
私には大人のプレゼンが本当に幼い子を満足させていないことにモヤモヤした。
別に興味を持つことは良いことだが、子供用のお菓子さえ全く無いのがなぁ。
渋さ前回のお菓子に眉間のシワを寄せる。
今の私の見た目は10才だが、7才が実年齢……。
これは、地球の駄菓子屋に行けという暗示に思えた。
でも、私が生きていた時代でさえ駄菓子屋は激減していたから、近所の駄菓子屋もいつの間にか消えていたのだ。
それがネックである。
探せるかな。
地球で輸入するものを決めねば。
あと、地球様にパスポートと住所の用意も。
それは追々、即帰れば良いか。
私も子供だからこづかいだけでは買えないので子供相手に売る事を考えねば。
色々考えていたら解散することになった。
「誘ってくれてありがとう。とっても楽しかった」
「おう、なんか喋るな」
「楽しかったからね」
ごまかした。
子供だからごまかせた事なのだろう。
ティップはすっごい凝視してくるけど慣れてくれたまえ。
ティップ達と分かれてやったのは、まず買ったものの確認である。
地球しかあるまい。
それにしても、地球が安売りを通り越して叩き売りされてるなんてウケる。
いや!本音は笑えない、なんだけどさ。
地球が手の中に収まっていることにとてつもない切なさを感じる。
さらっと地球を手中におさめてしまった悲しさたるや。
到達した技術により魔法を使える私は、深呼吸をする。
双子のなにかを召喚したい。
やはり、召喚ものは憧れ。
双子の存在を召喚すれば心強い。
ボディーガードだ。
「ティップ達はそういうのに全く興味ないから今の私もろくに知らない」
本を読むことから始めた。
肝心な部分を特に念入りに学ぶ。
覚悟もなく地球丸ごと買ってしまったのだ。
肝も冷えたし腹も据わる。
いや、本音でいうとあんまり重大性は感じない。
それは、ひとえにこの星の価値観も私に備わってしまっているから。
「むしろ、私は救世主並みの英断をした」
地球を他の人に買われずに済むっていうね。
私が地球在住ならば安堵だ。
権力者は私から奪いたくなるかな。
私が死んだらまた、叩き売りに出されるかもね。
中古だから100円くらいかも。
考えただけで涙が……。
地球のデータを見ていると、お腹が鳴る。
データ観覧の中にカップラーメンがあったのを見つけたからだよきっと。
早速カップラーメンの文字をタップ。
目の前で具現化。
おー、醤油味。
カレー味が一番好きだけど、久々だからこれにした。
さっそくズルルと吸う。
口の中に芳醇な醤油が広がり、気づいたら頬に涙が伝っていた。
もぐもぐと無言で食べていると、両親がそれを見て心配してくれた。
マミー、パピー、優しい人達で私しゃ幸せもんさ。