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諸事情により、来週は投稿できません。

再来週はちゃんと投稿します。

一.

「ただいま」

「あら、おかえりー…ってこのほっぺどうしたの⁉︎」

「あー…えっと、喧嘩してる人達のところ通り過ぎたらたまたま当たっちゃって…」

「そう…手当てするからこっちきて」

「うん、ありがとう」

ぽつ、ぽつ、ぽつ

「…あめ……?」

「ん?あらら、降ってきちゃったかぁ。そろそろ台風が来るわねぇ」

「そう言えば、そうだったね」

「ねぇお母さん」

「なぁに、陽茉利」

「私の最期さ」

お母さんの、手当する手が止まった。

「友達と一緒でも、いい……?」

十七年間育ててくれた親にこう言うのは、親不孝者だってことは分かってる。

「なぁんだ。そう言うことね」

お母さんの手当をする手が動き始めた。

「いいわよ。だって陽茉利の人生だもの。最期くらい自分で決めたいわよね」

「え…いいの…?」

「…もちろん、お母さんだって娘の最期くらい一緒にいたいわよ。でも、これはお母さんの我儘だもの」

「我儘だなんて–––––」

「理子ちゃんと、喧嘩したんでしょう」

「え…何で知って…」

「お母さんだもの…って言うのじゃなくてね。陽茉利は嘘をつく時服の裾を握る癖があるのよ」

「え…あ…」

「わかりやすいのよ」

「………」

「何も、仲直りしてこいって言ってるんじゃないの。でも、後悔しないでね。後四日だもの」

「うん…ありがとう」

「はい。できた」

「ありがとう」

「ふふっ、さっきからありがとうしか言ってないわよ」

「そう?」

あんまり自覚はなかったけど……

ゴオオオオオオ

「あらあらあら、暴風雨ねぇ。今回の台風は荒れそうね」

「うん…そうだね」

「あっ、お父さん今日電車って言ってたけど大丈夫かしら」

「う〜ん、帰ってくるのは明日になりそうだね」

プルルルル

「あら?お父さんからだわ。ちょっと待ってね」

「はーい」

…後悔のないように、か。

私は普通の人とは違って、死ぬ時が分かるんだ。

これだけでも不公平なのに、後悔のないように死ぬなんて、バチが当たっちゃうよ

…でも、理子とは仲直りしたい。

私が後悔するんじゃなくて、理子が後悔しちゃうから……言い訳かな。

「お父さん、帰れそうだって」

「そっか、よかったね」

「じゃあお母さんご飯作るね」

「何作るのー?」

「う〜ん、親子丼にしようかな〜」

「やったぁ、何か手伝おうか?」

「うーん、じゃあ鶏肉切ってもらおうかしら」

「分かった。鶏肉ね」

確か鶏肉は冷蔵庫の……あった。

「どれくらい?」

「そうねぇ、じゃあこれの三分の一くらいにしましょうか」

「オッケー、包丁どこ?」

「引き出しの隅っこにあるわよ」

「隅っこ…あった。どの包丁?」

「うーん…じゃあこれ。一番安全なやつ」

「子供じゃないんだから」

「まだまだ子供よ。陽茉利は」

「えぇー?」

「ただいまー」

お父さんが帰ってきたようだ。

「おかえり、お父さん」

「おぉ、怖い怖い。包丁をしまってくれ」

「あっ、ごめん」

包丁を持っていたことを忘れていた。

お父さんに言われ、急いで包丁をダイニングテーブルに置く。

「びしょ濡れじゃなーい。ほら、お風呂入ってきて、風邪ひいちゃうわよ」

「ああ、そうだな」

「さて、早く作っちゃいましょ。あったかいご飯作ればお父さんもあったまるわ」

「うん。そうだね」

二人でキッチンに戻った

「あれ、包丁どこやったけ」

「フフッ、陽茉利、あなたって何と言うか、頭はいいけどどこか抜けているところがあるわよねぇ」

「ん?それより包丁」

「さっきお父さんに言われてどうしたの?」

「ああ、テーブルの上」

忘れてた忘れてた。

私って本当に記憶力ないなぁ


「おっ、出来たか」

「うん、できたよ」

「じゃあ、食べるか」

「「「いただきまーす」」」

親子丼の卵って、味がついてるからすごく好きなんだよね。あ、もちろん鶏肉もね。

「そう言えば今日小テストがあったそうだな」

「…」

「ん?なかったか?」

「いや、あったけど。何で知ってるの?」

「うーん、忘れた」

「それで?何点だったの?」

「それよりまず何点中だ?」

「十点中」

「何点?何点?」

「十点」

「おおー!さすがだなぁ」

「どーも」

「さて、おかわりしてこようかな」

「あ、お父さんおかわりないわよ」

「えぇー!」

「お父さんうるさい」

「え!酷い!」

「ごちそうさま」

「あれ!早い!」

「いちいちうるさいわよ」

「ごめんて〜」

「愉快な家族ですね」

「どうも」

「お風呂入るね」

「ごゆっくり〜」


「出ましたよ〜」

「歯磨きした?」

「したぁ」

「はーい、いってらっしゃーい」

「行ってきまーす」

タンタンタンタン

今は七時四十二分。まだまだ時間はあるな。

あと、三日。

あと三日しか、クラスのみんなや理子と会えなくなる。

悲しい?寂しい?ううん。何も感じない。

ゴロゴロゴロ

「雷…」

別に怖くない。そんなんでキャーキャー騒ぐほど、女子じゃない。

「暇だなぁ……」

ふと、本棚を見る。

私が死ぬ前に全部売ろう。本当は死んだあと、お母さんに売ってもらおうか迷ったけど、自分で選んで自分で買ったんだ。最後くらい、

責任持って、お別れしよう。

あと、ベッドの人形は……従姉妹か理子にあげようかな。これは私が死んだ後でいいや。

あ、そう言えば遺書を書く用の便箋まだ買ってなかったな。

明日買おう。て、ことでお財布を鞄の中に入れて…何円くらいがいいかな。………一応千円くらい持って行くか。

あんまり雑貨屋さんとか行ったことないし、どれくらいの金額か分からないし。

もしかしたら五百円もしない可能性もなくはない。

そういえば、私が死んだ後お金ってどうするんだろう。

できれば生きてる間に使い切っちゃいたいんだけど、無理だよね。将来のためにって貯金してきたから結構な金額がある。

……まぁいいや。そこら辺はお母さんたちがどうにかしてくれるでしょ。

…明日、明後日学校サボろうかな。愛知にいるお母さんの方のおじいちゃんおばあちゃんに会いに行きたい。お父さんお方は、ちょうど三年前に両方とも亡くなったから、会いに行けない。

あ、ついでにお墓参りと、便箋買いにに行こうかな。確かお父さんの方のお墓は愛知にあるんだよね。

で、えーと愛知に行ったのは、確か四ヶ月前だった気がする。

あ、明日会いに行くならお母さんとお父さんに言わなきゃ

タンタンタンタン

「あら、どうしたの?なんか欲しいものある?」

「珍しいな」

そこには洗濯物を畳んでいるお母さんと、それを手伝っているお父さんがいた。手伝っていると言うより、ぐちゃぐちゃにしている。

「あのね。おじいちゃんたちに会いに行こうかなって」

「あら、いいじゃない。一人で行くの?お母さんたちもついて行こうか?」

「ううん。大丈夫」

「そう。明日ね」

「うん。泊まりで行こうかなって」

「四ヶ月ぶりか。ちょうどいいんじゃないか?」

「うん。ついでにお墓参りに行こうかなって」

「いいじゃない。きっと喜ぶわ」

「じゃあこれだけだから。おやすみ」

「おやすみ」

「しっかり寝るんだぞー」

「はいはい」

タンタンタンタン

そうと決まれば早速準備しなきゃ。と言っても着替えくらいなんだけど。

ちょっと大きいリュックサックが棚の中に入ってた…はず……あった。

ここに着替えと……あ、リップクリームと……後…あ、数珠と…………このくらいかな。

あ、そうだ。お人形、どれか一つあげよう。うーん……あんまり派手すぎないのがいいよね。あ、これいいかな。

茶色のクマの人形。これならおじいちゃんたちの家でも浮かないよね。

…入らない。よし、手で持って行こう。

はい。終わり。

さて、今は何時かなぁ〜、九時十六分。

寝る時間まであと一〜二時間ある。

どうしようかな。……本でも読み返そうかな。

う〜ん……あ、おじいちゃんたちにも行くことを伝えておこう。あらかじめ言っておかないと、おじいちゃんたちびっくりしちゃうもんね。

ピコン

「?」

メール…?誰からだろう。

〔起きてる?〕

菅井君じゃん。そういえばメール交換してたんだった。

〔起きてる〕

〔笹山と喧嘩したって?〕

「……」

〔何で知ってるの?どこ情報?〕

〔通りがかった奴がたまたま話してたからもしかしてと思って〕

〔そっか〕

〔喧嘩したんだな〕

〔まぁね〕

〔そうか〕

〔で、要件はそれだけ?〕

〔おう。おやすみ〕

〔おやすみ〕

……なーんだ。聞くだけか。つまんないの。

喧嘩したって聞いたら、綺麗事並べて仲直りさせようてしてくる人が多いのに。

…まぁでも、菅井君はそんな人じゃないか。

……正直、延命治療もいいかなって、思ってる。

菅井君にはああ言ったけど、延命治療した方がもっと理子とも、家族ともいれるし、菅井君にも………

「………」

無性に泣きたくなった。

涙が出そうになったけど、気合いで押し込めたか、ギリギリのところで引っ込んだ。

何で泣きなくなったのはわからない。

でも、やっぱり泣いた。

「うっ……ううっ………」

枕に顔を押し付けて、爪が食い込んで痛くなるまで手を握りしめて、歯が唇に食い込んで痛くなるまで唇を噛み締めて、涙が枯れるまで、泣いた。


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