一
一.
「ただい一まー」
「おかえりー、遅かったじゃない」
「うん。友達とファミマ行ってきてさ」
「あら、じゃあもう夕ご飯食べたの?」
「ううん。食べてない」
「食べる?」
「いや、今日はいいや」
「…そう。欲しいものがあったら何でも言ってね」
「うん。ありがとう」
「じゃあ二階行くね」
「はーい。何かあったら呼ぶのよ」
「うん」
タンタンタンタン
ガチャリ
「疲れたー」
机の真ん中にひっそりと
佐々倉藍さんの本が置いてある。
「生きてる間に読まなきゃ……」
せっかく買ったのに、読まなきゃ損だ。と、いうわけで本を読む。
あと半分。一時間くらいで行けるかな。
一時間三十分後
「陽茉利ー、ご飯よー」
「はぁー…い………」
「お父さん帰ってきたから、早めに来なさいよ?」
「うん……」
二分後
「終わったー…ご飯食べなきゃ」
タンタンタンタン
「お、陽茉利、本は読み終わったのか?」
「え?」
「だって、陽茉利が夕ご飯に遅れるのは、大抵本を読んでいる時だからな」
「バレましたか。いただきまーす」
今日は麻婆豆腐か。
「辛ッ」
「やっぱり、ごめんね。辛いのしかなかったの」
「そういうことなら……水…」
「あっはは、辛そうだなー」
「水ぅ…」
「はいはい。どうぞ」
「はー、生き返るー。喉乾いてたんだよね」
「え?」
「あ…」
「まさか今の演技⁉︎」
「喉乾いてたから…」
「全く、陽茉利ったら」
「あっはは、演技上手いなぁ」
「笑ってない何とか言ってよ」
「本当に辛かったんだよ?」
「嘘言いなさい。あなた、辛いの好きでしょ?」
「あちゃー」
「あちゃー、じゃない。ほら、騙した罪としてお母さんの水も持ってきて」
「ええ、めんどくさい」
「ついでにお父さんのもくれよ」
「やだ」
「じゃあこれ貰っちゃうわよ」
「うげぇ、いい年して娘と間接キスって……」
「じゃあ持ってきなさい」
「はいはい。しょうがないなー」
「ようやく折れたか」
「折れたんじゃなくて折れさせられたんですー」
「ほんっと生意気ねぇ」
「いいじゃないか。それくらい元気があるってことさ」
「そうなのかしらねぇ」
「はーい、お水でーす」
「どうもありがとう」
「センキュー」
「どういたしましてー」
「…」
「…」
「ごちそうさま!」
「びっ…くりしたぁ」
「もう、お父さんったら」
「…ごちそうさま」
「お母さん一人になっちゃった。お父さん、ビール飲んでいいから一緒に居て」
「おっ、ビールかぁ。しょうがないから居てやってもいいぞ」
「いえーい」
仲良しだな。二人は。
私が死んでも、是非仲良くして欲しい。
「じゃ、お風呂入ってくる」
「一番風呂取られちゃったなぁ」
温かった。
「じゃあ次お父さん入ってこようかなー」
「ご勝手に。私は二階にいるね」
「はーい」
タンタンタンタン
あ、歯磨き忘れちゃった…まぁ一日くらいいっか。
今の時間は…八時二十八分。
「勉強しなきゃ」
実は水曜日と木曜日に小テストがある。この小テストは成績に関係するらしい。水曜は明日だからみんなは今必死こいて勉強をしている頃だと思う。
私も学年トップを維持するために、勉強は怠らない。
一番苦手な科目を一時間やって、その後に一番得意な科目を三十分やって、また苦手な科目を一時間やる。
それが小テスト前のルーティーン。普通の期末テストとかは、もっと勉強時間は多いけど。
さて、小テストは…国語と数学。
……数学からやろう。
一時間後
時計の音とシャーペンの音が重なり合う。
「………ん…九時……?」
いつのまにか九時を過ぎていたようだ。
数学の教科書とノートを閉じ、綺麗に整頓する。
国語国語……あった。
そんなに言うほど勉強しなくても、まぁ大丈夫でしょ。
三十五分後
「…あ?もうこんな時間か」
びっくりして変な声出ちゃったけど、もう三十分超えちゃってるし数学やろうかな……いや、やる気なくなったしいっか。
「寝よ…」
国語と数学の教科書やノート、筆箱を鞄の中にしまい、ベッドに体を預ける。
「あと五日……」
自分で言って、なんか変な気持ちになった。
きっと疲れているんだ。さっさと寝よう。