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あ、危なかった…投稿を忘れるところでした……

「ただいま。菅井君」

「…おう」

よほど暇だったのか、体育座りをして本を読んでいる。

「何読んでるの?」

菅井君の隣に座り、菅井君が読んでいる本を覗き込む。

「”君が”」

「あー、それ」

「タイトルが佐々倉さんっぽかったけど、全く違う人だった」

「世の中にはそう言うのもあるんだよ」

「知ってる」

「生意気な」

腕を組み、怒ったようなフリをすと、デコピンをされた。

「っ〜、菅井君のデコピンは無駄に痛いんだよ」

額を片手で抑える。

「無駄とはなんだ無駄とは」

「無駄は無駄」

「……ゲシュタルト崩壊しそう」

「こんなんじゃならないでしょ」

「これを続けたら、だ」

「だったら最初からそう言えば良いのに」

「うっせ」

額を覆った手を下ろす。

その手を菅井君の手の上に置き、握る。

菅井君が一瞬戸惑ったような顔をして、そのあと薄く微笑んだ。

「そうだったな」

「もしかして忘れてた?」

「もしかしたら少しだけ」

「ひどーい」

「ごめんて」

ここで一旦会話が止まった。

それと同時に、あることが脳裏によぎった。

「ねぇ菅井君」

「ん?」

「菅井君は生まれ変わったら何になりたい?」

「…急に何を言い出すかと思ったら」

「いいから答えて」

「はぁ」

菅井君がため息を吐く。

「うーん…そうだな。空か宇宙」

「…」

「なんだよその目は」

「いや、意外だなぁと思って」

菅井君の目をまじまじと見る。

「失礼だな」

「じゃあ聞くけど。なんで空か宇宙になりたいの?」

「……言うのは恥ずかしいんだけど」

「どうせ私以外に聞かれないから」

「それとこれとは別だ。心の中で言うのと、声に出して言うにとでは」

「そう?いいから言って」

「……」

「…」

「……」

「……」


「……言ってくれないの?菅井君」

「…言いたくないものは言いたくないんだよ」

菅井君が私から目を逸らす。

「あ、そうだ。菅井君に言いたいことが」

少し気まずい雰囲気を漂わせた空間を遮る。

「?」

菅井君が逸らした目をこちらに向ける。

「コミュ障を直しなさい」

握っていない方の手の人差し指を顔の横に立てる。

「…あー、お前に言われたくないな」

目を逸らし、大好きな怪訝そうな顔をする。もう顔は赤くなっていない。

「私はもうちょっとで死ぬからいーの」

「…」

目だけ動かして私の方を見る。

「友達を増やしなさい」

「…意味ある?」

「ある」

「友達はクラスに二、三人いればいいんだよ」

「はぁ、またそうやって…ダメ。友達は何人いてもいいの」

「…」

「ね?」

「……裏切られる、かもしれないのに」

心配そうな目でこちらを見る。

「……裏切られたこと、あるの?」

相手の過去を探るのは、とてもとても失礼なことだと思う。

でも、もう私には残りが少ないから、もう後ちょっとでいなくなるから、せめて菅井君の心の中の黒色を取り払ってあげたい。

「……昔に、ちょっとな」

やっぱり

「この陽茉利に全て話しなさい」

「…自分で言って失礼って思わないのか」

「思うよ。思うけど、このまま誰にも話さずに、モヤモヤが大きくなって、一人ぼっちになっちゃってもいいの?」

「………小六の時」

「うん」

「今よりずっと俺は明るかった。クラスの奴らと仲が良かった。一生仲良くしようとも言った奴らだ。でも、後期ぐらいから段々話しかけても反応が薄かったり、無視されたんだ」

「うん」

「誰かは分からない。もしかしたら他クラスの奴らが俺を憎んだんだろうな。そこからは地獄だった。みんながみんな俺を空気みたいに扱った」

「うん」

「そんな日々が続いて、思ったんだ。ずっとずっと信じたくなかったこと。信じられなかったこと。俺はクラスの奴らに裏切られたんだって

思った」

「うん」

菅井君の目に、涙が溜まっていく。

「ずっと、辛かった」

涙が溢れた。

「うん」

「中学は電車を使って違うところに行った。でも、またいつ裏切られるか分かったもんじゃない。もしかしたら中学にも小学生の時裏切った奴らがいると思ったら、恐怖で仕方がなかった。怖かった。辛かった。ずっとずっと」

「うん」

菅井君が握っている力を限界まで強めた。

私は菅井君を抱きしめる。

「ずっとずっと、辛かったね」

菅井君が嗚咽を漏らした。

「頑張ったね。話してくれて、ありがとう」

頭をポン、と撫でると、爆発したように泣き始めた。


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