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今日は時間通りに投稿できました!良かった

キイ、とドアが開く。

「早いね」

本を読んでいた手を止め、菅井君の方を見る。

「ちゃんとお湯に浸からないと体冷えちゃうよ?もう秋なんだし」

「あのなぁ。二回行くなら風呂入る前に言っとけよ。リビングにお前がいなくてびっくりしたわ」

ドライヤーでふわふわになった髪の毛を揺らし、隣に座ってくる。

「いやぁ、だってテレビ面白くなかったんだもん」

「あっそう」

立ち上がり、本を棚に戻す。

「まぁ、そうカリカリしないでよ。カード持ってきたから」

勉強机の上に置いてあるトランプを顔の横に持ち上げる。

「トランプか。何するの?ババ抜き?七並べ?」

菅井君の隣に戻り、小机の上に置く。

「まずはやっぱ王道のババ抜きでしょ」

ケースからトランプを出し、ジョーカーを小机の端に置く。

「二人だとどっちが持ってるかすぐ分かるだろ」

「確かに」

ジョーカーを抜いたトランプをシャッフルする。

「でも、どっちが持っているか分かった上でやるババ抜きも楽しくない?」

「まぁ、そうだな」

「ふふん。でしょう」

トントン、とトランプを揃え交互にカードを配る。

「はい!ジャンケンポン」

菅井君がパーを出し、私がグーを出す。

「俺からな」

裏返しになったトランプを自分にだけ見えるようにする。

ジョーカーは……無いようだ。と言うことはジョーカーは菅井君の方にあると言うこと。

同じ数字のカードを小机の中心に出す。

菅井君も同じようにして、手持ちのカードは六枚になった。菅井君は七枚のようだ。

「ジョーカーは俺の方にあることは分かっているよな」

「うん」

菅井君が一番端のカードを引き、菅井君の手持ちカードの中心のカードを取り、小机の中心に出す。

「次は私ね」

トランプはいわば心理戦。

一番右端から左端までじっくりと見る。

「早くしろー」

「ハイハイ」

私の方から見て、右端から二番目のカードを引く。

ジョーカーでは無いようだ。

私も手持ちのカードから一枚引き、中心に出す。

そんなこんなで私は後一枚。菅井君は後二枚になった。

「お前すごいな」

「でしょ。私ババ抜き得意なんだよ」

「ババ抜きに得意不得意なんてないだろ」

「あるよ。だって今、十九連勝中なんだもん。これで勝てば二十連勝」

「そうか。頑張れ」

「うーん……これ、かな」

私から見て左のカードを取る。

表を見ると…ジョーカーだった。

「あー…。菅井君の意地悪」

手を後ろに回し、二枚のカードを回す。

「なんでだよ」

「ほら、早く引きなよ」

「ったく。こっちか?」

菅井君が引いたのはジョーカー

「…」

菅井君も手を後ろに回す。

「……こっち」

引いたのは数字の三だった。

「いえーい。上がりー。二十連勝ー」

「棒読みで喜ぶなよ」

「運も実力のうちってね」

「うぜー」

「連勝阻止失敗だね」

「早口言葉みたいだな」

「三回言って」

「連勝阻止失敗。連勝阻止失敗。連勝そしゅっ……」

「…ふっ…フフッ……くっ…」

「笑うなら笑え!」

「くっ…フフッ…あははっあはははは」

「…ったく」

「あははは、お腹痛いお腹痛い」

数分後

「はーー全く、菅井君。余命前に窒息死させないでよ」

「勝手に笑ったのお前だろ」

「噛んだのは菅井君じゃん」

「三回言ってって言ったのは誰だっけ」

「菅井君」

「息をするように嘘をつくな」

「あははっ。ほんと面白い」

「チッ」

「連勝そしゅって…ふっ……」

「あーあー」

「誤魔化しても無駄だよ」

菅井君にこんな可愛いところがあったとは。

「後二時間かぁ」

「もうそんな経ったか?」

「うん。時間って案外過ぎるのが早いんだよ」

「そう、だな」

菅井君が少し動揺した顔を見せる。その顔を見て辛気臭くなり、菅井君の背中をバシンと叩く。

「らしくないよ。菅井君」

「…うっせ」

菅井君に笑顔が戻った。

「全く。世話の焼ける坊っちゃんだ」

「同い年だろ」

「誕生日何月?」

「八月」

「私五月」

「……」

「誕生日でも勝っちゃった」

「でも残念。背の高さは俺の方が上だ」

「ズルー」

「低身長は牛乳でも飲んどけ」

「酷いなー」

散らばっているカードを集める。

「それで、どうする?ジジ抜きやる?それともスピード?」

「そうだな……うーん」

「陽茉利ー、ちょっと来なさーい!」

お母さん?どうしたんだろう。

「……」

何も言わずに菅井君の方を向くと、目が合った。

「…それじゃあちょっと待っててね」

「…ああ」

少し心配そうな顔をして、立ち上がった私を見た。

「大丈夫大丈夫」

「…」

何か言おうとしたがすぐに口を閉じてしまった。

ドアを開け、階段を降りる。

「何かあった?」

お母さんたちが座っているダイニングテーブルに座る。

「あのね。陽茉利」

厳しそうな、深刻そうな顔をして言葉を選ぶようにお母さんが口を開いた。

その言動で、私まで緊張してしまっている。

相槌を打たないでいるとお母さんが、また口を開いた。

「本当に延命治療しなくても良いの?」

またそのことか、と言わんばかりの目をお母さんに向けた。

「その話は何回もしたでしょう?延命治療はしない」

目を閉じて、淡々とお母さんの言葉を否定する。

「でも、当日になってやっぱり延命治療したいって思うかもしれないし…」

「そう思ったら、もうとっくにお母さんたちに言ってるよ」

「……」

お母さんが口を閉じた。

「理子ちゃんや菅井君のことも考えてのことかい?」

私が一回に来てから黙っていたお父さんが言葉を発した。

「…うん」

もう、私に未練なんかないから。

延命治療をしたところで、どれだけ生きれるか曖昧だ。

「だ、そうだ。陽茉利がこう言うんだから、陽茉利の好きにさせよう。これは陽茉利の人生だ」

今にも泣きそうなお母さんに、微笑みながら優しい口調で言う。

やっと決心したように顔を上げ、頬を緩めた。

「ええ、そうね。陽茉利の人生だものね。でもね、やっぱり、自分の娘には長生きして欲しいの」

「母さん…」

お父さんが困ったように呼ぶ

「でも、もし本当に心から延命治療をしないと言うなら、お母さんは陽茉利の意見を尊重するわ」

「……ありがとう」

今ここで泣いてしまったらダメだと思った。お母さんやお父さんまで泣いてしまいそうだったから。

でも、そう思うだけではダメだったみたいで、ずっと我慢してきたものがどっと溢れ出てきた。


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