二
すみません!お待たせしました!
基本は7時〜8時に投稿なんですが、もしかしたらまた遅くなるかもしれません
あと、今回からお話が長くなるかもです。
「ごめん!遅れ……あれ?」
いない…まさか菅井君も遅刻?
今の時間は十時十一分。
柱に寄りかかり、腕時計で遊んで暇を潰した。
「ねぇねぇそこのおジョーチャン」
目だけ動かして見ると、そこにはいかにもチャラそうな金髪の二人組がいた。
面倒ごとは避けたいので、さも、隣の人ですか?と言う目で隣の人とチャラ男を交互で見る。
その意図に気づいていないのか、終始ニヤニヤしている。
ため息を一つ吐き、右に二歩移動する。
「おいおい無視かよ。ひでーな」
「……」
「ったく、つれないおジョーチャンだぜ」
さらに口角が上がったと思えば、いきなり手首を掴まれた。
「っちょっと、やめてください」
「お、見た目通りに可愛い声じゃねーか」
しょうがない。こうなった以上、最終手段を取るしか無い……
「…あの、彼氏、待ってるんで……」
「はぁ?彼氏ィ?」
「はい…」
お願い!このタイミングで来てくれ、菅井君!
「えっ…佐野木?どう言う状況…」
「菅井君」
「マジだったのかよ…チッ彼氏持ちに興味はねぇ。行くぞ」
そのまま、チャラ男たちは私の前から去った。
「彼氏…?」
あ……そういえば…
「えーっと、あいつらから逃れる為に…ね」
「はぁー……」
「いや、ホント、反省してます」
「まずは遅れてごめん」
「ああ、それはいいよ」
「んで、諸々の話は後だ。とりあえず電車に乗ろう」
「あ、そうだった」
「何のために駅前集合にしたんだよ」
「ハイハイ」
「次で降りよう」
「次?」
「ああ」
『扉が開きます。ご注意ください』
機械音なのか、人の声なのかわからない声と共に、扉が開く。
扉が開いた瞬間、降りる人が一気に動き出して、手すりに本気で捕まっていないと降りる人の渦に飲み込まれるところだった。
そのおかげで電車の中は人が少なくなって、椅子に座れるほどになった。
菅井君が一足先に座っていたので、少し距離を開けて座る。
カタンコトン
電車のリズムに合わせて体が揺れる。
「大丈夫だったか?」
不意に、隣に座っていた菅井君が話しかける。
「うん。何とか」
「にしても結構な人がいたな」
「うん。日曜日だからね」
そんな会話をしていたら菅井君の前に杖をついて座っていたおじいさんが「若いねぇ」と、呟いた。
どう反応したらいいのか分からず、小さくぺこりとお辞儀をした。
「次は熱海〜、熱海〜熱海でお降りの方は––––––」
「ここだ」
「熱海?」
「うん」
「何でわざわざ?」
「何となく」
「どういうこと」
何で何となくで熱海に来るの……
「大丈夫大丈夫。昼ごはんは予約してあるから」
「何時に帰る予定?」
「…何時でも」
「お昼ごはん以外無計画なんだね」
「計画性がないんだ。仕方ないだろ」
「ハイハイ」
今日は風が涼しく、ちょうどいい温度だった。
「ねぇ、菅井君」
「あ?」
「もし、さ。今後、私たちの関係を聞かれたらさ」
「うん」
「私のことは、彼女って答えてくれないかな」
「はぁ?何でだよ」
「だって、高校生なのに年齢=彼氏いない歴じゃ、ヤダから」
「俺にメリットあるのかよ」
「菅井君もおんなじでしょ?」
「…まぁ、そうだけど。俺は別にいい」
「菅井君が良くても私が良くないの!」
「知らねぇよ」
「あー、分かった。じゃあ一生のお願い」
「お前の一生もう終わるだろ」
「一生のお願いだよ」
「…ったく、期限は?」
「一生!」
「あー、それなら結婚するか」
私の足が止まった。
「……は?何言ってんの?おかしくなっちゃった?」
「え?なんか変なこと言ったか?」
「変なことしか言ってないよ!急に結婚するって…頭大丈夫?」
「ああ、主語がなかった」
「うん。ちゃんと教えて」
「だって、お前は今日で死ぬ。俺はまだこれから何十年も生きる。でも、もし八十とかまで生きるとしたら、八十でもまだ彼女っておかしくないか?」
「確かに」
「だろ。」
「うん」
再び歩き出した。
「まぁ別にそこら辺はいいや。どーせ後ちょっとで死ぬし」
「て言うことはいいんだな?」
「いいよ。その代わり、私の苗字に恥じない振る舞いをしてね」
「ああ」
一歩前にいる菅井君がこっちを見た。
ただ一つ、あることを分かってしまった。
「…ん?てことは私と菅井君は今から家族…?」
「いやいや、まだ結婚届出してないから戸籍上はまだ他人だろ」
「そっかぁ。高校生の新婚さんって珍しいと思ったんだけどなぁ」
「付き合ってもないのにいきなり結婚ってのも、中々珍しいと思うけどな」
「確かに」
こうして菅井君は、菅井君ではなく佐野木君になってしまった。
「佐野木くーん。ここの公園良くない?」
私達は駅から数分したところの公園に来ていた。
「その呼び方やめろって」
「何で?」
私はブランコに座った。
「佐野木ってお前の苗字だからだよ」
佐野木君も続いてブランコに座った。
「すが…佐野木君が私の苗字もらうって言ってたじゃんか。矛盾だ矛盾」
足を動かし、ブランコを動かし始めた。
「今菅井って言おうとしただろ」
佐野木君は地面に足をついて、動かそうとしない。
「しょうがないじゃん。いきなり佐野木に変わったんだもん」
風を受けた髪が前後に流される。
「……」
菅井君も足をついたまま、ブランコを動かす。
「にしても阻止してくれないんだね。菅井君」
「え…?あー、まぁ。うん」
「やっぱり菅井君って呼んだ方がしっくりくるね」
足の裏をブランコの椅子につけて、立つ。
膝を動かして立ち漕ぎをする。
「手術できるならした方がいいけど、本人がやりたくないって言うならなぁ」
やりたくないんじゃなくて、やれないんだけど。
「…まぁ、そうだね」
しゃがんで、足を地面につけて速度を落とす。だんだん速度が落ちていき、しまいには全く動かなくなった。
「それじゃあ、昼メシ食べに行くか」
菅井君が立ち上がり、私も立ち上がる。
「何食べるの?」
「海鮮」
「ふーん」
海鮮かぁ、熱海っぽい。それにしても、歩くの早いな。
「佐野木くーん」
「あ?ってお前遠すぎだろ」
「歩くのが早いんだよ」
「え?あー、すまん」
「謝るくらいなら速度を落として。これでも奥さんだよ?」
「奥さんて言葉、なんか三十代くらいのおばさんみたいだな」
「失礼な。まだピチピチの高校二年生だよ。あと、全国の奥さんに失礼」
「ピチピチって…言葉選び絶望的かよ」
「またもや失礼発言」
「しょうがない。俺はズバッと言うタイプなんだ」
「それ自分で言う?」
「言う」
何と返せばいいのか分からず、黙った。
「ついたぞ」
菅井君が立ち止まった場所は、石田海鮮と言うところで、日本らしい外見に引き戸だった。
「いい具合に古びてるね」
「ああ、そうだな」
菅井君がドアの前に立つ
「それじゃあ入るぞ」
「うん」
菅井くんが扉を左に開ける。
「いらっしゃいませー」
明るい女性の声で出向かれた。
「お二人様ですか?」
「はい」
質問に菅井君が答える。
「テーブルと座布団どちらがよろしいですか?」
手をテーブルと座布団を交互に向ける。
「どっちにする?」
菅井君がこっちを振り返り、首を少し傾ける。
「どっちでもいいよ」
薄く笑い、質問に答える。
「じゃあ座布団で」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
にっこり微笑むと、スタスタ歩き始めた。
「ご注文がお決まり次第、お呼びくださいませ」
私達が座ったと分かると、そう言って、別のところへ行ってしまった。
「何にする?」
菅井君がメニュー表を開き、横にずらして私にも、菅井君にも見えるようにする。
「うーん。色々あるね」
「そうだな」
「失礼します。お冷です」
さっきの女性がお冷を私と菅井君の前に置き、少し頭を下げて、行ってしまった。
「予算とかある?」
「ない。から何でもいい」
「え〜…」
本当に無計画だったとは……
せめて予算くらい決めておいてよ。
「じゃあお言葉に甘えて、この特大マグロ丼にしちゃおっかな」
「いいぞ。注文するか?」
と言って、注文ボタンを押そうとする。
「ちょっと待って、冗談だから。冗談」
「何だ。そうだったのか」
全く。冗談が通じない男子はモテないよ。
「そうだよ」
「それで、どうするんだ」
「それじゃあ、この桜エビのかき揚げにするかな」
頬杖をついて、薄目で桜エビのかき揚げの部分を見る。
「特大マグロ丼はいいのか?」
「うるさい」
「じゃあ俺が特大マグロ丼にするか」
「お好きにどーぞ」
「冗談」
「そんなの分かってるよ」
「そうか?」
「だって顔にそう書いてあるもん」
少しだけ微笑み、菅井君の方を見る。
「私に嘘はつけないようだな。菅井君」
「うるせぇ」
「早く頼まないと、時間が来ちゃうぞ〜」
「分かった。分かったから。押すぞ」
「はーい」
ピーンポーン
「はーい!少々お待ちくださーい!」
さっきの声より若々しい声が聞こえてきた。
数秒してパタパタと足音がだんだん近くに聞こえてくる。
「はい。ご注文をどうぞ」
額には少し汗が滲んでいる。きっと忙しいのだろう。
「桜エビのかき揚げ一つ」
「小、中、大。どれにいたしますか?」
「だって」
菅井君がこっちを向く。
「小で」
「かしこまりました」
「あと、ネギトロ丼一つ」
「これも、小、中、大。どれにいたしますか?」
「中で」
「かしこまりました」
「以上です」
「それでは、桜エビのかき揚げ、少がお一つ。ネギトロ丼、中がお一つ。以上でよろしいでしょうか」
「はい」
「メニュー表は下げてもよろしいでしょうか」
「はい。お願いします」
そう言って、若い店員はメニュー表を脇の間に入れ、去っていった。
「本当に特大マグロ丼じゃなくていいのか?」
菅井君も頬杖をつく。
「…怒るよ?」
「もう怒ってんじゃねーか」
「まだ怒ってないよ。爆発手前」
「ハイハイ。そうですねー」
「デコピンするよ」
「どーぞご勝手に」
目を細め、もう一方の手で前髪を右に避け、額を出す。
私ももう一方の手をデコピンの形にして、菅井君の額に近づける。
「えいっ」
指が弾かれ、中指が額に当たる。
「指じゃなくて爪が痛いな。爪を切ろ」
「最後くらいいいじゃん」
「あのなぁ」
前髪を戻し、少し撫で手を膝の上に置く。
「お待たせ致しました。お先にネギトロ丼、中です。桜エビのかき揚げはもう少しで出来上がるので、少々お待ちください」
さっきの若い店員が菅井君の前に置く。
「ありがとうございます」
菅井君がネギトロ丼が入ったお椀を自分の方に近づけて、水を飲む。
「…あれ?食べないの?」
「待つよ」
「気障だなぁ」
「黙れ」
菅井君が怪訝そうな顔をしながら割り箸を自分の前に置く。
「あ、私にも頂戴」
「ん」
菅井君が割り箸をもう一膳取り、私の前に置く。
「どうも」
もう少し自分に近づけ、エビのかき揚げを待つ。
「遅いなぁ」
「ね」
菅井君が目を上に向ける。
「お待たせいたしました。桜エビのかき揚げでございます。ご注文は以上となります。ごゆっくりどうぞ」
また違う若い男性の店員さんが来た。
「ありがとうございます」
お礼を言うと店員さんが一礼して去って行った。
「やっと来たな」
「うん。早く食べよう」
「そうだな」
私が手を合わせると、菅井君も手を合わせた。
「いただきます」
「いただきまーす」
割り箸を二つに割ろうとしたら、失敗した。
「あちゃー、失敗した」
「同じく」
「嘘でしょ?菅井君が成功してたら、交換してあげようか?って言うシチュエーションだったのに」
「時々お前のキャラわかんねぇ」
「分からないようにしてるの」
「何で?」
菅井君が醤油をかける。
「素の自分を見られたくないから?」
桜エビのかき揚げを一口食べ、下にあるご飯も食べる。
「俺に聞くなよ」
菅井君もネギトロ丼に手をつける。
「美味しい…」
「良かったな」
「これご飯にもタレがついてるんだ」
「そうなの?」
菅井君が手を止め、こっちを向く
「うん。食べる?」
「…そう言うシチュエーション狙ってる?」
またもや怪訝そうな顔をする。
「違うって」
失礼だなぁ。
「それじゃあ貰おうかな」
「菅井君こそ狙ってるんじゃない?」
菅井君が箸を止める。
「あ?」
怪訝そうな顔をさらに怪訝そうにする。
「ごめんて。冗談だって」
「全く……うま…」
「ふふん。でしょ?」
手を腰に当て、少し上を向く。
「何でお前が偉そうなんだよ」
「私が頼んだから」
「払うの俺だぞ」
「わぁ、奢ってくれるの?」
「当たり前」
口に入れたものを飲み込み水を飲む。
「嬉しいなぁ」
桜エビのかき揚げを食べ進める。
「俺のも食うか?」
「いいの?やったー」
「ん」
菅井君のネギトロ丼に箸を伸ばし一口食べた。