表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が子をたずねて三千世界  作者: カルムナ
学園高等部編
71/80

決闘大会本選 - 3

「あり得ないわ!」

 ぷんすか怒りながらお菓子を口に詰め込むエミリア。その様子を寝転んで横目に見る私。そして、おろおろと視線を交わす後輩たち。


「何がって、とどめが雷魔法だったことよ。雷魔法でやられるなんて、屈辱にもほどがあるわ。」

「別に、最後にどんな魔法使ったっていいじゃない。雷が得意でも、雷に耐性があるわけじゃないでしょ?」

「それは分かってる。でも私にもプライドがあるの。一番の雷使いでありたいっていうプライドが。なのに――何よ、あの紫の光。見たことない魔法だったじゃない。あれ、本当に雷なの?」

 ぐいっと顔を近づけてくるエミリア。近くで見ても肌はつややかで、お菓子を食べていたのに歯も白い。さすが美人は得だなあ、なんてぼんやりしていたら、デコピンを食らった。デコピンにしてはめちゃめちゃ痛い、指の力どうなっているんだ。


「聞いてるの?」

「え、エミリア先輩、メーティア先輩はお疲れなので……」

「あら、そうだったわね。でもどうせまだ余裕あるから大丈夫よ、この魔力お化けは。」

「そんなことないよ、次に備えてちゃんと準備しなきゃいけないから。」

 私は寝転んだまま、近くに置かれていたトーナメント表を指差す。


「ああ、そうだったわね」

 今まさに盛り上がっている試合は、隣の山。つまり、私が次に対戦する相手を決める試合だった。


「……ダニエル、ね。」


 魔道具越しに闘技場をのぞくと、ちょうどダニエルが相手を圧倒しているところだった。

「相変わらずド派手ですね。エミリア先輩に負けず劣らずで。」

「黙りなさい。私はもう少し繊細に魔力を扱うの。あんな乱暴な魔力バカと一緒にしないで。」

 ふんっと鼻を鳴らし、エミリアは後輩にもデコピンをくれてやった。軽い音からして、大分手加減はしてあげたようだ。私には全力で弾いた癖に。


 ダニエルの魔力量が常軌を逸しているのは昔からだったが、最近はさらに増している。それを手当たり次第に燃やして、相手の逃げ場ごと焼き尽くすような、暴力的としか言いようのない戦法。

 だが、その戦いぶりには、どこか危うさも見える。

 精神は魔力の核――それを支える精神力の起伏が激しすぎる。魔力を絞り出すために感情をすり減らし、そう、まるで、自分の命すら燃やし尽くすように。


 ガルス殿下の言葉をふと思い出す。

『強欲』。それが、彼を突き動かす力の正体だと。

 より強く、より賢く。それが彼を動かす強欲さだということか?


 エミリアはこっそりと私に耳打ちをした。

「ねえ、メーティア。覚えてるでしょ?私との賭け。あれはもう、あなたの勝ちでいいわ。でも……私に勝ったからには、ダニエルにも勝ってもらわないと困るわよ?」

「言われなくても分かってるわ。」

「なら、いいけど。」


 エミリアはため息をつき、またお菓子を口に放り込んだ。失った魔力の補充に必死らしい。

 私もカヌレをつまみ、ゆっくりと咀嚼した。甘すぎるけど、魔力の回復にはちょうどいい。


 私は目を閉じ、出番が来るまで頭の中でダニエルとの戦いを何度もシミュレートしていた。


 ---


「準決勝試合、ダニエル・クロフトン対メーティア!」


 3戦目ともなれば、さすがに慣れてくる。初戦に比べれば足取りも軽いし、緊張も幾分か和らいでいた。

 ……もっとも、これから相対する相手のことを考えると、楽観はできなかったが。


「よう、メーティア。」

「ごきげんよう、ダニエル。」


 同じ平民出身のこの男は、いつも通り生真面目で、お堅い性格をしている。

 練り上げられた魔力に隙のない立ち姿――それだけで、彼がこの日のためにどれだけ積み重ねてきたのかが分かる。


 目の下のクマは一層濃く、今にも過労で倒れてしまいそうだった。


 彼の過去については本人からも聞いている。同情はしている。だが、それでも思う。


 ――本当に、そこまでして努力する必要があるのだろうか?

 ――彼の両親は、恩人たちは、それを望んでいるのだろうか?


「……ねえダニエル。もし私が勝ったら、もう少し家族の話を聞かせて。」

「それは無理だ。なぜなら――お前が俺に勝つことはないからだ。」


「試合、開始!」


 魔力がうねる。

 意外なことに、ダニエルは初手を仕掛けてこなかった。練り上げた魔力をまといながら、鋭い眼光で私の動きを観察している。いつでも焼き尽くせるぞ、と言わんばかりの圧力。

 彼の魔力は、あくまで実直で暴力的。だが今の彼からは、それ以上の何かが感じ取れた。慎重さ――いや、警戒心だ。


 ならば、私も同じく慎重に応じるまで。

 王道にして基礎、風魔法の応用で牽制を。空気を操りつむじ風を巻き起こすと、それを刃に変えてダニエルへと放つ。くるくると回転する風刃は勢いよく彼を目指す。

 が、ダニエルは軽く身を傾けただけで、それを紙のようにかわした。


「小手先の技術はいい。とっととお前の本気を見せろ!」

 吠えるような声と共に、地を這うように火炎波が生まれる。

 本来ならじわりと薄く広がるはずの炎が、ダニエルの手にかかればまるで怒涛の大波。あれでサーフィンできたら楽しそうだなぁ、なんて場違いな感想すら出てくる。


「最初から本気出したら面白くないでしょ?私の戦闘スタイルには合わないの!」

 地上はすっかり炎に飲まれてしまった。ギリギリで空中へ回避し、直後に海流山を発動する。


「その炎、鬱陶しいのよね。」

 放たれた水流が空中で渦を巻き、次第に勢いを増して地上へと落ちていく。

 ごう、と音を立てて水が地を覆い、燃え広がる火炎を次々に打ち消していく。水魔法は魔力消費量が多い分、こういう時に便利だ。

 蒸発した水蒸気はコントロールを放棄して魔力へ霧散させ、余計な魔力消費をカットする。我ながら立ち回りが完璧である。


「そんなもの消したって無駄だ。こっちは何度でも燃やせる。」

 ダニエルの周囲の魔力が震え、熱気を帯びたそれが上級魔法へと変質していく。

 観客たちの息を呑む音が、はっきりと聞こえた。彼が展開したのは火球結界――自らを高熱の結界で包み、相手ごと焼き払う大技。通常なら終盤の切り札だ。

 どうも、これまでの相手はこの技に為すすべなく焼かれていったようだ。


 だが、次の瞬間。

 ジジジ……と音を立てて、結界が不安定に揺れ始めた。


 ダニエルが一瞬だけ表情を曇らせ、身を引いたその時。雷弾が地面を掠めて、彼の足元を照らした。


「……さっきの水がまだ残っていたのか。」

「正解。」

 火炎波で蒸発した水分は消したが、地中に吸い込まれた分の水は敢えて残しておいた。火球結界で再び熱されて蒸発し、地上へ吹き上がった蒸気が炎の威力を弱めてくれた。


「よく頭が回るし、技術力も高い。……平凡な家庭出身に似合わず、とんだ化け物だ。」

「そりゃどうも。貴方に褒められるとは思わなかったわ。」

 私は水の応用魔法1つでダニエルの応用魔法1つと上級魔法1つを凌いだ。いくら水系は魔力消費が大きいと言えど、上級魔法をやり過ごせばおつりがくる。

 力でゴリ押すだけでは私には勝てない。彼もそう悟ったようだ。


「……俺はずっと疑問だった。なぜお前が、そんなにも魔力を持っているのか。」

 火炎波に風を混ぜた攻撃が、爆風のような勢いで襲ってくる。範囲も速度も格段に増した複合魔法。だが、雷魔法程速くはなく、水魔法よりも軽い。土魔法で適当な壁を作り、その後ろで一息つく。


「何が不思議なの?」

「魔力は精神力の強さに比例する。貴族や、俺のように何かを背負う者であれば納得できる。だが、お前のように自由に生きてきた者が、それほどの力を持つはずがない。」

 氷針の弾幕をお返しすると、彼は全て防御魔法で弾いてみせた。贅沢な、防御魔法は厚く張れば張るほど魔力消費が多いのに。


「個人的な事情よ、秘密なんて誰にだってあるでしょう?」

「一般的な平民が持てる事情なんてそう多くないだろう。昔犯罪か事故にでも巻き込まれたかと思ったが、安全な王都に家があるのなら違う。俺の様に元々は別の生まれであるのかと調べたが、どうやらそれも違う。」

「何勝手に調べてるのよ。」

 風刃を飛ばすも、彼はそれを土の壁で受け流し、逆に岩塊を私に向かって投げつけてくる。くるりと身をよじって交わし、次の一手を考える。

 ダニエルはエミリアと違い、得意魔法以外も難なく使える。多少使いにくくとも潤沢な魔力が解決してくれるからだ。


「安全な王都。平凡な家庭。だが、その魔力の奥底には深い執念と、決して揺るがない意志がある。何故か?……そこで、俺は1つの仮説に辿り着いた。」

 私の氷柱撃と彼の天雷弾がぶつかり合い、氷の結晶がはじけ飛ぶ。太陽光を反射し目を眩ませる中、彼は私との距離を一気に詰めた。


「お前、前世の記憶があるな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ