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我が子をたずねて三千世界  作者: カルムナ
学園中等部編
50/80

弟の方

 中等部ももう最後の3年生に突入した。

 この2年はあっと言う間ではあったものの、実に充実していた。

 しかし、学園生活もまだようやく半分程度である。これからも頑張らねば。


 とは言え、生活は大して変わらない。いつも通り授業と部活を両立させていくだけだ。」

 学年度最初のオリエンテーションもあっと言う間に終わり、直ぐに通常授業が始まった。

 今までの復習が主な内容なので、まだ新しく勉強することは少ない。


 ところで、私は余裕があるうちにやっておかねばならないことがある。

 今日はそのために、この広い図書館を探索しにやってきた。


「確かこの辺り一帯が歴史系の本だったはず……で、生物系は上の階だったっけな。」

 独り言をブツブツ呟いても、誰にも聞こえない。それほどこの図書館はただっぴろい。

 適当にタイトルを見て、それっぽいものは脇に抱えていく。そろそろ重量オーバーで肩が痛くなりそうだ。

 粗方読みたい本を集め終えたら、その辺においてある自習用エリアに座り、本を丁寧に積み上げていく。

 これで準備完了だ。


 魔族について調べる事。

 これが、今私が一番やるべきこと。


「学園に入学し、そこに潜む問題を解決せよ。」

 この天啓を受けた時、最初は何のことだか分からなかった。前半はともかく、潜む問題とは何かなんて誰も知らない。

 だが、今なら大体の予想はつく。


 この問題というのは、恐らくあの魔族のことだ。

 一見魔族についての問題は、去年解決したように思える。しかし、現状不明点も多い。

 なぜ、あの魔族はわざわざ魔界と繋がるポータルをここに開いたのだろうか。単に人間界に来るだけなら、昔侵攻してきたように北部から来れるはず。

 何も見つかる危険を冒しながら、壊れかけていた魔道具に頼る必要性なんて無いのだ。


 更に、ポータルから使い魔を送り込んで死体から情報を得ようとしたのは何故か?それもシュルト殿下やガルス殿下、教授陣のような人々なら兎も角、当時のイザベルのようなただの子供を連れ去ったところで、得られる情報なんて限られている。そんなことをするよりも、北部の人間を直接さらった方が余程良い情報を得られるのではなかろうか。

 外部から傀儡化した人間を送り込んで魔道具を修理させたことも同じだ。やることが一々遠回しな気がする。


 そこまでしてこの学園に執着する理由は何だろうか?

 この謎を解明すれば、天啓を果たせるのではないかと私は考えた。


 まずは古代の資料をまとめる所から始めよう。魔族の情報は非常に限られている。

 そもそも彼らは魔界にしか存在せず、その魔界もほぼ伝説上の存在に近い。現世の私達に得られる情報は、太古に戦争していた時の話だけ。

 取り合えず、当時の戦争資料の写しを集めてきた。ついでに分厚い古語の辞書も持ってきた。

 この解読から進めていこう。


 やはり古語というものはどの国においても難しい。同じ言語であるはずなのに、感覚的に読めないからもどかしい。

 しかも字体が崩れており読みにくい。よくよく観察しないとどの文字かも判別できないから、一度ノートに清書してから意味を調べた方が良さそうだ。

 それでも、どことなく現代日本で学ぶ古文よりはマシな気がする。この世界の国々には外国語というものが存在しないせいか、外国語からの影響を受けないせいだろうか。

 どの国でも同じ言語が使われ、方言のように訛ることはあっても別言語になることはほぼない。不思議だ。


 大量の資料を目の前に並べてうんうん唸っていると、突然肩をぽんぽんと叩かれた。

 古語の世界にどっぷり漬かっていた私は驚いて、身体がびくんと跳ねあがってしまった。


「ごめんね、そんなに驚かせる気はなかったんだ。」

 この柔らかい声は聞き覚えがある。

 後ろを急いで振り向くと、太陽の様な輝きを放つ金髪と、心配そうに伏せられた青い目がこちらを見ていた。

 シュルト殿下だ。


「あ、いえ、その。大丈夫ですので。こちらも集中していたもので……」

 咄嗟の事で言葉が出てこない。不審者みたいな話し方になってしまった。

「やあ、また会ったね。」

 シュルト殿下がにこりと笑った。そういえば、以前彼と出会ったときも図書館だったっけ。


 改めて彼の顔をちらりと見てみる。彼の顔立ちは相変わらず綺麗だが、前に見た時よりも落ち着いている。

 目も髪も色が同じであるにもかかわらず、ガルス殿下とは雰囲気が全く違う。

 ガルス殿下は漢らしい強さがあったが、シュルト殿下は未だに女性のように儚げな雰囲気を纏っている。体も男子の中では小柄で細身の方だ。

 声も比較的高く細い。以前出会った時とは違う声をしているから、声変わりは過ぎているはずだが……父方の血が同じであるにもかかわらず、ここまで違うのか。


「メーティアさん、だったね。魔族の侵攻について調べているの?」

「そ、そうなんです。魔族の生態について興味がありまして。そのためには、歴史まで学ばなくてはならないようで……」

「ふーん、変わったものに興味を持つんだね。」

 ジーッと見つめるシュルト殿下の顔は微笑んでいるように見えるが、正直何を考えているか分からない。まだあどけない少年にも関わらず、大人びた表情の裏に何かを隠しているようだ。

 以前出会った時のお茶目さはなりを潜めているせいで、どうも別人と接しているようでやりにくい。


「それ、古文の解読?」

「はい。文体が崩れて読みにくいので、一旦手元のノートに文字を書き写しているんです。この後、辞書を使って現代文に直していく予定です。」

「へえ、凄いね。学校の授業でもまだ古文についてあんまり勉強してないのに、自分で解読しようとするなんて勉強熱心なんだね。」

「いえ、まだまだ始めたばかりです。シュルト殿下はなぜここへ?」


 周囲を見渡してみても、周りに誰もいない。魔力探知にもひっかかっていないから、この周囲には誰もいないのだろう。

 正直ほっとした。以前シュルト殿下と話したせいで、周りの女子生徒から嫉妬の目線を受けていたから、今回も同じ目に合うのかと不安だったが杞憂のようだ。


「僕さ、君の事がずっと気になっていたんだよね。ほら、僕の兄と仲がいいでしょう?」

「ああ、ガルス殿下のことですね。この前卒業される前までは仲良くさせてもらっていました。有難い限りです。」

「うん、だから君がどんな子かもっと知りたくなった。ほら、身分分け隔てなく仲良くできる兄とは違って、僕は普段高位貴族の子弟としか話さないから。僕としては平民の子達や低位貴族の子達とも関わりたいんだけれど、それを許さない人が多いんだよね。」

「……それで、他に人が居ない今話しかけたということですか?」

「聡いね、そうだよ。」


 シュルト殿下はにこにこしている。

「僕の事は気にしないで作業を続けて」というので資料に目線を落とし再び写し作業を始めたはいいが、隣の視線が気になって集中できない。

 というか、彼も図書館に用があってきた訳ではないのか。


「殿下は、本を読まれないのです?」

「ん?ああ、そうだ。帝王学の一環として、歴史についての本を読もうと思っていたんだった。」

 彼は手にした数冊の本を隣の席に積み上げ、その一冊を手に取った。

「僕の事は本当に気にしないでくれ。自分の好きな事をやっていればいいから。」

 彼は本を開き、それに集中し始めた。こちらにはもう視線を寄越さない。


 まあ、いいや。彼がそういうなら私も自分の作業に戻ろう。ただ隣にもう1人いるだけだ。

 しかし、シュルト殿下といいガルス殿下といい、なぜこの国の王子は私に構うのだろうか。

 百歩譲ってガルス殿下は同じ部の先輩として理解できる。特別魔力を持つ私を気にかけてくれる理由もあるし、彼は平民だろうが貴族だろうが気にしない傾向がある。


 シュルト殿下に関しては別クラスで関わりはほぼない。その上、身分制度を重んじた友人関係を築いているシュルト殿下が、平民の私に声を掛けてくるのは普通に考えておかしい。

 彼が私に近づいたのは、ガルス殿下の交友関係を聞いての事だろう。それでも、シュルト殿下がそれに対しどういう思いで私に近づいてきたのかは分からない。

 単に兄のお気に入りが気になったのか、それとも何か牽制を掛けようとしてきたのか。


 ガルス殿下とシュルト殿下の仲についてはよく知らない。噂でも聞いたことがない。

 後でこっそりメグかデリケ辺りに聞いてみよう。

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