中編(アルサ視点)
☆アルサ視点
私は転生者だ。熱病でうなされたときに、前世を思い出した。
しかし、大学で経済を学び。OLとして過ごした私に、何かすごいことをするなんて無理だ。
だから、流れるままに、ここまで来た。
辺境に着いたとき。陛下に受け取り拒否されたイモを植えた。
理由は、私が食べたいからだ。
そして、村を見て思った。
この世界の村は、自給自足、基本、村で完結している。
戸籍と土地台帳を作成しているときに、ある事実が分かった。
農民達に、地主と言う概念はない。まだ、発生していない段階かもしれない。
土地の権利関係は複雑で、
例えば、ある農家が、他の農民に土地を貸して小作人を持つ身分だったり。
逆に、借りたりしている。
これは、無軌道な開拓が原因かも。
村に一人は文字を読み書き出来る者がいる。戸籍を作るのは、大部分はやってくれる
時間はある。
まあ、この段階なら、あれが出来るかもと、実験的にやってみた。
昭和の初め頃、東北で、奇跡と言われた。村が経済更生した事件があった。
青森県梅澤村沖集落、菊池さんという全く、善意の塊のような方が行った奇跡だ。
東北大飢饉まで、乗り越えた方法だ。
それを、この村にカスタマイズをする。
菊池さんは、何回も村人達と話し合ったが、ここは、元王女の権威を使い無理矢理集める。
失敗したら、まあ、良いか状態だ。
「王女様が、農作業が、暇な時に、邸に集まって縄を編めって?」
「イモを食わせてくれるって」
「まあ、いいか」
領主館を開放して、人を集めた。この村では、各家で、縄や農機具を作り。たまに来る商人に余ったものを買い取ってもらう。
私も自ら縄を編んでみた。
これが、大ヒット。
村人たちは、縄を編みながら、談笑し。田舎のスナックのような体裁になった。
あまり、集まる所がなかったようね。
「エールです。おイモもありまーす。キャ」
「お、ベッキーちゃん。気をつけて!」
このベッキーと言う子は、無能の烙印を押され、私付きになるか、紹介状無しで城を放逐か選べと言われるぐらいの子だったが、
実に、無能だ。しかし、言われたことだけはしっかりやる。
いわゆる無能の怠け者で、手足として最適。
後に、金庫番をさせたら、間違いはあれど、横領など考えも付かない。
計算も時間が掛かったが、確実に覚えてくれた。
実に良い子だ。
「アルサ様、イモが不足気味です。植えるように指示を出しておきましたが、良かったですか?」
「ええ、有難う。それでいいわ」
このセバンさんも、まるで、サッカーのメッシュさんのように、全体を見渡し。必要なことをやってくれる。
実に楽だ。
そして、作った商品を、強気で商人に交渉する。
「まあ、各家を回る手間を考えたらお高く出来ます。これぐらいで?」
「ええ、それでいいわ」
また、共同で村人に必要な物資をまとめて買い。お安くしてもらう。
お金が貯まったら、制縄機や、大型農機具を買い。皆で、共同で使う。
また、こちらからも攻めた。8キロ先に、自然発生した小さな街があった。
帝国、我国の民が入交じっている。そうだ。ここは帝国の国境付近。
市場では、手数料を払えば、売ることが出来る。
ここで、縄を実演して売る。
私は前世、登山部だった。
「これが、巻き結び!」
「本結び!」
「トラック結び!」
ガヤガヤガヤ~
「トラックって何だよ」
「まあ、いいか。もらおうか」
「毎度!」
ゴールドラッシュの時はスコップを売れ。
辺境の開拓には縄は不可欠で、消耗品だ。
貯まった資金を「生活防衛ギルド」の運営資金にした。
村民に、小口、年5分無担保で貸し付ける。
とりあえず。各家庭銀貨5枚(5万円)を限度にした。
踏み倒されないかって、それが、大丈夫なの。
村社会を舐めてはいけない。
借金を踏み倒すと、村の評判が悪くなる。
逃げ場がない。死活問題だ。
返せなくなったら、応相談とは言ってある。
「皆、借りに来るわね」
「当然でございます。皆、高利貸しから、借り換えています」
「えっ」
「この付近の村々は、貧しく。高利貸しは、年100~200パーセントを取ります。質は娘です。それを年5分で貸し付けるとは、皆、感謝していますよ」
調べてみたら、ある集落では、村人の総借金は、銀貨27枚、それで延々と利息を搾取されてきたのね。
チィ、もう少しお高くても良かったわ。
私は何も知らなかった。セバンさんはそこまで調べてくれていたのね。
高利貸しが文句を言いに来たが、
「おい、商売の邪魔をしないでもらいた・・・ヒィ」
悲鳴を上げて逃げ去った。
失礼ね。私の赤髪と緋色の瞳は、暗闇で見ると、怖いの?と思ったが、後ろに大勢の村人たちが、クワを掲げていた。
「「「「アハハハハハハ」」」
「見ろ。アルサ様の威厳に逃げ出したぜ」
・・・いや。
やがて、飢饉を迎え。盗賊どもが村々を襲うようになった。
小集団で、野良で作業をしている娘さんを拐かす。
許せない。
彼らがこのような凶行に出た理由は、生活防衛ギルドのおかげで生活が潤い。村人達が、娘を売らなくてもすむようになったからだ。
奴らは
主に、飢饉の時に、人を安く買いにくる。
奴らの言い分は、飢饉で高騰した食べ物をあげるのだから、これぐらいで充分だろうと、麦一袋で買いに来た例があったそうだ。
飢饉は、サツマイモと生活防衛ギルドの資金で、飢饉のない帝国に商隊を出したり、何とかなりそうだ。
村人をさらいに来る盗賊を何とかしなければならない。
盗賊は、傭兵あがりや、冒険者あがりが多い。
10人規模でやってくる。私には騎士は付いていない。
農民達に、セバンさんに、剣を教えてもらったが、
無理だ。素人の私が見ても、腰が引けている。
なら、クワは、一日、何万回も振っている。
私は、村鍛冶さんたちにメイスを作ってもらった。
それを時代劇で見た示現流を見よう見まねで教えてみた。
いや、示現流はもっと奥が深いものであるだろうが、
全くの素人、関係者がいたら、ごめんなさいだ。
ヨロヨロヨロ~~~
「こうやって走ってきて」
「打ち付けます」
ポコッ
横木にメイスを、打ち付けるだけを教えてみたら、
これが実にはまった。
クワの動作で、両手でメイスを殴りつける必殺殺法が出来上がった。
「「「チェストー!」」」
「あのアルサ様、一撃が外れたら、どうすればいいのですか?」
「・・・・死ぬ」
正直に答えたら、皆、押し黙った。ごめん。無能で申し訳ない。
(((なるほど、それほどの覚悟で、家族を守れとのことか)))
猟師をスナイパーにし、我が物顔で来る盗賊団を迎え撃ったが、
「はあ、はあ、村人抵抗しやがった」
「チィ、メイスだから、鎧が効かない」
「一端下がるぞ!」
撃退は出来たが、村人が3人も亡くなった。5人が、重軽傷だ。
「グスン、グスン、グスン」
人目もかまわずに泣いた。私のせいだ。甘えがあったからだ。
(((我ら農民のために)))
覚悟を決めた。緊急事態なので、悪魔の手法をとることにした。
あくまでも一時的な処置だ。
私には武芸も、軍略もない。
だから、悪魔の方法、
洗脳を使った。
団結力を強くする。
細かいルールを定め。個人の意識の薄い村人達を、更に、個人の意識を薄くする。
アメリカの高校で心理実験をした教師がいた。
何故、ナチスをドイツ国民が反対しなかったかとの生徒の質問に、当時のドイツ国民が陥った状況を再現したそうだ。
そしたら、一日で、攻撃的な集団が出来上がった。
挨拶は、
「ジーク!アルサ」
「ジーク!イモ村」
と、右拳を胸に当てる宇宙に戦艦が行くアニメの敬礼を真似た。
私に発言をする際は、必ず挨拶をさせる。
村の道は、右側通行などなど、生活の細かいところまで決める。
すると、あの実験のように、数日で、村人達は、自ら、ルールに縛られに行った。
そして、盗賊たちを迎え撃ち。来なくなったぐらいを見定めて、軍の名前を、『農民解放軍』と名前をつけた。さらわれた農民を解放するのが目的だ。これはブレーキだ。
目的は殺戮ではない。あくまでもさらわれた農民の奪還だ。
何か、ファシストとコミュニストを合わせたような不思議な軍隊だ。
本拠地を討伐した。
盗賊達は、職業化し、普段は人買いや農業、緊急事態時には、盗賊化する。
洞窟や、テントで住んでいるわけではない。
村を作っていた。
「すすめ!なるべく、殺すな!」
我ながらヒドイ指示だ。
「さすが、アルサ様、拐かされた娘がいました。火をつけなくて良かったです」
・・・火?村人達は、指示を与えたら、勝手に考えるようになった。
楽だ。
村人達の中に、現場の指揮官に最適な、頭の良い怠け者がいるようだ。
命令の趣旨をくみ取り。必要最小限の方法で実行してしまう。
素晴らしい。
「ヒィ」
「ねえ。何で、僕らを捕まえるの?」
盗賊団の妻子がいたが、因果応報、賠償奴隷として売り払い。さらわれた娘達を買い戻した。
「結構ため込んでいるわね」
盗賊の財産を吸収し、更に、近隣の盗賊村を襲ったが、皆、襲われることになれてなくて、見張りも形骸化していた。
盗賊問題が片付いたころ。
使者がやってきた。
「私はベルタ様の副官、ザワードと申します。騎馬合戦の申し込みです!理由は王宮で、アルサ様が、ベルタ様の挨拶を無視したことです」
「・・・そう」
そう言えば、あったかな程度の記憶しかない。
「勝てば、アルサ様がため込んだ財産を全て頂きます。今、差し出したら騎馬合戦はやめて差し上げます」
「ねえ。私が勝ったら何を頂けるの?」
「笑止、貴方が勝てる道理がございません!ア~ハハハ」
ヒドイな。もう。
「分かりました。私の財産は、お給金を貯めた金貨25枚(250万円)です。それと、ドレスが少々、何故か、臣下に下ったときの下賜金は頂けなかったのです。それを差し上げますから、許して下さい」
「はあ?いっぱいため込んでいるとの噂だ!」
「生活ギルドの資金は、大金貨数十枚(数千万円)ですが、それも、8割は会員に貸し付けています。それは私のものではございません」
「屁理屈を」
「ジーク、アルサ!戦うべ!」
「そうだ!生活ギルドは、アルサ様とともにある!」
「帰れ!」
こうして、勝ったら、私は何をもらえるの?問題は棚上げになり。戦争が勃発した。
☆
辺境の入り口に砦を築いた。
道を見晴らすように小山があったから、そこを本陣にして、柵で囲った。
「ジークイモ村!ヒヒヒヒヒ、姫殿下!敵は1000人いますぜ!やってやります。ジークアルサ!」
この少し頭頂部が寂しいおっさんは、数週間前までは、気の良い村長さんだった。
「姫殿下、私が護衛をいたします」
「誰?」
「帝国騎士のハインツと申します。領主館で、体験視察をさせて頂いております」
そう、何人かいた。
そう言えば、私の事を、内政チートとか言って、
何人か貴族の子弟が見学に来られたが、皆、私が縄を編んでいる姿を見て「プッ」と笑って、去ったり。
「農民の真似事なぞ出来るか!」とか怒って、逃げて行ったのよね。
残った人がハインツさんとご友人か。黒髪の縮れ毛でイケ面さんだ。
彼は実に、良く指揮を執ってくれた。
「この便所桶は?」
「千早城です。いえ。遠い国の話で、押し寄せる大軍に、糞尿を投げつけて、撃退したお話があります」
「ほお」
いや、ヒドイ作戦だよ。砦にこもるから汚物がたまれば疫病が流行るかもしれない。
敵に投げつければいいのだ。
お前は、楠木正成の尻尾だな。
なら、尻尾の戦いをご覧下さい。
フッ、馬鹿め。楠木正成は敗れたのだぞ。
と一人会話を考えていたら、敵は、3日目には瓦解した。
何故?
「ジーク、アルサ!セバン殿の指示で、近隣の村人は食料を持って避難しました!」
「ジーク、アルサ!奴ら行軍中に略奪を行い。やる気ありませんでした」
「略奪を受けた村人たちが、敗走している騎士を襲っています」
「そう・・・」
☆
王都から、私に褒章をくれるとの話が来た。
そろそろ洗脳を解く頃合いか。
褒賞をもらったら、皆を集めて訓示をしよう。
ハインツさんが、うわ。王子様みたいな服で、大勢役人を引き連れてやってきた。
「アルサ殿、貴国と帝国で国境線の取り決めの話合いをすることになった。
この辺境は各国の民が混在している。貴国から提案があった。
この地は帝国領になりそうだ」
「そう・・」
「宜しいのか?」
「そうね。経済圏は、完全に帝国だから、その方が便利だわ。それに、税が安い。私も帝国の所属になればいいのよ」
・・・同じ言語圏に、同じ民族、言葉の違いは方言程度しかないわ。それに、民にとって支配層の変化はどうでも良い。
(何と、民の利便性のために、この方は名君だ)
「話し合いがあるから、使節団を派遣する。私が団長になった。一緒に行こう」
「そうね」
ハインツさんと王都に行くことになった。
行った先々で、歓迎され。
王都に着いたら、
なんだか。商工業者や、騎士団達が出むかえる。
あら、高位貴族はいないわね。どうしたのかしら。
「それにしても、護衛の人数、多くありませんか?」
「大丈夫です。貴女の護衛を考えたら、これでも足りないぐらいです」
・・・・一万は超えているでしょう。
そして、王宮に行ったら、中は、閑散としている。
お父様が、
「ワシは、王位を退く。北の離宮に行く、それで命だけは勘弁してもらいたい」
と仰る。
イメルダは、
「覚えてらっしゃい。まだ、策はあるのよ!」
と逃げて行った。
何?私は、何かしたかしら。
最後までお読み頂き有難うございました。