前編
「「「国王陛下、ご即位40周年、おめでとうございます!」」」
今日、この国の王が、15歳で即位してから40年目、王宮で、記念式典が行われた。
宴もたけなわになり。最後に、贈呈の儀が行われる。
宰相が宣言する。
「さて、次は贈呈の儀でございます!贈り物と、抱負の言葉を陛下に奏上して下さい」
「まずは、第4王女殿下、ミリーシャ様!」
「お父様、おめでとうございます!私は、この金で作った父上の像をプレゼントさせて下さいませ。
私にとって、お父様の存在は、世界中の富よりも価値がございます。
私が女王になったら、商業を盛んにして、豊かな国にして差し上げますわ」
「ほお、さすが、勢い盛んな商工業者を後ろだてに持つミリーシャ、さぞかし、豊かな国になるであろうな」
陛下の言葉に、大商会から成り上がった貴族達が、歓声をあげる。
「「「オオオオオオオオオオオーーーーー」」」
「次、第3王女殿下、ベルダ様!」
「陛下、おめでとうございます。私は、希少な金属、オリハルコンで作った武具一式を贈呈差し上げます。私にとって、父上の才略は、天才軍師に率いられる100万の軍勢に等しい価値です。
私が女王に就任したら、騎士団を良く使い蛮族どもを制圧してみせます!」
「ほお、これは、素晴らしい。ドワーフ製だな。ベルダが女王になったら、さぞかし、国境は安泰であろう」
主に軍事貴族、騎士爵がときの声を上げた。
「「「「ウラーーーーーー」」」
「次は、第2王女、イメルダ様!」
「陛下、即位40周年、おめでとうございますわ。私のプレゼントは・・これに」
ザワザワザワ~~~~
鎖でつながれた美女が、王の前まで、兵士に連れられて来た。
「ヒィ、グスン、グスン」
「これは、絶世の美女と唄われた。ドルン王国の美姫ルルーシャではないか・・・どうしたのだ?」
「はい、謀略で、手に入れました。悪評を流し。疑心暗鬼にさせて婚約破棄をさせましたわ。
国外追放になった所を捕縛させましたわ。どうぞ。愛妾になさってくださいませ
私にとって、お父様の金言は、万を超える策略に等しいものでございますわ」
「なんと、さすが、神算鬼謀のイメルダよ」
パチパチパチパチ!
高位貴族から、拍手が起こった。
「私めが、王位を継いだら、謀略で国勢を増してみせます。金や、武力に頼らず。王宮で、扇を指すだけで、遠い異国で、事を起こしてみせますわ」
「うむ。イメルダが女王になったら、さぞかし国威は増すであろう。ルルーシャは、余の寝室につないでおけ」
「御意」
「次は、第1王女、アルサ様でございます」
ザワザワザワザワ~~~
赤毛、緋色の瞳、高身長の姫が、老執事と、見習いメイドを連れて登場した。老執事は、箱を、メイドは、蓋付きの盆を持っている。
「父上、おめでとうございます。非才ながら、私は、異世界イモを持って参りました。チェストーイモとも呼ばれていますわ」
ヒソヒソと、侮りの声が聞こえてきた。
「プッ、イモだって」
「さすが、後ろ盾が田舎伯爵のマルサ様」
「無能のアルサ様とは言い当て妙だ。何をお考えになっているのだ」
「・・・意図を聞こうか」
「はい、このイモは、救荒作物です。転移者により持ち込まれたものです。甘くて美味しいのです。種芋は、セバンの箱の中にございます。
ベッキー、蓋を開けて、ほら、見事な赤色でしょう?蒸したものです。どうぞ、食して下さいませ」
「・・・・・余にイモを食えというのか?」
「さようでございます。陛下が食せば、高貴な者のお気に入りと、民は喜んで食し、イモが普及します。民は飢えることがなくなります。
私のプレゼントは、民の笑顔ですわ」
「で、アルサが、もし、万が一、仮に、女王になったら、どのように国を導く?」
「それは、各勢力の意見をよく聞き。大船を動かすように慎重に国を動かします」
「アルサは、余をどう思っている?」
「はい、縄のように大事に思っております。平民は、普段は縄を意識しません。
しかし、縄がなければ、生活は成り立たなくなるでしょう。王とはそのようにあるべきです」
周りの貴族たちから、失笑がもれる。
「プッ」
「プ~クスクス、もお、ダメ」
「無能の極地だ」
「もお、良い。アルサは、熱病で2週間うなされたと聞く。体が悪いのであろう。王族の任に耐えられないな。臣下に下し。
準男爵の地位を授ける。辺境に赴き。戸籍と土地台帳でも作成せよ。養生いたせ」
「畏まりましたわ」
「他の者には、相応しいポストを与える。それぞれ励み。国を豊かにしてみせい」
「「「「御意」」」
「我国には、王子はいないが、才媛が3人もいる。安泰だ。皆、それぞれの職分に基づき3人を支えてくれ」
「「「「御意!」」」
第4王女は、商務卿の下につき。商業政策を担当し、
第3王女は、騎士団総長副官の座につき。軍務に従事し、
第2王女は、宰相府につき。宰相の元でキャリアを積むことになった。
第1王女は、
「叔父様、せっかく、貴重な種芋を提供して頂いたのに、申し訳ございません。
陛下の覚え悪くしました。私にはこれしか思い浮かばなかったのです」
「いい、いいよ。妹の大事な娘だ。元から、覚え悪いから気にするな」
「アルサ様、生水は飲んではいけませんよ」
「あら、護衛をこんなに」
「信頼のおける冒険者パーティだ。まさか、三人だけで、辺境に行くつもりじゃなかったよな」
「・・・・申し訳ございませんわ」
叔父一家に見送られて、老執事と、12歳の見習いメイドの3人で、寂しく辺境に赴任した。
しかし、翌年から、数年間、深刻な飢饉が王国を襲った。
☆☆☆5年後、王都
ポロン♩ポロン♩ポロン♩
「ああ~、鉄血のアルサ様は、老練の策士セバンと忠義者メイド、ベッキーと一緒に、辺境に降り立った♩
男は笑い。女は微笑み。子供は走り回る~
流賊を~~~、多彩な軍略でやっつけたのさ。
続きは、お代を頂けた方にお話しま~~す。あちらの天幕まで、お越し下さいな!」
「「「オオオー、聞く聞く!」」」
「おい、そこの吟遊詩人!ミリーシャ様がお呼びだ!」
ポロン♩ポロン♩
「吟遊詩人は、唄を売る~~、詩人は売り物、買い物じゃない~~」
「クゥ、分かったわ。お金を余分に払うから、講演の後、質問をさせなさい!」
「毎度!」
商務卿付きのミリーシャは、吟遊詩人から、話を聞くが、
「何?それ、そんなわけない。何か画期的な商売を知っているはずだわ!」
「へへへ、あっしらは、取材をしたんでさ。三ヶ月調査員を派遣してね。そこで知り得た情報でさ」
吟遊詩人の話は、
「アルサ様は、皆と仲良く、縄を編んだのさ。そこで、民の声を拾ったと評判でさ。その声を元に、『生活防衛ギルド』を立ち上げたのさ」
それを、誇張を入れて、面白、可笑しく話す内容だったと吟遊詩人は正直に話した。
「あり得ない。飢饉続きで、商業は壊滅的打撃を受けたじゃない」
「ミリーシャ殿下、如何しますか?商務卿から、次の政策をとのことですが」
「奉公人の賃金を下げて、金の含有量を少なくして貨幣を作りなさい。流通量をおおくすれば、大商会は立ち直る。そして、市場税を上げれば、国庫も豊かになるわ!」
☆王宮
「ミリーシャ様、失脚、民が暴動を起こす一歩手前です」
「母君の実家送りになったと聞いたぞ」
「失策、続きで、商家の実家でも針のむしろだと言う・・」
「まあ、宮廷雀どもは、うるさいわね」
「「「ベルダ王女殿下!」」」
「そんなの一手で覆せる。アルサの辺境を討伐し、富を奪えばいい。私の配下の騎士団だけでやる!」
☆一月後
「ベルダ様、敗北!」
「詳細を聞きたい方は、こちらの天幕へ」
あ~ペンペン!
ベルダ様の第一騎士団は、
大義がない。
糧秣がない。
士気がない。
ペンペン!
平民出身の騎士達は逃げ出したぁ~
自国で略奪は、嫌だよね~
正義派将校も意見する。
5000人の騎士団は、脱走兵が相次ぎ。
辺境にたどり着くころには、騎馬500と歩兵数百だ。1000人の軍兵だ。
何とか、辺境にたどり着き。
砦を攻撃するが、
「さあ~ここからが圧巻だよ。アルサ農民解放軍は、何と、糞尿を、騎士達に浴びせたのだ!」
「「「「ギャハハハハハハハハ」」」」
数十の部下と伴に、這々の体で、王都に逃げ帰ったベルダ様に待ち構えていたものは、鬼の騎士団総長だ。
『何故、武装を解かなければならないのだ!私戦届けは出しているぞ!』
『姫、貴族の私戦は、負けたら、死罪ですぞ』
『父上に取りなせ』
・・・・
「貴族は私戦で、負けたら、平民落ち。縛り首さ」
☆イメルダ視点
「おかしい」
「イメルダ殿下、もう一度、調査をなさいますか?」
「いや、良い」
・・・老執事セバンは60を越え。城の中でも、一日中、ボーとしていた。
メイド見習いベッキーは、いつも皿を割っていた。
どう調べても、二人に有能の気配を感じない。
謀略を仕掛けたが、二人とも首を縦に振らない。
『セバン殿、イメルダ殿下が、ご所望です。城の執事長になって頂きたいと、これが支度金でございます。給料を10倍にしますぞ。これが、イメルダ様、直筆の雇用契約書です』
『無理じゃ。ワシはアルサ様の元で能力を発揮するのだ』
と断った。
『ベッキー殿、ドレスでございます。イメルダ殿下のレディーメイドにしてさしあげます。毎日、綺麗なドレスを着られて、美味しいご飯を食べられますぞ』
『ヒィ』
バタン!
気絶をする始末。
農民達を扇動しようにも、
「そこの方、よいお話がありますよ」
「ジーク!アルサ、ジーク!イモ村!」
「さあ、君も、イモ村青年団にはいるだ!」
「えっと」
もはや、意味が分からんと報告が来たわ。
カゲを潜入させたが、帰ってこない。
アルサは転生者か?
「転生者らしい痕跡はあるか?」
「それが、『生活防衛ギルド』で作っているものは、縄、籠、農機具など、どう見ても、目新しい製品ではございません」
アルサが有能?無能のアルサが?
許せない。
こうなったら、謀略よ。
「父上に奏上します」
「ほお、何だ。最近、皆、たるんでおるぞ」
・・・すっかり、老いたわね。
「我国は、ミリーシャ、ベルダの失策により。窮状の極みでございます。更に、王都の街雀たちが、アルサの国王就任を望む声が高まっております。火のない所に煙はたたず。我が配下のカゲからの報告によると、アルサのカゲが王都で、自分の功績をねつ造して、大げさに宣伝しているとの報告があがっております」
「何?詳しく申せ」
イメルダは、自分がやっているから、他人も同じ事をやっていると思考するクセがある。
自分が賢いと思う人の特徴だ。
「ミリーシャ、ベルダの失策を、陛下のせいにして、責任を取らせるつもりですわ。私に一爆裂魔法二ワイバーンの奇策がございますわ」
「好きにいたせ」
アルサに、褒賞を与えると王宮に呼び出し。
そこで捕まえる。
アルサは、もの好きな老貴族の後妻に売る。
アルサ不在の間に、辺境を帝国に売る。
売ったお金で、飢饉で弱まった国力を回復できるであろう。
「帝国の大使殿を呼べ」
フフフフフ、事件は、王宮で起きているのよ。
帝国大使と金銭の折り合いをつけ。
アルサ呼び出しの王命を出してもらった。
☆☆☆数ヶ月後、王都
ザザザザッ
足並みをそろえた兵士の音が、王都の石畳に響く。
士気が高い証拠だ。
「「「「アルサ様!」」」
マルサの辺境、農民解放軍と、帝国軍が、王都に進駐してきた。
この国の騎士団は、槍の先を下に向け。出むかえる。
協力するとの意味だ。
「アルサ様、お待ちしていました」
「・・・そう」
騎士団総長を始め。軍部は出むかえ。
「アルサ様、是非、陳情を聞いて下さいませ」
「・・・・そう」
平民、低位貴族の商工業者が出むかえた。
高位貴族や大商会の商会長は、国を逃げ出した。
アルサの無血クーデターである。
「な、何じゃ。どうなっておる。イメルダよ。事情を話せ!」
「分かりません!誰も何も報告してくれないのです」
「陛下、イメルダ・・・」
騎士達に守られながら、アルサは、執務室までやってきた。
アルサの隣にいるのは、帝国の第2皇子だ。
「王位か?王位が欲しくて、反乱を起こしたか?」
「私は役に立ちますわ。宰相にして下さいませ!」
「・・・・褒賞を頂けるとのことで、参りましたわ。反乱などいたしませんわ」
「「えっ」」
2人は絶句した。
「褒章をする・・が王命のはずでしたが」
「ア~ハハハハハハ」
第2皇子は思わず大声を出して、笑い出した。
「なるほど、事を荒立てたくないアルサの温情、まっこと見事である」
「分かった。報償として、王位を・・・譲る」
「はっ?」
・・・何故、そうなる。
新女王ご即位おめでとうございます!
最後までお読み頂き有難うございました。