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第6話 奇抜なお茶会の噂



 二週間後に決めたお茶会の噂は、すぐに周りへと広まった。


「聞きましたか? シェイド様が開かれるというお茶会のお話」

「えぇ。なんでも校舎の屋上でされるのだとか。シェイド様がお茶会を主催するのなんて初めてだし、楽しみですわよね」


 口々に、令嬢たちが声を弾ませている。

 情報解禁をしてから、まだ三日。にも拘らず昼食を済ませて廊下を少し歩くだけでこのように、お茶会が話題の上っているのを聞く事ができていた。


 元々彼には周りに好かれる『カリスマ性』と呼べる才能が存在していた。

 普段から何かと人付き合いがよく、誰とでも分け隔てない。怒る事も早々なく、寛大な心で相手の失敗を許し、ちょっとした困りごとを目にすればそれとなく助ける。


 良くも悪くも爵位に囚われず、フットワークが軽い。

 令嬢人気が過ぎた結果『来るもの拒まず』の精神を掛け算し女性関係には若干だらしない印象を受けるにも拘わらず、男性から大きなやっかみを買う事なく友人が多いのも、彼の人間性があればこそだろう。


 そんな彼の影響力を、いい意味で見誤っていた。思いの外好スタートを切れている現状に、私の口角は独りでに上がる。


 聞こえてくる前評判は、概ね良好。もしかしたら「爵位に問わず」と明示的にふれ込んでもらった事も、功を奏しているのかもしれない。


 お茶会は、本来は女性の社交場ではあるけれど、今回は男性にも声をかけてもらっている。伸び伸びとできる、賑やかなお茶会になれば本望よね……などと考えながら、教室へと入った。



 姫という身分でありながら、私に取り巻きの類はいない。

 殿下への配慮と生徒会業務、過酷な王妃教育に忙殺されて私自身学内で十分な社交活動ができていなかった事もあるし、生徒たちも私の事を『殿下の婚約者』と『弱国からの人質姫』、どちらの扱い方をするか、選びかねていた部分があったのだろう。


 自国では人に囲まれていた私も、もうこの国に来て三年弱。

 十六にもなれば人が恋しい気持ちも失せた。私にとって一人でいる事は、最早日常だ。休憩時間で一人で席に座っているのにも、何の抵抗感もない。


 だから誰かから声を掛けられたのは、限りなく珍しい事だった。


 教科書とノートを引き出しから出し次の授業に備えていると、「あの」という控え目な声がした。

 顔を上げれば、見た事がある令嬢の姿が二つ。歓談こそした事はなかったけれど、れっきしとしたクラスメイトである。


 王妃教育の一つに「国内貴族の顔と名前くらいきちんと頭に叩き込んでおくべき」というものがあった。

 その時詰め込んだ私の知識が正しければ、たしか彼女たちは男爵家の令嬢だ。


 可能な限り殿下の反感を買いたくない貴族子女の大半にとって、私は今おそらくこの学園内で、最も近寄りたくない人間だと思う。

 それなのに、一度目を付けられただけで危険な、立場の弱い彼女たちが声をかけてくるのには、結構な勇気が要っただろう。


 なるべく怖がられないよう、朗らかさを意識した笑みを向ける。


「どうかしましたか?」

「その、シェイド様から、リリベール様と一緒にお茶会を開かれるのだと聞いて」

「あぁ、もしかして参加の検討を?」

「いえ、それはもう行ってみようと二人で決めているのですが」


 なんと。彼女たちをお茶会に招待するチャンスかと思ったら、もう既に来てくれるという。嬉しい誤算を感じながら、じゃあ何故声をかけてくれたのだろうかという疑問が生じる。


 しかしその謎はすぐに解けた。


「東の塔の屋上でお茶会を開催するというのは、本当なのですかっ?」

「リリベール様が場所を提案し、先生方に許可まで取ってくれたとシェイド様が仰っていたのですが!!」


 勇気を出したかのようで、はしゃいでいるようにも聞こえる声に、私は素でほほ笑んだ。



 お茶会というのは交流の場という以前に、そもそも主催者の権威を示すための場所でもある。どれだけのもてなしができるかが、使用人たちに対する統率力と自身の企画力、ひいては貴族令嬢としての価値を示す事へと繋がる。

 だから通常、綺麗に飾り立てる事ができる屋内や管理している草木の美しさを前面に押し出した庭園でのお茶会が主流なのだ。


 そういう意味では、壁や棚などの飾り立てる事ができる範囲が著しく少なく、散策が可能な美しい場所のない屋上は、会場としては著しく劣る。

 学園内でも時折個人主催のお茶会が開かれてはいるが、誰もが当たり前のように選ぼうとは思わないだろう。


 しかしだからこそ、敢えてここを選択した。

 理由は色々とあるけれど。


「えぇ。普段は未開放の屋上ですが、特定の時間のみという事で先生に交渉して開けていただけることになりまして」

「すごいです! まさかあの『幻が見えるという屋上』に足を踏み入れる事ができるなんて……!」




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