第14話 学園乗っ取りの第一歩
「で、結局昨日のお茶会は成功だと思っていいんだろ?」
「そうですね」
昼休み。向かい同士で昼食を取りながら、シェイド様とそんな会話を交わす。
実際に、お茶会の目的は果たせたと思う。
学園に関する面白い話、最近の噂、人間関係、そして愚痴。様々な話を聞く事ができたし、参加者たちのあの場に限り、殿下たちの目を気にせず自由な時間を自然に過ごせていた。
今日は通りがかりに挨拶をしてくれる方も多い。少しは親近感を抱いていただけるようになったのかと思えば嬉しいし、これからしようとしている事への足がかりができたと思えば、それもまた嬉しい。
「実は参加者たちからも好評で、もう既に『次のお茶会はいつか』という問い合わせがきています」
「キャスリング嬢は特にあの占いが好評だったからな。結局昨日じゃ希望者は、捌ききれなかったんだろ?」
「そうですね。特にタロット占いは、それぞれのカードからメッセージを読み取り伝えなければなりませんから、一つに時間がかかります。しかしそれもまた良いのですよ。それだけ一人の方と時間を取ってお話しできる機会が得られるという事ですから」
そうする事で、その人の為人をより深く知る事ができる。
占いそのものも楽しいけど、今回における占いの役割――情報収集を忘れてはならない。
「より良い学園生活を作るために、愚痴や流行だけではなく、個人の性格や物の好み、価値観の情報も、時には有用になり得ます」
そういう意味では、今回はうまく事が運んだ。
この調子で引き続き様々な情報収集に努めよう。
社交界における真の武器は武力でも権力でもない。
情報なのだから。
それを相手が無意識のままに情報収集できる場が、何かに集中したり夢中になったりしている時。とりわけ私と話していながらも、私自身ではない別の所に気が向いている時である。
そういう意味では占いは、実に有用なコンテンツである。
誰にでも悩みや相談事の一つや二つは存在する。そんな人たちの興味を引き、夢中にさせ、一喜一憂を共有する事で共感力を得て自然に相手との距離が詰められる。
「なるほど、本当に策士だな」
「もちろん占いそのものも好きですよ? タロット占いは特に、そもそもカードに描かれているイラストを見るだけで楽しいのもありますし、提示された占いの対象や読み手の解釈によって同じカードでも意味が変わるのも、占っていて面白いです」
「占ってる方も面白いのか」
「えぇもちろん」
特にタロット占いは占い結果を忠告や助言として捉える向きが多いため、私の方も占いの結果を話していて、改めて『未来の事は何事も、プラスに解釈する事ができる』と前向きになる事ができる。
「じゃあ試しに、俺にも一つ占ってよ」
「いいですが、何を占うのです?」
私の問いに、彼は何故か子供のようなワクワク顔を覗かせながら笑う。
「俺と君の思惑が、きちんと実になるかどうか」
なるほど。つまり私たちが、この学園を乗っ取れるかどうか。
たしかに少し面白いかもしれない。
後ろに控えていた有能なメイドに手を伸ばすと、タロットカードが手渡された。
済んだ昼食の食器を片付けさせ、カードをシャッフルする。
「あくまでも占いは気休めですけど」
そう言いながら、まず一枚引く。
引いたのは、雷が落ちている塔のカード。
意味は、予想外の事が起きる前兆。困難や試練を意味する事もある。
続いて二枚目。
出てきたのは、世界のカード。
完全・完璧・幸福・喜び。望んでいるものを手にすることが出来るが、それは支配や所有ではない。今の私たちが正に目指している未来だ。
思わず口角が上がった。
「どんな困難が現れようとも、最後には必ず勝てそうですよ?」
「それはまた、えらく幸先がいいな」
「この占いがなかったとしても、実は私、貴方となら、国でさえも乗っ取れそうな気がしています」
紛れもない、本心だ。
しかしそれは私の力がどうだとかいう話ではない。それだけ彼が今まで宝の持ち腐れだったという事であり、学園内には他にも彼と似た方々がいるのではないかと思っているという事である。
「アンタが言うと、あまり冗談に聞こえないな」
苦笑しながらそう言った彼は、その実一ミリも本気にしていない。
元々こういう冗談が通じる相手、征服欲や支配欲で国を手中に入れようという我欲に満ちた人間ではない人選をしたつもりではあったけど、どうやらそんな私の目に狂いはなかったようである。
「情報収集もしましたし、そろそろ具体的に乗っ取りに動き出しましょう。まずは王政派……殿下の威光を笠に着て威張り倒している一部貴族たちを、打ち負かしてやりましょう」
「そうだな、それこそ殿下から横やりを入れられる前に一派閥くらいは押さえこみたい。……ところで」
「何です?」
「ずっと向こうから、嫌な熱視線を感じるんだけど」
「それは気付いてはいけないやつですよ」
私は背を向けているけど、おそらく彼からは私の向こうで視界に入ってしまうのだろう。小声で「座る場所ミスったな」と呟く彼に、小さく笑う。
熱視線の正体は、殿下の腰ぎんちゃくの男だ。
生徒会の一員でもあり先日私をわざわざ教室まで向かいにきた彼はおそらく殿下のために、今回の件で少なからず目立っている私たちの監視役でも勝手にやっているのだろう。
「お茶会中に見えたあの景色、『一体何だったんだ?』って皆わりと興奮気味だったしな。アレも仕込みだったのか?」
「まさか。私も大いに驚きました。まさか本当に七不思議をこの目で見る事ができるとは。美しかったですし、役得です」
完全なる本心から言った言葉だったが、彼からは「一体どこまで本当なんだか」などという言葉をもらう。
流石に買い被りというものだ。私がしたのは『期待』まで。仕込みも何もしていない。
しかし私たちの計画はまだ走り出したばかり。
ここまでみんなの話題に上がるのだから、七不思議を利用しない手はないだろう。
――今後の方策をあとで一つ、タロットで占ってみようかしら。
そんな事を考えながら、私は次の方策の候補を頭の中で幾つか思い浮かべつつ、手元のカードを優しく撫でたのだった。
~~第一章、Fin.
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第一章の完結です。
今後少し時間を置いて、また加筆を進めてまいります。
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