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人質姫の、したたかで大胆な敵国乗っ取り 〜婚約破棄されたので、殿下の陣地を乗っ取ろうと思っています〜  作者: 野菜ばたけ


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第12話 タロット占い



 令嬢たちが互いに顔を見合わせる。


 たしかに突然そんな事を言われても、占ってほしい事なんてすぐには出てこないだろう。

 そう思ったのだけど、どうやら少し事情が違うらしい。


「あの、リリベール様、占いとは一体……?」

「もしかして占いの文化がないのですか?」

「そう、ですね」


 そうだよね、と確認するように互いに目配せをする令嬢たち。

 どうやら本当にピンと来ていないらしい。


 まさかこんな所にカルチャーショックがあるなんて。

 改めて異なる環境で育った者同士なのだなと思いながら、私は簡単に説明する。


「占いというのは、人の心の内や運勢や未来など、直接観察することのできないものについて判断・予言すること。誰かの未来を示したり目的を達成するための一助として使われる事が多いですが、私がする占いは、そんな大それたものではありません。母国でお遊び程度にやっていたものなので、本当に気軽に日々のちょっとした気になる事とかでいいですよ」


 私がそう言うと、彼女たちはまた互いに顔を見合わせる。

 そんな事を言われても……と言いたげな困り顔の子たちを前に、少し性急すぎただろうかと自身の行動を後悔しかけたのだけど、そこに勇気を出して上がった手が一つあった。


「あ、あの、本当に何でもいいんですか? 大したことではないのですが……」

「もちろんです。お遊びですから、そう気張らずに」

「それではその……先日定期テストがあったと思いますが、来週から答案の返却があって。今回頑張ったんですが、ずっと結果が不安なのです」


 おずおずと言ってきた彼女に、私はニコリと笑い返す。


「なるほど、分かりました。ためしに占ってみましょう」


 占いの内容は、『今回のテストは結果が振るいますか?』。

 そう考えながら、カードを切って三枚引く。


 まず最初に一番左を表にすると、現れたのは逆さまになった二頭のトラが車を引くカードだ。


「『戦車』の逆位置……停滞のカードです。思うようにいかないかもしれない。質問になぞらえると今回の試験の結果は伸び悩むかもしれません」

「そう、ですか……」


 がっくりと肩を落とした彼女に私は思わず苦笑する。


「あくまでも遊びです。それに、まだ残りは二枚あります」


 そう言って、二枚目を開き口元を綻ばせた。


「『運命の輪』の正位置。これには『待ち望んでいたチャンスの到来』という意味があります。試験の結果は芳しくなくても、何かそれがキッカケでいい事はありそうですよ?」


 そして、三枚目。

 そこにあったのは、向かい合う男女のカード――『恋人』。


「もしかして、今思いを寄せている方がいらっしゃいますか?」

「へっ?!」


 先程までの消極的なイメージからは想像しにくいような大声が、彼女から飛び出た。

 その顔は、真っ赤。

 おそらく彼女には心当たりの相手がいるのだろう。


「このカード・『恋人』には、恋心を示されて大きなトキメキを感じる、という意味があります。三枚を総合して考えると、今回のテストの結果が振るわなかった事をキッカケに意中の方と仲を深めるような事態に発展するのかもしれませんね。……もう一枚引いてみましょうか」


 そう言って、またカードを切り二枚引く。

 すると出てきたのは『節制』のカードと『女帝』のカード。

 『節制』はバランスが取れてリラックスできる、心穏やかな状態を示すもの。

 『女帝』は家族や恋人など大切な人の愛情を実感できて、幸福感にあふれる事の暗示。


「そのお相手とは、特に喧嘩もなく仲睦まじく確実に愛情を育んでいく事ができるでしょう」

「ほっ、本当ですか?!」


 彼女はそう声を上げると、両手を頬に添えてテレテレとし始める。

 テストの結果の不安など、すっかり吹き飛んでしまったようだ。


「あの、リリベール様。もしかしてその占いというのは、恋愛事に対してもできるのですか?」


 彼女の隣の令嬢が、そんな風に聞いてくる。


 その瞳は爛々と輝き、期待感が透けて見えた。

 私はふわりと微笑んで、彼女に向かって頷いた。


「はい。もちろん百発百中ではありませんが」

「それでもいいですわ! 実は婚約者について悩んでいて」

「婚約者、ですか?」

「えぇ実は、彼が最近元気がなくて。理由も話してくれないし、何かをしてあげたいのですけどどうしてあげればいいのか……」


 なるほど、それは彼女にとっては結構切実な悩みなのだろう。

 

「男性は、カッコ悪いところを見せたくないあまり抱え込んでしまう方が多いですからね」

「そうなんです、真面目な人だから尚の事心配で」

「分かりました。ちょっと占ってみましょう」


 そう言って、カードを切る。

 今回は『悩む婚約者にどうしてあげるのがいいのか』とカードに聞く。

 カードを切って、先程と同じく三枚引く。


 一枚目を開けば、深くフードを被り込んで明かりを手に持つ人のイラストが。


「『愚者』の逆位置。もしかしたら婚約者の方は、複数の選択肢の前で悩んでいるのかもしれませんね。どちらも欲しいと思っているけど、欲張りすぎてすべてが中途半端になっているのかもしれません」


 そう言って、二枚目を開く。


「『恋人』の正位置。このカードには先程言った大きなトキメキだけではなく、外に出かける事への楽しみも意味として存在します。外に連れ出して気分転換をさせてあげるといいかもしれません」

「同じカードなのに複数意味があるのですか?」

「えぇ、それがこのカード占いの面白いところであり、難しいところでもあります。質問から適切な意味合いを読み取り活かす。そういう事が必要なのです」


 先程占ってあげた令嬢が、感心したように「へぇ」と言って頷く。


 興味を持ってくれて嬉しい。

 人脈を作ること以上にタロット占いをするのが好きな事もあり、彼女の驚きと納得は私の口元を綻ばせる。


 そして三枚目。

 最後に引いたのは、月の――。


「逆位置……」


 おそらくこれまでの占いで、逆位置はあまりいい意味合いでないのだと思ったのだろう。

 がっくりと肩を落とす占い相手に、私は「大丈夫ですよ」と答える。


「『月』は元々よくないカードです。その逆位置――反対の意味という事は」

「……いい意味?」

「えぇ。『月』の逆位置は、誤解の解消を暗示します。もしかしたら外で同じ時間を過ごす事で、彼や彼の周りについて勘違いが解け物事が円満に向かうようになるかもしれませんね」


 また、対人関係における『月』の逆位置の意味は、相手が心を開きかけている。

 自分も素直になって話をする事で問題解決の一助になる事もあるかもしれない。


「婚約者の方と、二人でリフレッシュして、ゆっくりと話をする時間を作ってみてください。そうすれば、彼の抱えている問題を垣間見る事もできると思いますよ?」


 そう言うと、少し安心したような声で、令嬢が「ありがとうございます」と言ってくれる。


「リリベール様、もしかしてそこにあるカードの複数の意味を、すべて覚えているのですか?」

「そうですね、一通りは」

「すごいですわ……」

「元々タロット占いが好きですし、このカードに書かれているイラストが意味を示している事もあります。要点を押さえれば割と簡単に覚えられますし、思い出す事もできるものなのですよ」


 純粋に褒められた事がくすぐったくて私がそう言葉を返すと、同じテーブルの別の令嬢が「リリベール様!」とまた声を上げる。


「私も占ってほしいです!」

「あっ私も!!」


 どうやら今の二つを聞いて、俄然興味を抱いてくれたようである。

 嬉しい事だと思いながら「何を占いますか?」と尋ねると、彼女はこう言葉を続けた。


「実は最近うちのクラスの居心地が少し悪くって……穏やかに過ごすための糸口があればと思うのですが!!」


 彼女の言葉に、周りは皆、共感顔になる。


「穏やかに……クラスの空気が悪いのですか?」

「そうなんです。特に王政派の貴族たちが――」


 来た、と思った。


 王政派というのは、国王陛下を崇め奉る要素の強い派閥の家だ。

 おそらく殿下の横柄につられるように、周りの人たちも気が大きくなっているのだろう。


 これこそ改革のための糸口、彼女たち一般生徒たちが不満に思っている事の一つ。


「どのような事が実際にあるのか、具体的に教えていただけますか?」


 うまく聞き出そう。

 今が頑張り時だ。


 そんな心持ちと共に、私は柔らかく微笑んで彼女たちの言葉を聞いた。



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