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魔法青年♂俺  作者: らな
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第2話 怪物・萎んだ風船登場!

 泉妻結(いずのめゆう)太郎(たろう)は、きっちり手入れされた艶のある黒髪に、中性的な相貌、やや小柄な姿からよく女性と間違われる。しかし彼はれっきとした男性である。付くものは付いているので。逆に言えばそれを見せなければ永遠に結太郎を女性と勘違いする者もいるのである。 

実際、小学校以来会っていなかったクラスメイトと大学で同じクラスになった時に「結太郎って女じゃなかったの?」と聞かれた事がある。結太郎は質問をしてきた女友達へ率直に馬鹿だなという感想しか持てなかった。というか名前を見て欲しい。女で太郎ってつけるだろうか。女の子なら結で止めるだろう。

と、上記以外にも女性だと思っていたエピソードを持つ結太郎であったが、今回今までを凌駕する出来事が彼を襲うのであった。




「てめぇ、どこから入って来やがった」

萎んだ風船のような丸っこい物体を握り、結太郎は口を開く。

竜輝と別れ、自らの住居へ帰って来た彼を迎え入れたのは白く透き通った丸い球体であった。球体は自動で点いた電気をしげしげと眺め、結太郎へ「待っていたぞ」と声を掛けた。そして雄太郎は、握った拳をだるま落としのように横へスイングした。ドゥンドゥンドゥン!!!と弾みながら壁をぶつかり歩く憐れな白玉をキャッチした結太郎は、ベランダの窓を開けた。そして今に至る。

人を殺したことがあるような顔に、白玉は震えあがる。眼下には高層マンションから見える高すぎる地面。流石に落ちれば死ぬ。

「き、君!待ちたまえ!普通初対面の生き物へこんな野蛮な真似をするかね!?」

「する」

「する!?」

 手持無沙汰故もにもにと白い生き物を揉みつつ、喧しい声を一蹴する。それにしてもこの白玉、腹が立つほどにいい声をしていると結太郎は思った。バリトンボイスというのだろう。渋みがある癖に少し高さも持ち合わせている声をこのレジ袋が出していると思うと腹が立ってくる。思わず手に力が入り、指の隙間からレジ袋がはみ出る。

「いたたたたたた!?!?何故力を強めた!?!?」

「お前の声が腹立つからだよレジ袋」

「私はレジ袋という名前ではない!!」

「じゃあ何、ゴミ?」

「じゃあって言葉の意味知っているのか君!!」

 もごもごと聞き取り辛い声が不便で、僅かに手をずらしてやる。すると白玉はぜぇはぁと疲れ切ったように息を吐く。

「私の名前はロロピだ!いいか、覚えたかね泉妻結太郎!!」

「彼ピみてぇな名前。お前好きな奴に彼氏未満扱いされてんの?」

「名前をディスるな!!!なんだね君、いちいち文句を言わないとダメなタイプか!?」

 いい加減耳障りになってきた永遠の二番手の声に、ベランダの窓を閉めようと戸に手を伸ばした。解放した白玉はきょとんとしていたが、結太郎が戸を閉め切る寸前で身を滑り込ませた。まるで電子レンジで焼いた餅のようにぺたっとしてしまった白いのへ何度もデコピンをかましながら、結太郎は面倒くさそうに初めの質問を再度した。

「で、トック。お前どこから入ってきたの?」

「おい、誰が韓国餅だ。別に、普通に壁をすり抜けて入ってきたが」

「今もすり抜けられないん?」

「・・・」

 無言でぬるりと室内に入ってきた韓国餅へ冷たいまなざしを向ける。戸を閉め、鍵を閉めたところで結太郎は宙に浮いた物体へ心無い一言を吐き出した。

「馬鹿じゃねぇのお前」

「うるさい!!!」

 恥ずかしそうに真っ赤になった海老餅は、にゅっと両手足を生やして暴れた。手足の生やし方のキモさに呆然としてしまった結太郎は、自らの両腕を掴んで怯えた。

「やばい、こんなキモいのがいるなんて耐えられない・・・。殺すしかない・・・」

 包丁をキッチンから取り出した結太郎へ、海老餅から饅頭へランクダウンした球体は慌てて後退った。少し身体が壁に入り込んでいる。そのまま後ろへ下がって出ていってくれればいいのにと結太郎は思った。

「待て待て待て!!!それを置かんか!!!殺人で捕まるぞ!」

「お前人じゃねぇから捕まんねぇよ。それにほら、お前一匹仕留めて入り口置いておいたらもう来なくなるかもしれないじゃん」

「私は虫か!!」

 仕方なく包丁を元の場所へ戻し、気味の悪い両手を干された人形のように摘まんでぷらぷらと前後ろに振る。敵意の無い穏やかな動きに、半目になった洗濯物が足を揺らしながら口を開く。

「ところで、さっきは見事だったな。怪人惑星でそれなりに強いアオッキーを倒してしまうとは」

「なんだその名前、お前のオリキャラ?」

「さっきって言っただろう、話聞け」

 話を半分聞き流している結太郎へ文句を言う白玉もといロロピ。はあ、と息を吐き出したロロピは話を続ける。

「あのアオッキーを倒した君に、私は魔法少女になって欲しいと思っている。やってみる気は無いか?」

「無い」

 きっぱりと言い張った結太郎へ、ロロピは好奇心を刺激された。今までは無表情に淡々と言葉を発していた人間が、はっきりと感情を乗せて否定したのだ。ふむ、と少し悩む素振りを見せたロロピは結太郎へ問いをぶつける。

「何故魔法少女になりたくないんだね?魔法少女になれば給料は自動的に入るし、勝手に周りがちやほやしてくれるぞ。承認欲求が強い人間には最適の仕事だと思うがね」

「別に金には困ってないし、ちやほやされるのも興味ないよ。でも、断ったのはそういうのじゃなくて」

 後頭部を掻いた結太郎は、言葉を一度区切った。そして数秒経ったとき、再び口を開いた。




「俺、女じゃなくて男なんだけど」




「は?」




 たっぷり1分、沈黙が部屋を包んだだろうか。静かになった空間で目を高速でぱちぱちと開閉していたロロピは、結局素っ頓狂な声を上げるしか出来なかった。

 さもありなん。ロロピは結太郎の事を女性と信じて疑わなかったからだ。なぜなら結太郎の見た目が女性的で、来ている服もおおよそ男子が着るようなものではなかったので。だってフリルが付いた服を男が着るなんて思ってないし。そんな子供じみた言い訳を頭の中にいっぱいにしたロロピが震える指先で結太郎を指差す。

「いや、君。そんな服着て女ではないは無理だろう」

「これしかないんだよ。俺が買った服、お母さんとお姉ちゃんが勝手に捨ててくからこういう女の子用のしか残んないんだよ」

 聞けば勝手に結太郎の部屋へ訪れた結太郎の母と姉が勝手に男物の服を処分し、自分達が買ってきたレディースの服を置いて颯爽と帰っていくらしい。最早逆空き巣である。

 結太郎が男性だと信じたくないロロピは、結太郎へ食って掛かる。

「しょ、証拠を見せたまえ!君が男であると証明してくれるまで私は帰らないぞ!」

「は?だる」

 至極面倒くさいと声を吐き捨てた結太郎は、ベルトのバックルを外す。なんだか見てはいけないモノを見てしまった気持ちになったロロピは両手で目を隙間なく隠した。結太郎はロロピの小さな腕を摘まみ、無理やり顔から剥がす。

「おら、見ろ。これで女とは言わせないぞ」

 結太郎が指差す部分へ目を向けると、そこには。男性にしかついていない部位が所定の位置に鎮座していた。ロロピは崩れ落ちた。べちゃりと潰れたロロピを突っつき、結太郎は勝ち誇った顔をした。

「どうだロロピ。これで女じゃねぇってわかったろって言うか名前で気づけや」

「くっ・・・まさかこんなトラップに引っかかるとは・・・!人間おそるべし・・・。だがな!!」

 びょんっと跳ねたロロピに驚き、反射で叩き落としてしまった結太郎。再び地面に潰れたロロピは面倒くさいのかそのままの姿勢で威張った声を出す。

「君が私の手に触れた時!既に契約は完了しているのだよ!!!」

「殺す」

「殺意が早い」

 窓ガラスに当たらないように調整したロロピが部屋の中を縦横無尽の飛び回る。しかしそんな扱いにもう慣れてしまったのか、飛びながらロロピは思い出したように言葉を付け加える。

「ちなみに自分で解除できないから」

「解約出来ねぇメルマガかよ!!!!!!!!」

 あまりにも自分勝手すぎる契約内容に膝を叩く。ブラック企業でもこんな事言わないだろうという契約に、結太郎はロロピを本格的に殺したくなった。

 と、その時。室内に連絡を知らせる機械音が鳴り響く。聞き馴染みのない音に結太郎が訝しんでいると、ロロピの頭頂部からにゅっと通信機らしきものが現れる。おぞましさに結太郎は思いっきり顔を歪める。

「ロロピだ。・・・何、怪物が出た?・・・わかった、すぐ向かう」

 通信を切ったロロピは飛び跳ねるのを自力で止めると、結太郎の眼前へ浮き上がった。

「仕事だ結太郎。もう君が男とか女とかどうでもいいから、怪物倒しに行くぞ」

「お、なんだ。目の前のやつ倒せばいいのか?」

「私ではない!それに私は怪物ではなく地球外生命体だ!」

「一緒だろ」

 早くしろ!と素麵のような腕を振り回すロロピを鷲掴み、結太郎は気乗りしない様子で部屋のドアを開ける。本当ならばロロピの言う通りに動くのは癪であったが、このまま動かなければ一生自分の部屋に居付きそうだなと考えたからだ。部屋の鍵をしっかりと閉め、忘れ物が無い事を確認すると結太郎は指示された場所へ歩き出した。


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