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065 説明して

「火の竜が村を襲ったとは、どういうことですか?」


「言葉の通りだよ。理由はわからないけど、人間界の村を半壊状態にまで追い込んだって」


 カオスは執務室の扉を閉じながら、冷静さを取り戻していった。あれほど焦った様子のカオスは初めて見た。けれど、人間界の村を竜が襲ったからって、何をそんなに取り乱す必要があるのだろうか。


 伝説級魔物である竜は、人間が束になったとしても敵わない。過去に、竜を封印したという記録は一、二個ほどあるが、倒したという記録はどこにもないのだ。


 火の竜が襲ったという村の人々は、突然の出来事に、ただ唖然として絶望することしかできなかっただろう。五年前、魔王軍四天王レインに半壊状態にされた私の故郷と、火の竜が襲ったという村を重ねて考え、私は胸を押さえた。


「怪我人は?」


「村人は異変を感じて、すぐ逃げたらしい。今のところ、怪我人はゼロ」


 よかった。もし亡くなった人がいたら……とさっきまで考えていたから、怪我人が出てないことに胸を撫で下ろす。


「魔王様は何とおっしゃっているのですか?」


「まさかと思って訊いたけど、そんな命令は出してないって」


 ん、命令? 魔王が……火の竜に? 気になってしまったため、レインに尋ねることにした。


「命令って、火の竜は魔王軍の関係者なの?」


 ただ何となく疑問に思っただけなのに、それを聞いたレインは口を小さく開いたまま固まってしまった。何か変なこと訊いた? と思ってカオスを見ると、彼も同様に驚いた様子で目を見開いている。


「あれ、知らなかったっけ?」


「そうですよ、あのひとが行方不明になったのは、シエルさんがひ……いえ、魔王城に来てすぐのことですから」


 そういえば私のことを「協力者」だと思い込んでいる部外者、水の竜スイゲンがいることを思い出し、レインは「人質」という単語を寸前のところで飲み込んだ。


「ってちょっと待って。そこにいるのは誰……?」


 子供の姿をしたスイゲンの存在に気付いたカオスは、困惑した表情でその姿を観察した。


「ああ、彼は――」


「怪しいものじゃないよ。(ぼく)ねー、レインのお友達なの!」


 子供らしい無邪気な笑顔で言い放つスイゲン。


「あなたと友達になった覚えはありませんが」


「そんな悲しいこと言わないで、(ぼく)たち親友でしょう?」


 今にも泣きだしそうな震えた声に、レインは言葉を詰まらせる。


「レイン? つまり魔王城に……しかも大事な情報をたくさん保管している執務室に、部外者を連れ込んだってことかな?」


「そうでは、ありません」


(ぼく)、来ちゃだめだった? レインに会いたかっただけなのに……」


 ぽろぽろと涙を流すスイゲンに、レインはただうつむくだけだ。


「子供でもやっていいことと悪いことぐらいはわかるよね? 泣いて許されると思ったら大間違いだよ?」


 悪魔の笑みを浮かべているカオスは、たとえ子供でも容赦ないらしい。改めて、カオスは怒らせてはいけないひとだと思った。


「……ちぇ。頭の固い奴は嫌いだ」


 カオスから視線を逸らし、スイゲンはぼそりと呟く。


「竜封じの結界師について訊いたときも教えてくれなかったしさ。貴様の兄が口を滑らせてくれたから良かったが……」


「は?」


 口をぽかんと開けたまま、カオスは固まった。そんな様子を見て我に返ったスイゲンは、一度目を閉じ、笑顔を作ってから目を開けた。


「お兄さん、どうかしたの?」


 怪訝そうに、カオスはスイゲンを見つめている。そんな視線に、スイゲンは手に汗を握りしめていた。


「爺さん……?」


「だ、誰のこと?」


 スイゲンの視線が泳ぐ。それを見て、カオスは確信したようだった。


「こんなところで何をやっているのかな、爺さん? それと、その気持ち悪い演技は何?」


「気持ち悪い!? 可愛いだろう、人の子だぞ?」


 カオスがスイゲンのことを「爺さん」と呼ぶということは、かなり親しい仲なのだろうか。子供の姿なのに、「爺さん」なんて呼ばれているのを見ると、何だか頭がおかしくなりそうだ。


 変身魔法によって子供の姿をしているが、その中身はもう何百年、何千年も生きている水の竜。「爺さん」と呼ばれてもおかしくない年齢だろう。


「っていうか、兄ちゃんが口を滑らせたってどういうこと?」


「口を滑らせたというか、普通に教えてくれたぞ。竜封じの結界師は、魔王軍四天王レインの側にいる少女だとな」


 ほらやっぱり。魔王コスモは秘密なんて守れない。竜封じの結界師が人質の少女だと広まってしまうのは、時間の問題かもしれない。その前に、何かしら対策をする必要があると思う。


「え、竜封じの結界師に会いに来たってこと?」


 カオスは私へ視線をやった。意味がわからないというような、困惑した表情を浮かべている。そりゃそうだ、私だって理由を聞くまで……いや聞いてからも意味がわからないのだから。


「そうだが?」


 煽るようなスイゲンの言葉に、カオスは顔を引きつらせた。


「まあ部外者じゃないなら……いや部外者だけど、爺さんならいいや。あとで話は聞かせてもらうけどね」


 彼は咳払いをして、一瞬にして切り替えた。さすがは魔王の側近だと思った。

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