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プニカメの島 その6

「いたぞ、こっちだ!」


 男の声が聞こえて、私たちは振り向いた。ぞろぞろと、武器を持った人たちが流れ込んでくる。


「な、何?」


 大きな剣を持っている人、鋭利なナイフを持っている人。一番恐ろしいのは、トゲトゲの玉が振り回せるように鎖で繋がった武器――たしかモーニングスターといったものだ。


 ――怖い。武器もそうだけど、特にあの目が、プニカメを獲物としか見ていない鋭い目が、怖い。


「あれ、あの人……」


 さっき、コーラルピンクのプニカメ――はまりを狙っていた、弓使いの冒険者だ。ということは、この人たちは、彼の仲間だろうか。


「あのデカいプニカメを狙え! きっと魔石もデカいぞ!」


 大きなプニカメ――でかでかを指さしながら、弓使いの冒険者は叫んだ。


 いくら大きくても、最弱魔物のプニカメだ。あんな人数で襲われたら、でかでかでも倒されてしまうだろう。


「君たちっ、まだいたのか……」


 私たちの存在に気づいた弓使いの冒険者は、心底嫌そうな目をしていた。


「ここは危ないから離れなさい。それとも、君たちも手伝ってくれるのか?」


「そんなわけないじゃないですか! でかでかちゃんたちを傷つけるなんて許しません!」


 思わず、私は叫んでいた。胸のあたりがムカムカして落ち着かない。


「でかでかちゃん……? ああ、そのデカいプニカメのことか」


 弓使いの冒険者はでかでかを見上げる。彼が可愛くて仲間思いのでかでかを見ているのが何だか気に障り、私は冒険者を睨んでしまっていた。


「安直な名前だな」


「それはそう思います」


 隣でレインがムッとしたのが伝わってきた。でも見ると彼は無表情のまま。本当に顔に出ないな、と思う。


「とにかく、邪魔はすんなよ」


「こればっかりはごめんなさい。もちろん邪魔します!」


 私が結界を張ろうと手を伸ばすと、レインにその腕を掴まれた。結界を張るなってこと? でも早く何か対策しないと、プニカメたちが傷つけられてしまう。


「溺死か、焼死か、好きなほうを選んでください」


「……っ」


 冒険者を見つめるレインの目には、狂気が宿っていた。武器を持った人たちよりも、何倍も怖い。人より背の低い、ただの男の子なのに、その目を見たら凍りついたように体が動かなくなった。


「いえ、ぼくは火魔法は嫌いですから、溺死にしましょうか」


 選択権なんて、冒険者にはないのだ。レインの言う通りにするしかない。そう思わせるような威圧感が、彼にはあった。


 無表情のまま、淡々とした口調のままだから、余計に怖い。これ、勇者がレインと対面したとき、勇者は固まって動けなくなってしまうのでは。そのときは控えめにするように、レインにお願いしておかないと。


「プニカメを傷つける奴は許しません。もがき苦しんで息絶えればいいです」


 このままでは、本当に冒険者が死んでしまう。どうにかしてレインを止めないと、大事件になってしまう。


「レインくん、落ち着いて! 水魔法とか使っちゃだめだからね!」


「シエルさんは黙っていてください。ご自分の立場をお忘れですか?」


 そうだった。私、人質なんだった。


 でも今はそんなの関係なく、レインが人の道を外れる前に、絶対に止めなくては。いや……魔王軍に入って四天王にまで上り詰めてしまったレインは、もうとっくに人とは違う道を歩んでいるけれど。


「帰ったらカオスさんに反省文百枚だよ!」


「別にそれぐらいなら書けます。いかにプニカメが可愛いか綴るには足りないぐらいです」


「……反省文って意味わかる?」


「それぐらいわかりますよ。馬鹿にしないでください」


 ちょっと怒りが収まってきた。この調子で落ち着けさせていこうと思う。


「もういいかな。攻撃を――むぐっ」


 私は何か言いかけた弓使いの冒険者の口を塞いだ。せっかく少し収まったレインの怒りが、また湧き上がってくるなんてことになったら、今度こそどうしようもない。冒険者には命を諦めてもらうことになる。


「ああほら、レインくん。はまりちゃんまた草むらにはまってるから、助けに行ってきてよ」


「本当ですね」


 はまりは、今度は下半身が草むらに囚われていた。コーラルピンクの短い前足を必死に動かしている。


 それにレインが気を取られているうちに、私は冒険者へ耳打ちする。


「今のうちに逃げてください。でないと、本当に死んじゃいますよ」


「はあ?」


 この人はレインの狂った殺気を感じ取れなかったのだろうか。たしかに無表情のままだったけど、目が正気ではなかったはずだ。


「あんな子供に、俺たちがやられるとでも?」


「レインくんにかかればあなたたちは一秒で倒されちゃうと思います。本当に」


「そんなわけ――」


「あるんです」


 だってレインは魔王軍四天王だ。こんな島でプニカメをちまちま狩るぐらいでしかお金を稼げない下等冒険者が、上級魔物を一撃で倒してしまうレインに敵うわけがない。


「いいか? 俺たちはな、プニカメを――」


「ぷにぷにしに来たんですよね!」


 レインが近づいてくる気配を感じ取り、私は咄嗟に口にした。


「は? いや」


「てっきりプニカメを傷つけに来たのかと誤解してました。まさかプニカメを守る会の人だったなんて!」


「何言って……」


「ああ、私たちはプニカメを傷つけに来た冒険者じゃありませんよ? プニカメを愛でに来た観光客です!」


 誤魔化すために早口で捲し立て、冒険者が何か言う前に、そばにいたプニカメを押し付けた。


「ぷにぷにしに来たんですよね? たくさん癒されていかないと損ですよ。ほら、ぷにぷにー」


 私は無理やり冒険者の手を掴み、その上からプニカメをぷにぷにした。


「え、柔らか……」


 冒険者の口元が緩んでくる。やっぱり、プニカメの前では大人も子供も、どれだけ怖い人でも、みんな笑顔になってしまうのだ。


「おい、何して――」


「あなたも、ぷにぷにしましょう!」


 私はすぐにプニカメを抱え、弓使いの冒険者の仲間たちの前に移動した。


「はい、どうぞ! 一度ぷにぷにしたら病みつきですよ」


「は……やば、ぷにぷに」


 そうして、どんどんプニカメを配っていく。私は相当やばい人だっただろう、誰もが呆気に取られて固まっていた。


「プニカメを守る会……すみませんでした。そうとは知らず、先ほどの無礼をお許しください」


 よし、とりあえず何とかなった……かな?

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