プニカメの島 その2
少し前のこと。とある冒険者がこの島を訪れた。その目的は、プニカメを倒し、魔石を集めるため。
冒険者はずっと前から、何度もプニカメの島を訪れていた。慣れた足取りで森の中を歩いていき、獲物を見つけ次第、自慢の剣で切り裂いていく。抵抗する間もなく倒される仲間を見て、プニカメたちは怯えていた。
冒険者は優越感に浸っていた。彼がここを訪れたのは、魔石を集めるためだけではない。こうしてプニカメたちを怖がらせ、いじめて、そのときに得られる感覚を楽しむためだった。
そんな冒険者の耳に、草が揺れる音が聞こえた。
「獲物か?」
舌なめずりをしながら、冒険者はそれに近づく。そのプニカメを斬ったとき、どんな反応をするだろうか。周りにいるプニカメたちの怯えた顔が楽しみだ。そう考えながら、冒険者は草むらを両手でかき分けた。
そこには、怯え震えているプニカメが一匹。冒険者は笑みを浮かべながら、そのプニカメへと刃を向ける。
ペタ、ペタ。そんなとき、前方から音が聞こえた。
「なんだ……?」
冒険者は顔を上げる。それと同時に、冒険者の周りに影がかかる。彼の顔は、見る見るうちに青ざめていった。
「ヒィ!」
視線の先には――大きな、大きなプニカメがいた。その体で押しつぶされれば、人間の骨はポキリと折れてしまいそうなほどだったという。
そのプニカメは、冒険者を獲物と認識しているのか、じっと彼のことを見つめていた。
「ゆ、許してぇぇぇ!」
冒険者はすぐにその場を逃げ出した。大きなプニカメは追いかけてこなかったが、その視線は背中に突き刺さったように感じていたと冒険者は話す。
大きなプニカメとは、一体何なのか。冒険者に傷つけられたプニカメたちの怨念が、具現化したものだったのかもしれない……。
◇◆◇
私が怒っているレインをなだめている中、オカルトマニアのブキミちゃんは、一度も話を途切れさせることなく話しきった。その精神力だけは、尊敬に値する。
「大きな、プニカメ……」
見事、その魅力的な言葉に釣られたレインは、ブキミちゃんの話を最後のほうだけはしっかりと聞いていた。
「やっぱ、気になるぅ?」
レインは無言で頷いた。
さっきまであんなに嫌がっていたというのに、手のひら返しがすごい。
「ほかにも目撃情報があるけどぉ……ただで教えるってのも、なんかなぁ」
ブキミちゃんはくるりと後ろを向き、わざとらしく悩むフリをする。
「……要求は?」
レインが尋ねると、ブキミちゃんは満面の笑みで振り返った。
「大きなプニカメの調査をしてきてちょーだい。そろそろ正体も知りたいしー、あわよくば捕獲……フフフ」
不気味に笑う彼女に、レインは目をつむった。あれはやっぱりやめようか考えているところだろう。
彼は決心したのか目を開くと、私の肩を叩いた。何も言わないレインだが、私には彼が何を伝えたいのかわかった。
「……やるの?」
レインは頷く。大きなプニカメへの好奇心は抑えきれなかったらしい。
「大きなプニカメの調査、やります。目撃情報を教えてもらえますか?」
私はレインの言葉を代弁した。
「さっき話した怖ーい話は半年前の出来事。それ以降は音沙汰なしだったんだが、ここ最近は多いんよ。七日前に一件、四日前に一件、二日前に二件、昨日は一件」
ブキミちゃんはメモ帳を開きながら、それを読み上げているようだった。
「いずれも森の中心あたりで目撃されてるよん。なんでもその大きなプニカメは、たっくさんのプニカメを引きつれているだとか」
レインは思い当たることがあったのか……いや、ただ単に「たっくさんのプニカメ」という言葉に反応しただけなのか、ふっと顔を上げた。
「んー、プニカメを傷つけると現れるって聞くしぃ、試してみれば――」
「プニカメを傷つけるなんて人の所業ではありません。そんな人間がいるのであれば、どこから水魔法が飛んできたとしても文句は言えませんよ。気づいたときには息ができず、もがき苦しんで命を落とすでしょう」
プニカメの島は観光地としても人気だが、それ以上に冒険者がプニカメを倒して魔石を集めに来ることのほうが多いらしい。プニカメが生息する森の中へ入れば、当然その様子も目撃するだろう。そのとき、レインが正気でいられるかは定かではない。
「とりあえず、その大きなプニカメを探してみましょう、シエルさん」
「そうだね」
私たちが森へ入って行こうとすると、ブキミちゃんは私たちの前に立った。
「大きなプニカメを捕まえて来てくれたらぁ、報酬をやろうじゃあないか」
「報酬?」
レインは「そんなことはどうでもいいからそこをどけ」と言いたそうにしていた。相変わらずの無表情だから、たぶん初めて会ったブキミちゃんには伝わっていないだろう。
「ほい。プニカメ写真集」
ブキミちゃんが取り出したそれに、レインは目を見開いた。
「欲しい、です」
「でしょう?」
目を輝かせているレインの服をひっぱり、私は彼の意識を向けさせる。
「レインくん、あれと同じもの持ってなかった?」
「ええ、持ってますよ」
同じの持っていること忘れているのかな、と思って訊いたのに、レインはさも当然の事のように頷いた。
「同じやつ……いるの?」
「いります」
全く同じものなら、いらないような気がする。しかも、レインの自室は物が多すぎて散らかっているのだ。これ以上増やしてどうする気なのだろう。
「二冊並べたら可愛いですよね」
すでに持っている写真集の場所、彼はちゃんと覚えているのだろうか。




