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016 やってしまった

 私たちはミナモの町に戻り、さっきの魔物について話していた。


 母プニカメは私の隣で眠たそうに目を閉じており、迷子だった小さなプニカメはレインの頭の上で髪の毛をいじって遊んでいた。組長はレインのポケットが気になるのか、手を突っ込んで首を傾げている。


 念のためプニカメたちの体を確認したが、目立った怪我はない。


「あの蛇は、アイスネークという名の上級魔物です」


「上級!?」


 上級魔物は「出会ったらすぐ逃げろ」と言われるほど危険で、並の冒険者では到底敵わない。ある国では、上級魔物を倒した人物には領地が与えられる。それほどの偉業なのだ。


 そんな上級魔物の一種であるアイスネークを一撃で倒したレインは、やはり魔王軍四天王なのだなと思う。駆け付けたときは、走り疲れて死にそうなほど真っ青な顔だったのに。


「あの大きさだと、おそらくボスでしょうね。この魔石も純度が高く大きい。相当な代物ですよ」


 魔物のボスは、通常より二倍ほど強い。それを倒したともなれば、国が揺らぐ大事件だ。


 そんなボスアイスネークを少しの水魔法で倒したレインは、平然と魔石を眺めていた。


「レインくん、すごいね……」


「そうですか?」


 褒められて照れているのか、本当に大したことないと思っているのか、彼の固定された表情から読み取ることはできなかった。


「倒した魔物が魔石に変わるのって、どういう原理なんだろう?」


「ああ、それは……」


 レインは周りにいる人々を気にしながら、小声で教えてくれた。


「魔物は命の危険を感じると、自分と魔石の位置を交換するのです」


「位置を交換?」


「転移魔法のようなもの、と言えばわかりやすいでしょうか」


 要するに、魔石を身代わりに逃げるということだろう。


「てことは、あの蛇の魔物は生きてるの?」


「ええ。気絶させただけです」


 気絶させただけとは言うが、それがどれほどすごいことか……レインは自覚しているのだろうか。


『あの、レイン? それ言っちゃって大丈夫?』


 レインはじっと私を見つめ、口に人差し指を当てた。


「このことは人間には知られていないので、誰にも言わないでくださいね」


 魔物が魔石に変わる理由が知られたら、何かまずいことがあるのだろうか。


 魔王城に捕らえられている限りは誰かに伝えようにも伝えられないから、そこまで心配しなくていいと思うのだけれど。


「それにしても、人が多いですね。何かあるのでしょうか」


 人々を見ると、みんなある場所に向かっているようだった。そちらの方向を見てみると、この辺りよりも人が多く感じる。


 もうそろそろ夜だというのに、家の明かりはついていないところが多く、子供までもがはしゃいでいた。


「行ってみる?」


「そうしましょうか。勇者もそこにいるかもしれません」


 いろんなことがありすぎて忘れかけていたが、私たちは勇者に組長を届けに来たのだった。


『あ、そうだった』


 魔王までもが忘れていたらしい。近くにいたカンシチョウが、人々が集まっている方向へ飛んで行った。


 私たちもそれを追うようにして、人々の流れに乗った。近づいていくにつれて人が多くなり、進むのが大変になる。


 集う人々を見てみると、どうやら冒険者のようだ。遠くから来たのか、大荷物の人もいる。もちろん、ミナモの町の人もちらほらいるようだった。


「え、レインくん?」


 ふと後ろを見ると、レインが人だかりに飲まれてしまっていた。私は手を伸ばし、彼の腕をつかむ。


「大丈夫?」


「はい。ありがとうございます」


 レインの頭の上に乗っていた小さなプニカメは、レインが信用ならなくなったのか、私の頭の上に乗り換えた。レインは何か言いたげにそれを見つめている。


「それでは、ミナモの町を救ってくださった英雄、蒼炎の騎士さまにご挨拶をいただきます。蒼炎の騎士さま、よろしくお願いします」


 もう少し行った先の広場から声が聞こえてくる。よく見ると、石造りの舞台の上に誰かいるようだった。


「ご紹介に与りました、蒼炎の騎士、シャイン・マーズです」


 舞台上で話しているのは、私やレインと同い年くらいの少年だった。やけに大人びた口調で話す彼からは、親しみやすい印象を受ける。


「本日はミナモ祭にお招きいただきありがとうございます」


 周りにいた人々はざわざわとし始めた。


「あれが噂の蒼炎の騎士か」

「思ったよりも怖くなさそう」


 そんな声が聞こえてくる。どうやら、ここに集まった冒険者の大半は蒼炎の騎士という人物が目当てで来たらしい。


「ミナモの町を救った英雄? 町に何かあったのかな?」


 レインに尋ねてみるが彼は答えず、舞台の上にいる蒼炎の騎士を見つめ続けていた。


「嬢ちゃん、知らないのかい?」


 声をかけられ振り向くと、人のよさそうな冒険者が私を見ていた。


「この間、ミナモの町付近にアイスネークという上級魔物の群れが出てな。近くにいた冒険者たちが立ち向かったが、全く敵わなかったんだ」


 その人は当事者なのか、悔しそうに歯を食いしばる。


 レインも気になったのか、冒険者に視線を動かして話を聞いていた。


「だが、偶然ミナモの町を訪れていた蒼炎の騎士さんが、一人で群れをやっつけちまって。いやぁ、若いのに大したもんだよ」


 たしかに、そんな大物が来るなら、一目見てみたいと思うかもしれない。


「この祭りが終わったあと、逃したボスアイスネークを討伐しに行くらしい。あんな戦いができるんだ、きっとボスすら打ち取って帰ってくるさ」


 レインはヒュッと息を呑んだ。震えながら、さっき倒してしまったボスアイスネークと入れ替わった魔石を取り出す。


 私と顔を見合わせ、声は出さず「どうしましょう」と口を動かした。


「必ず、ボスアイスネークを倒して帰ってきます。ですから安心してください」


 舞台上で決意を述べる彼は、ボスアイスネークがすでに倒されているということをまだ知らない。

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