表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/76

014 プニカメ大捜索

 私は大通りから細い道に曲がり、組長を探す。建物と建物の間、組長が通りそうな場所は全て確認したが、組長の姿は見当たらない。


「あの、甲羅に変な模様があるネオングリーンのプニカメ、どこかで見ませんでしたか?」


「さあ……見てないね」


 道行く人々に尋ねてみたが、似たような返事ばかりでこれと言った情報は聞けなかった。


 組長は派手な色をしているから目につくはずだ。それに甲羅の模様が特殊だから、そんなプニカメを覚えていないはずがない。


 組長は賢い。もしかすると、人に見つかって攻撃されるのを危惧して、見つからないように移動しているのかもしれない。


 私はカンシチョウを見る。その向こう側で私のことを監視しているであろう魔王コスモに向かって言う。


「カンシチョウってどんな場所に置いたんですか? 人通りのある場所とか?」


『うん? んと、そうだね。勇者が通りそうな場所に置いたよ』


 勇者が通りそうな場所……。彼は人通りの少ない道、細くて暗い道は通らなさそうだ。カンシチョウがそういった道にいないのなら、組長が映らないのも納得だ。


「組長はたぶん、人通りの無い道を選んで移動していると思います。だから、カンシチョウの位置を変えたほうがいいかもしれません」


『なるほどね』


 私は組長を探しながら、道とは呼べない薄暗い建物の間を進む。度々振り向いては、カンシチョウがついて来ているか確認する。


 もしもカンシチョウとはぐれてしまえば、大通りまでたどり着ける自信がない。コスモはさっき組長を見失っているから、不安でしかなかった。


『あー! いた!』


「え、どこですか?」


 耳だけではなく脳までつんざくような、無駄にうるさいコスモの声に、私は食い入るように反応した。


『町を出ようとしてる。シエルから近いよ』


 よかった、これで組長と会える。私はほっと胸を撫でおろした。


『まずは右方向に行って。大通りに出たらすぐ町の外に出られるよ』


 じめじめとした路地を抜け、かろうじて道と呼べる場所を曲がる。ミナモの町の路地裏はずいぶんとじめじめしていて、プニカメなどの水の魔物が好みそうだ。


 大通りに出ると、涼しい風が頬をかすめた。ここに来てからどれほど経ったのか、もう日が暮れてきていた。


 そもそも、「謎の人物は夜に現れるもの!」と言い出したどこぞの魔王のせいで、人間界に来たのは夕方だった。


 暗くなってしまえば、カンシチョウは意味をなさなくなるだろうし、その前に組長を見つけなければ。


 私は町を出ると、カンシチョウに視線を送った。


『シエル、そこから川が見えるかな?』


 辺りを見回さずとも、前方に川があるのはすぐ分かった。


「あれですね。見えます」


『それをたどってくと、森があるじゃんね』


 言われた通りに視線を動かす。すると、森とは呼べないかもしれないが、ちらほらと木がある場所があった。


「ああ、ありますね」


『組長はその入り口の辺にいるよ』


 私はだんだん暗くなっていく空に焦りを感じながら、急いで組長のもとに向かった。


 木に隠れてしまって見つからないんじゃないか。もっと奥へ進んでしまっているんじゃないか。


 そんな不安を抱いたが――案外、組長は早く見つかった。


「組長さん!」


 私の声に振り返ったプニカメの甲羅には、不思議な模様がある。ネオングリーンの体は、暗くてもよく目立つ。


 そのプニカメは、私が毎日見てぷにぷにしている、賢くて可愛い組長だった。


「よかったぁ。もう、探したんだよ」


『見つかった? レイン、見つかったって!』


 そのうち、レインもここへ来るだろう。


 組長の甲羅に手を乗せてぷにぷにすると、組長は申し訳なさそうにうつむいた。


「どうして急に――」


 いなくなった理由を聞こうとして、私は組長の隣にいる小さなプニカメを見つけた。


「この子は?」


 組長は身振り手振りで伝えようとするが、どうもわからない。


「もしかして、迷子?」


 私が予想して尋ねると、組長は私の言葉がわからないのか首を傾げた。試しに、別の単語を使って尋ねてみる。


「その子のお母さんを探してるの?」


 組長は「お母さん」がわかったのか、コクコクと頷いて見せた。どうやら、迷子のプニカメを母親のもとへ届けに来たらしい。


「そういえば、レインくんのダンジョンの周辺にはプニカメが生息しているって言ってたよね」


 迷子の小さなプニカメは組長の甲羅によじ登る。組長はそれを拒絶せず、まんざらでもない様子で受け入れていた。


「一緒に探そうか」


 組長はピシッと右手を挙げた。


「プニカメの色って、親子で同じになるんだったっけ?」


 私の質問と全く同じ内容を、コスモはレインに尋ねる。いちいち伝言ゲームみたいに聞かないといけないから面倒だ。


 私も通信魔法が使えたらいいのだが、あいにく私は結界魔法しか使えない。


 そういえば、レインは通信魔法を使えるはず。私ともつなげてくれればよかったのに。


『同じ色だって』


 迷子のプニカメは、海のように透き通った青色をしている。青色のプニカメは珍しくないため、母親を探すのは難しそうだ。


『プニカメは昼行性だから、この時間に動いてるプニカメがいたら、きっと母親だって。レインからの助言』


「わかりました。探してみます」


『こっちでも、カンシチョウで探してみる』


 その時、草むらからカサッと音がした。私が振り向いた瞬間、そこから何かが飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ