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第八話 好き過ぎて目が逸らせませんっ!?


初めてのタナバタ祭りが大成功して、あれからかなりの時が過ぎました。

私、十六歳になりましたっ!

試練も順調にこなしていきまして、イベントも色々増やしましたよっ!

おかげで公爵領はかなり発展致しましたっ!下手すると王都より発展してるかもしれな…うん、これは仕方ないと思うの、うん…やり過ぎた感は否めない…。

まぁ、やらかしてしまったものは仕方ないんだ。

さて、次はどの試練を消化しようかな…。

自室で減った気が全くしない試練の書を開いて内容を吟味していると、

「姉様っ!姉様ーっ!!」

ドタバタと足音が聞こえて、その足音は私の部屋の前で止まりドアが開いた。

「どうしたの?シトリン」

「どうしたのもこうしたのもありませんよっ!姉様っ!こ、これっ!!」

「…?」

すっかり成長してカッコいいスク○ームになったシトリンが私に手渡して来たのは、一通の手紙。

受け取ってその封をみると…王家の紋章が…。

「とっても嫌な予感がするわ。届かなかったってていで捨てようかしら」

「良いと思いますっ!」

「そうよねっ!では早速」

「いやいや。ダメだろ。何考えてんだ」

「そうですよ。フローラ様。王家からの招待状なんですから」

「……リアン、マリン…」

シトリンの後ろからひょこっと二人が顔を出した。

何故二人がこうして顔を出すかと言うと。

「二人共。私達は使用人ですよ。立場を弁えなくては」

アゲットが見えない位置で二人を怒ってるのが聞こえる。

そう。二人は自分の試練を乗り越えて、何と私専属の護衛と侍女になってくれたのだ。

リアンはすっかりお姉様と呼びたくなる程のナイスバディの女性に成長し、マリンはとっても癒し系のお淑やかな女性へと成長していた。

リアン、最初に見た時は男の子だったのに…と思ったけれど、祝福で男の子の姿になっていたらしい。で試練を乗り越えてあのアホな神様に祝福を叩き返して、本来の姿に戻り、わざわざ私の試練の手伝いを申し入れてくれたのだ。

毎年毎年タナバタ祭りのたびに二人と会って遊んで…そんな風に過ごしていたらもうすっかり親友の位置になるよね。

「大丈夫よ、アゲット。二人は私の大事な親友だから」

「フローラ様…」

「泣かせる事言うなよなー」

「…お嬢様が甘やかすから…全く」

いいんですー。やっぱり仲の良い人とは普通に話したいじゃない?

にこにこ。笑いつつ、シトリンにこっそりと届いた手紙を渡す。シトリン、処分してくれー。

「こーら。フローラ様。ばれてますよ」

「ギクッ」

「ほら、ちゃんと開けて下さい」

マリンからペーパーナイフとシトリンから素早く取り上げた招待状をセットで手に握らされる。

……相変わらずマリンの笑顔は圧が強い…。

逃げようにも、笑顔で追い掛けて来るから逃げられないのです。

仕方なく椅子に座って、机に招待状を置いて封を開く。

中にはカードが一枚。パーティを行うので出席せいって感じの事がとっても丁寧な言葉で書かれていた。

「……はぁ。正直王城って良い思い出無いんだよね~。それに今の時期でこの年齢のお誘いってのはさー」

「まぁ、間違いなく殿下達の婚約者探し、だろうな」

「だよねぇ~。私を誘う必要ってなくなーい?この顔で結婚したいって思うー?王子達だって骸骨だなんだって昔から良く言ってるじゃない?なーんで私に招待状出してきたのか」

机に突っ伏してぶつくさ言う私の側にシトリンは駆け寄ってきた。

「行くのやめましょうっ、姉様っ。姉様は美人なので絶対に目をつけられてますっ!大丈夫ですっ、王家に嫁になんていかなくても、僕がずっと養えますっ!それに姉様なら自力で生きて行けますっ!」

弟よ…それは褒めているのかい?

一人で生きていける…いや、イケるとは思うけども。別に恋愛に興味が無い訳ではないのですよ?

前世も含めて男っ気はぜーんぜんないんだけどさ。

『お前、ほんっと可愛げねーよな。もう少し女らしさ磨かねーと』

あー、うるさいうるさい。

また余計な記憶を呼び起こしてしまった。捨てよ捨てよ。

「けどよ。まぁ、真面目な話、王城からの招待状だ。断る訳にはいかねーだろ」

「まぁ、そうなんだよね。……あー、気が重い。絶対に目立つじゃない。この顔だし。……母様はよくこの苦痛に耐えてたよね…」

陰口轟轟なんだろうなぁ。

「……控え室までは付いて行ってやるから、元気だせ」

リアンが頭を撫でてくれる。

「力の限り綺麗にして差し上げますから」

マリンがぐっと拳を握って励ましてくれる。

行きたくないが大前提なんだけど、逃げる道はなく私は盛大に溜息をついた。


パーティの前日。

外出用のワンピースを着こみ、私は馬車へと乗り込んだ。

外で馬に乗って護衛してくれるリアンと、馬車の中に一緒に乗り込んでいるマリン。

そして、外で私を見送ってくれる母様とシトリン。あ、因みに私には後二人弟妹がいます。妹、弟一人ずつ。父様が初めてのタナバタ祭りのお願い叶えてくれたんだよね。弟妹の話はまた後でするとして。

「姉様っ!本当に大丈夫ですか?姉様が誰かに見初められたりしたら…」

「大丈夫大丈夫。ありえないって」

「それにもしかしたら姉様が誰かを好きになるかも」

「ないない。大丈夫だって。もうシトリンったら心配性なんだから」

この顔だよー?

ありえないってー。

また殿下達と遣り合う可能性はありそうだけど、好きになるとかないない。

シトリンに何度も気を付けてと言われる中、他の皆にも見送られて、私は死地…もとい王都へと向かった。

一度向かった時と同じ様に途中宿を挟んで一泊し、王都にある別邸で豪華なドレスで武装を固めていざ会場へと向かった。

夜に行われるパーティ。

私と同じ位の妙齢の女性が馬車から降りて城の中へと歩いて行く。

…どうやら今回のパーティはお付きの人間も連れて行っては駄目っぽい。

「……ねぇ、マリン。あの中にマジで行かなきゃダメ?」

「駄目ですねぇ」

「だよねぇ…。はぁ。覚悟決めて、行くか」

仕方なくリアンの手を借りて馬車から降りる。

当然、周囲の女性達が私の顔を見て騒ぐ。

解ってはいたけれど、これもまー来たくない理由の一つだよね。

「……酷いお姿…。よくこんな場に来られますわね…」

「わたくしは絶対無理ですわ…」

「本当に。祝福と言えどあの姿では絶望してしまいますわ」

言いたい放題言われている。

自分の本当の姿が可愛いと知っているからこそ尚更刺さりやすい。…いいけどね。別に何言われようとさ。

さっさと出席したって実績残して帰ろう。

「フローラ様…」

「フローラ様、あの、な?」

マリンとリアンが心配気にこちらを見ている。

「二人共、何て顔してるの」

二人の辛そうな顔に、ショックを受けたようなその表情に、複雑な感情を現した伸ばされた手に私は思わず苦笑してしまった。

「大丈夫。もう慣れてるわ。だから、そんな顔しないで」

二人の手を握って笑った。

「知っているでしょう?私は強いのよっ」

ぐっと握った手に力を込めた。ひょろひょろの体ではそんな力なんて入ってはいないだろうけれど。

「……フローラ様、帰りをここでお待ちしています」

「待ってるから、早く帰ってこいよ。フローラ様」

二人がそう言って手を握り返してくれたから、私は大きく頷いて城内へ向かって歩きだした。

「………おれ、フローラ様が来たくないって言ってた理由、深く考えなかった…。そりゃ嫌だよ、こんなの…。戻ってきたら謝らなきゃ…。初めて会った時、おれフローラ様になんてこと…」

「…私も、考えなしだった…。フローラ様はいつも笑ってらしたから。どんなに辛い事か考えもしなかった…。私も謝らなきゃ…」

私が立ち去った後、二人がそう言って涙を零していた事を私が知る事はなかった。


城内に入ると、一人の騎士が付いてくれる。

そのまま会場内に案内されるのだが…まぁ、騎士も当然嫌がるよねー、とか思ってたんだけど。

「フローライトお嬢様。私はリヴィローズ公爵領の出身ですから」

にっこりと笑って案内してくれた。優しい…。やっぱりうちの領の皆は優しいよー。

会場に案内されると煌びやかな会場に、煌びやかな女性達が溢れかえっていた。

さて、どうしようかな。

会場に入ってしまえば騎士も下がってしまうようだし。本当に王子の嫁さん探しなんだなー。…あの王子達と結婚、ねー。

「……ないわ」

私には関係のない話だし。適当にご飯食べて帰ろーっと。

ひそひそと何か女性の囀りがそこかしこで聞こえるけど…ま、気にしない。私の事なら好きに言えばいいさー。

ふんふんと鼻歌歌いながら並べられた料理の方へと向かう。

………あれー?気のせいかなー?…うちの公爵領で良く見る料理が並んでるなー?

…とーぜん我が領で購入いただいたんですよね?王様?レシピだけゲットして作らせた、とか言わないですよ、ね?

ギロリと玉座の方を睨むと、そこにはまだ陛下はいらっしゃらない。ちっ。

って言うか王子もいないよね。って事は今が一番食べれる時間って事じゃない?

じゃあ、食べないとねっ!

配膳してくれる使用人さんにお皿を頼もうと手を伸ばした、その時。

玉座の方に父様が現れた。

父様は王様付きの騎士兼従者だから、父様が現れたら当然王様も現れる。

料理は諦めた方が良さそう。

私は女性達の中に交じって膝を折る。これから王家の皆様が入場するんだから当然しなければならない。私達は臣下なのだから。

両陛下が登場し、殿下達が登場した。

「皆楽にしてくれ。今日は堅苦しくせず気楽に楽しむために開催したパーティだ。思う存分交流を楽しんでくれ」

……誰との交流を楽しめって言うんですかねー。本当に交流を楽しめって言うなら女性だけじゃなく男性もいれるべきじゃないですかねー?陛下。

とは思ってはいても口には出さぬ。面倒だからね。

楽にしろと言われたから体を起こすと、両陛下と王子殿下が…3人?

女王陛下の横に居るのが第一王子のオニキス殿下でその横に居るのが第二王子のビルダー…ボルダー?殿下で。

その隣に立ってるの…あれ、第三王子、だよね?

え?ヤバくない?

伸ばされた黒髪を三つ編み一本でまとめてて、前髪が思いっきり顔を隠してるけど。どっちかと言えばふつーの特徴のない顔してるけど。

体も鍛えてるとはちょっと違うタイプの言わばぽっちゃりタイプなんだけど。

でも、あれ、ヤバいっ!ヤバ過ぎるっ!


ちょー好みなんですけどぉぉぉぉぉっ!!


見た目が好み過ぎるぅぅぅぅぅっ!!


はわわわわわっ!!

どうしようっ!ガン見しちゃうっ!!

陛下が何か言ってる?クソ程どうでもいいわっ!

えっ、マジで好きっ!話してみたいっ!!

あ、でも、待って。私。落ち着け私。

…私の見た目、ス○リームぞ?世間一般の人曰く、骸骨ぞ?

完璧な私の王子様現れたのに、私がこれじゃあ見向きして貰えないじゃん…。


……否っ!


話しかける位のチャンスがあっても良いと思うのっ!!

気持ち悪いとか言われたら、きっとそう言う人間だったんだって、他の王子達と同じだったんだって、諦めつくじゃないっ!!

そうよっ!行こうっ!

陛下の長ったらしい話が終わったら話しかけてみようっ!

こう言う時だけ、父様の立場の特権を使うのよっ!!

「…では、挨拶のマナーも今日だけは不問にしよう。王子との交流を楽しんでくれ」

なんですってっ!?

こちらから声をかけても良いとっ!?

陛下、今日だけは好きっ!

どれくらい第三王子殿下に他の令嬢達が並ばれるだろう?

出来れば一番印象に残るようにしたい…いや、そんな努力せずともこの顔で印象に残るわ。なんてこったい。

どうしたら良い印象が残せるかな…?

可憐な様子を見せる?…可憐通り越して貧弱だから風に飛びそう。アピールポイントとしてはないわ。

女子力を見せる?……もとより備わっていない物をどう見せたら…。

せめて元の姿は可愛いんだぞと主張する?……試練の全クリがいつになるか解らない物を主張してどうする…?

うふふ、八方とも塞がっちゃったっ♪

うわああああんっ!!

間違いなく失恋コースじゃあああんっ!!

……ぐすっ…。せめて挨拶だけでもして、何とかダンスだけでも一曲踊って貰って、後で父様に頼んで第三王子の姿絵を画家に依頼して描いて貰って、第三王子のガチ勢になろう…。

っと、いけない。

とにかく第三王子の下へ行かなければ。

そうして顔を第三王子がいた場所へと向けると、第三王子が何故かこちらに向かって歩いて来ていた。

誰?誰に目をつけたのっ!?

背後を見ると可愛い系の女子が三人。彼女らの誰かかっ!?

「アレキサンドライト様がこちらに来ますわ」

「わ、わたし、いくら祝福と言えど、あのようなお姿の殿方は…」

「わたくしもですわ。それにわたくしはオニキス様が…」

……え?何、この屑共は。

見た目で判断するとか…いや、私も見た目で判断したけども。

見た目って大事は大事なんだよね。うん、解る。それで第一印象が決まるからね。でもね?この世界で第一印象ってあんまり意味ないって事を私は学んだんだ。

だって、本当の姿は違う可能性が高いんだから。

私だってそうでしょう?

本当は骸骨じゃなくて美少女が隠れている。自分で言うのもなんだけどね。そもそも陰口とか人の容姿について集団でコソコソ言うのが屑なのよ。うんうん。

「……リヴィローズ公爵令嬢」

ん?呼ばれた?

って言うか、声、美声過ぎない?もう一度呼んでくれたり…なんて期待する前に返事だっ。

「ひゃいっ」

よしっ、噛んだっ!

うぬおおおお…なんで噛んだ、私ぃぃ…。

「一曲お相手願えるだろうか」

「はいっ、喜んでっ!」

居酒屋万歳っ、意味わからんっ!!

でも良いのっ!!ダンス申し込まれたーっ!!やったーっ!!

喜んで以外の返事は持ち合わせていないでしょっ!

「うっわ…なにあの組み合わせ」

「キモ…」

「こっちに王子来なくて良かったぁ…」

何か外野が好き勝手ほざいてやがんな、この野郎っ!

でも構うもんかっ!!私は王子と踊るんだっ!!やったーっ!!

差し出された手に私がそっと自分の手を重ねた瞬間。


ボフンッ。


まるでギャグ漫画みたいな音を立てて、私と王子の体は変化した。

「え…?」

「あ…?」

二人共同時に元の姿になったのだ。

骨を通り越して皮だけで歩ているんじゃないかと思わせる私の体が、血色の良い女性らしい丸みのある体に。恐らく、顔も骸骨から美少女顔になっているだろう。

そして目の前の王子もまた、鍛え上げられた体に艶やかな黒の前髪の隙間から見える精悍な顔だちに。マジイケメンやんけっ!

やばい…どっちの姿も推せるっ!!

うあああああっ!!私第三王子ガチ勢になるっ!!むしろなったっ!!好きぃーっ!!

「…えっと…、あー…改めて、私と踊って頂けますか?」

「はい、勿論。喜んで」

その手を握って会場の中央に進む。

楽団の演奏が始まり、王子のエスコートのもと、ステップを踏む。

「ダンス、お上手なんですね」

「そんな…。王子のリードがお上手なのです」

「………フローライト嬢。…フローラと御呼びしても?」

「是非っ」

「私の事は、アレクと」

「はい、アレク様っ」

優しいっ!!好きっ!!

ダンス踊って、彼の手に触って、増々好きになった。

彼の手は固かった。…剣たこにペンたこ、それにこれは鍬かな?彼の手は努力している人間の手だ。人によってはその手を汚い手と言うだろう。

けど、私にとっては心の底から尊敬出来る手だ。

こんなになるまでどれだけ頑張ったんだろう?

祝福で姿を変えられてなかったことにされる。誰にも気付かれないのに。どれだけ努力を積み重ねて来たんだろう?

「…私、アレク様の手、好きです」

「え?」

「私、努力をする人、大好きです。尊敬します」

この想い届けっ!!

アレク様は素敵な人だっ!!もう一度言うっ!この想い届けーっ!!

「……くくっ」

「アレク様?」

何故笑う?

「あははっ!!」

めっちゃ笑われてる?

あ、でも笑ってる顔も好き過ぎるから良しっ!!

って、笑顔を堪能していたら、急に両腕で抱き締められた。

「俺もっ。俺も好きだっ!ずっとずっと好きだったっ!」

「ずっと?え?好きって、え?」

い、いいいい、今っ、何か凄い言葉を聞いた気がするよっ!?

「俺と結婚してくれっ、フローラっ」

両手で持ちあげられて。

まるで親が子に高い高いするみたいに持ちあげられて。でもそうすることでアレク様の顔がハッキリ見えて。

その満面の笑みにまた胸を貫かれる。もう、どんだけ私のキュンを持って行くのっ!可愛いっ!!好きっ!!

こんなの、もう答えは決まってるよねっ!

「は―――」

「ちょっと待ったっ!!」

私の声が遮られた。

誰よ、邪魔したのはっ!?

声がした方を見ると、そこには第二王子のアホが立っていた。

「お、お前っ、祝福がないと、そんなに出来が良かったのかっ!?」

………。

良しっ、無視しようっ。

「アレク様っ。結婚の話、喜んでお受け―――」

「ふざけんなよっ!!なんで出来がいいって言わねぇんだっ!!そしたらおれが結婚してやったのにっ!!」

………キモッ!!

相変わらずイカレてるな、この第二王子。

無視無視っ。とにかく今はアレク様の言葉にお返事しなければ。

って言うか別に大声で宣言しなくても良いよね、別に。

「アレク様」

コソコソと小さな声で呼ぶと、アレク様は直ぐに気が付いて、ん?と優しく聞き返して私をその腕の中に抱き寄せてくれた。

そっと口元に手を当てる仕草をすると、直ぐに内緒話だと気付いて耳を寄せてくれる。優しいっ!!好きっ!!さっきも言った気がするけど、気にしないっ!!好きっ!!

「私も、アレク様と一緒になりた―――」

「おいっ、無視してんなっ!!」

「きゃっ!?」

また割りこんで来たかと思えば、人の手を引っ張って、このアホ王子ぃーっ!!

アレク様から引き離されて、私とアレク様の姿は元に戻ってしまった。

「ぎゃーーーーっ!!」

ぎゃーとは何よ、ぎゃーとはっ!

べしっとその手を払ってアレク様の側へと急ぎ戻る。

はしたないとは思いつつも、アレク様の胸に抱き付くと、アレク様はむしろ抱き返してくれた。好き。

「あ、アレキサンドライト、様。……私とも踊って頂けませんか?」

私の背後から声がした。

この声は…さっき、アレク様を嫌がった三人の内の一人では?

ぐるんっと振り返ると、思った通りの人物がそこにいて。その笑顔の胡散臭い事。

「……随分解りやすい手の平返しだこと」

「どちらもな」

どうやら同じ事をアレク様も思っていたらしく、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

「おいっ、フローラっ」

無視。

「アレク様、あ、あのっ」

「アレク様っ、私とっ」

「アレク様っ」

アレク様も無視。

私達は無視を完全に決め込んだ。

決め込んだつもりだったんだけど…。

あまりにも、しつこいので…キレた。

「いい加減にしろっ、ボルダー兄さんっ。フローラには俺が今求婚してるんだよっ。兄さんは他にもいるだろっ、綺麗所がっ」

「うるさいっ!弟の分際で兄にたてつくのかっ!」

アンタは暴君か?

と思わず突っ込みたくなる言葉に負けない位、

「ちょっとそこの気持ちの悪いアナタっ!アレク様から離れなさいよっ」

「そうよっ!順番を守りなさいよっ!」

「邪魔なのよっ!」

「ハッ、だから何よっ!絶対に退かないわよっ!そもそも貴女達はアレク様と呼ぶ許可も頂いてないでしょうがっ!」

群がって来た馬鹿女が多かったので。売られた喧嘩は倍返しの私としては早速噛み付いてまいります。

「き、今日は無礼講だと陛下は仰っていたわっ!」

「えー?それを本気に捉えて礼儀も何もなってない姿を見せるの?うわーダッサー」

「んなっ!?」

「しかも、さっきまでの口調とぜーんぜん違うし。ちゃんと喋ってみなさいよ。ほら、ほーらっ」

おほほほほっ!

……ヤバいな。楽しくなって来た。

「こら。あんまり煽るな、フローラ」

「アレク様…。アレク様こそ、もうそちらで第二王子が怒りで噴火しそうですよ?」

わざとアレク様にべーったりくっついて言うと、アレク様も楽しいのか私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「「このっ!」」

令嬢と第二王子の声が重なって、手が振り上げられる。

私達はきっちりとやり返そうと臨戦態勢をとったが、パンパンッと手を叩く音で間に入られた。

「はいはい。そこまで。パーティで争いを起こすなよ」

陛下がわざわざ私達の間に入ってくれた。

「アレキサンドライト。まずはお前、返事を貰ってしまえ」

一斉に視線が私に集まる。

…返って言い辛いわ。何考えてるの、陛下。

でも、私はアレク様を、こんな骸骨スクリー○な私に好意を抱いてくれる奇特な男性を手放す訳にはいかないから。

だから私はアレク様の耳元で、さっき出来なかった返事を。

「私を奥さんにしてくれますか?」

と、こっそりと囁くと。

「喜んで」

と笑顔の返事が返って来た。

嬉しくて二人で抱き合っていると、陛下が満足そうに頷いた。

「いやー、良くやった。アレク。これで公爵領との地盤は万全な状態になったな。お前も試練を乗り越えられるだろうし。万々歳だ」

「試練?」

「フローラ嬢も早速王妃教育を受けなきゃな」

……うーん、意味が解らんね。

私は説明を求める意味も込めてアレク様を見上げると、何故か焦ったようにアレク様は陛下を止めようとした。

「アレクの試練の書にな、あるんだよ。何番目だったかに、【王になること】ってな。その為には上位の地位にいる女とくっつく必要があるだろ。だからその点でフローラ嬢は最高だぜ?全てにおいてクリアしてるからな」

「違うっ!俺はそんな打算でフローラを選んだ訳じゃっ!」

「あぁー、解ってる解ってるって。アレクの中でちゃんとこれから好きになれそうな女を選んだんだろ?いやー、本当に良い選択をしてくれたな」

「そうじゃないっ、そうじゃないんだっ」

打算…試練…。

その二つの言葉が脳内でぐるぐると廻る。

いや、ショックはショックだけどさ。

…陛下がそう来るなら、私も遠慮、しなくていいよね?

「…フローラ、俺はっ」

「アレク様。…信じて、宜しいんですよね?」

「何に対して信じて良いのか聞いてるのか、良く解らないけど、もし俺の言葉や気持ちの事を言っているのなら、信じてくれて良いっ。むしろ信じてくれっ」

「…その言葉で十分ですわ。アレク様も、私を…私の事を信じて下さいましね?」

アレク様に微笑み、そのふくふくした頬を私の激細の手で撫でて、私は陛下と向き合った。

「陛下。一先ず、確認したい事がございます」

「おう、なんだ」

「私とアレク様の結婚を認めて頂いている。それは間違いではありませんね?」

「おうっ。勿論だっ」

「まぁ、嬉しいっ。では早速アレク様の婿入りの手続きに入りましょうっ!」

「………は?」

「当然ですわよね?アレク様は第三王子ですもの。王位継承権第三位ですしね。とぉーぜん公爵家にくださるんです、よね?」

にーっこり。

王位継承権は第一王子が優先でしょう?

第三王子は臣下に下る。当然ですよね?

笑顔で圧を与える。が、陛下も負けてはくれなかった。

「いやいやいや。待てっ!違うだろっ。さっきも言っただろっ。アレクの試練の書には【王になる】って書いてあるんだってっ。フローラ嬢だってアレクの本当の姿が好きだろっ?イケメンだぞっ!俺に似てっ!」

「そうですね。アレク様の本当の姿はとぉーってもイケメンでしたわ。でも、私、アレク様の今の御姿も思わず親衛隊を作りたくなる位私の好みのど真ん中ですの」

「えっ?、そうなのか?」

何故かアレク様が反応された。が、嘘ではないので大きく頷いておく。なんなら、どさくさに紛れてその胸に抱き付いて頬を擦り寄せてみる。…ふくふくの体…好きっ。

「あ、勘違いなさらないでね。アレク様。私はアレク様の本当の姿も姿で大好きですわ。どちらも好きですっ」

「そ、そうか。ありがとう。…俺もフローラがどんな姿でも好きだ」

「アレク様っ…後で今のお言葉、もう一度言ってくださいませ」

「フローラが望むならいくらでも」

笑顔がヤバいっ!可愛いっ!好きっ!!

……っといけないいけない。今陛下と対戦中だったわ。

「そうそう。アレク様は陛下にあんまり似てませんよ。むしろ凛々しい所や見目の麗しさがタンザナ様にとても似てらっしゃいます」

それがまたカッコいい。好き。

「話は戻しますが、アレク様の書に【王になること】と書かれていたのですよね?」

「そうだ。だから」

「王であれば良いのでしょう?だったらこのオーマの国の王である必要はありませんよね?」

「はぁっ!?」

「アレク様の為であれば、私国の一つや二つ、作り上げてみせましてよっ!」

どやぁっ!!

胸を張って宣言してくれるわっ!!

「それに、打算と先程陛下は仰られましたね?」

「フローラ、それはっ」

焦ったアレク様が私の肩を掴む。その手を私は優しく握って。

「アレク様。大丈夫です。打算でもなんでも宜しいのですよっ。アレク様が私を欲して今好きだと仰って下さってますしっ。だから、アレク様は私が貰って行きますっ!」

「強引過ぎるだろうっ!」

「それがなんですっ!?アレク様は私のですっ!!もう誰にもあげませんっ!!」

「だったらフローラ嬢が嫁に来ても変わらないだろうがっ!…はは~ん、解ったぞ!さては王妃教育に耐えられそうにないんだなっ?」

「はんっ。この私が王妃教育の一つや二つ、出来ないとでもっ!?そして、そんなやっすい挑発には乗りませんよっ!アレク様は私が頂いて帰りますっ!!」

「待て待て待てっ!!連れてくなっ、って言うかどっから取り出したそのデカい布っ!?」

「風呂敷ですっ!!大事なモノは包んで帰らないとっ!!」

「俺の息子を包んで持ち帰る気かっ!?」

「大事に持ち帰りますよっ!!」

「そりゃ有難いなっ!!そうじゃねーんだよっ!!」

ぜーはー…ぜーはー…。

体力ないんだから、そろそろ折れて欲しいわー…。

陛下との丁々発止に周りは静まり返ってるし。

「なぁ、フローラ嬢。真面目な話だ。アレクの為にも嫁に来てくれ。その方がアレクにとっても」

「幸せ、だと?……陛下は目が悪いのですか?」

「なに?」

「陛下は、ご自分の子供達の何処を見ていらっしゃるのですか?陛下は王としては良い王なのかもしれない。ですが、父親としては駄目親の部類ですよ。どうして第三王子のアレク様が跡を継ぐ事が幸せに繋がると思うのですか?アレク様は第【三】王子です。第三王子が跡を継ぐ時に必ず第一王子と第二王子をどうするかの問題が生まれます」

「それは当然理解している。だが、試練の書がそう示しているのだから上の王子は納得するだろう」

「そうでしょう。王と臣下としてはそれで良いのかもしれない。ですが父親として長男と次男が跡を継げない苦しみの逃げ場をどうするか、考えた事はありますか?二人の苦しみを理解していますか?その二人の苦しみの矛先が何処に向くのか考えた事はありますか?父親として、どうなさるおつもりですか?……断言しても良い。アレク様は今までも、そしてこれからも試練の書にある【王になること】と言う言葉に苦しんでらっしゃいます。苦しんで、苦しみ続けなければならない」

「………フローラ嬢。それは、そうかもしれない。だが、王の子として産まれたからには、それはもう運命だ」

「やれることもやらず運命と言う言葉で片づける。父親として最低ですねー。…私は、アレク様には幸せになって貰いたいんです。むしろ、私が幸せにするんですっ!それには陛下達は失礼ながら邪魔なんですよ。だから…よいしょっと」

キュッと縛りまして。

これで良しっと。

風呂敷にアレク様を包んだので。後は担いで持ち帰るだけ。

「アレク様は頂いて行きますねっ!」

「だから待てってっ!…ちっ、こうなったら王命だっ!フローライト・リヴィローズっ!」

「させませんっ!」

バツ印のガムテープを二枚現魔法で作りだして陛下の口に張り付ける。

「ふぐっ!?」

「よっしっ!今だ、逃げろーっ!!」

再度現魔法で小さい頃から愛用しているバイクを作りだす。

そしてアレク様を乗せて、と。

あれ?アレク様が震えてる?どうしよう?どこか具合悪い?

不安になって、声をかけようとした、が。

「……ふはっ、あははははははっ!!もうっ、無理だっ!!あはははははははっ!!」

「おーい、アレク様ー?」

「フローラは、くくっ、相変わらず、ははっ、面白いっ!!」

アレク様、風呂敷で包んで置いてなんですが、その姿で腹抱えて笑うとバイクから落ちちゃいますよ?

しかし、この笑い方どっかで見た事あるような…?

ベリッと陛下がガムテープを剥いで、駆け寄ってきた。しまったっ、と思った時にはもうアレク様の風呂敷を確保してしまっていた。

「アレクっ、お前笑い事じゃねーんだぞっ」

「あはははははっ!!」

「アレク様を返して下さいっ!!」

現魔法で頑丈なマジックハンドを作りだして、アレク様包みを狙う。

陛下はひょいっと風を操り、アレク様を頭上に飛ばしてしまった。

これは…本気で奪い返す必要がありそうだわ…っ。

陛下と睨み合う。

「……はいっ。そこまでっ!陛下も、フローラ嬢も、そして馬鹿笑いしてるアレクも。落ち着きなさいっ」

「そうですよ。いつの間にかパーティがコロシアムになっているではありませんか」

間に割り込んできたのは、王妃様二人だった。

「全く。クリスタ様。大人げないですよ」

「えっ!?俺が悪いのかっ!?」

「十六の令嬢と本気で喧嘩をなさっていたら誰でもそう思います」

「そ、それは、そうだが…」

「まずはアレクを降ろして下さいませ。それから、フローラも少し落ち着きなさい」

おう…。そうですね…。

私はマジックハンドを床に投げ捨てた。

すると、陛下もアレク様を降ろしてくれて。アレク様は笑い過ぎて出た涙を拭いながら私の側に来てくれた。え…好き。

「…アレク。まずは貴方の意志が一番大事です。貴方はどうしたいの?」

「俺は、フローラと一緒になる為に、努力して来た。フローラと一緒になる為に王になろうと思った。だが、フローラが違う道を提示してくれたから。正直フローラといられるなら、どちらでも構わない」

「……そうね。そうだったわね。…ならば、こうしましょうか」

タンザナ様が私と陛下の二人を見て宣言した。

「オーマの第三王子であるアレキサンドライトとリヴィローズ公爵令嬢フローライトの婚約をここに認めます。これはまず宜しいですね?」

婚約は私もアレク様も陛下にも望んでいる事なので肯定する。

「そして、アレクが臣下するか、王となるか。それを定める為に条件をつけましょう」

「条件?」

「えぇ。フローライトは試練の書の完遂させること。陛下にはオニキスとボルダーの試練の書の完遂させる事。これが条件です」


「いや無理だろっ!」

「やってみせましょうっ!」


タンザナ様の言葉に同時にした返事が見事正反対だった。

ふぅと溜息をついて今度はアイオラ様が言葉を発した。

「陛下。これは無理でもやらねばなりません。もしもフローラが条件を乗り越えた場合、オニキス、ボルダーどちらかが跡を継ぐのですよ?」

「ぐっ、そ、れは…。だ、だがなっ、フローラ嬢が条件を達成出来ない場合だってあるだろっ、いやむしろその可能性のが高いっ」

「えぇ、そうですわ。ですが、お忘れですか?陛下。妃になる第一条件を」

「あ…」

「…王妃になる絶対なる条件は、自己の試練の書を乗り越え、王となる者を助ける事、ですわ」

「そうか…」

成程。王妃は王を助ける者、だものね。確かに王の試練を手伝えなきゃダメだわ。

それに、そうよね。私だってアレク様の試練を手伝いたいし。

「今までは一生涯で試練全て乗り越えればいいかなと思っていましたが、アレク様を手に入れる為に必要とあれば、本気で行かせて貰いますわ」

前世の知識や現魔法、全てを駆使してでもアレク様を手に入れて見せる。

「ふふっ。応援してるわ。フローラ」

「私も、応援するわ」

王妃様二人が微笑んで応援してくれる。

応援までして貰ったんだから、絶対乗り越えてみせるっ!!

「……なぁ、お前ら。フローラに甘くないか?」

「あら、それは仕方ないわ。だって、ねぇ?」

「えぇ。親友の娘が旦那より可愛いのは当然のことでしょう?」

どちらに転んでも私達の娘になる事には違いないしねー、と二人がころころと嬉しそうに笑い合っている。

「アレク様、必ず迎えに行くので待ってて下さいましねっ!」

「ははっ。まるで俺の方が姫みたいだな。…うん、けどまぁ、待ってるから、早く迎えに来てくれよ?」

「はいっ!」

アレク様の胸に飛び込むように抱き付くと、アレク様も受け止めてくれた。

……そう言えば、こんだけイチャイチャしてるのに、父様何も言ってこないな?婚約までしたのに…あれ?

気になったので父様を視線で探すと、玉座横でこっちを向いたまま魂を飛ばしていた。

………何か、ごめんね?父様…。

視線だけで謝罪をしていると、父様と視線がかちあって。

我に返った父様がこっちへ駆けて来て、私を抱き上げて。

「父様は、父様はまだ結婚を許してないっ!!アレキサンドライト殿下っ!!私はまだ認めていませんっ!!認めていませんからっ!!失礼いたしますっ!!」

「へっ!?あれっ!?父様ーっ!?」

担がれたまま私と父様は退場した。

アレク様が手を伸ばしていたけれど、動魔法を全力発動した父様のスピードに敵う訳もなかった。


馬車に乗りこみ、宿に戻るとリアンとマリンが驚いてはいたのだけど、父様のあまりの焦りっぷりに何かを感じ取ったのか直ぐに帰り支度を済ませ、そのまま領地まで帰りついてしまった。

……なんだろう、このデジャヴ感…。

昔もこんな事があったような…?

家に帰りつくと、シトリンが出迎えてくれた。

「姉様っ、ご無事ですかっ。変な男に捕まってませんかっ?」

「シトリンっ、姉様は好きな人が出来ましたっ!!」

「えええええーーーっ!?」

「絶対にアレク様を陛下から奪ってみせるんだからーーーっ!!」

「ね、姉様ーーーーっ!?」

シトリンの叫び声が聞こえたけれど、私はそれを綺麗に聞き流し部屋へ戻りすぐさま試練の書を開くのだった。


王妃様達はフローラが可愛くて仕方ない。

親友大好き。親友にそっくりな娘も好き。

陛下はその下www

残念www

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