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第七話 お祭りしませんっ!?


「神からのお告げっ!?」

父様。驚き過ぎていつも見えないはずの目ん玉が見えて気持ち悪いです。

が、それはそれとして一応私は神妙に頷いておく。

「それは本当の事なのかい?フローラ」

「証拠があります」

言って取り出したのは試練の書。

先日夜に色々走り回ったおかげで、試練がいくつかクリアされていたんだけど。その中の一つに【神のお告げを受ける】があったんだよね。

ただ単に会話しただけだけど、あれはお告げに括りに入るらしい。出来れば一発殴りたかったな…と思ったのも秘密。

父様が私から試練の書を受け取り内容を見て、あんぐりと口を開けた…と思う。はた目から見たら立派なムンクの叫びだわ…。

「それで?神はなんと…?」

「精霊を星に返せ、と」

「精霊を星に?」

「はい。父様。精霊と言えど生物です。今精霊が爆発的に増加しています。このままでは森を越えてこちらまで来てしまうでしょう」

「…成程。精霊は突如凶暴性を現すことがあると伝え聞く。もし森を抜けて街に来てしまっては」

「そうです。危険なのです。だから、星に返す必要があるのです。お告げと同時に私はその為の魔法陣を授けられました」

自分で考えたんだけどねっ!内緒さっ!

「その魔法陣に精霊が入ると、その姿は星に返され、代わりに精霊の恵みが手に入ります」

「恵み、とは?」

「精霊がその身に蓄えていたモノ、と言いますか。早い話が肉と乳です」

「肉と、乳…。そうか。血ではなかったか」

「乳だって元は血ですよ」

けろりと言う私と顔を赤らめる父様。……何か立場逆じゃね?いや、言わないけどさ。

「話を戻しますが父様。精霊を星に返さなければなりませんが、無作為に返してもそれはそれで危険ですよね?」

「あ、あぁ。それはそうだね。何か案を考えなければ」

「そこで、これですっ!」

やっと持ち出せるお祭りの話っ!

お祭りの案をまとめて書類にして参りましたっ!ドヤァッ!

「タナバタ…?」

「あ、名前は何でもいいんです。それは仮の名前で。父様は私の試練の1を覚えていらっしゃいますか?」

「あぁ。勿論。確か領地の発展だったね」

「はい。私はずっと考えてたんです。私に出来る事はなんだろう、って。でもうちの領で暮らす皆は、本当に頑張ってくれてるから、これからも頑張ってくれるだろうから。これ以上の何かを求めるのは違うなって思っていたんです。だから発展と言っても何をしたらいいか解らなくて」

「ふむ」

「それで、父様達と一緒に視察に行った時に気付いたことがあったんです」

「ほう?」

「それが、この領の人達働き過ぎっ!って事に。父様も母様もアゲットも領の皆も皆休もうよーっ!体壊しちゃうよーっ!って叫びたくなりまして。だったら皆に休んで貰ったら良いのでは?と。それで、領を上げてこうパーッと騒ごうかな、って思ったんです。その事をお祭りと言うのですが、それに色々便乗させられるなぁと思いまして」

「便乗?」

「はい。まず一つ目は、最初に話した精霊の問題です。精霊が今どれだけいるのか、大体把握しております。で必要な分だけ星に返す必要があるのですが、その時に出る恵みをお祭り当日に領民達皆で食べる事にしようかと。大丈夫です!味は保証しますっ!それで次に、領民達への休みについてですが。祭り当日は食事をこちらで提供する他に領民達にはお祭りの為の出店を考えて頂きたいんです。お祭りまでは忙しくなってしまいますが、その事により収益も上がります。お祭りはテンションが上がりますから。色んなものを買ってしまうものです。収益が上がりさえすれば、一日や二日、休んでも平気ですよね?領民、私達も含めて皆でお祭りを作り上げて、そしてお祭りの翌日は皆が楽しかったって気持ちを抱えてゆっくり休んで貰う。翌日はどんな職業の人も休みましょう。働くのは禁止です。家族で仲良く過ごす、一人で穏やかな日々を過ごすなど兎に角自由に過ごすんです。勿論父様や母様もですよ」

「…フローラ…」

「そして次に、精霊の恵みを配るのですが、それを堂々と表立って公表するのは危ないですよね?」

「それは、そうだね。精霊を狙う奴がいないとは限らないからね」

「ですよね?なのでカモフラージュではないのですが、物語を作って劇にするのはいかがでしょう?そして、その台本がこちらにっ!」

しゅばっと取りだしました新たな書類。これには七夕の織姫と彦星、っぽい物語が書かれている。一年に一度しか会う事の出来ない男女のお話です。それに精霊の恵みを交えたお話にしました。

決して結ばれる事のない星と星に生まれた男女。だけど一年に一度だけ精霊が二人を引き合わせてくれる。だけど、それは雲一つない星の綺麗な夜でないといけない。何故なら精霊は雨になると動けなくなってしまうから。

……みたいな事を劇の内容チックに台本に書き落としてあります。そこからの脚色は劇団に任せるけれど、本筋は変えない方向でお願いします。

「そしてですね。このお話にあやかりまして。【願い樹】という物を作ろうと思うんです」

「【願い樹】?」

「はい。これに領の皆の願いを書いて貰おうかと。小さなことでも大きな事でもいいんです」

所謂七夕の短冊の代わりですな。お祭りの一環だから無理に書いて貰う訳じゃない。ただ、そのお願いごとの中にこれからの領地発展に生かせる願いや、急いでやらなければならない願いもあるかもしれないから。

「陳情って形ではなく、お願いって形で皆の気持ちを知ろうと思って。以上がざっくりとしたお祭りの内容ですね。どうでしょうか、父様」

キリッと父様に改めて向き合うと、父様は一瞬驚いた顔をした後、途端に背もたれに体を預けて天井を向いてしまった。

あれ?駄目?やっぱり無理?

「……うちの娘は天才かと思っていたが…ここまで来ると聖母の域かもしれない」

んなこたーない。

父様はちょっと身内の欲目が過ぎる。

「正直。父様はフローラの考えている事を完全に理解しているとは言い難い。だから、フローラ。フローラが中心となって動いてみなさい」

「えっ?」

「勿論、何か重要な局面になったならば父様が代わりに出よう。だが、これはフローラの考えた案だ。まずはフローラの思うようにやってみなさい」

「父様…。はいっ!頑張りますっ!」

「陛下には父様の方から精霊の件と神のお告げについては伝えておくよ」

「ありがとうございますっ!」

やったーっ!!

父様の許可が下りたーっ!!

私は父様に頭を下げて父様の書斎を出ようとした。

「フローラ」

父様に呼ばれて満面の笑みで振り返ると、同じく満面の笑みをした父様が、

「それはそれとして。夜に一人で外に出るのは駄目だと父様は忠告した事がなかったかな?」

と、とっても怒なオーラを溢れさせていたので。

冷汗だらだら流しながら、全力で謝罪を決行しました。父様にしっかりバレてたとは…失態だった…。


父様にこってり絞られて、ただでさえ出涸らしの体がもっともっとほっそりした後、私は自室に戻って来て早速お祭りの準備に取り掛かった。

やる事は一杯ある。

でも一番はお祭りを、楽しい事だと皆に印象付ける事が一番大事。

アゲットやラバスさんを中心とした使用人の皆にも手伝って貰って。

領に暮らす皆にも楽しみにして貰う。

たまに街に出掛けては、出店の依頼したり、お祭りで皆でお揃いで着れる服とか考えたり。流石に浴衣を作ったりはしなかったけどね。この領で生産されている布を作った可愛い女性用ワンピースとうちの領のマークであるゼラニウムっぽい赤い花を刺繍した男性用のシャツをデザインして作って貰った。

お祭りの日は無礼講だからね。貴族、平民関係なく。お金持ち貧乏関係なく。皆一律に楽しめる日にするんだ。

一ヶ月に渡り準備をして。

その間に王都からお手紙が何通か届いてたり、他の領地の貴族様達から伺いの使用人が訪れたりとしたけれど。そこは父様とラバスさんの防壁が頑張ってくれた。

私が我儘を言ったんだ。これは領の皆でやりたいから、他の協力は断って欲しいって。王様達は仕方ないとしてもね?他の貴族が乱入してくるのは嫌だからね。

お祭りの日だけは領を閉鎖しますっ!陛下にはちゃんと許可をとったので大丈夫っ!

そしてやって参りましたお祭り前夜祭っ!

私は父様と二人でまた街へと行くことになりました。

街は花や様々なガラスのランプで彩られて、道には出店が一杯並んでる。明日は街の噴水広場で劇も行われる。その劇の時に牛肉も牛乳も振る舞われる。

「父様…。皆が本気になると凄いねっ!」

「そうだね。こんなに街が彩に満ちるとは…」

馬車を降りて街を見て私と父様はポカンと口を開けた。

「まずは店に入ってみようか」

「ですね、父様っ」

馬車を降りた場所から一番近くの店に入ると、そこはパン屋さんだった。

恰幅のいいパン屋のおじさん。姿を見ただけで美味しいパンを焼いてくれそう。

「こ、これはスファレライト様っ。どうなさいましたっ!?」

「あぁ、そんな畏まらないでくれ。今日は娘と一緒に明日のお祭り準備の様子を見に来たんだ。どうだい?準備は順調かい?」

「えぇ!勿論ですよ!こんなに仕事が楽しみになるのは初めてですよっ!」

「そうなのかい?」

お世辞の可能性もあるから私はそっと視線を一緒にいるおじさんの奥さんであろう綺麗な女性に視線を向けた。

「ふふっ。旦那様がこんなに楽しそうなの、私久しぶりに見ましたわ。でも旦那様に限りません。街中浮足立っていて。明日が楽しみで仕方ないのです」

「明日は明日で外で店を出してパンを売れる。しかもお嬢様が【惣菜パン】という物を考え出してくれたおかげで、明日は絶対に儲かる気しかしません」

「……ん?フローラ、そんな事をしていたのかい?」

「え?あ、はいっ、父様。各職業の人達はそれぞれ競合店であり協賛店でもあって欲しいので、それぞれパン屋さんならパン屋さんで一度店長に集まって貰って、全員のパンを食べさせて貰って、そのパン屋に合った惣菜やお菓子のパンを作る様にお願いしたんです。こちらの店長さんのパンはパン生地がふわふわしていて美味しいのでコーン…っといけない、これは内緒ですねっ。明日は父様も楽しまなくてはっ!」

ねー?と店長と奥様に笑いかけると、二人も楽しそうに笑って答えてくれた。

隣で父様は驚いていたけれど。

「スファレライト様。我が領は安泰ですな」

「本当に、そう思うよ」

父様に頭を撫でられて私は嬉しくて微笑んでしまう。

「そうだっ!店長さんは明後日のお休みは、奥様とデートですか?」

「えぇっ!?いやいや、明後日はお嬢様に教えて頂いた惣菜パンをもっと追求して…」

「………んん?」

じっとり。

笑顔で睨みつける。この領の人達は働き過ぎだからこうしてお祭りと休みを提供しようとしていると最初に説明したよね?

「ふふふっ。お嬢様。よろしいのですよ。私は彼がこうして楽しそうにパンを作っているのを見るのが幸せなのです」

「駄目ですっ!だったら一緒にパンを作って、外にピクニックにでも行ったら良いのですっ!愛しい人と一緒に外で食べるパンは格別ですよっ!きっとっ!」

グッと拳を握って応援すると、二人は顔を見合わせて照れながら笑った。

あー、いいねいいね。幸せな光景だわー。

「父様っ、次のお店に行きましょうっ!劇団にも寄らなければっ!後、大工さん達が今尚急ピッチで出店の設置してくれてるだろうし、差し入れしなきゃっ!雑貨屋さんにも行って仕入れ状況も確認しなきゃいけませんわっ!」

「えっ!?そんなに見て回るのかいっ!?」

「当然ですっ!私が企画しているのですから、ちゃんと管理しなければっ!」

「フローラ…、そんなに頑張らずとも父様だって力を貸すのに」

「そ、それと、ですね。その…父様と一緒にこうして外を歩けるのが嬉しい、というのも、ありまして…」

「フローラっ!うちの子は本当に天使だっ!」

顔、スクリー○だけどねっ!天使って言うかむしろ悪魔に近い顔してるけどねっ!見慣れると可愛く見えるものさっ!

そうして街を巡って、父様と二人改善点を話し合って、私達は屋敷へと戻った。

最終確認をして、その日の夜。

私は精霊の森へと向かった。お肉と牛乳をゲットする為である。牛を減らす必要もあるしね。

今回は父様に話を通したのでちゃんと護衛もいるし、向かうのはバイクを使わず足である。我が家の近衛兵であるジャスパーとラリマーが私を抱っこして駆け抜けてくれた。

ジャスパーは動属性の素早さが特化しており、本気で走ると姿が全く見えない。ラリマーは身体強固能力がある。体がカッチコッチ、岩や炭素のように体を固くすることが出来るので、いざと言う時要人を庇う事が出来るから近衛や騎士など人を守るのに特出した能力なのだ。

そんな二人がいたらとても安心、安全である。しっかし二人共体育会系のイケメンだなぁ。普段はス○リーム顔してるから解らないけどね。なんでも元々父様がお城で陛下直属の近衛騎士をやっていた時からの部下なんだってさ。

三人で精霊の森に辿り着き、そのまま川を越えて草原…多分牧草地と言っても良い場所に再び辿り着いて、何か所か魔法陣を設置した。

「しかし、お嬢様。一つ聞いても宜しいですか?」

「いいよー」

「精霊様を星に返した後にその、精霊様だった物が残るとは聞いたのですが、それをどうやって屋敷に運ぶおつもりで?」

「え?あ、そっか。これは話てなかったね。もう一つ魔法陣を作るんだよー」

言って、私はもう一つの魔法陣を設置した。牛を肉と牛乳に変えるのには赤い魔法陣。移動に使うのは青の魔法陣。

「お屋敷の厨房に同じ青の魔法陣を設置して来たから、そこに転移するように出来てるよー」

牛が赤の魔法陣に入ったのを見て私は一先ずシャトーブリアンだけは寄せておいて。他の牛乳などを青の魔法陣に乗せる。するとそれは見事姿を消した。ちゃんと厨房に届いてるはず。

「凄いな…」

「お嬢様をスファレ様が良く天才だと騒いで、親ばかだなと笑っていたものだが…これは本当に天才かも知れない」

いやー、それほどでもー……牛が食べたかっただけですしね。

「さっ、運びましょっ」

それはそれとして、鮮度が命だからねっ!お肉も牛乳もっ!それに厨房に戻ったら、チーズとかバターとか作りたいもの一杯あるしねっ!

三人で頑張って運んで運んで。領民に振る舞えるだけの量を転移させたら、魔法陣を撤去。前回設置したのも込みで撤去した。

そして、残して置いたシャトーブリアンを三人で焼いて食べる。今回も塩と胡椒だけだけれど、めっちゃくちゃ美味しかった。ジャスパーもラリマーも感動していたよ。うん。美味しいよね。

しっかりとお肉を味わって私達は家へと帰った。


帰宅してしっかりと睡眠をとった翌日。

とうとうやって参りました、お祭り当日ですっ!

早起きして、アゲットと一緒に厨房へと急ぐ。

お肉と牛乳の扱いに困っているだろうからねっ!

「おはようございますっ!」

元気よく厨房の中に入ると、シェフ達が優しく微笑んで挨拶を返してくれた。全員スクリ○ム顔だから微笑んでも怖いだけだけど慣れてしまった私には可愛く見えるぜっ!どやっ!

「今日も元気ですね、お嬢様」

「むしろ今日だから元気だよっ!」

「それもそうだっ。さぁ、お嬢様っ。何から取りかかりますかっ」

「まずは牛乳を使ったお菓子とお肉につけるソースを作るよっ!」

「はいっ」

「レシピはここっ!おかしな所は私が教えるからっ!」

「はいっ!」

「料理の過程はカットしますっ!この物語はお料理系の話ではないのでっ!」

「……はい?」

「ではまず牛乳班とお肉班に分かれますよーっ!」

パンパンッと手を叩いて示すと、シェフ達は躊躇いなく二班に分れて作業に取り掛かってくれた。

シェフ達は流石長年料理しているだけの事はあって、私のレシピを読み込むと直ぐに理解してくれて、料理は着々と順調に出来上がっていった。

たまに味見をしたシェフが開眼してたりしたけれど、それはそれで後々の料理に生かされるだろうから良い事である。

一通りの料理の下拵えは出来上がり、後は量産するだけなので私がいる必要はない。

出来上がった物は夜まで保存して貰うように伝えて、私は街へと繰り出した。

お祭りの開始の挨拶があるからねっ!

……いや、開始の挨拶は父様がするんだけども。その父様が挨拶の時は隣にいなさいと言うので。

私は私用のお祭り衣装をアゲットに着せて貰って、勿論アゲット達もお祭りの衣装を着て馬車に乗って街へ。

街の広場手前で馬車を降りて、私は完成した会場を一目見て感動に飛び跳ねた。

「凄いっ!こんなキラキラで華やいだ会場になるとは思わなかったっ!」

「……本当に…。これをお嬢様が企画したんですね…」

広場の舞台の方へ少し急いで進むと、父様が舞台の担当者と打ち合わせをしていた。

「父様ーっ!」

手を振って駆け寄ると直ぐに父様は気付いてくれて、私の方へ向かって来て抱き上げてくれた。

「あぁ、お祭りの衣装、とっても似合っているよ、フローラ」

「父様もバッチリカッコいいですっ!」

うふふふ、きゃっきゃっと二人でぐるぐると回っていると、集まって来た領民達が私達を微笑ましそうに眺めている。

「あらあら。二人共狡いわ。母様とシトリンも仲間に入れて下さいな」

「勿論さっ!」

「じゃあ、私がシトリンを抱っこしますっ!」

父様に降ろして貰って、私は母様からシトリンを受け取って、くるくると回転しました。

母様も父様にお姫様抱っこされてくるくる。平和な光景。私達は楽しいけれど傍から見たらきっと怖い光景。でも領民の皆は微笑まし気に笑ってくれる。優しいよね。

「スファレライト様。そろそろお時間です」

「あぁ、そうだったねっ。じゃあ早速挨拶しようかっ!」

母様を降ろした父様が、舞台に上がった。

気付けば公園に領の皆が集まって来ている。

勿論、公爵領だからね。ここに全ての人が入りきる訳がない。動けない人とかもいるだろうし。そんな人には、ちゃーんと言葉や雰囲気が伝わる様に。皆が笑顔になれるように。現魔法で作りだした手の平サイズラジオを配りましたっ!どやっ!

でもねー。最近現魔法を使い過ぎて、私の精神力カロリーはほぼほぼ空っぽ。折角牛肉ゲットして、すこーし抵抗力ついたと思ったんだけどなぁ~…いや、こればっかりは仕方ない。仕方ないんですっ!自分を説得させて、と。

私は父様の言葉を静かに聞く事にする。

『皆、集まってくれてありがとう。ここに来れなかった者達もラジオを通して私の声は聞こえているだろうか?聞こえると信じて、話を続けようと思う。まずはこの度は我が娘の突発的な案に協力してくれてありがとう。心より感謝している』

私も感謝してるっ!父様が笑っているのに合わせて父様の後ろで小さく礼をする。

『私の娘は親の私が言うのも何だが天才だと思っている』

……うん?

『考えてもみてくれ、皆。うちの子は四歳になったばかりだぞ?』

……へい。パパン?

『だって言うのに、可愛いし、頭も良いし、何より可愛いっ!』

「父様っ!やめぃっ!」

思わず突っ込んじゃったよ。

父様がハッと我に帰りゴホンッと咳をした。

『仕切り直して。そんな娘が企画したお祭り。そして明日の休日。どちらも盛大に楽しんでくれっ。ここに【タナバタ祭】の開催を宣言するっ!』

父様の宣言と同時に、皆の歓声が響き渡って。パンパンと狼煙が上がった。

「きゃーっ!!」

私もテンションMAXっ!!

ぴょんぴょんと無意味に飛び跳ねて、シトリンを抱っこしたまま走りだした。

領の皆もそれぞれ店に戻ったり、友達と話し始めたり、恋人と出会ったり。

「じゃんじゃん回って、遊ぶぞーっ!!ねー、シトリーンっ!!」

今日だけは貴族とか関係ないっ!

一杯一杯遊ぶんだーっ!!

まずはーっ!!

わくわくしながら周囲を見渡すと、飴細工の出店を見つけた。

まずはあそこだーっ!

出店のおじさん…お兄さん?が私の顔を見て一瞬止まったけれど、すぐに笑顔を見せてくれた。

「いらっしゃい。お嬢様。何が欲しい?」

「この七色の花の飴が欲しいですっ」

ハイハーイと手を上げて答えると、お兄さんは優しく飴をくれた。お代を渡してペロッと飴を舐めてみる。おいしーいっ♪

出店は道の両サイドにずらりと並んで奥まで続いている。

これは…全店制覇するしかないのではないかっ!?

「シトリン…お姉ちゃんについてきてくれるっ!?」

「あぶ?」

「そうっ!流石シトリンねっ!!それじゃあ、レッツゴーッ!!」

一つ一つ出店を回って店主と話して、笑って、すれ違う人と話しては隣の店に移動して。

楽しくて楽しくて仕方ない。

これじゃあ、私がお祭りを楽しみたいが為にお祭りしたみたいだ…。

うーん…ある程度したら広場に戻ろうかな。

なーんて思ってはいるものの足は先に進んでしまう。

「おいっ」

「わっ!?」

襟首を引っ張られた。ちょっと、今シトリンを抱えてるんだから、危ないんだからっ!

一体誰よっ!?

振り返るとそこには何故か第二王子様がいらっしゃっていた。

「……幻だわね。さ、行こう、シトリン」

「おいっ、お前っ、おれを無視するなっ!」

「………手、離して貰えます?話かけないで貰えます?邪魔なんですけど」

「~~~ッ!!お前、生意気だぞっ!!」

「あらあら。そう感じて頂けるなんて光栄ですわ。だからとっとと手を離してくれます?うざったいんで」

そもそもなんでここに第二王子がいるのよ、鬱陶しい。

一度敵認定した人をもう一度良いイメージに戻すのはちょっと…かなり、私には難しい。面倒な性格してるって自覚はしてるんだけどね。

…って言うか本当、いつまで私の襟首掴んでるのよ。

「あ、相変わらず気持ち悪い顔だなっ!」

「………」

「あ、いや、…うぅっ…、おれ、は、だな。お前に」

「だーう?」

「お、お前にだな」

「あうあーうっ!」

「おれはお前に言いたい」

「だーうぅうっ!!」

「あーっ!!うるせえなっ!!そのガキっ!!」

第二王子の手が私の腕の中にいるシトリンに伸びた。

王子が何を言いたいのか全然解らないけど、シトリンに何かする気だとするならば容赦はしない。

伸びた手をガシッと掴んで睨みつける。

「は、離せよっ!」

「それはこっちのセリフなんですけど?シトリンを苛めたら死んだ方がマシって思う位の恐怖味わわせてやるから」

「じょ、冗談だろーがっ」

「だったらさっさと手を離しなさいよ」

窪んだ目でも睨みますよっ。

そもそも四歳児を苛めるってどんななのよっ!

「わかったよっ」

言って手を離してくれたから、私も手を離してやって、即行で逃げる。

「あっ、お前っ、待てっ!」

「待たないっ!待てって言われて待つのはドМだけって相場は決まってるのよっ!」

体力ないのに走るのはきついけれど、それよりも安全な場所に父様の所に逃げようっ!

最悪魔法を使ってでも逃げるのよーっ!

なんて言いつつも、人混みの中を擦り抜けて走る技術は私の方が高かったので、私は何とか父様の所まで逃げ切った。

父様はお忍びで来ていた陛下と話していたけれど、今だけは勘弁して貰う。

全力で父様の足に抱き付いた。

「フローラ?」

「父様。私はもう満足するだけ見て回りました。後はここで皆の動きを父様と一緒に見る事にしますっ!」

手を上げて宣言すると、父様は最初?マークを浮かべていたけれど、私の後を追い掛けて来た第二王子の姿を見て、あっさりと理解してくれた。

「フローラ。そう言えば【願い樹】に皆がお願い事を書き始めたよ。一緒に見に行ってみようか」

「はい、父様っ!」

広場の中央にある大きな木彫りの牛。その木彫りの牛に願い事をナイフでも何でも良いから彫るのである。

勿論私は一番最初に書きました。言い出しっぺだからね。因みに内容は領に暮らす皆の健康を祈願しました。

皆は何て書いてるのかな?

『フローラお嬢様が幸せになりますように』

『公爵家の皆様の健康』

『リヴィローズ公爵領の更なる発展』

み、皆…なんて優しいのっ!?

涙が出そうなんだけどっ!?

でももっと貪欲になって欲しいっ!もっと言えば案を下さいっ!公爵領の発展の為にっ!!

……んー…私が先に欲深く書いてみようかな?

小さな子供用ナイフを手に取りガリガリと文字を刻む。

「…弟か妹が、増えます、ように、と」

「………ゴホンッ。…頑張って、みるか…」

側で父様が遠くに見える母様を真っ赤な顔で眺めていた。うむ。弟でも妹でも一杯いればいる分だけ嬉しいし、私は全力で可愛がるよっ!試練の乗り越えが必要なら全力で手伝うよっ!

シトリンも全力で可愛がりますよっ!勿論っ!前世一人っ子だったから弟妹いるのほんっとうに嬉しいっ!

「しっかしお前の娘は本当に凄いなー」

「……陛下。両手に抱え過ぎです」

「いや、だってよー。どの店に入っても見た事のないものが並んでるからよー。奥さんにも土産買ってってやりてーしな」

「腐らない物を持ち帰って下さいね」

「こんな騒ぎが夜まで続くのかー。これいいな。お祭り。今度国をあげてやってみるか?」

「……陛下。やる時は慎重にやって下さいね。言うまでもない事とは思いますが、一領地と一国だと規模が違いますから。警備、労働時間、賃金等々。考慮すべき点が多い上にまとめ辛いですしね」

「………おーい、スファル。お前の娘の脳味噌どうなってんだ?」

「基本的には領地と家族の事で占められています」

それは確かに。

私は大きく頷いておく。

そんな私を見て陛下が苦笑するので、私も笑顔で返しておいた。


父様やアゲットが入れ替わりつつ私と一緒に行動してくれたお蔭で、どうにか全ての出店を回り切る事が出来た。

なんだかんだで楽しい時間はあっという間に過ぎて、夜になっていた。

バーベキューよろしく焼き上がった牛肉は領民に配られて、ビーフシチューやミルクティーとかチーズケーキとか、様々な牛料理が皆のお腹におさめられていく。

私もミルクティーを飲んでいると、

「お嬢様っ!」

「やっと見つけたぜっ!」

とリアンとマリンが声をかけてくれた。

一年ぶりの再会に嬉しくて私も二人に駆け寄った。

「リアンっ、マリンっ。楽しんでるっ?」

「はいっ!」

「滅茶苦茶楽しいぜっ!すっげーな、お前っ」

ニコニコと満開の笑顔を見せてくれる二人を見ていると、このお祭りを企画して良かったって思える。

「こんなに美味くて精霊力の上がる食い物始めて食ったっ!」

リアンの両手には一杯の牛肉串。

「私もこんなに美味しいお菓子、始めてです」

マリンの手にはチーズケーキバー。

「他には?何か美味しいと思った物はあった?嬉しい事とかは?教えてっ!」

聞くと二人は楽し気に答えてくれた。

明日の休みも楽しみなのだと。

皆、皆楽しそうな顔をしている。

【願い樹】に火が灯された。

煙が満点の星空に向かって昇っていく。

笑い声や話し声が煙と共に星空に消える。

これは…間違いなく、大成功と言えるのではないだろうか?

私はニコニコと笑顔で父様の閉会宣言まで、リアンとマリンの三人で楽しく過ごすのだった。


【タナバタ祭り】は無事に大成功を収めた。

翌年から毎年夏に行われるリヴィローズ公爵領の恒例行事として行われる事になった。

父様や陛下は功績を讃えてくれた。

……んだけど、私はリアンとマリンと話したり領の皆とお祭り騒ぎするのが楽し過ぎて、すこーんと試練の事なんて頭から抜け落ちていたという…。

翌日の休み。

朝に試練の書を開いた時、クリアと書かれていてやっと試練の事を思い出したのは…内緒である。


短くまとまった事がないんだよなぁ。

とは言え一ページの文章が長いの、私は個人的に好きなんだよね…って言うただの呟き。

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