第五話 可愛過ぎませんっ!?
属性の開示を受けて一年の時が経った。
母様は無事に出産し、私に可愛い可愛い弟が出来たっ!
ス○リーム顔なのはこの際仕方ない事だとしてもっ!
「やっぱり可愛いよぉ~」
毎日その寝顔を覗き込みに来てしまう位には可愛いかった。
「きゃう?」
うおおおおお、小首傾げんなああああ。可愛いぃぃぃぃぃ。
「お嬢様。涎が」
「おっと、いけないいけない。だってアゲットぉ。シトリンが可愛いんだものぉ」
「そうですねぇ。お嬢様がお生まれになった時もとても愛らしくありましたが、お坊ちゃまもとても可愛らしいです」
アゲットが私の後ろで微笑えましく見守っている中、私は弟であるシトリンをただただ眺めては顔を崩していた。
漫画だったら窪んだ目の位置にハートの一つや二つ飛んでいるかもしれない。
「…アゲットぉー」
「はい。どうかされましたか?お嬢様」
「私、もう一人、ううん、もう二人か三人は弟妹が欲しいなぁ」
「まぁっ。でしたら、旦那様と奥様にそうお伝えしないと、ですね」
二人共恥ずかしがるかもしれないけどね。
それにこの○クリームの顔とがらがらの体で所謂夜の営みと言うモノが出来る気がしないので、父様達の試練のクリア状況にもよるかもしれない。
あぁ、でも欲しいなぁ…。
前世だと一人っ子だったから尚更。
『お前にはこの俺がいるだろうがっ!』
あー、うるさいうるさい。
思考の中でまで下らない俺様発揮してるんじゃねーわよ。
思い出した懐かしい声をそのまま記憶の隅の方へ退場して頂き、私はシトリンの頭を撫でる。私と同じピンクゴールドの髪。起きている時に覗き込んだら窪みの奥に見えた金とも黄とも言い難い綺麗な瞳。
「私が試練を一つクリアした時、父様達が走って来た理由が解るわ~。シトリンの本来の姿、私絶対見たいもの」
「もしも、坊ちゃまが試練をクリアした時には必ず御呼びします」
「ありがとう、アゲット。さてと。シトリン、姉様は行きたくないけど、父様と王城へ行ってくるわね」
ちゅーっ。
シトリンのおでこにちゅーをして、私は部屋へと戻る。
相変わらず骨と皮の体は体力がなく、ちょっとの風で飛びそうになるけれど、最近はその飛ぶのもちょっと楽しくなって来たのである。
いっそ風を利用しつつふわふわと部屋に辿り着くと、後ろを追い掛けて来てくれていたアゲットが私を着替えさせてくれる。
あれ?このドレス見た事ないんだけど?
「アゲット?」
私が名を呼ぶとアゲットはそれだけで察して微笑む。
「こちらは陛下からの贈答品にございますよ」
「そうなのー。陛下からの贈答品ー…うんっ!?」
「お嬢様?」
「え?それって大丈夫なの?深い意味はない?」
陛下って王様でしょ?王からの贈答品なんて色んな意味込められてそうじゃない?
私が現属性だった所為もあって、目をつけられてる可能性は馬鹿高い。
まぁ、一応ね?これでもね?公爵令嬢ですので?
「深い意味、はあるかもしれませんが、旦那様がお許しにならないでしょうから大丈夫ですよ」
「父様が?」
「ええ、旦那様が。旦那様はお嬢様の事を大層可愛がっておりますから」
うん、まぁ、それは解る。
娘ラブってTシャツ作ったら着てくれそうなくらいだもんね。
…今度妻大好きってハンカチに刺繍してプレゼントしよう、うん。
とても綺麗な瑠璃色のドレスを身に着け、髪を梳いて貰ってドレスと同じ色の大きな瑠璃色のリボンをつけて、私はアゲットと共に父様が待つ玄関へと向かった。
「父様っ」
「フローラ。準備は出来たかい?」
「はいっ。どうですか?似合いますか?」
回転してみせたい所だけれど絶対に倒れるのでやりません。
その代わり、カーテシーをすると父様はにっこりと微笑み、
「あの野郎からの贈られて来たって所は腹が立つが、フローラはどんなドレスも似合うよ」
「ありがとう、父様」
「さて、じゃあ行こうか」
外出はこれで二回目。
一回目は開示式に。二回目が今。
母様がシトリンと一緒に見送ってくれているのに手を振って。
私と父様は馬車に乗りこんだ。
今日行く場所はさっきシトリンに言ったように、王城である。
行く理由は第二王妃との間に第一王女が生まれたから。
要は出産祝いですよねー。今の王様が母様と従姉弟関係にあるのよね。昔からやりとりはあって母様は第一王妃、第二王妃のどちらとも仲が良く、家族ぐるみのお付き合いだーって母様から聞いた事はある。
で、母様はシトリンがまだ小さいと言うのもあって、今日はお留守番。領地から行く事になるから距離もあるしね。だから動けない母様の代わりに、私が一緒に行く事になった。私は陛下に会った事ないから、私の顔見せの意味も込められている。
馬車は大きな事故もなく順調に進み、あっという間に今日泊まる宿に到着した。
領地を出るのは初めてなんだけど…宿屋に泊まるのも初めてだなぁ。わくわく。
…と、到着した時はわくわくしてたんだけどなぁ。
「ご予約頂いたリヴィローズ様ですね。お部屋へご案内いたします」
アゲットが部屋の受付を済ませてくれて、私は父様と一緒に宿屋の一室へ向かう。
私と父様が通る度、
「きゃあっ!?」
「……人の顔じゃないな…」
「試練とは言え、あれはねぇよな」
なんて声が至る所から上がってくる。一階が食堂だから一目に触れるってのもあるんだろうけど。
気分は良くないよねー。
「……フローラ。大丈夫かい?」
父様はもう慣れっこなんだろう。私は、
「全然平気っ!」
なーんて胸張って答えられるくらいには気にもとめてない。
いやー、前世の時もさー。こういう噂される事態になった時があるんだけど、それも正直全然ショックを受けなかった。
いっそこの世界に転生して母様の顔見た時の方がショックがデカかった…。
……転生で思い出したっ!私教会に行ったのに神様に文句言うの忘れてたっ!ロデオの衝撃がデカすぎたんだ。くっそー。
「フローラ。今日はこの部屋に泊まるよ。平和な夜とは言え、私達の領地ではないからね。念の為に私と同じ部屋で寝ようね」
「はい、父様っ」
にっこり笑うと父様も笑顔で答えてくれた。
もうね。この顔や体を怖いと思う事はほぼほぼなくなったから、父様と一緒に寝るのだって平気ですよ。ふふん。
父様と宿屋の一室に入ると遅れてアゲットと父様の補佐兼執事長であるアラバスターことラバスさんが宿泊準備をしてくれる。
「旦那様。お食事はどうされますか?」
「んー、そうだな。持ってきてはいるのかい?」
「勿論でございます。ですが、たまには領地外での食調査も必要かと思い確認をさせて頂きました」
「あぁ、そうか。成程な。…そうだ、フローラ」
「なぁに?父様」
「たまには違うものも食べてみるかい?」
違うもの?
え?ちょっと待って?
知らなかったんだけど、私達が食べている物以外にも食品ってあるのっ!?
驚きのあまり口をぱっくり開けていると。
「ははっ、食べたそうだね。なら、ラバス。すまないが頼めるかい?」
「かしこまりました」
待って待って。
もしかして、本当に普通の食事が来るの?
うそー?
これは、楽しみにするしかないでしょっ!
「はははっ、フローラの目が輝いているなんて珍しいね」
この窪んだ目が見えるんですか?
父様凄いですね。それはそれとして嬉しいから今なら何でも許せるっ!
だってさー。いっつも食べてるのお腹は膨れるんだけど、美味しくないって言うかさー。
前世が農家の娘だった私としては、米とか主食がないとこう食べた気にならないのよ。そもそもさー?
「…ねぇ、父様?」
「ん?」
「私達がいつも食べてるあれってなぁに?」
「あぁ、あれは【カスミ】だよ」
「んっ!?霞っ!?」
「そうだよ」
「【霞】ってあの収入がなくても食べていける人に比喩的な表現に使われたあの【霞】っ!?」
「?、フローラの言っている事は良く解らないが、あれは有能な食品でね。あれを食べているとお腹も膨れるし、簡単な怪我ならば治る代物なんだよ」
……あの、スーパーな宇宙野菜人が出る有名漫画に登場する有能な豆みたいだね…。
「領民達が作っている畑や山などにたまに現れるんだ。とてもレアな食材なんだよ。領民達は見つけ次第直ぐに私達に持って来てくれている」
「……それって押し付けられてるだけでは…?」
「あー、そうかもしれないねぇ。だけどね、フローラ」
「?」
「カスミはね。領民達は食べられないんだよ」
「えっ!?」
「祝福の問題もあるんだろうけど、以前何も知らない領民の子がそれを食べて腹痛を起こしてね」
「ええっ!?」
「そんなものを領民の皆はわざわざ収穫して届けてくれるんだ。無視して捨てればいい物を、無償でね。…私達に食べて欲しいと」
そんな…そんな良い話あるぅーっ?
今度から感謝して食べるわーっ!
作物を育てる苦労ってのは良く解るのよっ!前世で農家だったからねっ!野菜育てから家畜の育成までやってたからねっ!
収穫しなくていいものを収穫して、しかもただでくれてるんよっ?しかもこっちは貴族だ。大抵の貴族は嫌われ者だ。自分達の稼ぎを持って行く人間をどうして良い風に思える?そんな貴族の為に無償でやってくれてるなんて…。
「……父様。うちの皆はほんと良い人達が多いのねっ!自慢ねっ!」
「あぁ、そうだとも。彼らは本当に良い人達だ」
「そう仰って頂けると私達もとても誇らしいですよ」
ドアが開き、食事を持ってラバスさんが戻って来た。…ラバスさんって父様より十以上歳が上で、家にいるとス○リーム顔になってるから解らなかったんだけど、…ダンディなイケメンだった。衝撃。
そのダンディラバスさんが椅子に座った私達の前に持って来た食事を置いてくれた。
パンとスープ?野菜ゴロゴロなコンソメスープ!美味しそうっ。
「父様。確かもう城下町に入っているのですよね?」
「城下町の端、だけどね。それがどうかしたのかい?」
「では私達の領の皆もちゃんと美味しくお腹が満たされる生活をおくれてるって事ですよね?」
「勿論だとも。その為の私達だからね」
それは良かったっ!
もしかして城下町の、ようは王様の御膝下の人間だけが美味しい物を食べれてるのかと思って、ちょっと警戒をしてたんだ。
でもそれは杞憂で終わったようで。
父様や母様、それに領で暮らす大人達の働きによって、皆は美味しい物をお腹一杯食べれてる。それはとても幸せな事だからねっ!
それはそれとして、試練1の領地の発展、食改善の線が無くなりつつありますっ!どうしよかっ!?
「では、温かい内に頂こうか」
「はいっ」
そう言って、父様はスプーンを持って一口スープを掬いあげた。
私も真似をして、
「いただきます」
と手を合わせてスプーンを持つと一口掬い口に含んだ。
うまーっ!
野菜の旨味が凝縮されたスープうまーっ!
「美味しいかい?フローラ」
父様の問いに私は大きく大げさなくらい頷いた。
だって、本当に美味しいんだものっ!良く考えたらカスミ以外の食品食べたのこの世に転生してミルク以外で初めてだわっ!
パンはどうだろっ?
手に持つとふわふわで幼子の手でもしっかり千切れて、口に含むと甘みが広がって、え?マジ馬…うまーっ!
「ハハッ。本当に幸せそうだな。そうか、フローラはカスミ以外も食べれるのか。それは良かった」
「?、と言うと?」
「カナリー、母様は祝福が強過ぎて幼い時からカスミしか食べられなかったそうなんだ」
「そうなのですか?」
「消化機能の方にも祝福があったんだろうね」
いや、だから、それもう祝福じゃなくて呪いだと思うのよ、私。
「フローラは私の血を色濃く引いたんだろう」
「父様、婿養子でしたっけ」
「あぁ、そうだよ。母様が好きで好きで好き過ぎて、押しかけたんだ」
押しかけ女房ならぬおしかけ旦那。
まぁ、母様も幸せそうだし、それはそれでどちらも認め合っているならばいいのでは?
あぁー、でも話は戻すけどこのコンソメスープ本当に美味しいんだけど…ソーセージとかベーコンとか一緒に入れて貰えるともっと美味しい気がするんだよねー…。
もっと細かく言えば肉っ!肉が欲しいっ!!
と望んでてもない物はないからね。
私はパンもスープもしっかりと味わって、もう一度手を合わせて。
「御馳走様でした」
と言うと、何故か父様が首を傾げた。
何故に?何かマナー的に可笑しい事でもしたか?
ちょっとドキドキする。怒られるかな?
「フローラ、いつも思っていたけれど、その【いただきます】と【ごちそうさまでした】ってなんだい?」
「?、食べる時の挨拶ですよ?」
「食べる時の挨拶?」
「はい。【いただきます】は準備してくれた人へ、そして、食材達の命への感謝を。【ごちそうさまでした】はこれだけの食材、料理を作る為に奔走してくれましたよね?御馳走になりました、って意味があります」
「………なるほど」
父様が神妙に考えこんでしまった。
そんな大層な事言った覚えはないんだけどな?
日本では当たり前の事だしね。…まぁ、現代日本では?給食費払ってるから言わなくていい、みたいな事言う親がいるみたいだけど。食材に、命を頂いている事に感謝しやがれって元農家は思うよね。
「うん。素晴らしいな。命への感謝に、人への感謝か。これは素晴らしい考えだよ。私達の領で普及させよう。私達が率先して使おう」
「え?でも父様。挨拶だったら元々あるのでは?」
前世で異世界小説とか読む限りだと、神に感謝を、とか、恵みに感謝を、とか挨拶あった気がするんだけど。
「食事の前などの挨拶は聞いたことがないよ。感謝の言葉が真っ先に出てくるフローラは本当に優しい子だ」
また嬉し気に微笑む父様をみて若干居た堪れなくなったのは内緒。
一先ず私も笑顔で答える事にした。
食事が終わり、アゲットとラバスさんに寝支度を整えて貰って、私と父様は同じお布団で眠りについた。
そして翌日。
私が普通の食事を喜んでいた所為か、ラバスさんがまた普通の食事を用意してくれていて。
それを美味しく頂いて、準備が済み次第宿屋を出て、王城へと辿り着いた。
うちも公爵家だからね。良い馬車を使っているし、領地が隣り合わせだって事もあり、予想外に早く到着した。
父様の手を借りて馬車を降りて、出迎えてくれた騎士様の案内の下、国王陛下の私室へ向かう。
そんな真っ直ぐに私室へ行っても良いのか?と父様に聞いたら、私的な事だから良いのだと教えてくれた。
成程と納得して、父様と一緒に王様の私室へと到着した。
警護をしている近衛騎士様がノックをして、ドアを開けてくれる。
中はとてもきらびやかな場所で、そこにはご立派なソファにテーブル。ふっかふかの絨毯など敷かれていた。
いかにも王様の私室って感じだなぁ…。
「よぉ、スファレライト。久しぶりだなぁ」
「そんなに久しぶりでもございませんよ、陛下」
「そうかぁ?子供が生まれてからすっかり領地から出て来なくなったじゃないか」
「それは勿論、子供達の方が貴方より大事ですから」
父様、それ言って大丈夫な奴?
あまりにも気安い口調に違う意味でドキドキする。
そして陛下は何処?私の前に父様が立ってるし、私は身長がまだ高くないし、で何も見えない。
ソファに座ってるんだろうな、って気配は解るんだけど。
「スファレライト様。もしかしてそこにいらっしゃるのは…」
そう言って立ち上がったのは、黒髪黒目のボンッキュッボンッの妖艶な美女。顔もスタイルも抜群に色っぽい。口元の黒子がまた色気を醸し出して…あれ?これ私みたいな小さい子が見ていい人なのかな?
「あらあら。カナリーの幼い頃にそっくりじゃない」
「え?ちょっとっ、ずるいわっ。タンザナっ。私も見たいっ」
「あ、ちょっとっ。出産したばかりで立ち上がっては駄目よっ」
王妃様同士仲が良いんだなぁ~。
って言うか多分私達が近づけば済む話だと思うんだけど。
「スファル。アイオラがお前とカナリーの子を見たくてうずうずしてる。さっさとこっちに来い」
「かしこまりました」
ふっと柔らかく笑って、んだかどうだか解らないけど父様が笑った雰囲気がしてこっちを向いたので頷いて私と父様は室内へと歩を進め、ソファの側へ進み父様と私は跪く。
「だから、そーかしこまるなって。俺とお前の仲だろうが」
「そんな仲だったのか。知らなかったな」
「おまっ」
楽しそうに笑って立ち上がる父様を確認してから立とうかな?
何気なく横を向いて私は固まった。
だだだだ誰ーっ!?このイケメン誰ぇぇぇぇっ!?
「とう、さま…?」
「?、どうかしたかい?フローラ」
「か、かか、かおっ」
「顔?あぁ、そうか。フローラはまだ見た事なかったか」
「姿絵ではありましたけど」
えええー?
私は父様の本当の姿を見るのがレア過ぎて、周囲をくるくる回ってその姿を確認した。
しっかりと筋肉が付いているし、元騎士団長だって話は聞いてたけど、いつもの骨皮だと嘘だろとしか思えなかった。
「父様…カッコいい…」
「フローラ…っ。い、今何て…?」
「父様、カッコいいっ!!」
「フローラっ!!」
ぐえっ!
思い切り抱きしめられて、体中からパキポキと骨の大合唱が聞こえるんですけど…。
「あー、いいなぁ、スファル。俺なんて息子達にカッコいいなんて言われた事ねぇよ」
「それは日頃の行いの所為ですわ。陛下」
「そうですわね。ですが、最近息子達が弛んでいる気もしますわ」
「あの調子では試練を全て達成するのにどれくらいかかるか…」
陛下達が何か話している気はするのですが、父様の頬擦りがこけた頬に当たって痛いのです。
「父様。陛下の御前ですよ。また後でぎゅーして下さいませ」
「そうだな」
父様が私を降ろしてくれたので、私は父様の後ろに数歩下がり待機。
何か陛下達が驚いているけれど、今は笑顔で受け流す。
「この度は出産おめでとう。アイオラ」
「ありがとう。スファル」
「して、子はどちらに?」
「クリスタ様の第四子で第一王女よ」
「姫ですか。それは、幸いでしたね」
「えぇ」
どうして姫で幸いなのだろう?
普通は男が、王子が生まれた方が跡継ぎ問題としては有難いのでは?
……後で父様に説明して貰おう。
「そう言えば、カナリーも産まれたのでしょう?どちらでしたの?」
「あら。アイオラに言うの忘れていたわね。男の子だそうよ」
「そうなの。それはおめでたいわねっ。跡継ぎの心配もなくなりますし」
あっれー?
跡継ぎ問題あるんじゃん、やっぱり。
じゃあ、何でさっき姫で幸いって言ったのさー。
「…教えてやろうか?お嬢ちゃん」
「…恐れながら陛下。私はフローライトと言う、父様母様に付けて頂いた素晴らしい名がございます。お嬢ちゃん呼びはご容赦下さい」
私は今の名前気に入ってるんだからっ!
ちゃんと呼ばんかいっ!そこは陛下であろうと言ってやるぜっ!父様罰せられたらごめんよっ!
「スファル、お前の子。天才か?」
「いえ。天使です」
「…ねぇ、陛下」
親バカ会話を打ち切ったのはアイオラ様で。第一王妃で金色の波うつやわらかな髪とは裏腹にほっそりとしたスタイル美人。モデルさんのような印象を受けてギャップが素晴らしい。
って言うかちょっと待って。
陛下、モデル系美人と妖艶系美女を奥さんにしてるってこと?…女好きだ。
じとー…。
軽蔑の眼差しを陛下に送ってやった。ス○リーム状態の窪んだ目だと解らないかも知れないけどさ。
「ふふっ。本当にカナリーそっくりね。あの子もいつもそんな目をして陛下を睨んでいたわ」
「そうそう。自分の従弟が最低だ、ってね。おほほほ」
「マジか。あいつそんな風に言ってたのかよ」
「あら?今知ったの?昔から陛下のドスケベって言ってたわよ」
「私とタンザナを妃にするって言った時のカナリーの顔ったら」
きゃっきゃと騒いで陛下のネタで笑う二人はとても親近感が持てた。
前世でいた友達と話していた時を思い出す。あれだ、微笑ましいって奴だ。
女性二人が楽し気に話していると、突然ドアをノックする音が聞こえて、失礼しますと言う声と一緒にドアが開かれた。
そこに入って来たのは、小学校高学年くらいの黒髪の男の子と小学低学年くらいの金髪の男の子の二人。
「陛下。御呼びと聞いたのですが」
「…うわっ…」
黒髪男子は腕に赤ちゃんを抱いていた。あ、もしかしてあの子が今回産まれたって言う王女様かな?
「えぇ、そうよ。二人共。お客様が来るから早く来るようにと言った筈ですよ」
「申し訳ありません、お母様」
「……せん」
おい。後ろの金髪王子。謝る時はちゃんと謝らんかい。それからさっき人の顔見て「うわっ」て言ってたの聞こえてっからな、この野郎。
「さて。こっからは仕事の話になるからな。ガキ共は一緒に外で遊んで来い」
成程。子供につまらない話を聞かせない様にって事で、遊び相手に彼らは呼ばれたのか。
王女は第一王妃様の手に渡され、私は第一王子のエスコートで部屋の外へと連れて行かれた。
その後ろを第二王子が不満そうについてくる。…嫌なら来なくてもいいのに。
何処に連れて行かれるのかと思えば、隣の部屋。
「どうぞ。フローライト嬢」
「ありがとうございます」
ソファまでエスコートされて私は大人しくそこへ座る。
お向いのソファに第一王子が座り、横にふてぶてしく第二王子が座った。
侍女がお茶とお菓子を用意してくれる。紅茶よりもジュースがいいなぁ…いや、贅沢な事は口には出さないけどさ。思う位良いじゃない?
たまに炭酸が飲みたいとか思っても良いじゃない。すんすん…。
「フローライト嬢は普段何と呼ばれているのですか?」
「フローラと」
「では僕もそのように?」
「ご随意に」
おっと、ちょっと態度が悪かったかな?
いや、でもさ。私よりも二人の態度の方が酷いからいいよね?
さっきから第二王子は私の顔見てキモキモ言って侮蔑してくるし、それを第一王子は止めも諫めもせず話かけてくるんだもんね。
どっちが酷いって、一目瞭然じゃない?
運ばれて来た紅茶を手に取り、一口飲む。あ、美味しい。
「うっわっ、笑ったよっ、マジキモっ!」
面と向かって言うっ!?それっ!?
思わずピクッと口が引きつったけれど、ぐっと我慢する。だって一応王族様だしね。
「なぁ、兄様。おれ等いつまでこんな骸骨女の相手してなきゃいけないんだ?」
骸骨女ですってっ!?
…………いや、まぁ、その通りだわ。
怒る内容ではないか。お菓子食べよう。
このクッキーみたいなの食べようかな…ぱくっ。……んまーっ!?
もしかしてスコーンも美味しいのではっ!?ぱくっとねっ…もぐもぐ…うんまーっ!?
前世で食べたお菓子より美味しいかもっ!?すっごーいっ!ますます食改善の案が薄くなるねーっ!!
「おい、骸骨女。お前、さっさと帰れよ。こっちは試練の書を読むので忙しいんだよっ」
もぐもぐもぐ…。無視。
美味しいお菓子の前に他を気にする余裕はない。
でも、これ本当に美味しいけど、どうやって作ったんだろ?
「フローラ嬢はお菓子が好きですか?」
第一王子の質問に、一瞬どうしようかと考えて。流石に第一王子を無視するのは駄目かと答えを言おうとすると、
「骸骨女に好き嫌いある訳ないだろっ。なぁー、兄様。マジでこんなのほっといてどっか行こうぜー」
うん?どっか行ってくれるの?助かるー。
私もこんなのの相手しながら美味しいお菓子食べたくないもんねー。
「こちらのお菓子は、陛下が現魔法で作られたお菓子ですよ」
「まぁ」
あぁっ、そっかーっ!
この世界の何処かにもし牛がいるのならば、現魔法を使うとお菓子作る事は可能だよねーっ!
そっかそっかー。その手もあるのかー。
それは良い事を聞いた。第一王子に感謝。
「所でフローラ嬢。一つお聞きしたい事があるのですが」
「…答えられる範囲でしたら」
「貴女が試練の書の半分をクリアしていると言う噂は本当でしょうか?」
「………は?」
こいつ何馬鹿な事言ってるんだろ?
あの量の試練の書、一年やそこらで半分もクリア出来てる訳ないでしょ。
「……その様子だと、噂は嘘のようですね。あぁ、良かった。焦りましたよ。今おいくつでしたっけ?確か四歳でしたよね?その割に口調も頭の回転も速くて、もしかしたらと思っていたのですが、良かった。でもそうですよね。そんな見た目をしているんですから、祝福返上なんて出来てる訳がないんですよ。アハハッ」
あーあ、こいつも馬鹿だったかー。二人共王妃様似でカッコいい見た目してたから少し期待してたけど残念だ。
もぐもぐ…ごっくん。
「兄様。だからもう行こうって。こんな骸骨女と同じ空気吸いたくねぇよ」
「えぇ。そうですね。とても女性とは思えない物質と一緒にいたくはないですね」
言われ放題言われてんなー、私。
実際骸骨女だからいいけどね。
「あー、でも、ちょっと惜しいですね。お母様の話だと祝福が無ければカナリー様はとてもお美しい方だと聞いていたので」
「は?兄様何言ってんだ。さっき陛下の部屋で見ただろ。陛下の部屋は祝福の影響を受けない唯一の場所で」
なんですとっ!?
だから父様は元の姿に戻ったのか。知らんかった。もぐもぐ。
「お前は…。少しは勉強しろよ。あの部屋はな。【他人の祝福の影響を受けない部屋】だ。王族を守る為のな。だから己の祝福を返上した人間は本来の姿に戻るし、自分の祝福を返上していない者は本来の姿に戻れない」
はー、成程ー。そう言う仕組みだったのかー。
あ、だから父様は本来のカッコいい父様に戻ってたんだー。納得ー。
でもそう考えると王妃様達も祝福はもう返上済って事なのかなー?陛下もー?
陛下や王妃様達の祝福ってなんだったんだろう?気になる所だけど…。
「あぁ、けど、本当にほっとした。陛下の事だから、僕とその怪物との婚約を、とか言い出しそうだったからさ。本当助かった」
「えっ!?じゃあおれもその可能性あるのかっ!?」
「なくはないだろうね。まっ、試練の書をまだ読んでしかいない怪物なら王家に入れようなんて陛下も思わないだろう」
「だ、だよなーっ!」
うん。まぁ、私も絶対にごめんだけどね。
…しっかし成程ねー。こんなのが継承権持ってたら陛下達が頭抱えるのも解るわー。
第三王子に良心を求めるか、第一王女に良識持った人を婿にして貰うかした方がいいもんね。もぐもぐ。
「怪物だもんなっ!骸骨女、とっととこっから出てけよっ!お前達みたいのがいるから、騎士団長だってこっちに戻れないだろうがっ!皆死体みたいな見た目してんだから実際同じにしても変わらねーって。な?もう潔く死ねよ。なんならお前の産まれたばっかりの弟から」
「あぁっ!?」
ブチ切れた。
私の事なら何を言っても良い。けど、家族の…しかも私の愛してやまない可愛い可愛い弟に、言うにことかいて死ねですって?
「ふざけてんじゃないわよっ!!」
ドンッ!
私の背後で何かが弾けた。
「こっちはねぇっ!アンタ達みたいなガキの相手をしたくないから黙っていてあげたのよっ!!それも解らないクソガキ共がっ、人の事を骸骨骸骨、しまいには私の大事な家族に死ねですってぇっ!?」
ドンッ!
また背後で何かが弾ける。
でもそんなの気にしてられるかっ!!
「お、お前っ、王族に向かってっ!」
「それが何っ!?王族だからって殴られないとでもっ!?世の中にはねぇっ!!【反乱】って言う王族を平民と同じ土壌に落とす言葉があんのよっ!!」
ドォンッ!
三度目に弾けた音で私はその音の正体に気付いた。
どうやら私は私の周りにある家具を爆破させていたみたいだ。
無意識に怒りで現魔法を使い、家具の側に小さな爆弾を作り小規模な爆発を起こしている。
けどそれが解った所で何を気にする事があろうか。
自分の家族を死ねと言われたのだ。これは立派な正当防衛でしょう?
「絶対に許さないっ。そのセリフを言った事、死ぬ程後悔させてやるっ!!」
「待ってくれっ、フローラ嬢、その魔法はまさか」
「冥土の土産に教えてあげるなんて優しい事しないわよっ!!」
立ち上がりまずは第二王子の襟首を掴みあげる。
「フローラっ!!」
そんな時に父様が駆けつけたけれど、私はもう止まれなかった。腹が立って腹が立って。自分の感情をコントロール出来ない。これが子供たる由縁か。
「フローラっ、止めなさいっ!」
掴みあげたシャツの襟首が私の現魔法で現れた火によって燃え始める。
「うわああああっ!!」
「うるさいのよっ!!死ぬってのは、殺すってのはこう言う事よっ!!アンタが今やろうとした事を体で味わいなさいよっ!!」
「た、たすけ、父様ぁーっ!!」
バシャンッ!
私と第二王子に頭上から水がかけられた。
「そこまでだ。少し頭を冷やせ」
「……この程度の水で冷やせますか?」
「望みとあらば氷にするが?」
「…はぁ……申し訳、ありません」
部屋の惨状をここまでにした事、第二王子に手をかけたこと。
私は、第二王子から手を離して、陛下の方へと向き直り謝罪した。
陛下は私を見て、腕を組み威厳を持って言った。
「何か申し開きはあるか?」
と。本当は山ほど言いたい事はある。お前の息子躾なってなさ過ぎだろ、とかね。
でも、言った所で何になるのよ。
王族の方が立場が上なんだから言っても無駄だし。
なら私がすべきことは、責任を持つ事だ。
「……ございませんが、もし、私を罰すると言うのならば、私は今この場で第二王子を再起不能に追い込んでから牢へ行きます。」
「なっ!?フローラっ!?」
「私にだって守りたいものがございますっ。それを、守ろうとする事が罪と言うのならば私はこの国を見限り、己のやりたいことを貫いてこの生を終えますっ!」
断言してやった。
私にとっては家族が一番大事だって。
国なんてどうでもいいんだって。
そう断言すると、父様は私を抱きしめた。父様に抱きしめられて解らないけれど、父様は何処かを睨んでいる。
「ま、待て待て待てっ。俺はまだ何も言ってないだろうっ。だからそう睨むなっ、スファルっ」
陛下が大慌ての後ろで、話し声が聞こえる。
「………そう。解ったわ、ありがとう。貴方は部屋に戻っていなさい」
「…聞いたわよ。ボルダー」
話し声は王妃様達だったようだ。二人も部屋に入って来た。
「まさか、貴方がそこまで愚かだったとは…」
呆れて言葉も出ない。そんな表情をしている王妃二人。
「か、母様っ!おれは何もしてないっ、そこの骸骨女がっ」
第二王子が口を開いた途端、陛下はあーはいはいと全てを察した。
「あっ、もう解ったわ。アイオラ、タンザナ」
「はい、陛下」
「申し訳ありません、陛下」
陛下の前で二人は深く腰をおって謝罪をしてから…二人の動きは速かった。
逃げようとした第二王子を第二王妃のタンザナ様があっさりと捕まえて頭に拳骨を一発。
私達の行動をずっと口を挟まず眺めていた第一王子は第一王妃のアイオラ様の盛大な平手が飛んだ。
「全部、全部アレクが教えてくれましたよっ!!これから貴方は私と一緒に外で剣の稽古ですっ!いいですねっ!?」
「た、タンザナ母様っ!それだけはご容赦をっ!!」
「容赦して貰えると思うのも烏滸がましいっ!!さぁ、行きますよっ!!」
タンザナ様が第二王子…さっき名前をボルダーって言ってたっけ?ボルダー様の襟首を猫みたいに掴んで凄い速さで出て行った。
「…動魔法を使わせたら彼女の右に出る者は中々いない」
陛下がそう言って私にウィンクをした。いや、いらん。
一方アイオラ様の方はと言うと、硬直状態だった。
母親に叩かれたのが初めてだったから、とか?
「…オニキス。貴方が祝福の所為で【感情とは反対の言葉が出る】のは私達は理解しています。けれど、それは【私達だけ】なのですよ」
「あぁ?」
「本当は貴方が誰よりもスファル様達を歓迎していたのは知っています。ですが、言い換えれば貴方は言葉以外は自由なのです。止める事も口を閉じる事も出来たはずですね」
「はぁ?」
「ほら、今もこうして抵抗もせずに受け入れている。試練を人に頼み自分が楽をしようとするからそうなるのです」
ガチのお説教でした。
しかし、【感情とは反対の言葉が出る】って祝福か。それは正直地獄かもしれない。
身体に祝福が出る。それは知ってたけど、そっか。思考とかも身体と言えば身体か。そう考えると彼は必要な事しか話そうとしなかった。声を出した時も、言葉の裏返しだとしたら、思いの外友好的に思ってくれていたのかもしれない。
だとしたら悪い事したな…。
「オニキス。貴方がリヴィローズ公爵令嬢と話してみたいと言ったのですよ?」
そうだったの?
だとしたら本当に悪い事したなー。
「少しは自分の祝福と向き合いなさい」
…だからさ。やっぱり祝福じゃなくて呪い、だよね。ほんと。
「ハハッ、最大級のお灸が据えられたなっ」
「…そうですねぇ。最後は貴方にお灸ですね」
「へっ?」
「子の責任は親がとらないと。そうですよね?陛下…いや、クリスタよ」
父様が私を解放して、そっと頭を撫でて立ち上がると、くるっと陛下の方を向いた。
「私は君の友人だ。唯一の親友だとも自負している」
「そ、そうだなっ」
「だからこそ、この一発を贈らせて貰おう」
「ちょ、ちょちょちょ、待て待てっ!!お前の属性で殴られたらっ!?」
振り上げられた拳は凄まじい力を持って陛下の腹へと叩き込まれた。
ぐふっと鈍い呻きを上げてぶっ倒れた陛下とそれをにこやかに笑って見守っているアイオラ様に青褪めて怯えるオニキス様。
「この姿で殴る事に感謝するんだな。…フローラ、帰ろうか」
「はい、父様」
「それではこれで失礼します。アイオラ様はお大事に」
父様に抱き上げられて私達は王城を後にした。アイオラ様とオニキス様は見送ってくださった。
その際に、アイオラ様から父様が何かを受け取っていた。
それが解ったのは、帰りの馬車の中での事。
「フローラ。これを食べておきなさい。アイオラ様から頂いたんだよ」
父様の手にあるのは以前教会で貰った生キャラメル。
「あれだけの現魔法を使ったんだ。精霊力は底をついている筈だ」
「はい」
有難く受け取って包みを開けて口に含む。
「……フローラ。何があったのか詳しく話せるかい?」
言われて私は頷き、さっきの経緯を全て話した。
その結果、父様は笑顔で。
「暫く王城に行かないようにしよう」
と宣言した。
私としては大暴れした事もあって、有難いお申し出だったので大きく同意しておいた。
予想よりも早く城から戻ったので待ち合わせ場所で待機していたラバスとアゲットは驚いていたけれど事情を聞いて、濡れた私の着替えやら込みの準備が整ったら即帰ろうと言ってくれて、行きの半分の時間で帰宅する事が出来た。
家に帰りつき、早々の帰宅に首を傾げる母様だったけれど、説明は父様に任せて私は真っ直ぐシトリンの下へと走った。
オネムモードのシトリンは相変わらずの可愛さで、私を癒してくれる。
「あぁー…可愛いぃー…。こんな可愛い弟を殺そうとするなんて。…シトリンは私が絶対に守るからねっ!」
そう宣言すると、シトリンはうっすらと目を開けて、私の存在に気付くと嬉しそうにきゃっきゃと笑い、
「あー…うー……、ろーあ…っ」
私に向かって、『ろーあ』とっ、言ってくれたっ!
「そうっ、私がフローラ姉様ですよぉーっ!!あぁーっ!!可愛過ぎるぅぅぅーーーっ!!」
堪らず叫んだ私の声に私の愛おしい弟はまたきゃっきゃっと笑ってくれた。
ちなみに父様と母様は陛下に何とクレームを入れるか使用人の皆と絶賛相談中。