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第四話 遠すぎませんっ!?

開示を受けて三日後。

私は自分の部屋に運ばれた試練の書を前に固まっていた。

開くべきか開かざるべきか。

いや、解ってるよ?神官さんはさ、試練をこなせば祝福を返却する事が出来るって言ってたし。って事は、私がこの骸骨から脱出出来るって事だし。

だけどね?

だけどさー…はぁ…。

分厚過ぎるでしょっ!!

マリンもリアンもノート位の厚さだったじゃないっ!!酷くないっ!?

最悪ねっ?最悪っ、一ページに一試練、みたいな可能性もワンチャンあるんじゃないかな?って思ってるんですぅっ!?

……そう。そのワンチャンに賭けるしかないっ!

私にはその道しか残ってないんだよっ!


行くぜっ!!


意を決して、試練の書の表紙を捲って、飛び込んで来た家の書斎にある本達よりも小さい文字の羅列。

ふっ、皆、こういうの何て言うか知ってる?


玉っ、砕っ、でぇすっ!


終わったわー…。

もう、何なのー?ホントさー。

読み辛いし、解らない言葉も一杯あるしさー…。

まずこれを読めるようにならなきゃどうしようもないじゃんよー…。

…ちょっと最初の所読んでみようかー…え、っと、何々?

しれん、と、は…。


【試練とは、祝福のレベルに合わせ課せられ、五つのランクに分けられている。最上位の試練は試練5(エー5)と言われ、主に貴族等国の中枢を担う人間に与えられる試練である】


か…。成程。高い位を持つ人間は、それなりのリスクを背負えって事ね。ふむふむ。それは納得。それから?


【【試練エー】を全て全うし【祝福チューゲン】を【返上セイボ】せし時、人は本当の姿を取り戻すであろう】


…神官さんが似たような事言ってたっけ。所でチューゲン、だったり、セイボ、だったりどうにも聞き覚えのある言葉な気がするんだけど、気の所為かな…?

何か色々書いているけれど、他は特に気にするような事は書いていなかった。

この世界がどうやって発展して来たか、とか、発展する為にどんな有名な人がいたか、とか。

その有名な人達がこなした試練がなんだったのか、とかそんな内容で埋め尽くされている。

それで一ページ目が終わり、最後に二ページ目から試練が書かれたページになる、と。

どれどれ?

ぺらっと紙を捲る音が鳴って、開いたそこには、

「ちぃっちゃっ!?」

文字が小さすぎて見えないっ!?

誰か虫眼鏡プリーズっ!?

ええーっ!?どうやって書いたのよ、こんなのーっ!?

ごしごしと目を擦って、開ける限り目を真開いて、米粒よりも小さい文字を目で追う。

えっと、なになに?試練、一つ目。


【試練1:公爵領の発展】


…うん。一つ目の内容じゃなくね?

公爵領の発展、って幅が広過ぎるでしょう。しかも一つ目でこれって…。

「いっちゃい、なにをしちゃらいいっちぇいうのよ…」

はぁ…。

盛大な溜息をつく三歳時。

「お嬢様ー?そろそろお食事のお時間ですよー?って、あら?試練の書をお読みになられていたのですか?」

「あい…。しれんのひちょちゅめからむじゅかしぃぢぇしゅ」

「あらあら?ふふふっ。それは当然ですよ」

当然とは?

何故当然なの?解らないんだけど。アゲット、詳しくっ。

じっとアゲットを見つめて説明を求めていると、アゲットはふふふっと笑いながらも私を抱き上げて、ダイニングへと向かった。

結局椅子に座らせられて父様が向かいに、私の隣に母様が座って、食事が運ばれてくる。

「?、どうかしたのかい?フローラ。元気がないようだけれど」

「そうよ、フローラちゃん。いつもご飯を一杯食べるのに」

……一杯食べるのは食べた気がしないからですよー?と言った所で伝わらないので私は目の前に出されたやたらと立派なお皿に盛られた綿飴のようなふわふわした意味不明かつ無味無臭な物体をフォークで刺して口に含んだ。

口に入れても直ぐ霧散するそれは本当に食べた気がしないのです。

「ちょうしゃま。…わちゃしは、ぢゃめなあちょちゅぎかもしれましぇん」

はぁ…。

再び大きな溜息が出てしまった。

父様と母様は私の発言を聞いて顔を見合わせて笑った。

「駄目な跡継ぎだなんて、そんなことはないさ。なぁ、カナリー?」

「えぇ。フローラちゃんは【現】属性を持っていたのでしょう?それだけでもう充分立派な跡継ぎですよ」

「そうさ。勿論、【現】属性でなかったとしても、君は私達にとって愛すべき娘ではあるがね」

「おちょうしゃま…」

感動で窪んで見えない目から涙が溢れてきそうだ。

「それにしても、一体どうしてそんな風に思ったんだい?」

「……えーのしょ、よみまちちゃ。いちぎょうめからぢぇきるきがしましぇん」

私は自分で言って置きながら情けなくて、ぐっと拳を握る。

すると二人はそんな私を見て、また笑った。

「そんなの、当り前じゃないか。フローラ」

「んもう、フローラちゃんったら真面目なんだから。もしそんな簡単に試練がクリア出来ていたら、私達今こんな姿じゃないわよぉ。おほほほほ」

……確かにっ。

母様に言われてハッとする。

そう言われてみれば確かにそうだ。もし、試練を皆こなしていたら、皆この見た目である訳がないんだ。

「それに試練の書に書かれている試練。あれは何も順番にこなしていく必要はないんだよ」

「えっ!?」

「出来る所からクリアをしていく。全部のページを読めば出来る事の一つや二つあるものだよ」

「私達だって結婚式を上げる前に、頑張ったものよねぇ?スファル様」

父様と母様が楽しそうに話している。

今大事な事を二、三言われたよね?

思い出せ、私。今何て言われた?順番通りにこなしていく必要はないって言ってた?

だとしたら話は変わって来るよね?試練の1しかまだ確認してないからさ。もしかしたら後半に私でもやれる事があるかもしれない。

それから結婚式を上げる前に頑張ったって母様は言ってたよね?

って事は。

「かあしゃま、けっこんしきのおしゅがちゃみちゃいぢぇしゅ」

「あらっ。あらあらあらっ?勿論、構わないわよ。ほら、これよ」

母様が首にかかっているネックレスのロケット部分を開けて見せてくれた。

そして、目が点になった。

え?誰?この美男美女。劇のブロマイドかなにかと勘違いして今いそうな程滅茶苦茶綺麗な二人が並んで立ってるんですけど?

あまりにも違い過ぎて、思わず絵と二人を交互に見てしまう。

「かあしゃま、びじぃんしゃんぢぇしゅ」

「まぁっ。んもうっ、フローラちゃんったら可愛いんだからっ。ちゅうしちゃうっ」

スクリー○の細長い口を丸くして母様は私のほっぺにちゅーをするけれど、私は正直それ所じゃない。

だってあまりに違い過ぎるから。

「この時はかなり頑張ったなぁ。試練クリア数、大体三百、くらいだったか?」

「まぁ、足りませんわ。五百四十一ですよ。屋敷の者皆総動員して式の時間をどうにか持たせたのです」

やっぱりそうだっ!この試練って人に手伝って貰っても良いんだっ!?

それだと本当に話は変わって来るよねっ!?上手くしたら試練全部こなす事が出来るかもしれない。何より私まだ三歳だしっ!

あれ?でも待って?母様も父様も、それだけ頑張って今尚試練をこなしているとしたら…え?まだ人の姿を取り戻せてないって事?

それにアゲットを始め、この屋敷にいる人達は皆同じ姿をしている。そう言えばさっき屋敷の者総動員したって言ってたよね?それと関係ある?

「フローラ。良いかい?試練と言うのは全てを達成すると返上する事が出来る。それは解るね?」

「あい」

「そして全てを達成させた人間は、新たな祝福を受け試練を受ける事が出来るんだよ」

「この屋敷で私達に仕えてくれている者達は、一度自分の試練を乗り越えて、祝福を返上し、私達の祝福を一部受け持ち共に返上をしてくれているのよ」

あー、だから、皆屋敷に入るとこのスク○ーム顔と骨と皮だけになってしまうのかー。成程ー。


……どう角度を変えて考えてみても呪いだってのっ!!


叫びたくなるのは仕方ない事だよ、うん。

「だからね、フローラ。まだフローラは三歳なんだ。試練が出来なくて当然なんだ。焦らなくても大丈夫だよ」

「そうよ、フローラちゃん。それにフローラちゃんは逆にとても優秀なのよ?三歳で文字をすらすら読める事がまず凄い事だもの」

確かにっ。そう言われてみたら、普通の三歳時よりは凄いかも知れない。

とは言えなー…。どうせなら私は自分の本当の姿を見てみたい。そして出来る事なら父様や母様の試練を手伝ってあげたいんだけど…。

自分の試練の書の厚さを思い出して、目標の達成は遠いかも知れないとフォークに刺した謎のふわふわを口に含むのだった。


食事を終えて、自室へアゲットに運ばれて戻った私は、もう一度試練の書を開く事にした。

順不同って言われたらもう一度ちゃんと見るべきかなって思ったから。

…五冊全て見るのは不可能だから、まずは一冊目全てに目を通そうかな。

アゲットに虫眼鏡を用意して貰って、順々に読み進めて行く。

あれ?この試練37の内容。これ今すぐにでも出来るのでは?

「あげっちょー」

「御呼びですか?お嬢様」

アゲットを呼んで、室内に入って来てくれたのを確認してから、私はアゲットの足に抱き付いた。

ぎゅーっと。甘える様に額をスリスリしつつ。

するとアゲットは「どうなさったのですか?」と優しく頭を撫でてくれた。

うん。これでオッケーなはず。

アゲットの足から離れて試練の書に戻ると、【試練37:大人の女性に頭を撫でられる】と書いてあったその最後に【クリア】と文字が浮かび上がっていた。

おお、クリアだ。

「まぁ、お嬢様。早速試練をクリアなさったのですねっ!?おめでとうございますっ!」

……うん。まぁ、そうなんだけど、何故かな?あまり嬉しくない。

簡単過ぎたからかな?達成感もないんだよね。

そんな微妙な私とは打って変わって、アゲットのテンションは爆上りだ。

早速旦那様に伝えに行かなくてはっ、と部屋を出て行ってしまう。

アゲット…速いね。あっという間に出て行ったアゲットを見送って私はふと何気なく窓を見て止まった。

え?ちょっ、この美少女誰っ!?

ピンクゴールドの艶めいた髪がサラサラと揺れて、瞳は…なんととても綺麗な緑の瞳をしている。日の光の加減では紫に見えると言うまた絶妙な綺麗さを感じる瞳だ。

体だって骨と皮のほっそい体じゃなくて、程よくふくふくした可愛らしい少女の体型をしていた。

窓に映る美少女が、私が動いた時と同じ動きをしている。…え?これはもしかして、もしかすると私っ!?

うそっ!?私の本当の姿ってこんな美少女なのっ!?

「フローラっ!!」

「ちょうしゃまっ!?」

父様の声がして振り返ると、そこには駆けつけてくれた父様が私の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。

「あぁ、本当に試練を一つクリアしたんだね。おめでとうっ。お母様にそっくりだ。とても可愛いよ、フローラ」

「ちょうしゃま…」

「フローラっ!」

「かあしゃままで」

「あぁっ、スファル様に似てとても賢そうなお顔をしているわ…。間に合って良かった…」

二人共本当に急いで駆けつけてくれたんだ?

でもどうして?なんで元の姿に戻れたの?

と疑問に思いつつ自分の手を見ると、その手はみるみる見慣れた骨の様な細さに戻ってしまった。

「…本当は後で説明するつもりでいたんだが、フローラは説明を求めているようだからね。カナリーは自室へ戻って休んでくれ」

「大丈夫よ。スファル様。大切な娘の事ですもの。一緒におりますわ。それにこの子も家族でしてよ」

あ、そうか。忘れてたけど母様妊婦だったっ。

「かあしゃまにいしゅを」

「かしこまりました」

アゲットは直ぐに私の意図を察してくれて母様に椅子を運んでくれた。

運ばれた椅子に母様が座ったのを確認してから父様は私を抱き上げてソファに一緒に座った。

「まずはフローラに謝らないといけないね。フローラはまだ三歳だと子供だと勝手に解釈して、説明を怠った。許しておくれ」

私は即行で頷いた。

許さない訳ないし。だって父様達の感覚の方が正しいからね、どう考えても。

三歳時でこんな頭回転する子、自慢じゃないけどそうそういないと思います。そして下手するとちょっと扱いに困るとも解っております。

そんな私を受け入れてくれる両親には心から感謝。

「一般的な子供であれば、試練の書を渡された時に初めて文字を覚え始めるんだよ。何が書かれているか理解しなければならないからね。赤子などの場合は物心がついてやはり試練の書を読めるようになった時に初めて試練をクリアするんだ。そして初めて一つ試練をクリアした時に一度だけ、本来の姿を知る事が出来るんだよ」

「?、ぢぇもしゃっきちょうしゃまは、かあしゃまも言ってましちゃ。けっこんしきのちょきぢゃけもぢょれちゃっちぇ」

……本当、早く練習してちゃんと喋れるようになろう。自分でも何言ってるか解らん。

「そうね。結婚式の時に元の姿に戻ったと言ったわね。良く覚えてたわね。流石フローラちゃん。いい?フローラちゃん。私達の祝福は返上する事が出来るとさっき説明したでしょう?」

「あい」

「その返上は、分割する事が出来るのよ」

「なんちょっ!?」

「試練を一つでもクリアしたら教会へ行って報告すると、中間返上するかしないか選択出来るの。そして中間返上すると一時的に元の姿を取り戻す事が出来るのよ。人に寄って戻れる時間はまちまちだけれど」

「なるほぢょー」

納得しました。

簡単にまとめるとこんな感じ?


【祝福を持ってこの世に生を受ける⇒試練の書を貰う⇒試練をクリアする⇒祝福を返上する事が出来る】


の流れが大前提。で、救済措置があって。


1、初めてクリアした時、祝福変常時の姿を一時的に取り戻し姿を確認する事が出来る。

2、試練の書に記された試練を全て返上した人は他の人の試練を手伝う事が出来る。

3、教会にて途中返上をする事が出来る。


まとめるとこんな感じである。

「私達は祝福を受けた姿で生まれるから、基本的に一つ目の試練は両親がいる前でクリアすると言うのが通説だな。親としては本来の子の姿をみたいからね」

「おっふ…ごめんなしゃい…」

「いいのよ。フローラちゃんは知らなかったんだから。それにちゃあーんと姿も見れたしね。うふふ」

「とは言え、フローラの賢さには驚いてばかりだ。…次も気を付けておいた方がいいかもしれないな」

そう言った父様の視線は母様のお腹に向けられて、母様は素直に頷いて、私はちょっと反応に困ってしまった。

…こんな風になるのは私だけじゃないかな~?と思うんだよ。前世の記憶を持った子供って多分そうそういないと思うの。いたとしてもよその世界だわ、うん。

「とにかく、だ。一つ目の試練クリアしてしまえば後は何気にすることなく試練をクリアしても構わないよ」

「そうよぉ、フローラちゃん。あぁ、でもそうね。どうせなら小さい事をちまちまやっていくより、大きい試練をこなした方が楽かもしれないわよ?」

「ちょ、いうちょ?」

「ほら、大きい試練をこなしている間に小さい試練っていつの間にか終わらせてる事が多いのよぉ~。だったら大きい試練をこなしてしまった方が効率が良いでしょう?」

「おおっ、かあしゃま、しゃしゅがっ」

確かに、今日やった【大人の女性に頭を撫でられる】みたいなのは、あくまでもついででクリア出来るかもしれない。

だったら時間を有効に使う為にも大きい試練に挑んだ方が良い。

それに私が一つ目標を決めていた方が父様も母様も皆も心配せずに見ていられるかもしれない。

一応試練の書を全部読んではみるけれど、でもまず私がする事は決まっている。

「まじゅは、ちゃんちょしゃべれるようになりましゅっ」

スクリー○顔をキリッとさせてした宣言を父様達は笑って受け入れてくれた。

話す練習をしている合間に試練の書を読み進めていたけれど、一つ言いたい。


―――先が遠すぎる…。


フローラの幼児語は

たちつてとがちゃちぃちゅちぇちょ、さしすせそがしゃしぃしゅしぇしょ

となってます。


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