第三十八話 ナンエゴ大陸で(私のではない)試練(をさせるん)ですっ!!
女神像の前で談笑をしていると、ようやく話し合いを終えたリゼ様や若達が部屋を出て来た。
皆、満足そうな顔をしてる。
特にリゼ様がとっても幸せそうに若の隣に立ってて。
隣に白藤ちゃんが駆け寄って来て嬉しそうに笑っている。そんな白藤ちゃんに笑みを返して、二人でリゼ様を笑顔で迎えると、リゼ様もまた嬉しそうにこちらを見て微笑んでくれた。
「話し合い終わりました?」
「はい。これを乗り切ればヴィアを一緒になれます。ありがとうございます、フローラ様、白藤様」
にこにこと笑顔でリゼ様と話していたら、ずいっと若が割りこんで来た。
「なぁ、リゼ。お前死神となんでこんな親しいんだ?」
「あぁ、それはね?フローラ様が発端の文通友達なの」
「文通?」
「何年も前から、それこそ幼い時から、ね?」
リゼ様の言葉に私と白藤ちゃんは「ねー」と返す。
「だから死神はリゼの性格を知っていたって事か」
「そう言えばリヴィローズ領は他大陸との商業が盛んだったな。文通友達がいるって言ってたのは彼女達だったのか?」
「はいっ、そうですよっ。他にもセイガン、キリスタにも一人ずついます」
「俺にとっての王林やウーゾみたいなものか」
アレク様の言葉に私はしっかりと頷いておくけれど、そんな男同士の友情のような綺麗な関係、とは言い難いかな。
リゼ様と目が合い、ふふっと互いに苦笑する。
アレク様達は留学時に他大陸の学校や招待された催し物などでやりとりがあり、気が合う人達と交流を深め今の関係が出来上がったんだろう。
その点私達がしてたのは、新商品の開発、好きな男を落とす方法、嫌いな令嬢の話、等々。
…碌でもねー…。
思わず心の中で悪態をついた。
まぁ、それのおかげで今は助かっている訳だけれども。
「それで?嬢ちゃん達の話は置いといて。どうなったんよ?」
ウーゾのセリフで会話の流れは修正されて、私達は若を見る。
「説明をする前に場所を移動する。さっき賢竜院の配下のもんが探りに来た。お前達がいなくなるタイミングを狙っていたんだろう」
「成程。内緒話に向いてないって事ね」
「かと言って秘密裏にすると私やウバが排除対象になってしまう。だからこの国を貴方達に案内する、って形で話を詰めようと思うの。それに、フローラ様達も私達に伝えたい事があるでしょう?」
「えぇ、あるわ。まずはアレク様の素晴らしさから語らせて貰うけれど宜しいかしら」
「宜しい訳ねぇだろ、死神っ」
「なら私はヴィアのカッコよさについて語ろうかしら」
「ちょ、え?リゼ?」
「安心して、ヴィア。私は決して負けないからっ」
「あ、お、おう?」
「リゼ様。この私のアレク様への愛と信仰と崇拝の気持ちに勝てるとでもっ!?」
「やってみなくては解りませんわっ」
「では、私も若輩者ではございますが、王林様について語ろうと思うですのっ!」
「それは王林様が泣いて喜びそうだから聞きたいわ、白藤ちゃん」
「確かに。私もそう思いますわ。白藤様」
「何か思った結果と違うですの…」
「アレク。あれ止めてくれよ。トカイでもウバさんでも構わないからよ」
「愚弟が。止めれるものなら止めている」
「実際止めに入ったヴィア殿は散って行ったしな。まぁリゼが幸せそうで何よりだわ」
「全く君達は本当に」
アレク様が苦笑いする。
おお、この会話を理解するとは…流石アレク様。
私は歩きだしたリゼ様の後の横に並ぶように歩く。リゼ様の逆隣には白藤ちゃんが歩く。
静かな場所だと聞かれる可能性があるから私達は神殿の外に出た。
「じゃあ早速アレク様の自慢なんですけど。実はこの前私に竜のブローチを買ってくれたんですっ!これがすっごくカッコよくて賢そうなんですよっ!でもちゃんと石も入ってて。いくつだと思います?」
「そうね…。十七くらいかしら?」
「そんなにですのっ!?王林様はそんなに一杯の石が入ってるのなんてくれないですの。あ、でもでもっ。石よりも綺麗な装飾のある簪をくれたんですのっ」
「簪ですか。羨ましいっ。あれはとっても綺麗な装飾ですよね。けどあれはトゥーティスの女性だから似合うんですよ。私にはとても」
「そんなことはありませんけれど…。フローラお姉様はリゼ様に何がお似合いになるとお考えですの?」
「リゼ様に、か~。そうですねぇ。なんでも似合いそうですけど…この前街でお見かけした白い烏のネックレスを見ましたわ。あれなんてどうです?」
「まぁ。それは一体どちらで見ましたの?私も是非見てみたいわ」
「あれ?でもそれはアルクフォールの方で見たはずですの?」
「そうだったっけ?じゃあカタログを取り寄せたらいいんじゃない?」
「カタログと言っても最近のカタログは冊子にもならない程薄いものが多いですの」
「石のカタログなんて紙一枚、みたいなのもありますし」
「実際紙一枚のカタログ何て広告みたいなものよね」
「ですの~。けど広告みたいだからこそ大型割引とかあったりするですの~」
「確かに。リゼ様が見た広告はどんなのでした?因みに私が知ってるのは恋人同士で来店すると二つで一つになる果物がモチーフのペンダントでしたよ」
「それは可愛らしいっ。私が見たのは魔法石の買い取りが主でしたよ。折角何か安くなるのかと思っていたらその逆でがっかりしたんです」
「がっかりですの。もしかしてそれだけだったですの?」
「後は旅行広告でしたね。あ、広告と言えば知ってます?ここナンエゴ大陸は砂漠の大陸ですが、実は秘湯があるんですよ」
「秘湯ですか?」
「ええ。しかも滝の下にあるんですよ」
「凄いですの。じゃあ滝から流れてるのも」
「勿論温泉です」
「「きゃ~っ!!」」
私とリゼ様、白藤ちゃんの止まる事のないトーク。
それにアレク様とサル以外の男達は呆れ果てた目でこっちを見ていた。
私のアレク様はちゃんと気付いてくださっているから。
視線でアレク様に合図を送った。それにしっかりと頷きで返してくれたので、男共への説明は任せる事にした。
「あ、フローラお姉様っ。あそこの店気になるですのっ」
「え?どれどれ?」
「あのお店。美味しいスイーツがあるんですよっ。是非行きましょうっ」
きゃっきゃっとはしゃぎながら白藤ちゃんが指さしたお店へ向かう。
店の中に入るとカランカランと鐘がなり、人数を聞かれたので八人と答えると一番奥の席に案内された。
けれど八人座れる席ではなかったので男と女で割れる事にした。
スイーツもあるけれど普通のレストランっぽいのでアレク様達も安心して注文出来るだろう。
四人掛けの席に私達が、六人掛けの席にアレク様達が座った。
長いソファが向かい合わせで置かれており、中心には長机がある。
この世界に来てこの手のソファがあるカフェは久しぶりに見たかもしれない。
そう思いつつ、私とアレク様は背中合わせになるように席に着いた。
メニューを覗き込み何を注文するか相談する。
適当な食事とリゼ様おすすめのスイーツを注文し雑談に花を咲かせていると、トカイの盛大な溜息が聞こえた。
「何で女ってこうなんでしょう。大事な話をしなければならないと言うのに」
言うとトカイは更に大きなため息をつく。
それにアレク様は笑った。
コンコンッと机を指で叩くような音をさせて。
「まぁ、今の内に書類作業をやろうじゃないか」
そう言うと自分の鞄から私のあげたペンと紙を取り出した。
「こんな所で公的な書類処理していいのか?」
「別に見られて困るものは持って来ていない。見るか?」
「んー?」
言いながら皆は動きを止める。
一瞬の間があり、次の瞬間また会話を続け出す。
「令嬢達への求婚の返事か?確かにこれならやれるな」
「それなら若へもありますね。やってしまいますか?」
「あ?俺達に限らねぇだろ。ウーゾにだってトカイにだって来てる。おら、とっととこの間に片づけるぞ」
「ペンと紙なら譲ってやるぞ」
「なら有難く借りましょう。私は断るつもりはないので遊びなら喜んでとお返事を書かなくては」
「お前、碌でもねぇな」
…求婚の打診に対するお断り…例え嘘でも許せん。
が、文句は後で言うとして。
「そうだ。そう言えばこれ見て下さい。この前買った鏡なんですが模様が可愛いでしょう?」
そう言ってタブレットサイズの鏡を取り出した。
そしてそこに、文字が浮かび上がった。
『よりによって何故求婚の返事って例にしたんだ、ヴィア殿』
『男が集まって他に何の書類仕事やるんだよ』
『他にもあるだろう。…フローラ、気にするなよ』
はいーっ!解ってますっ!私のアレク様っ!!
『そんな事よりこの紙とペン、一体どう言う仕組みなんです?』
『詳しく説明が欲しいならフローラに聞いてくれ』
『聞いた所で理解出来ないだろ。あの嬢ちゃんだぞ?』
そりゃどう言う意味よ。
アレク様達が使っている紙とタブレット型の鏡はリンクしており、紙に書いた内容はこちらの鏡で見る事が出来る。
しかも専用のペンで書くと文字は一つの文章が終わるごとに消えて行く。
だから後には残らないし周りに気付かれる事もない。結構な便利道具なのだ。因みにこれを考えたのは私ではなくサルである。
こういうの作ったら便利じゃね?って言われて興味本位で作った奴だ。
『で?さっき第三王子が書いてた女共はちゃんと相談してるってどう言う意味だ?』
『そのままの意味だ。会話を振り返ってみたら解る』
『って言っても普通の女子の会話じゃなかった?』
『いいや?まずフローラの言葉から会話が始まった。フローラの会話初めはこうだ。【実はこの前私に竜のブローチを買ってくれたんですっ!これがすっごくカッコよくて賢そうなんですよっ!でもちゃんと石も入ってて。いくつだと思います?】だな』
『どうでも良い会話じゃね?』
『全然どうでも良くはない。注目すべきはここだ。【竜のブローチ】と【賢そう】。更に【石はいくつ?】って所だ】
『……あ?まさか、こう言う事か?竜と賢、そして石で【賢竜院】の事を言っているのか?』
『正解だ。そしてその【人数】は何人いるのか?とフローラはリゼ殿に問うている』
『…リゼは十七と答えていたな』
『賢竜院の爺共は全部で十七人いますよ』
『…マジか。おいおい、嬢ちゃん達の会話ただの女子トークじゃなかったのかよ』
『次に進むぞ。その後、白藤殿が【石よりも綺麗な装飾のある簪をくれた】と言っていた』
『簪はトゥーティスでは武器になるって聞いた事がある』
『その通り。白藤殿は【賢竜院は独自の武力を持っているのか?】と確かめ、それにリゼ殿は【トゥーティスの女性だから似合う】のだと答えた。それを少し捻って考えれば【トゥーティスのように各自武力を持ってはいない】ととれる』
『ってことは、次に話していたフローラちゃんの』
ベキッ。
…ん?べき?何の音?
背後から聞こえたんだけど?
「悪い、フローラ。ペンが折れてしまったんだ。まだ在庫あるか?」
アレク様が振り返りながら言う。
背中合わせで直ぐ真横にアレク様の顔。え?幸せ。
………一生見ていられるわ…。
「フローラ?」
「眼福」
「…俺もだけどな。でも今はペンが欲しいんだが」
「おっと、ごめんなさい。はいっ、どうぞっ」
机の下でこっそりと現魔法を使いペンを作りだし、アレク様に渡す。
するとそれを受け取り前を向く流れで頬にキスをくれた。
「やっべぇ。死ねる…」
幸せ過ぎて言語回路がショートしてる。
顔を両手で覆い悶え、余韻を楽しんでいると、リゼ様に頭をペシッと叩かれた。
「いちゃいちゃしないで」
「リゼ様達程じゃないですぅー」
「そうなんですの?」
女子トークを再開する。
所で、アレク様はなんでペンを折ったんだろう?
「ウバが不用意にフローラちゃんなんて呼ぶから…」
私の向かいに座るリゼ様がぼそりと何か呟いたけれど、私には意味が解らなかった。
けれどその言葉を聞いて隣に座っていた白藤ちゃんが後ろを振り返り、
「皆顔真っ青ですの?」
と言っていたのでウバ様がきっと何か失態をしたのだろうと理解した。
ひとまず意識を鏡に戻す。
『話を戻すぞっ!で、死神が言っていた言葉で気になるのが【白い烏のネックレス】だと思うんだが、どうだ?第三王子』
『そうだな。それが【白い】が【教会】もしくは【神殿】って意味で、【烏】は良く【間諜】の意味で使われる。となると【賢竜院には武力はないが間諜を持っている】しかもフローラは街で見かけたと言っていた。この国以外にも見た事があると言っているのだろう』
『そしてそれを白藤様が私達のアルクフォールでも見たと言っていた』
『ここまでが賢竜院の力事情の話だな。ならその後の話は』
『カタログに付いて語っていたようですが、もしやこれは【試練の書】の事を言っていますか?』
『と考えるのが妥当だろう』
『ってーことは、嬢ちゃん達が話してたのは賢竜院の爺共の試練の書、それから試練の量の話か』
『【石】は【賢竜院の爺達】と同意なんだから…えーっとリヴィーローズ公爵令嬢が言っていたのは【二つで一つになる果物がモチーフのペンダント】でしたっけ?』
『だな。それは俺でも解るぞ。トゥーティスの試練内容の事だな。確か王林も言っていたがトゥーティスは試練の内容が皆同じらしい。確かそうだったよな、アレク』
『そうだ。でそんな感じなのか?とフローラが問うて、リゼ殿は【魔法石の買い取り】だったと答えた」
『これは、どう言う意味なのですか?』
トカイの言葉で会話が途切れた。
【魔法石の買い取り】…これを解説すると、賢竜院の爺の皆様の試練は【己の力を手放す事】と言う意味だ。
なので、精霊力を始め、己が持っている魔法の力を全て解放させなければならない。
けれど、自分から便利な物を手放すなんてあり得ないよね。魔法石は実際精霊石とは違い、人工的に作られた魔法の力が入った石なので人が使うのに便利なように作られている。現代日本で言う所の機械、みたいなものだ。
機械がなければ現代日本では生きて行けない。それを自分から全て手放すなんて出来ないよね。
でも手放して貰うけど。
暫くしてアレク様が言葉の意味に気付き私が今脳内で説明した様なことを言葉にしてくれたので一安心。
『ここまで来たら後は最後の【秘湯】だが、これは俺にも理解出来ない。ウバ殿は解るか?』
『解りますよ。リゼと二人で見つけたんです。魔力を吸いとる泉を』
『魔力を吸いとる泉?あぁ、成程。そこに連れて行くんだな?』
『爺達は希少価値の高いモノが大好きですから。唆せば間違いなく入りますよ』
『……本気で作戦まで考えてたのか、リゼ達』
『女って…』
何か変な結末に辿り着いたみたいだけど、話は通じていたしこれで良い事にしよう。うん。
会話が丁度終わった所で注文した物が届き、私達は食事を楽しむことにした。
食後また会話をしながら、今度はアレク様達も私達の女子トークに参加し作戦を詰めて行き。
数日後、作戦は決行された。
名前を考えるのが苦手でいつもそこで手が止まる…。




