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第三話 普通過ぎませんっ?


「うそぢゃっ!!」

「こらこら。フローラ。そんなに体を乗り出すと危ないよ」

父様に馬車の中に引き戻されるも、私の脳内は目の前の光景に釘付けだった。

いや、だってさ?だってよ?


外の人、み~んな普通の人間の顔してるんですけどぉーっ!?


いやね?

美醜の違いは勿論あるよ?

でもね?でもね?

スク○ーム顔が誰一人もいないんだけどっ!?

どう言う事なのっ!?

…弟が出来る事と加護属性の認定が必要だと父様に言われた一週間後。

私は初めて屋敷から出る事になった。

屋敷の門の外に出るのは初めてだったからワクワクと胸を膨らませて、突然突き付けられた現実よ…。

しかも、しかもだよ?

馬車に乗りこんで、屋敷の門を抜けた瞬間に、後方から追ってきている馬車に乗っているアゲットの顔がス○リームから垂れ目な美人なお姉さんに変わってるんですっ!

顎が外れる位驚いた。

馬車の窓から顔を出してアゲットの方を向いていた事に気付いてくれたアゲットが優しく微笑んで手を振ってくれる。

開いた口は塞がらないけれど、私も無意識に手を振り返していた。ぽっかり口を開けたまま手を振る私。おかしな図。知ってる。解ってるけどそれ以上に、…ショックなんだ。

私はてっきりこの世界の人間は皆私達みたいなスクリー○の顔をしているもんだと…。

「フローラ?どうした?具合でも悪いのかい?」

父様が心配そうに私を覗きこむ。

いや具合は悪くないんだけどね?

ショックが大き過ぎて…。

「…みんながわちゃしちゃちちょ、ちぃがいましゅ」

言いながら顔を指さすと、父様は窪んだ目の奥の目を更に小さくさせて、次の瞬間大きく笑った。

「はっはっはっ。そーかそーか。フローラは外に出たのが初めてだからね。家の中の皆がこのむくろ顔だったから、外の人達が違う顔をしていて驚いたんだね」

そうっ、その通りっ!

流石父様っ!私の言いたい事を理解してくれているっ!

「この世界には様々な人種がいるが…私達のこの姿は神からの祝福なのだよ」

祝福?

首を傾げると、父様はそのまま説明を続けてくれる。

「はっはっはっ。フローラにはまだ誰も教えてない事だから解らなくて当然だからね。そして、それは今行く所で詳しく教えて貰えるから安心しなさい」

ほほーう。今から行く教会で教えて貰えると?その【祝福】とか言うものについて。

神父さんとか神官さんが教えてくれるのかな?

「きょうかいぢぇはぢゃれがいるんでしゅか?」

「教会にいる人かい?神官様が普段はいるが、今日は陛下がいらっしゃるよ」

「へいかっ!?」

それって所謂国王陛下って奴ですか?

へぇ、じゃあかなり重要なイベントなんだね、今日の【加護属性】の開示って奴は。

「今日はフローラの為に陛下は来てくれるからね。感謝しないとね」

「?、わちゃしぃのちゃめ?」

「そうだよ。フローラの為だ。正しくは貴族の子供の開示日に平民の子達も便乗するんだ。何度も式を行うのは予算を必要以上に消費してしまうからね」

「ちゃしかに」

確かにそうだけども。だったら月の始めに、とか何週に一回とかの定例行事にしてしまえば良いのでは?

と思わなくもないんだけど、私がそれを言った所で変わらないし、余計な事なので黙っておく。

目的地へ向かう馬車の中。

外を見ると、教会へ向かう親子連れがいっぱいいた。子供の年齢はまちまちだ。中学生くらいの子もいれば、生まれたばかりの赤子もいる。

「…ちょうしゃま。みんながわちゃしちゃちぃにちぇをふっちぇくれちぇましゅ」

「ちぇを振って…?あぁ、手を振ってくれてるか。そうだね。折角振ってくれたんだ。返してあげないとね」

「はいぢぇしゅっ」

馬車の窓を開けて、私は外に向かって手を振った。

すると通り過ぎる人、すれ違う人皆手を振り返してくれる。たまに赤ちゃんとか小さい子が私の顔を見て泣きだすけれど、その気持ちは痛いほど理解するから全然気にならない。

むしろ、その子達のご両親が申し訳なさそうに私達を見て頭を下げてくれる。それに私は手を振って答えると、親御さん達は優し気に手を振り返してくれた。

「いいひちょちゃちぃぢぇしゅ」

「…そうだね。そんな人達の笑顔を守るのが私達貴族の役目だ。忘れてはいけないよ」

「はいぢぇしゅっ!」

私は馬車が教会の門を抜けるまで手を振り続けた。

私達貴族は協会への入り口が違うらしく、父様と手を繋ぎ来客貴族専用入口から教会へと入った。

こう、西洋風の世界だから入口から直ぐに女神像とかあって椅子が並んでてーみたいな教会を想像していたけれど、どうやら違うらしい。

貴族用の専用入口は入って直ぐに水が湧き出ている石があり、そこで手を清める。所謂日本で言う所の手水なんだろう。だから口は濯がなくていいのか?と問うたら、口は不浄なものだからと言われた。

世界によってこうも違うのかーと納得して奥へと進む。

途中小さな部屋がちらほらあったけれど、それは孤児の子達の部屋なんだって。その割には空っぽだったような…?と不思議に思っていたら、これも父様が今日は式の手伝いに借り出されているんだと教えてくれた。

教会に暮らすんだから教会の手伝いはしなければならない。そりゃそうだ。

貴族専用の待合室に通された…んだけど、父様や神官さんは話す事があるだろうけど、私にはないんだよね。イコール、暇っ!

「ちょうしゃま。いのりのまにしゃきにいってましゅ」

「道、解るのかい?」

「ぢゃいちゃいしょうじょうちゅきましゅっ。ちゃんけんぢぇしゅっ」

この建物そんなに部屋数なさそうだし。何処かには必ず人はいるだろうし。駄目そうな場所は入らないし。問題なしっ。

父様に何か言われる前にレッツゴーッ!

ドアは開いていたのでてくてく外へと向かう。

そして、私は忘れていたのです。

「……ぜー…はー…」

体力がほぼ無い事を。

「あんた、大丈夫か?」

誰?こんな壁に張り付いている私に優しい声をかけてくれるのは…?

壁に張り付いてないと立っていられない私をひょいっと壁から引きはがして、肩に担ぎあげてくれる。

「うっわっ。あんた、かっるっ!?しかも顔こえー。ガキって事は今日の開示式に来て迷ったんだな。じゃあ、祈りの間まで連れてってやるよ」

ちょっと。前半女の子に対して言うセリフじゃないでしょっ。でも連れてって貰えるのは嬉しいです。ありがとうっ!

顔を上げるのも動くのも出来そうにないので、顔は解らないけれど声だけで何となく男子かなって思う。私を担ぎながら危なげなくひょいひょい歩いて辿り着いたのは私が行きたかった祈りの間。

沢山ある木のベンチに座らせて貰うと、その横に私を運んでくれた彼も座った。

「………ぜー…はー…」

「ハハッ。虫の息じゃんか。ちょっと待ってな。今水を…水で良いんだよな?生き血とかの方が良いのか?」

なんでじゃいっ。こんなでもちゃんと人じゃいっ。

「水で良いに決まってるでしょっ。リアンはほっとうにおバカなんだからっ。はい、私の持って来たお水だけど、良かったら飲んで」

「マリン。そうバカバカ言うなよ。凹むだろ」

「多少は凹んだ方が良いのよ、リアンはっ。そもそもこのご尊顔を見て解らないの?御領主様の御息女フローライト様よ?そう、ですよね?」

私を担いだ男子を背後からペイッと投げ捨てて、隣に座って私にお水をくれる。助かるー。

ありがたくコピコピと喉を鳴らして飲む。

ふー、飲んだっ。

「ありがちょうごじゃいましゅっ」

「えっ!?すごっ!?確かお嬢様三歳ですよねっ!?なのにこんなに喋れるなんてっ」

やだー、褒められたー。嬉しいー。

照れるじゃないのー。もじもじと褒め言葉に照れていると、私を運んだ男の子が背後に回ってそこへ座った。

どうやらこのベンチは子供なら三人は座れるらしい。

「あんまりおべっか言うなよな、マリン。領主って言ったって所詮金持ちだろ?おれ達の働いた金持ってってる奴らじゃんか」

「リアンっ!」

「あー、おっかなっ。マリンの怒りんぼーっ」

……どうやら二人共とっても仲良しの様です。間に挟まれた私は何ともしがたいのですが。

周りを見ると、赤子を連れている大人達は微笑ましそうに、それ以外の子供達はこんな言い合い日常ですって顔してこっちを見ていた。

いつも通りなら私も構う事ないか。

どうせだから二人を観察しよう…。まずはマリンって言われてる女の子。彼女は綺麗な透き通る水色の髪をしている。白いお花の可愛いカチューシャをつけていて、良く見ると目の色が桃色に見える。肩まである髪はさらさらで恐らく清楚系美人になると思う。

反対にリアンと呼ばれた男の子。最初に私を担いだ子。彼は不思議な髪色をしている。…オレンジ…赤?光加減によっては黄色にも見える髪色もある。不思議だけど、綺麗だよね…。目の色は赤…これも見方によっては金色にも見える。そんな綺麗なグラデーションの長い髪を結い上げて一本の三つ編みにしている。

「…なんだよ」

じろじろ見てたのがバレたっ!?

この目が何処にあるか解らない目から出た視線に気付いたとっ!?

やりおる……。いや、その前にぶしつけに見たんだから謝ろう。

「ごめんなしゃいっ!」

「お、おう」

謝罪をしたら直ぐに許してくれた。良い人や…。

「別に、今更いいよ。この髪が珍しいんだろ?混じりもんの髪だからな」

「きれいぢゃよね~」

「……は?」

「しゃわりちゃい…」

触ってみたいっ。触り心地ってどうなのかなっ!?

腰の位置まである長い髪。これを今触らずして何時触ると言うのっ!?

手を伸ばしてその三つ編みの先に触れてみる。おお、滑らかだ。…綺麗ー…。

リアンって男の子なのに顔、綺麗だよねー…中世的って言うか…。

「りあんはびじんしゃんぢぇしゅ」

「あ、あぁ?なんだって?」

おおう、ここに来て私の舌ったらずが発動してしまった。

「りーあーんーはー、びーじーん、しゃ…さぁ、ん、で、すっ!」

どうだっ!言えたぞっ!私偉いっ!私頑張ったっ!

「………マリン」

「ふふっ。言葉通りだと思うわよ?お嬢様はリアンが美人だって言ってるのよ」

おお、通じてるぞっ!私は大きく何度も頷くと、リアンは「ばか」と言ってそっぽ向いてしまった。

ちょ、おいぃー、この男の子可愛いぞーっ!?

でも待ってね。リアンだけじゃないのよ。

「まりんも、び、じ、ん、さぁん、で、しゅっ!」

あぁーっ、決まらなかったーっ!

折角びしーっと褒めるつもりだったのにーっ!!

ほらー、マリンもキョトンとしてるじゃなーいっ!私の馬鹿ーっ!

「……嬉しいです。とても、とても嬉しいです。お嬢様」

でえーっ!?

褒めたのに泣きそうだよっ!?マリンが泣きそうだよっ!?どゆことっ!?

説明プリーズっ!!

「皆、集まったようじゃの。ではこれから、開示式を行う。開示式に伴い皆に今からこの世界について説明をするからの」

神官さんっ!!サンタさんみたいな見た目なお爺ちゃん神官さんっ!!そっちの説明じゃないんですっ!!

私が求めてるのはマリンが泣いた理由ですよっ!!

所で出て来た神官さん、どうして首にカウベルが下がってるんですかっ!?普通はそこ十字架じゃないんですかっ!?

しかも神官さんの着ている服がどう見ても…いや、言わないでおきますっ!!

とにかく色々説明が欲しいですっ!

「皆、よいか?そもそもこの世界は…」

そっちの説明じゃないんですっ!!

でも、ここは素直に聞こうと思いますっ!!


【我々が生きるこの世界。ここは、美しき世界『フィレカーウ』―――。


五つの大陸で形成されている世界である。


一つは雪に閉ざされた大陸『キリスタ』。

一つは異国情緒溢れ森林満ちる大陸『トゥーティス』。

一つは連なる山脈と炭鉱の発展した大陸『セイガン』。

一つは大地が育む熱砂と水の産業大陸『ナンエゴ』。

そして、その四つの大陸の中央にある貿易の大陸『オーマ』。


五つの大陸は長い年月を緩やかに過ごしていた。

勿論、争いがなかった訳ではない。だがこの世界に住み暮らす人間は争いを好まず、起きた争いも長くは続かなかったのだ。

こんなにも美しい世界を人の手で壊して失う事を恐れたから。

そう。


人々は恐れたのだ。


―――青々とした緑の恵みが燃え尽されるのを。


人々は怖れたのだ。


―――澄んだ青の清らかな水面と音がもたらす癒しが消えるのを。


人々は畏れたのだ。


―――大地が人の必要性を失わせる事を。


そして人々は、争いをこの世界から無くす努力をした。


だからこそ、


―――緑は生い茂った。


―――川は空の澄んだ青を水面に写し、清らな音と共に癒しをもたらした。


―――大地は怒りを抑え、恵みを与えた。


五つの大陸は世界の美しさを保つ為、今尚弛まぬ努力を続けている……。

この世界に産まれ落ちた人ならば、まずはこれを胸に刻まなければならない。

そして、その刻まれた想いは世界をその眼で見た瞬間から誰しもが心の奥深くにまで刻み、自ら願うだろう。

失われてはいけない世界だと】


「これこそが私達が暮らす尊くそして気高い、美しい【フィレカーウ】という世界なのじゃ」

……やべー。ちゃんとした説明だった…。

世界の成り立ちなんて初めて聞いたよ。そう言えばそんな感じの本もなかったもんな。

これって教会のみが保管出来る情報なのかもしれない。

それか、誰しもが知っている事だから文字に起こさないのかもしれないな。

どっちにしても面白い話だった。

こんなにも美しさを強調している世界。そこまで【美しさ】を主張する意味を考えると、逆にその長い年月の間にあった争い。これが余程酷い争いだったともとれる。

平和な世の中ってさ。難しいものなんだよね。

どんなに沢山の人が平和を願っていても、たった一人が小さな石を投げただけで争いは起こる。恐ろしいものなんだ。

「皆はこの美しい世界に生をうけたのじゃ。その奇跡に感謝を」

感謝…したくねぇなぁ…。だってあの神様だよ?したくねぇなぁっ!

カランカラン。

あ、カウベルが鳴ってる…。

「しんかんさまーっ。かんしゃってどうしたらいいのー?おいのりするのー?」

私の後ろから男の子の声がする。

確かに。感謝ってどうしたらいいのかな?前世ならお祈りって考えそうだけど。

「ほっほっほ。良い質問じゃな。お祈りも感謝の気持ちも勿論大事じゃが、私達にはもう一つ感謝の方法があるのじゃよ」

もう一つの方法?んー…私だったら捧げものとかかなー?って思うんだけど。

「良いですかな?私達は神様から【祝福】を与えられておる」

しゅくふく…?

「私達は【祝福しゅくふく】と呼んでおるが、正式には【祝福チューゲン】と言い、【祝福チューゲン】はこの世に生まれた落ちたその時に与えられる」

「うまれたときからー?そんなのもらってないよー」

「ほっほっほっ。いやいや。ちゃんと貰っておるのじゃよ。ほれ、お前さんは爪の色。そっちのお前さんは足にある痣。そこの三人には性別、姿、目と言う感じにな」

サンタ神官さんが私達の方を見てほっほっほっと笑ってる。

姿ってのは多分私の事だよね?

さっきサンタ神官さんは最初リアンから見てたから、リアンが性別…?あれ、もしかしてリアン、女の子だったり…?

で、マリンは目って言ってた?目が見えてない、とかかな?でもさっき何の苦も無く私に水を渡してくれたよね?じゃあ逆に目が良過ぎたり、とか?

………ちょっと待って?

今私の姿を祝福って言った?ねぇ?【祝福】って言ったよねっ!?どこが祝福なのっ、これっ!?そもそも何で【祝福】なのよっ!どー考えても【呪い】の間違いでしょーがっ!!

「神官様。祝福って思えねぇよ。おれ。神官様が言ってた祝福っておれにとっては多分、この動かない右足の事だろ?他の皆が走り回ってる中おれはこれの所為で走れない。そんな体にされたのに祝福された、なんて思えねー」

「ふむ。…そうじゃなぁ。お前さんの問いの答えもさっきのそっちお前さんの答えに通ずる事になるんじゃ。私達は【祝福】を与えられる。じゃが、これも正しくは【祝福を貸し与えられている】に過ぎないんじゃ」

ほう。貸し与えられている、とな?

「本来私達はこの貸し与えられている祝福を返さねばならん。ただ返すのではない。祝福をもう与えられる必要はないと言う意思と貸し与えられたことへの感謝を返す必要があるのじゃ」

ちょっと難しいな。でもややこしく言われているだけで要は、強制的に与えられた祝福を叩き返す事が出来る、と。

「じゃ、じゃあその必要ないって意思表示すればおれの足は動くようになるのかっ!?」

「勿論じゃ。じゃが、祝福をただで返す事は出来ない」

「ど、どうすれば…」

「【試練エー】を受けてクリアする必要があるのじゃ」

「えー、って何だ?」

「試練の事じゃよ。試練にはランクがあり、祝福の与えられた多さに比例して試練のランクは上がる。試練の量もな」

「じゃあ、おれの試練って何だっ!?」

「ほっほっほっ。それを今から属性と一緒に開示をするのじゃよ」

ふむ?

そうなのか。と言う事はもう今から属性開示が始まるのかな?

どんな事するんだろう?

一般的なノベルとか読むと水晶に触れるとー、とか、特殊な紙に触れるとー、とかだったりするけど。

この世界はどうなのかな?

「では、開示に進みますぞ。……フローライト様。貴方が最初です。こちらへどうぞ」

まさかの私が最初?

おっと視線が私に集まってる。…そんなに怯えるくらいならこっち見なくても?

取りあえず立ち上がって、と。…ふっ、フラフラですよ。

で?どこに行けばいいって?あー…私、見るからにアンデットじゃない?

「大丈夫ですか?支えましょうか?」

マリン、やっさしぃ~。でも、ここは大事な場面だろうから、気合で進みますよっ!

建物の中で窓もないしっ、他に歩いて風圧を起こす人もいないからねっ!

頑張って頑張って歩く!……良く考えたら、三歳時って一人で歩かなくない?

支えて貰えば良かった…。

神官さんの前にどうにかこうにか辿り着いて、神官さんの前に立つ。

「それではこちらに跨り下さい」

んんっ?

持ちあげられたぞっ!?で、何かに乗せられたぞっ!?

一体何に乗せられたのっ!?

神官さんに隠れて何があるのか見えなかったし、何なら上を見上げる体力がなくて見えなかったってのもあってこの教会全域を見渡せてなかったんだけど。

神官さんが立ってた位置、説教台の後ろにこの今私が乗った物があったんだよね?

くるっと背後を振り返ると、女神像とその脇に牛。

「……うしっ!?」

二度見しちゃったよっ、思わずっ!

しかもこの世界の神様、男じゃねーのっ!?なんで女神像っ!?そして何故、牛っ!?

「フローライト様。こちらの角をきちんと握って下され」

角…?

あぁ、この目の前にある二本の角…つのぉーっ!?

えっ!?ちょっと待ってっ!?私、全ッ然理解追い付いてないんだけどっ!?

「フローライト様?大丈夫ですよ。ちゃんと跳ね飛んでも受け止めますからな」

「はねちょぶのっ!?」

あ、待ってまって待ってっ!?

嫌な予感がするっ!!角っ!!牛っ!!しかも跳ね飛ばされるっ!?

これってもしかしてっ!?

「それでは、始めますよ。神よ…。この者の力をお示し下さい」

「こ、これっ」

神官さんが女神像に向かって祈りを捧げた瞬間、ガクンッと頭が揺れて。

「ろぢぇおぢゃーっ!!」

ガックンガックンッ!!

ぎえええええっ!!

この体で軽さで握力で、耐えきれる訳ないじゃーんっ!!

めっちゃんこ揺れて、揺さぶられて、前後にガックンガックン。

死んじゃう死んじゃうぅーっ!!

そもそも三歳時に乗せるものじゃないでしょーっ!!

この状況だと飛ばされてキャッチされたとしても危ない気がして。

私は、何とか落ちることなく耐えきった。…ねぇ?これ何分乗せられてた?体感五分くらいには感じたけど、実際どれくらい乗ってたの?

「な、なな、なななんとっ!?まさか、こんな結果になるとは…ッ」

え?なんなん?そんな駄目な結果だったん?こんなに頑張ったのに?

神官さん、結果どうなのよ。はっきり言ってよ。

ぐったりと真っ白い牛さんロデオに凭れ込んでいると、神官さんが何故か私の手を握って来た。

「フローライト様。貴方様の属性は【現】ですぞ」

へっ!?【現】っ!?

それは凄いことなのでは…?

「これは凄いことですぞっ。っといけない。このままそこに乗っていると【精霊力カロリー】を奪われますからな」

……カロリーとは?

「降ろしますぞ」

え?ちょっと待って。カロリーってどう言う事?ねぇ?確かにロデオってダイエットに良いって聞くけど、ねぇ、カロリーなくなるの?もっと痩せちゃうって事?それは勘弁して欲しいんだけど?

ロデオから降ろされても、私は立っていられずマリンに介護されてどうにかこうにか椅子に座る事が出来た。

「次は、カーネリアン。こちらへ」

「はーい」

あ、リアンのフルネーム、カーネリアンって言うんだ。あえ?カーネリアンって確か…。

「うわああああっ!?」

わっ!?リアンが吹っ飛んだっ!?

吹っ飛んだもののリアンはクルリと回転して綺麗に着地した。

「ふむ。カーネリアン、君の属性は【動】ですな」

「…最初から知ってるっての」

頭を書きながら、椅子に戻ってくる。

「あー、これこれ。【試練】の書を忘れておるぞ」

「へ?あー、そうだった」

「これがカーネリアン。君の【試練】の書だ」

書と言うからどれだけ太い本を渡されるのかと思ってたらノート位の冊子だった。

「どーも」

受け取って席に戻ったリアンが冊子を開いて中をパラパラと流し見して膝の上に閉じて置いてしまった。

…そう言えば、私の【試練】の書は?受け取ってないんだけど。

「次はトルマリン。こちらへ」

「はいっ」

あれ?マリンに進んだ。って言うかマリンってトルマリンって言うんだ。…うん?私の名前はフローライト、だし。もしかして、この大陸の人って名前が宝石の名前だったりするのかな?

「きゃっ!?」

あ、マリンが乗って直ぐに落ちた。

「大丈夫かな?」

「あ、はい。ありがとうございます」

神官さんに差し出された手をとり、マリンが立ち上がる。

「トルマリン。君の属性は【静】だ。そしてこれが君の【試練】の書だ。受け取りなさい」

マリンの【試練】の書。リアンと同じくらいだ。あれ?じゃあ、皆あのくらいの厚さなのかな?

って言うか、私のは?

マリンが隣に戻って来て中を見る事なく膝の上に置いて、私を支え直してくれた。え…優しい…。ちょっとときめいちゃったじゃないか。

それはそれとして私に【試練】の書が来ないんだけど…?

そうこうしている間に、子供達は次々に呼ばれ、吹っ飛ばされる子は【動】の、乗って直ぐに落ちる子は【静】の属性を開示された。

カロリーがある子が飛ばされやすいのかな?って思ったけれどそうでもないみたい。

だって、明らかに見た目【動】属性の子が【静】属性になってたりしたからね。

そもそも私があのロデオに捕まっていられたのもおかしいしね。この骨と皮の腕でしがみついていられたんだから。

赤ちゃんはどうやって乗るんだろう?って思ってたけど、赤ちゃんは専用の鞍をつけられて乗ってた。飛んでも鞍ごと飛ぶから安心らしい。……安心か?それ。

私がトップバッターだったから、後半待機時間がすっごく長かったけど、そのおかげでだいぶ体力回復したわ。

隣でマリンとリアンが支えてくれていたってのも大きいけどねっ!ありがとうっ!

やっと最後の子供が終わり、神官さまが控えていたシスターを呼んで何か入ってるらしい小さな木箱を受け取った。

あれ?そう言えば紙の箱、ないんだ。そりゃそうか。紙が貴重なんだもんね。

神官さんが女神と牛の像の前に膝をつき祈りを捧げる。

「神よ。女神よ。今日もまた祝福を感謝いたします」

…感謝する必要あるー?これ、どう考えても呪いでしょ?ねぇ?呪いだよね?

カウベルを鳴らして祈りを捧げた神官さんは立ち上がり、もう一度私達の方を向いて笑った。

好々爺ってこう言う人の事を言うのかな?

「これにて開示式は終了じゃ。帰る前に消費してしまった【精霊力カロリー】を回復する為の精霊の秘薬を配るからの。一人ずつ受け取ってから帰るんじゃぞ」

ほう。精霊の秘薬とな。

カロリー回復の秘薬って事は直ぐに食べた方が良いんだよね?

神官さんに真っ先に渡された私はその紙の包みを開いて、中身を確認して一瞬止まる。

隣で同じく受け取った二人は目をキラキラさせて、直ぐにそれを口に含んだ。

「すっげー、甘いっ」

「口の中で直ぐ溶けちゃうっ」

…でしょうね。これ見覚えあるもの。口に入れる事に抵抗は欠片もないけども、これが秘薬扱いされている事に抵抗がありまくる。

包みの中身を口に含むと、口内の熱で溶けてあっという間に食べ終えてしまう。……生キャラメルだものね。当然だわ。

カロリーは確かに回復するかもしれない。でも、これは秘薬なの?

「フローラ。迎えに来たよ」

「ちょうしゃま」

「君達、フローラのフォローをしてくれていたのをきちんと見ていたよ。ありがとう」

「いえ。領主様。お嬢様と私達は長い付き合いになりそうなので」

へ?マリン?それは一体どう言う意味?

私にはさっぱり意味が解らなかったけれど、その言葉だけで父様には通じたようだ。

父様は窪んだ顔で笑顔を作り、そうかと頷くだけだった。説明して?私は解らんのよ。

「さぁ、帰ろうか。フローラ」

父様に抱き上げられて、説明が欲しい私は慌てて振り返ると、リアンとマリンは二人立ち上がっていて。

リアンは勝気に、マリンはとても優しく笑って言った。

「またな」

「またね」

と。意味は解らずじまいだけれど、二人がこう言うと言う事はきっとまた会えるのだろう。

だから私は「うん。まちゃあいましょう」と言って手を振った。三回振ったら体力はなくなったけれど。


父様と共に帰りの馬車に乗りこむ。

そして、私は思い出した。

「しょういえば、わちゃしぃ、しぃれんのしょ、もらっちぇないぢぇしゅっ」

「あぁ、それならば私が貰っておいたよ。まだフローラには持てないだろうからね」

そう言って取りだされた試練の書は広辞苑なみの太さのが計五冊。

「うしょーんっ!?」

顎が外れる程驚いたのは、この世に生を受けて三年、初めての事だった。

……普通の子達はここで開いて確認するのかもしれないけど、どうしても確認する気になれなかったのは、いっそ察して欲しい。



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