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第三十六話 俺の心を満たしたモノ

到着した中央都市ディリンカの入り口。

門番が入国審査をしている。先にトカイを向かわせていたおかげですんなりと中に入る事が出来た。

「さて。まずは服を整えましょうか。ホテルは私からリゼ様に頼んで取って貰っているからそこで着替えましょう」

死神がテキパキと決めて行く。

それに逆らう意味もなく、俺達は先導する死神の後を付いて行った。

ん?あそこは中央都市で一番人気の高級ブランド店じゃないか。

死神の足もそちらへむいているからてっきり向かうのかと思ったら、その前を素通りして奥の方にある高級宿に入って行った。

「おい、死神。服、買うんじゃなかったのか?」

一応後を付いて行きつつも問うと。

「それぞれの国の正装で伺わないとおかしいでしょう?安心して。貴方の分もあるから」

「俺の分も?」

なんで俺の分まであるんだ?

と、問う事ももうおかしいのかもしれない。

死神のやる事に一々突っ込んでいたら身が持たない。

宿に入ると死神が護衛らしき女と話している。

そしてその女に案内されるまま部屋へと向かう。その後ろを一番に付いて行くのは何故かウーゾ。

しかもそれを第三王子も死神も誰も咎めない。

何故だと疑問に思いウーゾの顔を見て直ぐに納得した。

ウーゾ、お前あの護衛の女に惚れてるのか…。

自分の部下の解りやすさに苦笑してしまった。

一番主張してるのは尻尾だ。狼の尻尾が千切れんばかりに振られている。あれで気付くなって方が無理だ。

後ろからゆったりと付いて行くと、何故か第三王子がスピードを緩め俺の横に並んだ。

「すまなかったな。フローラの無理無茶に付き合わせて」

そう呟いた。他国の王子でしかも第三王子とは言え、こんなにあっさりと謝罪するなんて…。

驚いたものの、それは表情に出さず「いや」とただ答えるにとどめる。

「言っている事はほぼほぼ正しいからな」

「そうだな。まぁたまにマサル様の言葉に補われている所もあるが」

「マサル?」

「伝説の人面魚の名前だ」

「あぁ、あの…ちょっと待て?確か死神はあの伝説の人面魚をサルって呼び捨てにして争ってなかったか?」

「仲良しだからな。あんまり仲が良いからたまに妬きそうになる」

「……あの魚と死神の二人にか?」

「見た目は関係ない。二人の関係性に、だ」

いやいや、どう考えてもあの死神はアンタ以外目に入ってないだろ。あの人面魚だって会話を聞いてると都度命の危機にあってないか?

恋は盲目とは良く言うが、盲目の瞼の上から目隠し付けられていないか?

あんまりにも理解出来ず訝し気な目をしていた所為か第三王子は苦笑しながらも答えをくれる。

「ああやってフローラの事を理解して怒れるのは俺が知る限りマサル様だけだ。しかも男。妬いて何が悪い?」

「…まぁ、確かに。けど魚だぞ?体で繋がったり子を成す事も不可能だぞ?」

「…本気になればフローラなら魚を人にする位容易に出来るさ」

「……それはそれで死神の方が恐ろしくないか?」

「はははっ。そうかもな。まぁ、どんなフローラだとしても恐ろしくはないがな」

「マジか…」

あれが恐ろしくないとかこの第三王子の神経バグってないか?

なんて話をしていると死神が取った部屋に到着し中へ入る。

この宿で一番の客室を取ったってのは解るが、なんだこの服の量は…。

「店でも呼んだか?」

「そんな時間ある訳ないでしょう。私が現魔法で作りだしたの。一応各国に合わせて作ったんだけど…何か不味いとこあったら言ってね」

「フローラお姉様。お姉様にはこのドレスが良いと思うですのっ!」

「…白藤ちゃん。私のこの骨皮の姿を見てその露出度の高い服を進めてくるのは如何なモノなの…?」

「ですがお嬢様。この際本当の姿で行かれては?」

「うーん。そうも思ったんだけどね。それをやると相手側に舐められそうな気がして。圧を与えるならこっちの方が」

…何故圧を与える必要があるのか…。

いや、駄目だ。落ち着け、俺。死神のやる事に突っ込んでいたら身が持たないと学んだばかりだろう。

「アレク様っ!アレク様の衣装はこちらでよろしいですかっ!?もし、お好みでないならこちらでもっ!否っ!いっそ好みではなくても私の好みであれば一度着て頂きそれを目に焼き付けっ!」

「嬢ちゃん、本音が駄々洩れてんぞー」

「構わんっ!」

「嬢ちゃんが構わなくてもアレクが困るだろ」

「ははっ。全く困らないけどな。フローラが喜ぶなら喜んで着るよ?」

「アレク様好きぃぃぃぃぃっ!!好き過ぎて死ねるっ!死なないけどねっ!!生きるっ!!」

死神の窪んだ目が器用にハート型になってやがる。

こっそりと移動してウーゾの隣に立って、

「いつもこうか?」

と問うと、

「いつもこうだ」

とハッキリ返って来た。

なら何か言うだけ無駄なんだろう。

「おい、死神。俺は何に着替えるんだ?」

「へ?あ、そっちにあるの適当に選んで」

「雑だな、おい。…お前が作った服だろうが。お前のがリゼにも俺にも好む服を選べるだろ。さっさと選べ」

そう言いながら死神の首に腕をかけてずるずると引き摺る。

その瞬間、背後から凄まじい殺気が飛んできた。

死神として俺を襲って来たこの死神よりもヤバい殺気。

冷汗をだらだら流しながらそっと振り返るとそこにはどす黒いオーラを噴き出しているいる第三王子の笑顔があった。

自分の手元を見て、静かに死神を指さし視線で「これ?」と問うと、第三王子は大きく頷いた。

あー…。恐る恐る死神から手を離して、両手を上にあげた。

「何してるの、アンタ」

「お前の男の目を見てから言え」

「私の男?アレク様ねっ!?」

ぐるんっと勢いよく振り返った死神はにこにこと笑っている。

ぞわっ!?

殺気が消えてないんだがっ!?

慌てて振り返ると殺気は放ったまま死神にそれはそれは優しい微笑みを向けていた。器用だなっ!?

「お前の男、一体どうなってんだ」

「アレク様の笑顔も殺気も素敵過ぎて…くぅっ!」

「聞いてねぇな」

一歩二歩と死神から距離をとり、俺は素直に服を選びに自分で向かう事にした。

適当に手に取った正装の予想もしない肌触りに目を見開く。

なんだこれ…こんなの触った事ないぞ。こんな生地、外郭で見た事なんてない。なのに、見た目は外郭で用いられている正装そのもので…。

いや、待て。見た目も良く見ると違うぞ。使われている宝石から刺繍された糸まで…。

こんなに違うのであれば着心地も勿論違うだろう。そう気付き上着を脱いで上半身裸になって直ぐに手に取った服を羽織ってみた。

全然肌触りが違う。しかも、同じ見た目なのに涼しい…。

「どっかの世界的なネズミがいるアニメ会社のやってたアラビアンな話を意識して正装を作ってみたけど…うん。シャツも似合うしベストも似合う。いいんじゃない?」

一体何の事を言っているのか解らないが、死神が良いと言っているんだから大丈夫だろう。

「なぁ、死神」

「なに?」

「この服の素材とか宝石の研磨の仕方とか気になるんだよ。ちょっと俺と商売の話しないか?」

「やることやって全部終わったら、考えても良いわ」

断られるの覚悟で言った俺としてはいい返事が返って来てちょっと拍子抜けした。

驚きつつ死神を見ていると死神はにやりと笑い。

「貴方がリゼ様とくっついてナンエゴ大陸が落ち着けば、充分私にも利益のある商談になるわ」

「成程…」

「だからさっさとリゼ様と一緒になりなさいよね」

「あぁ。にしても、死神。お前はたまに口が悪くなるよな」

わしわしとそのピンクゴールドの髪を両手で撫で回すと、再び背後から殺気が飛んで来て、直ぐに両手を上げた。

…ここで一番ヤバいのは第三王子だ、間違いなく。

そう確信して、俺は死神から距離をとり急ぎ正装に着替えるのだった。


全員が各国の正装に着替え終わった。

死神は豪華なドレスを身に纏い、それに見合う豪華な礼装を纏っている第三王子が横に立つ。

その二人を幸せそうに眺める兎だった赤いキモノを纏った令嬢。

俺は赤がモチーフの正装を着ているが、隣のウーゾは青モチーフの正装をしている。

「若。バッチリじゃんか」

「馬鹿。俺を褒めるよりもこの用意された服の凄さに気付け」

他国の服も把握して、更にその上の素材で作られた服を提供する死神の能力の方が恐ろしい。そんな事実に気付かないウーゾがもっと恐ろしいが。

「驚いても無駄だからな。嬢ちゃんのやってることはそのまま受け止める。理由は嬢ちゃんだから、の一択で問題なし」

頷いてしまいそうになる自分を慌てて止める。

首領たるもの他国の凄さをあっさり認めていては成長がなくなる。

「皆、行くよー。迎えも来てくれてるしー」

そう言って死神が外に出るので後を追って行くと馬車が宿の前に止まっていた。

死神の侍女達を宿に残し、ウーゾ以外は馬車へと乗り込む。

ウーゾは護衛を兼ねて馬で行くそうだ。……護衛いるか?このメンバーで。

死神一人いれば全員守りきれる気がするんだが…ハッ!?ウーゾの奴、この空間にいたくなかったって事だなっ!?

それを早く言えよっ!だったら俺も馬に乗ったぞっ!?

「はいはい。三十分くらいの我慢でしょ。じっとしとれ」

「…お前、ほんっと人の脳内読むの止めろ」

「脳内に話かけられるよりマシでしょ」

「は?」

「や。なんでもない」

言っている意味は解らないが、死神が顔を歪めている事は解るのでこいつもこいつなりに苦労していると言う事は理解した。

ガタゴトと三十分程馬車に揺られ到着したのは、前に俺が取るべき行動を間違えた神殿の前。

馬車から降りて、俺達は神殿の奥を見つめる。

ぽんっと背中を叩かれた。

誰かと思って横を見るとそこには死神の不敵な笑みがあった。

敵に回っていた時は最悪な相手だと思ったが…味方になると心強過ぎるな。

口角を上げて笑みを浮かべ、俺は真っ直ぐ前を見据え一歩踏み出した。

神殿の長い石畳の道を歩き、中へと一歩入ると、そこにはトカイが待機していた。

「若。お待ちしていました」

「あぁ、待たせたな。それで結果は?」

「奥の部屋の方へと」

「そこまで持っていけただけで上出来だ。行くぞ」

「はい」

トカイの案内で俺は歩きだす。正面に女神像があり左右に奥へ進む通路がある。

神殿の中央に赤い絨毯が敷かれており左右は少なめな段差がありそちらには絨毯がしかれてはいないが外郭では使われなさそうな石の床がある。

壁もまた同じ石で作られており、窓は色ガラスが綺麗な竜の模様をあしらいはめ込まれていた。

中に入ったのは初めてだな…資料で知ってはいたが…。

トカイの後を追い横目で神殿の中を見ていたが、ふとついてくる足音の数が足りない気がして振り返った。

すると死神が正面にある女神像を見て足を止めていた。

「フローラ?」

真後ろを歩いていた第三王子が足早に戻り歩み寄ると何か話している。

「……まん…」

「………か?これ」

「わ……な…」

?、一体何の話をしているんだ?

それに今は女神像よりもこっちだろ?

「死神っ、置いてくぞっ」

「あー、はいはい。今行くー」

少し声を張り上げて言うとあっちも直ぐに返事を返して来た。

だったらいいかと俺はトカイと一緒に足を進める。すぐ後ろを少し駆け足で二人が追い掛けて来たので背後を気にせず進み右の奥にある通路を進んだ。

誰とも擦れ違わない事に違和感はあったものの、その理由も直ぐに解った。

突き当りの豪華なドアが何も言わず開かれる。


「ようこそいらっしゃいました。外郭都市首領ヴィア様」


長い長いテーブルの先。

そこに立っていたのは神殿の長のみが許されている真っ白なローブと竜の祝福持ちを現す大きなドロップ型のネックレスを身に纏ったリゼだった。

その凛として立つ姿に心が震える。

自分の知らないリゼの姿をまた見る事が出来た事に幸福感を感じる。

そんな俺の背中に、ドスッと拳が入れられた。

痛くはないものの、何を言わんとするか理解した俺はハッとして真っ直ぐリゼと向かい合った。

「こちらこそ、急な訪問への対応感謝する。中央都市の竜の姫リゼ殿」

深く腰を折って一礼する。

ゆっくりと頭を上げて、リゼと真っ直ぐに目を合わせ口角を上げて微笑む。

するとリゼもまた嬉しそうに俺に微笑み返した。

リゼとはもう言わずとも互いの想いは通じている。

ならば、俺達の最大の問題は…。


「どうぞ、お座りになってください」


ウバを筆頭に左右の席を埋める頭の固い爺共だ。

こいつらを如何に説得するか。

真っ向からこうして対峙するのは初めてだな。

椅子に座る様に言われたのだから、まずは座ろう。

真っ直ぐリゼと向かい合う席にある椅子を引いて座ろうとした、その時。

「少しよろしいかな?」

第三王子が俺の手を止めた。

驚いて振り返るが、返されるのは笑みのみ。

「何故、国同士の交渉の場でこの様に椅子が一つしか用意されず、長たる姫が座らずに立っている中家臣が椅子に座っているのか説明頂きたい」

「え…?」

「国同士の交渉は平等であってこそ成り立つ。例えそれがみせかけの平等であってもだ。己が国よりも劣っている相手でも敬意を持って接せねばならない。違うか?」

第三王子が真っ直ぐにリゼを見た。

「家臣の手綱を握るのは上に立つ者の義務だ。人を従えるにはそれ相応の覚悟と義務が生じる。この国はどうにもそれが疎かなようだ」

ジロリとまるで擬音が聞こえてきそうな鋭さで左右の座席を占めていた爺達を第三王子は睨みつけた。

「サル…。私、今転生出来そう」

「…カコ。お前はちょっと黙っとけ」

何か背後で聞こえて来たけれど今は無視だ。

第三王子に馬鹿にされたプライドの高い爺達は顔を真っ赤にして、それでも席は立たずに机を叩きつけて抗議する。

「ぶ、無礼なっ!」

「儂らはずっとこの国を支えて来たのじゃっ!」

「若造が知ったようにっ!!」

「出て行けっ!!交渉などする必要はないっ!!」

「醜い豚めっ!!」

ガヤガヤと騒ぎ立てる中に第三王子を非難する言葉が混じった。

それを聞いた瞬間、あぁヤバいと脳裏を過る。

「ちょっと黙りましょうかっ、クソ爺共っ」

カッ!

ヒールを叩きつける音が聞こえ、一気に静まり返る。

「私の愛しい愛しいアレク様を、侮辱したのはだぁれ?」

ゆらりと脇から出て来た死神が手に見た事もない武器を持って現れた。

「あら?どうしたの?急にお黙りになって。もう一度聞くわぁ?私のアレク様を侮辱したのはだ・あ・れ?」

ガチャッ。

死神の手が動き、武器の先がしっかりと醜いと言い放った爺に向いている。しっかり聞こえてるんじゃねぇか。

「カコっ、落ち着けっ。火炎放射器しまえっ!」

伝説の人面魚が第三王子の腰の瓶から顔を出し騒いでいる。

「フローラ。大丈夫だ。俺は気にしてないから。それに俺にはフローラがいるしな」

「はいっ!私はずっとアレク様の側にいますよっ!でもそれとこれとは話が別でしてっ!!大丈夫ですっ!!こんがりと焼きますからっ!!」

「うん。落ち着け」

言いながら第三王子は死神の側に行き抱きしめた。

その時に死神の嬉しそうな顔たるや…。第三王子、静かだからいっそそのままにしておいてくれ。

「こ、こやつらはい、い、一体っ!?」

青褪めた爺共の中の一人がどもりながら言うので、俺は笑って言った。

「紹介が遅れました。そちらオーマ大陸オーマ国第三王子であらせられるアレキサンドライト殿下、そしてそちらの彼女が婚約者のフローライト・リヴィローズ公爵令嬢、更に私の左斜め後ろにいらっしゃるのがトゥーティス大陸琳五家内白家令嬢白藤殿です」

伝えた瞬間に爺共が青褪める。

成程。リゼは爺達にこいつらが来る事を知らせていなかったのか。

自分の女が予想以上に賢い女だった事を知り、また発見があったことに嬉しくなる。

「賢竜院の皆様。他国の大使の皆様に大変な事をしてくれましたね。本日の交渉は参加せずお帰り頂けますか?」

賢竜院…成程。この爺達の組織の名前か。

だが爺達は一歩も動かない。

「…帰れと言っているのですっ!今、直ぐにっ!これ以上我が国の恥を晒さないで下さいっ!」

リゼのハッキリとした声が室内に響いた。

その言葉に爺達は渋々立ち上がる。

「…ちっ。燃やし損ねた…」

ノロノロしていた動きが死神の言葉で急加速して出て行った。

…ウバだけがその場に残っているが、これはきっと仕方ないのだろう。

それに今はそんな事はどうだっていい。

爺が皆出て行ったことを確認して、俺はリゼに向かって両手を広げた。

「リゼっ!来いっ!」

「ヴィアっ!!」

嬉しそうに笑いリゼもまた両手を広げて俺の胸に飛び込んで来た。

その温もりに、リゼの笑顔に。

俺の心の隙間が、空虚感が、やっと埋まったと実感した…。

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