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第三十二話 俺の今の状態

この感じは…きっとまた目を覚ましたらあの場所、あの日であの時間なんだろう。

三回も繰り返したらいい加減慣れる。

ふぅと息を吐いて、ぼんやりと思考の中に落ちる。

今回もあの時間に戻ると言う事は…いや、それ以前にそもそも俺は死ぬ度に同じ時間に戻される。

と言う事は、だ。

この俺が三度も殺されたって事か?しかも同じ奴に?

あり得ない。


(…気にする所はそこなの?呆れた…)


また脳内に声が響く。

この声もいい加減慣れてきたな。

無視したいとこだが、頭にこうして直接声をかけられると無視も出来ない。

大体、呆れたってなんだ。

気にする所はそこって、他に何を気にしろと?


(…何で死んでも時間が戻されるか、とか、考えない訳?)


……は?

予想外の事を言われて返す言葉が浮かんでこない。


(…やっぱり無知なる者だわ…バーカ)


ばっ!?

誰に向かって馬鹿なんて言ってやがるっ!!

そう言い返したかったのに、体を揺さぶられる感覚に意識が浮上して俺は目を覚ました。


明かりが眩しくて体を起こして目を擦る。

「やっと起きましたか。毎度申しておりますが、寝る時は執務室ではなく寝室のベッドで寝て下さい」

起きた早々にトカイに小言を言われ、若干疎ましく思いながらも机の上にあるカレンダーを見てまた巻き戻った時間と日付を確認した。

「…時間を巻き戻される理由…?」

ぼそりと声が言った言葉を思い出す。

だが、その理由は本当に必要か?

死ねば時間が戻る。それは正直有難い事だろう?

何故なら一種の不老不死と同じだ。

失敗をしてもやり直せる。むしろ便利な能力だ。

…まぁ、今の所殺されて戻っているのが不満ではあるが…。

殺される、か。…俺は確かに立場的にも狙われやすい人間だ。俺の命を狙う奴なんてごまんといるだろう。

だから今更犯人探しなんてするつもりはない。…正しくはなかった。

「……こうも殺されて戻されるとなると、計画を遂行するには俺を殺した奴は、邪魔だ」

「…若?寝惚けた事を言うなら腕だけ置いて寝室へどうぞ」

トカイ…。腕だけを置いてって腕だけ残してでも働かせる気か。

まぁいい。前回と同じ行動をとるのは能無しの行動だ。

今回はリゼに会いに行かずただ仕事をしていてみるか。

その結果でまた何か解るかもしれんし。

そしてその日は何処かに出る事もせず仕事に埋没し、翌日も出る事なく仕事をしてみた。

そうして何週間か過ぎ、事は起きた。

中央の連中が攻めてきたのだ。

俺達外郭の人間はそれに応戦し、結果ナンエゴ大陸は火の海となり…どちらの都市も壊滅状態に。

俺はそれを見届けてから、死んだ。

そして、やっぱり時間は巻き戻される。

トカイが来る前に起きて、椅子の背に大きく凭れかかった。

待て。おかしい。仕事に集中してもこうして死ぬのか?

一番最初、リゼと仕事。どちらとも大事にしていても死んだ。

リゼに集中して、リゼの事を探っていても死んだ。

待て。

待て待て待て。

何でだ。今回は誰かに襲われた形跡はない。ただ単に戦争状態で俺は力尽きただけだ。

殺されずとも俺が死ねば時間は巻き戻るって事か?

だとするならば…。

それから俺は嫌な予感がして、ありとあらゆる方法を試し、行動を起こした。

そして、気付いた。

俺はある一定の日数以上は生きられないのだと。

最長で一ヶ月。一ヶ月経過するとどんなに抗おうと、どんなに違う行動をしようと俺の命は失われ時間が巻き戻される。

時には病で、時には戦争で、時には部下の反乱で。様々な形で命を落とした。それと同時に何度か、死神にも遭遇した。

死神は確実に俺の命を絶ちに来た。

どんな状況でも、どんな場面でも。ある時なんて風呂に入っている時にまで殺しに来た。

そうして何度も殺されてやっと理解した。

どうやら俺は時間を進める事が出来なくされたらしいと言う事に。

便利な能力だと思っていたのだが…その便利と言う感覚はかなり薄れてしまっていた。

【やり直せる】のではなく【引き戻される】という事に気づいてしまったからだ。

進めないのであれば、未来を見る事が出来ないのであれば、どんなに便利な能力であろうとも捕らえられている獲物と一緒だ。

このままでいて堪るかと、また足掻いて。

あっさりと死んでしまい巻き戻ってしまった俺は執務室の椅子に座りながら額に手を当てて俯いた。

このままじゃ不味い。

どうにかしてこの巻き戻しを解除し、自分も死なないようにしなければ…。

その為にも厄介なのが…死神だ。

「…どうにかしてあの死神を見つける事が出来ないだろうか…」

何度も何度も巻き戻されては、知らなかった事実を知っていくなかで、死神の情報だけは何も得る事が出来ていない。

死神が【何か】を握っている。それだけは確実解る事だと言うのに、死神を捕らえる事が出来ない。

「考え事ですか?深刻そうな顔して珍しい」

「トカイ。そりゃどう言う意味だ」

「言葉の通りですが?若が深刻そうな事は滅多にございませんので。…それで?何に悩んでいるんです?」

これまでの流れを話した所で理解して貰えるとは思えない。

だが、行き詰っているのも確かで…。

「言った所でお前は信じないだろうが、もしもお前が同じ状況ならどうするか、考えた答えを寄越せ」

「かしこまりました」

俺は今の状況をトカイに包み隠さずに告げた。

段々とトカイは「若、頭大丈夫ですか?」と言いたげな顔になり、最終的には顔に倣った言葉を発したのだが俺は気にせず説明を続けた。

一連の流れを告げると、トカイは大きく息を吐いて言った。

「私だったら女を疑いますね」

「女?何故だ?」

リゼを疑う必要が何処にある?

「まずはその謎の声。あんまり若は意識していないようですが、恐らくその声は女です。話し方を変えてしかも若が動揺しているのを良い事に好き勝手に発言していますが、女独特の会話の仕方が隠しきれていません。そして次に死神の攻撃が不意打ちのみと言うのも気にかかります。それは真っ向から戦えば負けると言う事に気付いているからではないでしょうか」

「だが女だとしてもそれがリゼには繋がらない。リゼの目の前で死んだ事も何度かある」

「…若。私は女とは言いましたがリゼとは言っておりません。常々思っておりましたが、若?女はリゼだけではありませんよ?」

「………うるさい」

俺にとってはリゼ以外の女は、ただ性別が違うだけの人なんだよ。

とは口に出しては言えず、トカイから顔を背けただけになってしまった。

「…ですが、リゼとその死神。繋がっている可能性は限りなく高そうですね」

「そうか?」

「更に言えば、若が入った宝石店の店主。この上なく怪しいですね」

「…まぁ、それは俺もそう思っていた。あれから何度か行ってみたが、店はなかった」

「時間が巻き戻っているのに店がない?」

「あぁ。怪しい事この上ないが、行っても何もないのであれば意味がない」

「同じ時間に行ってみても、ですか?」

「あぁ、ない」

「店が会った時との違い、とかないんですか?」

「違い?」

ざっと記憶を辿る。

大きな違いなんて思い当たらない。

「…あー…強いて言うならリゼへの贈り物を買いに行ったって感情くらいなもんだな。それ以外は本当に何の変化もない」

「…成程。ならば増々怪しいですね。リゼと死神と店主が若の今の状態の何かを握っているのは間違いないでしょう」

「無知なる者、愚かな者、か。どうにもまだ俺には解っていない事があるようだな」

「若?」

「原点に戻るか。…トカイ。俺はリゼに会いに行ってくる。悪いんだが」

「はいはい。仕事は任せて下さい」

呆れたような目で見るトカイに首を振って否定する。

「そうじゃない。付いて来い」

「え?」

「俺に今必要なのは第三の目だ。お前は俺を監視しろ。死神が出るタイミングを俺に知らせるんだ」

「……かしこまりました」

頷いたトカイに頷きで返し、俺とトカイは外に出た。

今日の仕事?後回しでもどうにかなる。

外に出て真っ直ぐリゼとの待ち合わせの場所へ向かう。

しかし、何故か今回はリゼがいない。

おかしい。いつもこの時間でリゼに会いに来れば必ず会えていたのに。

「…私の存在がまた違う状況を呼び寄せたのかもしれませんね」

トカイの言葉に俺は頷く。

「探してみるか」

「はい」

リゼと会う為に町の中をうろついてみる。

怪しかった店の方や裏通りなども一通り歩いてみたが姿はない。

「私といると駄目なのかもしれませんね」

「少し別行動をとってみるか」

トカイと別れ、またリゼを探していると。

「ヴィアっ!!良かった、ここにいたんだねっ!!」

リゼが俺を見つけ駆け寄ってきた。

いなくなった途端に?

…リゼが竜の姫だと言う事は解っている。

だが、リゼだって同様に俺が首領だと言う事も解っている筈だ。

なのに、側近がいなくなった瞬間に現れた?

俺だってリゼが誰かといたなら疑って間に入ろうとはしないし、実際ウバと会っている時に割って入ったりはしなかった。

「ヴィア?」

けど、なぜだ…?

死神や店主の事があった所為か…今のリゼを真っ直ぐに見る事が出来ない。

「ヴィア?どうしたの?」

「何がだ?」

そっと俺の手に触れるリゼの手がひやりとして、その冷えた手がいつものリゼと結びつかず感情がスッと引いて行くのを感じた。

「なんで、そんな、睨んでるの?私、何かした?怒ってるの?」

「怒る?怒る必要なんてないだろ」

睨んでる?怒ってる?

そんな訳ない。

自分でもちゃんと口に出した。

怒る必要なんてないんだ。

だからそう答えたのにリゼは納得していないようだった。

「でも、だって…」

「それとも、お前は俺を怒らせる何かをしたのか?」

わざとそう問うとリゼは大きく首を振った。

俺はそれを見ていつも通りの笑みを浮かべる。

「なら、気の所為だろ。ちょっと嫌な事があってな。イライラはしてたかもしれん」

「え?あ、そうなの?」

良かったとふんわり笑うリゼに、あぁ、やっぱりリゼのこの表情が堪らなく好みだと俺は思った。

一先ず納得したリゼの手をとり、トカイに合わせようと歩きだした、その時。


「若っ!!」


突然トカイの声がして、俺は咄嗟にリゼを胸に抱き寄せて右へと飛んだ。

駆け寄ってきたトカイが剣を鞘から引き抜き、ガキィンッと何かを受け止める。

それが死神の鎌だと言う事に直ぐ気付いた。

「リゼ、隠れてろっ」

そう言ってリゼから身を離し、同じく円月刀を抜いて死神に向かって振り被った。

しかし。


『……無駄…』


死神を確かに斬りつけた筈なのに、まるで雲を斬るかのように死神は霧散する。

かと思えばトカイの背後に現れて、トカイの背中にその鎌を振り落とした。

それを俺はどうにか円月刀で払い退けるが、次の瞬間。


ドスッ。


俺の背中に衝撃が走る。

「若っ!!」

「ヴィアっ!!」

リゼとトカイが駆け寄ってくるのが視界の端に映った。


「まさか死神が2体いるなんてっ!!」


トカイの言葉が消え行く意識の中に届いた。

死神が、2体…?

そうなってくるとまた話は変わってくる。


「……た、…のっ!?、ど…たす…の…」


俺を抱きしめているのはリゼか…?

リゼの言葉を最後まで聞きたい。

何か大事な事を言っている気がするんだ。

そう思っていても、薄れて行く意識に抗う事は出来なかった。


―――また、執務室で一日が始まる…。

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