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第二十九話 俺の絶望


そうしてまた数日。仕事を片付けながらの逢瀬を繰り返す。

今日もまた仕事を片付けてから、外に出てリゼとの待ち合わせの場所へと足を向けた。

リゼとの待ち合わせ場所はマルシェの端と決まっていて。

大抵はリゼの方が俺を見つけて駆け寄って来てくれるのだが、ここ数日はそれがなく俺の方が先についている事が多い。

その事に多少の違和感を感じながらも、そもそもが中央の人間だ。

もしかしたら隠れて住んでいる可能性もある。だからその事に深く触れる事はしなかった。

しなかったんだが…。

「……流石に遅すぎないか?」

待ち合わせの時間よりもう一時間以上過ぎている。

今日は来ないのか?

そもそも待ち合わせをしているとは言っても、日を決めている訳じゃない。

逢瀬を重ねて行く内に、週に二回会うようになっただけだ。

俺が仕事で会いに行けない日があれば部下に伝言を頼む様にしていたが…逆に言えばそれをいつも聞いていたリゼは常にこの場所に来ていたって事になる。

なのに、リゼが来ない。

何か、あったのかもしれない。

俺はこれでもこの都市の首領だ。俺の女と知って狙われた可能性もある。


(その可能性が高いかもね)


耳元に囁くように言われて一気に鳥肌が立ち警戒態勢に入った。

「誰だっ!?」

その場を飛び退き周囲を警戒する。

しかし、俺に声を寄越した女らしき姿はなかった。気配すら感じられない。

気の所為な訳はない。あんなにハッキリとした悍ましさを感じたのだから。

ぞわりと再び鳥肌が立つ。

あんな恐ろしい気配を持った奴がこの都市にいるなんて。

警戒を強めなければ…警備巡回も増やした方がいいかもしれない。

そうでないと年寄り女子供なんて…女…そうだ、リゼっ!

探さなければっ!

周囲を見渡して姿がない事をもう一度確認して走りだす。

待ち合わせの場所周辺にはいないらしい。

途中警備巡回をしている部下を見つけて、怪しい奴が入り込んでいる可能性を告げ巡回強化するように言い、更に周辺を駆けまわる。

リゼの姿がない。

ただの遅刻なら問題は無い。けれど、誰かに狙われでもしたら。


「離してっ!!」


裏路地の方から声が聞こえた。

ずっと探し回っていた女の声だ。街が得る筈はない。

路地裏へ向かって足を向け、その声がした場所へと飛び出した。

「今日こそは帰って頂くっ」

「嫌ですっ!私はっ」

「リゼっ!!」

俺はリゼの腕を掴む男の腕を掴み間に割って入った。

「俺の女に何してる?」

「俺の女…?」

訝し気に俺を見る目に対抗する意味を込めて睨み返す。

「………もしや、お前は…」

眼鏡の奥で冷えた目が更に冷度を増して細められた。

その視線はそのまま俺から俺の背後にいるリゼへと向けられる。

「解っているのですか?貴女の行為が裏切りだと」

裏切り?

男の言葉の裏にある意味は、恐らくリゼが中央の人間で俺が外郭の首領ってことだろう。

俺は今現在知らないふりをしているが、リゼはきっと知っている。

だからこそ、リゼは言った。

「解っているわ。けれど、それを私は裏切りとは思わない。だって話せば解り合えるって信じているもの」

甘っちょろい考えだ。

話し合いで解決出来る事はそう多くない。

どんな事も最終的には力の差で決まる。…俺達はそう言う大陸で生まれ育っているんだ。

「甘ったれた事を…。…私は貴女に最後通告をしに来たのです」

「ウバが来た時点で理解しています」

ウバ…?

その名は何処かで聞いた事があるような気がする。

一体何処で聞いたのか…。

「そう、ですか。とても残念です」

「……ウバ。私は諦めていません。きっと…きっと解り合えるって」

二人の会話が俺の脳内検索を阻害する。

俺に捕まれた手を払い退け、男は俺達から一歩後退した。

「今更何を解り合おうと言うのか、私には理解出来ませんが、貴女は昔から言い出したら聞かない頑固者でしたね」

リゼは何も言わない。

ただ胸の前で拳を握ってじっと男の言葉を聞いていた。

「…もう、会う事もないでしょう。さようなら」

カツカツと靴を鳴らして去って行く後姿を二人で見送った。

てっきりリゼは止めるものとばかり思っていたのだが。

そう思って振り返ると、リゼは俯き何かをグッと堪えていた。

「リゼ…?」

今俺はお前に何をしてやれるだろうな…。

俺はリゼをそっと抱き寄せた。

ビクリと体を跳ねさせた後、リゼは俺の背に腕を回す。

「…ごめん。もう少しだけ、このまま…。ヴィアの強さを私に分けて…」

一体何に怯えているんだ?

震えるリゼをきつく抱きしめながらも、何故か訊ねる事が出来ずリゼが満足するまで俺はリゼを抱きしめ続けた。


その日の夜。

俺とリゼは感情に誘われるままに抱き合い、互いを求めあった。

リゼの知り合いとは言えど、あんなのに襲われた後だ。

心配になり、俺はリゼに家に来るように告げたのだが、リゼは断固として首を縦に振る事はなかった。

仕方なく俺が懇意にしている安全面がバッチリな宿をとりそこに泊まる様に誘導した。

最初は断られたが、こっちは【妥協しない】と【心配だからだ】と交互に訴え続け、最終的にリゼは苦笑しながらも同意してくれた。

宿までリゼを送り、部屋に入ったのを確認して俺は帰宅する。

「お帰りなさいませ」

「……警備強化の件、どうなってる」

「巡回路の見直し、人員配置の見直しは既に済んでおります」

「そうか」

それだけでは足りないとは思うが今やれるのはそれ位だろう。

リゼの安全の為にも、もう一度警備関係の見直しを、とそう考えていたその時。


ウオオオオオォォォォッ!!


窓ガラスがビリビリと揺れる。

揺れるどころか振動で割れた。

聞いた事もない咆哮。けれど、俺達は、外郭の人間は直ぐに理解した。

「竜の咆哮っ!?」

俺の代わりにトカイが声を上げる。


ドォンッ!!


窓の外から大きな爆発音と砂煙が押し寄せて。

俺達は咄嗟に地面に膝を付き耐えた。

耐えたのだが、次々と来る爆風に立ち上がる事が出来ない。

「ぐっ、中央の力がこれ程とはっ」

トカイの言葉に思わず頷きたくなるが、それは相手を認めているみたいで出来なかった。

とにかくどうにかして立ち上がり、攻撃を仕掛けている奴を仕留めなければっ。

攻撃の隙を見て動き出す。

「一般人を避難させろっ!武器を持てる奴は皆犯人を探せっ!!」

擦れ違う部下達に指示を出し俺は建物を飛び出した。

攻撃を仕掛けてる奴は、何処だっ!?

空から降ってくる巨大な火の玉。その火の玉は建物や地面に落ちると拡散し落下した周囲を火の海に変えて、全て塵にしていく。

そこには建物も、草や花も、人さえも何も残らない。

夜だと言うのに、辺りは赤く煌々と照らされていた。

早く攻撃を止めなければっ。

俺は、この都市の首領だ。こんな時に動けなければ何の意味もないっ。

走り、火の玉が放たれた方向へ敢えて向かって行く。

そうして探し駆けずり回りやっとある建物の上に立つ黒いローブ姿の人影を見つけた。

そいつは大きな杖を振り、火の玉を作り振らせる。

これ以上やらせるかっ!

火の攻撃が自分だけのものだと思うなよっ!

【祝福の力】で作りだした炎の矢をそいつへ向けて思い切りよく放つ。

それに気付いた人影はひらりと回避し、そして俺の方へと視線を向けた。

そいつの顔を俺は覚えている。

リゼを連れ戻しに来た中央の…ウバ、だ。

「あぁ、来ましたねぇ。愚か者が」

「なんだと?」

「お前の愚かな行動が、この都市を失わせるのですよ。悲しいですねぇ」

「ほざけっ!」

愛刀である円月刀を取り出し、地面を蹴った。

建物と建物を足場に壁キックで跳び上がり、そいつの頭上から刀を振り下ろす。

キィンッ。

金属がぶつかる音。俺の一撃はウバの杖に防がれた。

だが、それは予想の範囲内だ。

そこから水の玉を作りだしそいつへと投げ付ける。

「ほぅ。水、ですか。面白い」

ウバの言葉に誘われたりはしない。次に風の刃を作り追撃。ウバはひらりひらりと回避するがそれも予想済みだ。

ウバが回避して着地した位置を予測しそこから先の尖った岩を作り上げる。

「ぐっ!?」

そこまで予想していなかったウバの腹に岩が刺さった。

「とどめだっ!」

俺が再び円月刀を振り上げた、その時。

再び爆音が聞こえた。

だが、近くではない。

この音は一体何処から…?

「やられたっ!!」

「何だと?」

「邪魔ですっ、退きなさいっ!」

ウバの足に腹を蹴られ、油断していた俺は倒れるなんて無様は見せなかったが多少よろめいてしまった。

その間にウバはぶわんと宙へと飛びあがる。

飛んだ…?

飛ぶなんて力は中央の、しかもそこの王族である竜の祝福を受けたものにしかない能力のはず…。

俺達の大陸の祝福の力はとても強い。例えて言うなら俺はキマイラの祝福を受けている。だからそのキマイラの能力である地水火風を操る事が出来る。

これは他大陸で使われている魔法とは違いあくまで【祝福の力】を使っているに過ぎない。

そしてさっきも言ったように他にも翼の生えた幻獣の祝福を授かる者もいるが、それでもあんな風に飛べるのは竜の祝福を持つ者のみ。

ウバ…ウバ…。あともう少しで思い出せそうなのだが…。


(そんなこと、今してていいの?)


また、あの声が聞こえて一気に思考が霧散した。

相変わらず気配がない声に気色悪さを覚えつつも周囲を見回す。

そして気付く。中央都市の方角が赤く揺らめいているのに。

さっきの音は中央から聞こえたって事か?

一体何が起きているのかが理解出来ず、俺は茫然と遠くの火の揺らめきを見ていた。

だが、それも長くは続かない。

黒いローブを着た人影が再び現れたのだ。

ウバだった。

ぼろぼろと涙を流し、先程俺が与えた傷がある腹からは血が流れ落ちている。

「あぁ…、全てを失った…。友も、家族も、想い人も、全て、全てぇ…。うあ、あああああああああっ!!」

狂っていた。

ウバはもう正気を保っていない。

ただウバから溢れだす怒りは外郭都市に火の玉として落とされた。

次から次へと。

止めなければっ。これ以上被害が出る前にっ!

「ウバっ!!」

注意をこちらへ向けるべく名を叫んだ。

ゆらりと動いたウバは俺を見て薄ら寒い笑みを浮かべ、その手にある槍の先を俺へと向けた。

「お前だ…。お前がいなければ、消エロォォォォッ!!」

竜の祝福持ちと真っ向から戦ったことなどない。

だが、その強さを知らない訳じゃない。勝ち目のない戦いだった。

けれど、負ける訳にもいかなかった。

ウバの槍と俺の刀がぶつかり合う。

そして訪れた一瞬の隙を俺は見逃さなかった。手負いのウバは何処かで必ず隙を見せる。その機会を待っていたのだ。

槍を弾き刀で肩から脇腹まで一気に斬りつけた。

後方へ倒れるウバは俺を見て高笑った。

「貴様にも絶望を味わわせてくれるわっ!」

ウバの体が宙高くに登り、弾けた。

血や肉の代わりのように数多くの火の玉が作り上げられ外郭都市全てに落ちて行く。無数に。

「あの野郎っ!!」

やってくれやがったっ!

外郭都市が燃えて塵になって行く。俺の家も既になく、俺が今立っている建物だけが残り周囲から人も草も何もかも失われて行く。

「やめろ…やめろおぉぉぉぉっ!!」

叫んだ瞬間、背中に衝撃が来た。

数秒後に熱と腹から込み上げる鉄臭さ。

ごふっと血を吐いて、痛みが走る。

立っていられずに膝をつく。俺は顔を下に向けた。槍が俺の胸を貫いている。

一体誰が…。

ゆっくりと振り向くとそこには黒いローブを纏った骸の姿があった。

「死、神、か…っ!?」

ゆらりゆらりと死神は体を揺らめかせ姿を闇に姿を消した。

致命傷を受けた俺はその死神を追う事も出来ず、崩れ落ちる。

消え行く意識の中、俺のぼやけていく視界にはただただ塵となっていく外郭都市が映り続けた…。

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