第二十四話 誘拐犯壊滅ですの、なんですっ!!
はい、皆さん。私です。
え?なんで、こんな始まり方かって?
白藤ちゃんと話しをしつつ、こう陛下への警戒心を解いて、更に周囲に何か怪しいのがいないかと調査も同時にしようと思ったら。
狼の鳴き声がして。
これはヤバいかもとおもったら狼が接近してきて。
逃げようと白藤ちゃんに手を伸ばしたら、動揺した白藤ちゃんが私の手を掴み損ねて木から落下。
意識を失った彼女の側に駆け寄ったんだけど、狼達が迫ってきたのでこりゃいかんと白藤ちゃんの横に一緒に気を失ったふりをしまして。
白藤ちゃんと離れる訳にはいかないから、きっつくきっつく手を握っておきました。
で、結果。
今、私達は…朽ちた教会におります。
やー、オーマでは女神は牛を連れてたけど、ここトゥーティスだと女神は木の実をとろうと手を伸ばして、顔は天を見上げてるんだねぇ。
この国だと聖獣じゃなくて聖樹なんだ、なぁんてことを縛られた体を起こしながら見ていた訳です。
しっかしそろそろ白藤ちゃん目を覚ましてくれないかなぁ?
一応全部説明してから反撃に出たいんだけど…。
「……んっ……?」
お、ナイスタイミングっ!
手を繋いでたかいあったなぁ。おかげで白藤ちゃんと遠ざけられる事もなかったし。
「目が覚めた?」
本当は顔を覗き込んで、顔色とか確かめたい所なんだけど、私この顔だしね~。
「こ、こは…?」
「んー、どっかの教会って事は解るんだけど。かなり傷んでいるし、修繕された気配もないし。人里から離れた教会なのかも」
「人里から離れた、教会…?」
「そうそう。白藤ちゃんは何か解ったりする?」
ゆっくりと起き上がった白藤ちゃんは周囲をキョロキョロ見渡して状況を把握しようとしている。
「解らない、ですの…。でも、私の里の方ではなさそうですの…」
「そうなんだ?」
「天井から見えるあの蔓。あれは私の里には生える事ない蔓ですの」
「おお。成程」
それが解るだけでも全然違う。逃げ出す時の方向とかね。
「他には?」
「他…暗くて、良く解らないですの…。あ、でもっ」
「でも?」
「赤家の里は紅家の里と教会を統合したって聞いた事があるですの」
「そっか。じゃあ、教会を破棄した可能性が高い赤家の里にいるかもしれないってことね」
「はいですの」
「すっごい。それさえ解ればもう脱出出来たも同然だね」
「そうなんですの?」
「うん。頃合い見て逃げようね。と言う訳で、頃合い見る為にもう少し雑談しようよ。例えば…そう、【野良】って実際はどういうものなの?」
「【野良】は犯罪を犯したトゥーティスの人間の姿ですの」
「へぇ。犯罪者が罰せられた姿かぁ。でも、確か【野狼】ってのもいなかった?確か昔誘拐されそうになった、とか言ってなかったっけ?」
「…私が生まれる前。青家で反乱があったんですの」
「反乱?どんな?」
「雑色の民が青家の頭首を言葉巧みに騙して洗脳して、青家が国の頂点になるべく争いを挑んだんですの」
「騙して洗脳…どんな言葉で騙したのかな?」
「青家は、昔から雑色が琳五家にいないことを提言していたんですの。肉色も草色も雑色も皆平等であるべきだと」
「あぁ、そこを利用されたのね。成程。雑色の民も中々狡猾なんだね」
「雑色にだって良い人はいるですの。逆に肉色にも悪い人は一杯いるですの」
「うんうん。人ってのはそういう物だよね」
私は深く同意した。青家は狼や犬の姿を持った一族と町を回った時に聞いた。その反乱で【野良】になった狼が多かったんだろう。結果【野狼】が生まれた。
…ってなると今回のこの騒動は完全にその反乱の時と同じだ。肉色の民では失敗したから今度は草色の民を使って反乱を起こそうとしている。
草色の民でしかも琳五家の令嬢である白藤ちゃんを幼い時に誘拐したのもその作戦の一端だろう。しかし、野良を使うあたりがまた狡猾だよね。
何か起きても青家の所為に出来るじゃない。
琳五家の令嬢達はどれくらい把握している事やら。…そもそも皇家に子がもう一人いるってこと、知らないのかしら。
「ふむぅ?」
「あ、あの…」
「?、どうかしたの?白藤ちゃん」
「ど、どうして私の名前、知ってるですの?」
「え?あ、そっか。そこ、ちゃんと説明してなかったね。ほら、これ」
私はこっそり付けて貰ったドレスのポケットから手紙を何通か取り出した。
「え?それはっ…オーマの…もしかしてリヴィローズ公爵令嬢ですのっ?」
「そうでーす。ふふっ、かしこまって言いましょうか?フローライト・リヴィローズと申します。お会い出来て光栄ですわ、白家のご令嬢白藤様」
お嬢様言葉を炸裂させて自己紹介すると、白藤ちゃんは何故か目を輝かせて私の方に詰め寄って来た。
けれど、体を縛られているから上手い事近寄れず、焦れた彼女はポンッと目の前でウサギの姿に変わり私の膝の上に乗り上がって下からキラキラと見つめてきた。
…二本足で立つウサギ、激可愛なんですけどーっ!
「わ、私の方こそ、お会い出来て嬉しいですのっ!ずっとずっとお会いしたいと思ってたですのっ!」
言って私の太ももの上で前足を合わせるウサギ。か、可愛いーっ!!
これは撫でるしかないのではっ!?
いや、でも後ろ手で縛られてるし、体にもぐるぐるとロープが…ナイフでも作るか。
…作るまでもないか。私、骨だし。少し体動かせば…うん、緩んだ。
手をロープから引き抜いて、万歳をして胴体に巻かれたロープも取り外した。ポイッと投げる。
そして待ちに待ったモフモフタイムっ!
「あ、あのっ、白藤ちゃん?」
「はいですの」
「なでなでしてもよろしいでしょうかっ!?」
「思う存分どうぞですのっ!」
「やったーっ!!」
なでなでなでなでなで。
動物は優しくなでなでなでなで。
耳とかはとっても優しくなでなでなでなでなで。
あぁ…幸せ…。
なんか奥の方でガヤガヤ騒いでるけどどうでもいい。可愛いは正義。なでなでなで。
「おいっ。人質の女共がロープから抜け出してるぞっ!!」
「なにぃっ!?」
「うっせーなっ、だあっとれっ!こちとら今、最高にもふ味堪能してんだからっ!!」
くわっ!!
と叫ぶと、「あ、すみません」と引っ込んだので良しとしよう。
はぁ~…可愛い。ふわふわ。最高。
「あ、あの…リヴィローズ公爵令嬢?そろそろ逃げなきゃ捕まるですの」
「はふ~…もふもふ~…」
ぺちぺちと私の手を前足で叩いてくるご褒美。
………うん。チャージ完了。
「アレク様から引き離されちゃったから、癒し成分絶対足りないと思ったけど、こんな癒しタイムがあるなら許せる」
白藤ちゃんを両手で持ちあげて立ち上がる。一旦床に降ろして現魔法でパーカーを作るとドレスの上から着込み、もう一度彼女を持ちあげて肩からフードに入る様に誘導する。
若干肩が重いけど、まぁ何とかなる。
「ちゃーんと掴まっててね、白藤ちゃん」
「はいですのっ!」
さてさて。教会の中と言えど、ここは礼拝堂だよね?
壊れてたり朽ちてたりするけど椅子も沢山並んでるし。
天井も…一部穴が開いているけど人が入れそうな幅じゃないな。
「星が見えるって事はもう真夜中か~」
てっくてっくと歩きだす。
何気にする事なく礼拝堂の入り口から外に出る。
「んなっ!?」
「堂々と出て来たぞっ、この女っ!!」
見張りをしていたガタイの良い男二人が私を掴もうとするけれど、バチッと音と共に手を引っ込めた。
「おおー、案外使えるね。ビリビリペン」
とは言え、これは一瞬怯ませるくらいにしか使えないから、次はちゃんと警戒しないと。
「今のはっ!?」
なーんて考える暇なんて与えませんよー。
現魔法でスタンガンを作りだし、男の体に右左と順番に押しあてた。
叫び声を上げることなくぶっ倒れたのを確認して、私は歩きだす。
教会ってどこも同じような内部だと思ってたけど、違うんだー。道が左右に我ている。
「えー、どっち行こう。……あ、右側の方から人の気配がする。あっちに行こう」
「えっ!?あ、危ないですのっ」
「そうだねぇ。だから白藤ちゃんは絶対に私から離れたら駄目だよー」
てっくてっく。
「歩いている間暇だからお話しようよ」
「暇、ではないと思うですの」
現魔法で手榴弾を作りだして、ピンを引き抜き後方へポイッと投げ捨てる。
暫く歩いて、それが上手い具合に爆発した。
「ぎゃああああーっ!!」
「目が、目がぁーっ!!」
何か叫んでいるけど、気にしない。
「トゥーティスってさ?聖獣ではなく聖樹なんでしょう?じゃあ、精霊っていないの?私達の所オーマだと聖獣の姿した精霊がいるんだけど」
「……目を抑えてもがいてるですの…、一体何を投げたんですの…?」
「あれ?白藤ちゃん、聞こえてる?」
「き、聞いてるですのっ!えっと、精霊いるですの。聖樹の実の形をしていて、蝶のような羽をつけて空を飛んでいるですの」
「へぇー。…網、必要かなぁ…」
捕まえて食べるには必要だよねぇ。だって私達の国オーマで言う所の【牛】が、この国だと恐らく【林檎】なんだと思うんだよね~。
王林とか白藤、それに琳五家。全部林檎絡みっ!
それにトゥーティスとの友好の証に贈られてくるものって必ず林檎が入ってる。
精霊としての力を持ってるのは特別な、白藤ちゃんが言っている羽の生えた林檎なんだろうけど。
精霊力を手に入れるにはその林檎を捕らえて食べるしかないんだよね。…やっぱり網か?
「前っ、前ーっ!!」
ん?何か白藤ちゃんが叫んでる?
前って、あぁ、凄い数の狼がこっちに向かって来ている。
「白藤ちゃん、鼻塞いでおいてねー」
現魔法で取り出すは、害獣除けスプレー。
人にはなんてことない匂いでも、鼻の良い獣にはきつい奴。
を、ぶしーっとねっ!
「きゅぅ~んっ!!」
「くっせーっ!!」
うんうん。皆鼻を抑えつつ涙目で倒れてるね。そのまま真っ直ぐ行くと白藤ちゃんもきついだろうから、丁度いいしこの右側の曲がり角曲がっちゃえ。
てくてく。
ついでに後を追ってこれない様に手榴弾を背後にぽいっ。
ちゅどーんっ!
「ほぎゃああああーっ!!」
「耳がぁーっ!!」
うーん。中々出口に辿り着かないなぁ~。
「リヴィローズ公爵令嬢」
「んー?フローラで良いよ~」
「で、ではフローラお姉様」
「うん、…うん?」
「フローラお姉様が先程から投げてるのは一体なんですの?」
「あぁ、あれ?あれは唐辛子とか胡椒とか色んな香辛料が入ってたり、私達には解らない動物にのみ聞こえる音波を出す装置が入ってたりする手榴弾」
「成程…。覿面ですの…」
自分がそんな目にあったらと想像したんだろう。
白藤ちゃんがフードの中でふるふると震えてるのが分かった。
てっくてっくと進み続けていると。
「おぉっと、そこまでだ」
目の前にいきなり剣が振り落とされた。
反射的に後ろに飛んで回避する。
「いい反応じゃねぇか」
そう言いながら、降ろされた剣はそのまま上に戻り、刃の向きを変え私の方へ向けられる。
これは危険かな?
現魔法で盾を作り剣を防ぐ。
「面白ぇ。どっからそいつ取りだした?」
「私の手から」
うふふっと笑いながら言うと、暗がりから声の主が現れた。
がっつりとした筋肉質の褐色の男。トゥーティスの人間なら来ているであろう日本風の着物を着ていない。
どちらかと言えばアラビアン風な衣装で、胸ががっつり開いている。頭にはターバンを巻いて…ん?あれは、犬…よりは尖っているから狼の耳が頭にある。
長い銀のぼさぼさ髪を一本にまとめているその髪先に視線を動かし腰の方へ向けると立派なふさふさ尻尾がある。
「…トゥーティスって亜人もいるの?」
「いないですの。…ナンエゴ人ですの」
「ナンエゴ…オーマの南にある大陸かぁ。で?なんでナンエゴ人がここにいるの?」
私が素直に問いかけると、そいつは無精髭のある豪胆な口をにやりと歪ませて「雇われたんだよ」と言った。
腕にはさっきまで私達を狙っていた偃月刀がある。
…今までで一番強いかな。私動属性持ちじゃないからなぁ。本格的に戦うってなると不利だったりするんだよねぇ。
少し、会話しようか。
「雇われたって言ったわね?」
「言ったな」
「なんで雇われたの?理由は?金?」
「ガハハハッ。嬢ちゃん、二言目に急に金かよ」
「世の中を回す大事な物だからね。それとも同じ狼の境遇に同情した?」
少し挑発気味に言ってみたけれど、男はピクリと眉を動かしただけで、にやり顔は崩さずに「いいや?」と答えた。
「嬢ちゃん。俺は狼と言っても、【太陽を喰らうモノ】だ」
「【太陽を喰らうモノ】…あぁ、【スコル】なのね。……結局、狼じゃないの」
ハッキリ言ってやると、目の前の男はキョトンとして、次の瞬間には腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハハッ。嬢ちゃん、普通、そこはビビるとこだぜっ」
「え?そうなの?えーっと、では、ごほんっ。きゃーこわーい」
「おいおい。わざとらし過ぎるだろ」
「注文が多くない?ちゃんとご要望に応えたんだから褒めなさいよ」
なんて言いながら私は後ろに向かって手榴弾を投げつける。足音がしたからだ。
ぎゃーっと吹っ飛ぶ声が聞こえるけど、今は気にしない。
目の前の相手の方が厄介そうだからね。
「あー、成程。こんな力持ってる令嬢じゃ、トゥーティス人じゃ敵わないわな。…んじゃ、嬢ちゃん。一勝負お相手願おうか」
「えー、やだー」
「そう言うなよ。いい加減、その頭に被ってるヴェール、とってくれよ」
「それもやだー」
「そう言うなって。俺、アンタの素顔見てみてーんだ、わっ!!」
軽く振られた剣から、ぶわっと風圧が私達目掛けて飛んでくる。
急いで盾を構えたけれど、それよりも速く相手はこちらへ駆け寄ってきて、私のヴェールをはぎ取った。
「うわっ!?」
言っておくけども今の驚きは私じゃない。
私の顔を見たこの男が言ったのだ。
「…はぁ。そうなると思ったから、嫌だったの、よっ!!」
私の顔を見て油断した男の隙を狙い、巨大な檻を作りだし男の上に落とした。
ついでとばかりにスプレーを吹きかけると、亜人だからこその鼻の良さに「うぐっ!?」と鼻を抑えてしゃがみ込んだ。
「嬢、ちゃん…、その顔…マジか」
「そりゃ、どう言う意味よっ!」
「女でその顔…地獄だろ」
「うるさいわね。祝福なんだから仕方ないでしょ」
「仕方ないって。しかも祝福姿がそれ?…嬢ちゃん、あんたオーマ人か」
「そうよ。それが何か?」
「おいおい。オーマ人が、しかもその身なり結構な位の嬢ちゃんが何でトゥーティスのこんな所に」
「そんなの、アンタを雇った連中が私ごと彼女を誘拐したからでしょうよ」
「…あちゃー…。これ、結構ヤバいのに首突っ込んだ?俺」
「そうかもねー。あー、大変。大変だわー」
ケタケタ笑いながら言ってやると、ひくりと男の口元が引きつった。
「それで?」
「あ?」
「どうして、ヤバいのに首突っ込んだって思ったのか、聞いても良いかしら?」
「…は?」
「私の予想としてはー?私の目の前で隙を見て檻を破壊して逃げようとしているナンエゴの男性がー、ナンエゴのお偉いさんの一人だったりしてー?実は、ナンエゴで何かが起きていて、トゥーティスの力を利用していたーとかー?考えてるんですけどー?」
私は腕を組み男の前で馬鹿にするように話してやった。
まぁこの人の立場を鑑みるに、この程度で挑発されるとは思わないけれど。
「…怖ぇ嬢ちゃんだな、ホント。…まぁ、ご想像にお任せするよ。それより嬢ちゃん。俺を雇わないか?」
「いいわよ」
「即決かよっ!少し躊躇うもんだろ、普通」
「躊躇う必要がないからね。情報だってなんだって言わないなら言わせるまでだしね。……私を敵に回さないことね」
ふっと悪どい笑みを浮かべてやると、突然背中にダンッと衝撃を喰らった。しかも、そこから二度三度と。
「え?あ、あの、白藤ちゃん?」
「す」
「す?」
「素敵ですのーっ!フローラお姉様、素敵過ぎて足がなっちゃうですのーっ!」
「うぐぇっ!?」
フードの中できっとぐるぐると回転してるんだと思うんだけど、重みで引っ張られて首が絞まる。
苦しい苦しいっ!
一通り悶えて落ち着いたのか、白藤ちゃんはまたピタッと動きを止めた。
「ぜー…はー…そ、それで?アンタを雇うとして。私これからここの連中を壊滅させようと思うんだけど、付いてくるの?」
「そのつもりだけど、なんだ?背後を狙われるとでも思ってんのか?」
「ううん。狙ったらアンタの命取るだけだから別にそれはいいんだけど。ただ、私の今の武器って」
ぶしーっ。
「うがっ!?」
「と言う風に、動物が鼻を抑えてもがき苦しむ武器なのよ。一緒に来るときついんじゃない?と思って」
スプレーを思いっきり噴き掛けてみたんだが、案の定男はもがき苦しんでいる。
これをまき散らしながら進むんだけど、本当に付いてくる気かな?
「た、確かに、これは、つれぇ…」
「でしょう?どうする?先に外に出てる?」
「それじゃあ意味がねぇ…っと、じゃなくて、雇われてる意味がねぇだろ」
「そうでもないよ」
「は?」
「アンタがこの件の黒幕を。雑色の親玉を教えてくれたらとぉっても雇う意味があるわ」
「それは…」
「言うの?言わないの?」
男が発する次の言葉を待つ。私の言葉の真意を探っているんだろう。
私は男と目を逸らす事なく視線をぶつけあう。
「………オーケー。俺の負けだ」
成程。そうくるか。
両手を上げてお手上げポーズをしている。
……雑色を裏切るつもりはない。そう言う事ね。
「そう。それじゃ、失礼するわね」
スプレーを噴きかける【真似】をすると。
「……ッ」
男は抜いた偃月刀で檻を叩き切る。
想定済だ。
だから真似だけで済ませたんだから。
現魔法を使い、バイクを作りだす。
「なっ!?」
「白藤ちゃんっ。ちゃんっと掴まっててねっ!」
バイクに乗り込み、一気にアクセルを蒸かして走りだす。
動魔法を駆使したら、これだと追い付かれるかな。
となると、態と建物の中を走り抜けるしかないだろう。
「フローラお姉様っ、なんで、逃げるんですのっ!?」
白藤ちゃんがフードからぴょこっと頭だけだして聞いてくる。
手榴弾のピンを抜いて後方に投げながら、私はその問いに答えた。
「あのナンエゴ人が私達を騙す気満々だったからね」
「え?だってさっき俺の負けだって」
「そう言って付いてきて、いざ雑色の親玉がいたらそちらにつくつもりだったんだよ。そこで裏切るつもりだったの」
「だ、だって」
「国の偉い方の言葉って言うのは、真っ直ぐ受け取ってはいけない。これは鉄則よ」
言葉遊び、とも言うけどね。
あの手の男は修羅場を越えてきてそうだから、信用しちゃいけない。
追い付いて来たら厄介だから、さっさと親玉探そう。
馬鹿と何とやらは高い所が好きって言うよね。
上に行く道探してみよう。
バイクを走らせて、ガンガンと進む。
途中野良や野狼の襲撃にあったけど、それは手榴弾とスプレーで撃退。
「フローラお姉様」
「んー?どうしたのー?って言うか、白藤ちゃん。ずっと言いたかったんだけど、そのお姉様って」
「フローラお姉様。さっき国の偉い方の言葉は真っ直ぐ受け止めないのが鉄則って言ってたですの」
「無視なのねー…まぁ、いいや。うん。言ったね。それがどうかしたの?」
「……陛下の言葉、も…裏があったって事ですの…?」
あ、あー…そっちに行っちゃったか。
あの屑な陛下弟は別に滅んでも構わないと思うけど、流石に王林様の言葉まで裏があったと思われるのは可哀想か。
そう勘違いしちゃう白藤ちゃんも可哀想だしね。
…上手い事誘導するしかないかな?
「陛下の場合は、裏があったのは言葉じゃないね」
「言葉、じゃない?」
「そう。この国の皇族ってのは素直…と言うよりまだ幼い、からね」
「幼い…ですの?」
「うん。幼いよ。幼いからこそ秘密裏に育てられる。だって、知らなかったでしょう?白藤ちゃんですら」
「何をですの?」
「陛下には、王林様には弟がいるって事を」
「弟っ!?」
「先代の皇帝陛下が亡くなっているって事を」
「亡くなってるっ!?」
「皇族の副色は全て同じ人型をしているって事を」
「同じですのっ!?」
「…最後のは知ってなきゃいけない事じゃない?」
私がそう言うと、白藤ちゃんは「ですの…」と言いながらフードの中に潜ってしまう。
「どうにもこの国は情報の伝達が下手くそみたいね。…日本も情報の提示は昔から遅かったから似たり寄ったりか」
ぼそりと呟いていると、白藤ちゃんがまた顔を出した。
「…幼い時。私に会いに来たのは」
「王林様の方だろうね」
「私を城に呼び出したのは」
「弟の東光様の方だろうね」
「令嬢達を身籠らせたのは」
「それも東光様の方だろうね」
「花畑で私と話そうとしたのは」
「それは王林様の方だね」
「……私、林に謝らなくては、ですの…」
「ふふっ、そうだね。ちゃんと謝ってキスの意味、聞かなきゃね」
言うと、きゅーっと鳴いて再びフードの中に潜ってしまった。
なんだ、この可愛い生物…ウサギだ。
「…フローラお姉様は…」
「うん、だからね。白藤ちゃん。年齢的に言えば白藤ちゃんの方が」
「フローラお姉様は、もし婚約者様が二人いたらどうするですの?」
「二人共私のモノにするわ」
「へ…?」
「アレク様が二人でしょ?誰かに片方だけでもとられるの嫌だから、私のモノにする。絶対かけらでもあげない。アレク様は私のものよっ!」
「なる、ほど?」
アレク様が二人、かー。
想像すると幸せだけど、敵も増えるからそれは嫌だなぁ。
……でも常にアレク様が側にいるのは幸せだよねぇ…うん、今度人形を作ろう。
「フローラお姉様」
「うんうん。あのね、白藤ちゃん。私もちゃん付けで呼んでるからあれだけれども年上は」
「まだ解らない事があるんですの」
「あー、うん。何かなー?」
「林が、私に会いに行ったって言ってたんですの。でも私は待ってたけど会っていないんですの。何故…?」
「それは、王林様とかよりも今から会いに行く雑色の親玉に聞いた方が早いかもねー」
お、階段めっけっ!
適当にバイク走らせてきたけど、やーっと見つけた。二階への道。
階段だとちょこーっと走りにくいけど、登れない事はない。
ドカカッと普通にバイク走らせていたらあんまり聞く事のない音を鳴らしつつ階段を登りきると、直ぐ横に道がありそのまま朽ちる前は立派なドアがあったんだろうなと思うような部屋の前を走り、一番突き当りに人が立っている何故かしっかり修繕されているドアにバイクごと突っ込んだ。
「何事だっ!?」
執務机の上に白いウサギが腕を組んで立っていた。
パッと見、白藤ちゃんと見分けがつかない。
「ぎゃーっ!!骸骨ーっ!!」
「やかましいっ!」
現魔法で少し大きめの虫取り網を作りだし、ウサギを確保しようと網を振り上げる。
「おっとっ!やらせるかっ!」
前に割り込んできたナンエゴ人に攻撃を防がれた。
「お、遅いぞっ!ウーゾっ!」
「悪いな。これでも全速力で来たんだぜ~。…この嬢ちゃんがほんっと想像つかねぇ事ばっかりしてくれるんでな」
「……そ、そんなことないですわー。びくびく」
「今更そんな態度とっても騙されんぞっ!!」
「ちっ」
「な?恐ろしい嬢ちゃんだろ?」
失礼ね。
このまま側にいるのも危険だと、私はバイクを操り距離をとる。
ナンエゴ人はウサギを庇うように前に立つ。
「…フローラお姉様。あの人が」
「雑色の親玉ね」
「雑色の親玉って…あの人は草色ですの」
「そうね。王林様が白藤ちゃんに会いに行っていたと聞いた時から、草色の内通者がいるとは思ってたんだけど。親玉だったとは気付かなかったわ」
バイクから降りてジッと目の前のナンエゴ人と対峙する。
「追い付いてくるの随分速かったわね」
「…これでも、国で最速を誇る人間なんでな」
「へー…。足が自慢、かぁ。切っちゃおっか」
「出来もしないこと言わない方が良いぜ?」
「誰も剣で、とは言ってないでしょう?」
そうして現魔法で作りだしたのは、チェンソー。前世で良く使っていたのよね、これ。農地広げる為にね。うん。
何度かスターターロープを引くと、ドルゥンッとチェンソーが稼働する。
「お、おおおいっ!何か、のこぎりが回転してんだけどっ!?」
「大丈夫大丈夫。偃月刀の一つや二つ、これで破壊出来るよっ。それから迂闊に近づくと手はあっさり千切れるから気を付けてねっ♪足も、簡単にばっさりいくよ…?」
「……はぁ。マジでさっき降参しときゃ良かった」
にこにこにこ。
骸骨の顔でにこにこ笑ってたら絶対気持ち悪いって解ってるけど、それもまた武器だしね。
「あ、戦う前にさ。聞きたい事があるんだけど」
「あ?俺にか?」
「いや、アンタに聞いても意味ないし。そっちの親玉さんに。ちょっとだけ時間頂戴よ。アンタもこれからの勢力分布図作成とかで聞きたかったりするでしょ?」
「あー……解った。ちょっとだけだからな」
ガシガシと頭を掻いて、少しだけ体をずらしてくれた。
「ありがとー。で、そこのウサギさん。なんで雑色の人間を使って草色と肉色を対立させようとしたの?」
言うと、ウサギはふんっと顔を逸らして言った。
「雑色の立場向上の為に」
「……本当に?」
「本当」
「だとするならアンタがやっていた事は逆効果なんだけど?こんな長期計画を練っておきながらそこに気付かない訳ないわよね?」
チェンソーを向けて圧を与えてみる。すると目の前のウサギはちょっと顔を引き攣らせながら言った。
「…はぁ。草色以外の人間を消す為だよ」
ふむ。溜息交じりのこの言葉は信憑性がありそうだ。
「何故雑色と肉色を消したいの?」
「僕の両親は、肉色至上主義だったんだ。肉色がいれば何でも出来る、草色なんて必要ないってね。でもそんな二人の間に出来た子は草色である僕。そこから僕の扱いは酷かったよ。殴られたり蹴られたり赤ん坊の時から既に殺されそうだったしね」
「へぇ」
「そんな僕を助けてくれたのが、白家の里だった。肉色の親から引き離し、僕を育ててくれた。だから僕は思ったんだ。肉色も雑色も要らないんじゃないかって。実際いらないでしょ。物を作りだす事も出来ない奴らなんて。肉色の連中は僕が少し声をかけただけで簡単に騙されていったよ。計画は順調だったんだ。草色が独立して、今の皇族を内側から崩して、草色がこの国を独占する事が出来る筈だったんだ」
「成程ー。私の所為でその計画が崩れた?」
にんまりと笑うと、ウサギはぐっとこっちを睨みつけた。可愛い。
「どういう事ですの?草色は迫害されてたんではないんですの?」
ぴょこっと顔を出した白藤ちゃんが説明を求めているので、私が解る範囲で説明する事にした。
「んっとね。この人の目的に必要だったのは、草色の独立の意志と肉色、雑色の暴挙、もしくは反乱だったのよ。で、城に潜り込んで何か利用出来るものはないかと探っていた。そこで発見したのが雑色の反乱と王林様の初恋、更に弟殿下の東光の存在。更に皇族の秘密等々。全て上手い事利用して肉色と草色の溝を深めようとした。まぁ、予想外の事も多々あっただろうけどね。例えば王林様の逆鱗に触れてしまった、とかね。王林様の初恋を利用しようとはしたものの、白藤ちゃんとの仲を悪くさせるつもりはなかったんでしょう?最終的にはちゃんとくっつけようと思っていた。でも、東光様が予想外のことばっかりしでかした。という所でしょ?秋映さん?」
「……バレてたのか」
ポムッと副色姿に変化して現れたのは王林様の側近である秋映さんだった。
「アンタはちょっとおかしな行動が多過ぎたからね」
「ほんと、予想外だ。ナンエゴが手を出してくるのは想定していたが、まさかオーマが関わってくるとは…まして、こんな骸骨女が」
あ?
今なんか腹立つ事言われた気がするんだけど、気の所為かな?
私のチェンソーが唸るぞ?
「骸骨女を消さねば、草色の独立は敵わぬ、か。白藤様を守ってくれた事は感謝するがここからは僕が守る」
あら?あらら?
色々腹立つ事言われた気がするけど、最後のだけはちょっと面白いセリフだったな。
もしかして秋映さんは白藤ちゃんの事が好き?
「王林と白藤様をくっつけて、王林を消して女皇になって貰い、僕が一生をかけて守り仕えようと思っていたのに予定が狂った。となると後は僕が白藤様を貰い受けて草色を独立させるしかないな」
「そ、そんなの嫌ですのっ!」
ぴょこんっとフードから顔を出す白藤ちゃんがダンダンッと私の背中で足を鳴らす。
暴れられると肩が重い…うぐぐ…。
「わ、私は、林に、本当の事を聞くんですのっ!あの口づけの真相を聞くんですのっ!」
「やだー、白藤ちゃん可愛いーっ!!」
思わず私まで足をダンダンしてしまった。いけないいけない。
いやだって白藤ちゃんが可愛い事言うからーっ!!
「……おい、嬢ちゃん。緊張感って言葉、知ってっか?」
「今持ち合わせてないわ」
「今じゃなきゃいつ持ち合わせるんだよ」
煩いお小言が聞こえてる気がする。気のせいよね、きっと。
「行かせない」
ん?
秋映さんの様子がおかしい。
「行かせるものかっ!白藤様は、僕の計画の要なんだっ!ウーゾっ!!」
「へいへい。正直、この嬢ちゃんと真っ向から戦いたくねぇんだよなぁ。…嬢ちゃんはどうにも解せない所が多い」
再度、ナンエゴ人が私の前に立ち塞がる。
ふむ。私とは真っ向から戦いたくない、か。
「じゃあ、私以外と戦う?」
「あん?」
パチンと指を鳴らし彼女へ合図を送る。
すると、天井に大きな石でも落とされたような音と振動が教会全域に響いた。
「何だっ!?」と動揺する二人に、私は笑う。
そして、天井が突き破られ、
「お嬢様っ!!」
リアンが瓦礫と一緒に降りて来た。
急ぎ私を背に庇うように立ち、剣をナンエゴ人へと向ける。
「やっと呼んだな。なんでお嬢様はいっつも呼ぶのが遅いんだ」
「そんなの、リアンとマリンが大事だからに決まってるじゃない」
「それ言うならおれ達だってお嬢様が大事なんだから、そこ理解しろよな」
「理解しているつもりなんだけどねー」
「なら、まだまだ足りないって事だね」
フッとリアンが笑う。美人の笑顔は反則だよねー。
と私が思った事をリアンが対峙している相手も思ったらしい。
ナンエゴ人はリアンの微笑んだ顔を見た瞬間、呆けていた顔を真っ赤に染めていった。
こうも解りやすく一目惚れってあるんだ…。
…いや、それは私が言えたことじゃないな。
「お嬢様を誘拐して剣を向けた罪は重いぜ?」
「い、いやっ、ちょっと待ってくれっ」
「問答無用。行くぞっ!」
リアンはアレク様は父様に次ぐ動魔法の使い手だ。
とは言え、女性だ。強い男には敵わないかもしれない。通常ならば。
ナンエゴ人はリアンに視線が釘付け状態。しかも、素晴らしく好みの女性が現れて、パニック状態だろう。
そしてリアンは本当に問答無用でナンエゴ人に剣をぶつけた。
キィンッと金属がぶつかり合う音が響く。咄嗟にでもあのパニック状態で受け止めたのは凄い事だ。
さて、これはどっちが勝っても良い様に、武器を準備しておこうかな。
現魔法で作りだすは、ネットランチャー。
これは捕まえたい相手に向けて粘着性の網の玉が入ったランチャーである。
では、暫く二人の戦いを見守っていよう。
結構ないい勝負だよね~。逆に言えばどちらもあと一歩、決定的な一撃が出せない。
そんな時。
ザシュッ!
「ッ!?」
服が避ける音と息を飲む声が聞こえて。
カランと胸当ての鎧が落ちる音がした。
「はいっ、アウトーっ!!」
急いで間に割って入り、私は秋映さんとナンエゴ人に向かいランチャーをぶっ放した。
「お嬢様っ、なんだよっ、今折角隙が出来たのにっ!」
「隙が出来たのはリアンでしょっ!そんなに堂々と豊満な乳をさらけ出さないでっ!」
「へ?」
ナンエゴ人の剣はリアンの鎧の胸当てを下に着ていた服ごと切り裂いてしまった。
ギリギリの所でリアンも回避したから肌までは切れなかったようだけれど。
さっき息を飲んだのはナンエゴ人の方だった。
そりゃそうだろう。一目惚れした女性の胸がいきなり前に現れたら動揺もする。
「まずいいから前を隠しなさい。ナンエゴ人が鼻血噴き出す前に」
鼻血噴き出すかどうかは解らないけどね?
「祝福返上したの忘れないの。全く…。それから、そこのナンエゴ人。目を逸らしなさい。ガン見しないっ」
「いや、そりゃ無理だろ。こんな綺麗な胸見せられたら」
「見たいなら本気で落としてからにしなさい。落としてもいない内に見るなら目、くり抜くわよ」
ひょおおおっと呪いを飛ばす目で見ると、静かに視線を逸らした。
最初っからそうしなさいよ。
現魔法で安全ピンを取り出して、今だ前を閉めないリアンの服を寄せて安全ピンで止めた。
こっちはこれで良しとして。
やっと親玉も捕まえたし、連れ帰るか。
「リアン。こいつらは私が連れ帰るから、後の処理頼める?」
「おう。トゥーティスの皇帝陛下から私兵を借りて来たから問題ないぜ」
「じゃあお願いするわ」
秋映さんを現魔法で取りだしたリュックに粘着網がついたまま詰めて、バイクの座席にある収納スペースに詰める。
ナンエゴ人は改めてロープで縛り上げて、バイクの後方へロープの端をくくりつけて、よしっと。
「さ、城に帰るわよっ!」
「は?ちょ、ちょっと待てっ!もしかしてっ!?」
「レッツゴーっ!!」
バイクを走らせて二階の窓から飛び出す。
「ぎゃああああああっ!!」
ナンエゴ人が色々叫んで喧しいけれど、無視して私達は城へ帰還した。
そろそろ設定のメモ、作らなきゃな…。




