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第一話 適当過ぎません?


「んじゃ、これの該当箇所にチェック入れてくれる?」

「…は?」


唐突な言葉から始まる謎展開。

そんな言葉に直ぐ反応できる人って多分世の中の一握りだと思う。

だけど無常かな。時間と話は勝手に進んで行く。

「【ハ】って口頭で答えられても困るから。兎に角その紙に書いて」

「や、そもそも答えてないから。ちょっと待って。色々待って。待てって言ってんだろうが、この野郎」

「この野郎って女の子が使う言葉じゃないからね?しかも俺何も言ってないからね?」

何か目の前の男が寝言言ってる。

けど正直目の前の男が何言ってるかなんて全く脳みそに届いていない。だってこの目の前の男の言葉よりももっと気になる事があるんです。


ココ…どこですかっ!?


本棚だけが並んでる空間。私が今立っている場所半径五十メートル位を中心に円を描くように空間があり、その円から放射線状に本棚が並んでるんだけど、上を見上げても天井は見えないし、奥の方を見ても突き当りは見えない。

見えるのは本棚とその本棚へ行く為の階段くらい?

壁が無い空間?何ソレ。

そんな中心地の目の前のデスクで、しかも無駄にスーツをカッコよく着こなした男が一人、どうして落ちないんだろう?と疑問に思う程積み上がった書類と格闘している。

羽ペンを持って、こちらを意識することなくガリガリガリと、黙々と、何かを書いているみたいなんだけど…。

私のこっちは完全無視かいっ!

思わず突っ込みをいれそうになるのをゴックンした。

言った所で無駄な気がしたとも言う。

とりあえずこの男が言った、該当箇所にチェックを入れろって言葉通りに動く事に決めた。

だって他にする事がないから。

さっき紙があるって言ってたよね?…多分。

で、それが一番ありそうなのは机の上…だと思うんだけど。キョロキョロと周りを見ると、小さなデスクがあり、そっと近寄り前に立つと一枚の紙が私に向かって置かれていた。

紙の横にペンも置かれている。こっちは羽ペンじゃなくてボールペン。使い慣れた日本製のペンでホッとしつつ、それを持って紙を覗き込んだ。

えっと、何々?

【転生申請書】…?とは何ぞ?

「あぁ、名前は死ぬ間際まで使ってた名前で良いからね」

「あ、はい……え?」

思わず頷いちゃったけど、どゆこと?

え?て言うかちょい待ちぃよ?

転生とか死ぬ間際とか…え?これってもしかして、もしかしなくてもっ。

「え?私死んだのっ!?うそぉんっ!?」

「あぁ、もう、煩い。大きい声出さないで。俺は忙しいんだから。兎に角早くその申請書書いて出して。その間に色々分かって来るから」

「って言ったってさっ!!」

「いいから。さっさと書いて。騒いだって何も変わらないんだから」

「わーお、扱いが雑ー」

…でも確かにここでやれる事って、言われた通り申請書を書くって事位なんだよね。

実はさー。さっきからこっそり足を動かして、どれか一つ位本棚に近寄れないかな?ってチャレンジを試みてたんだけど、全然動けないってかそっちの方向に足を向けられないのよ、これが。どうやらこの半径五十メートル以内の中心地から出る事は出来ないらしい。

出来るのはこのデスクに近寄る事とペンを持つ事くらい。

それ以外は何をしても無駄、って言うか体が動かんのだからもうこれやるしかないんだよね。

そう。申請書を書くしかないのだ。………書くか。

えーっと、まず【転生申請書】なんだよね。

【以下の内容の該当箇所にレ点を入れてください】

レ点ね。はいはい、了解。

【設問1 貴方は亡くなった時の記憶がありますか?イ、バッチリある。ロ、そこそこある。ハ、全然ない】

…………うん。どゆことっ!?

待て。待て待て待て。

これはあれだぞ?

一回全部読んだ方がいい。うん。そうしよう。


【転生申請書


以下の内容の該当箇所にレ点を入れて下さい。


設問1:貴方は亡くなった瞬間の記憶がありますか?

イ:バッチリある。ロ:そこそこある。ハ:全然ない。


設問2:貴方は転生先の条件を可能な限り選ぶ事が出来ます。第三希望までご記入下さい。

第一希望:    第二希望:    第三希望:


設問3:転生時、今生の記憶を所持する事を望みますか?

ニ:望む ⇒ 設問4へ ホ:望まない ⇒ 設問5へ


設問4:設問3で望むを選んだ人に問います。どの範囲の記憶を望みますか?

ヘ:全て ト:死んだ瞬間の記憶のみ消去 チ:範囲を指定(指定範囲を空欄にご記入下さい)


設問5:設問3で望まないを選んだ人に問います。記憶は全て消去と言う事で宜しいですか?

リ:構わない ヌ:条件付きで思い出せるようにしたい(その条件を空欄にご記入ください)    


設問6:目の前に蝋燭があると思いますが、全て蝋は溶け切っていますか?

ル:溶け切っている ヲ:溶け切ってない


氏名: 年齢: 性別: 住所:


以上全て記入が終わりましたら、目の前の神に提出ください】


……突っ込み所が多過ぎて眩暈が起きそうだわ。

大体、蝋燭なんて何処に……あったわ。紙の横に突然現れたわ。机から生えたみたいに突然出て来たわ。

で?溶け切ってるかって?全く溶けてないんだけど?

何なら小さい、線香レベルの火がまだ点いてそうなんだけど?

…まぁ、いいや。何の意味があるか知らんけど、ありのまま書いたらいいんでしょ。

読んだ内容をもう一度確認しつつ、記入をする。

そんなに時間がかかるものでもない…と思ったけれど、少し悩んだ所もあったのでちょっと時間かかったかもしれない。

書いた内容をもう一度確認して、書類に集中しているスーツ男に提出した。

目の前のって書いてたんだから、多分あってる…と思う。この人が本当に神様なのかどうかは知らんが。

「……ん?あぁ、書き終わったのか」

出された紙に気付いたのか、男…神様?は書類を確認して。

横に伸びてた普段から開いてるの開いてないの?って言いたくなるような目が段々と開かれて行って、最終的に点になった。どうした?神様。点になった目が細くなって、あー…って声が漏れてんだけど?

「あー……申し訳ないんだけど、もう一度蝋燭確認して貰って良い?」

「蝋燭?…溶け切ってないよ?しかも小さな火がまだ点いてる」

「…………あー………やっちゃったか」

「どう言う事ですか?」

「う~ん、簡単に言うと、手違い?」

「簡単に言い過ぎだし、どう手違いなの?」

「あー、うん。これは、ちゃんと説明しないとだね。『  』悪いんだけど、【牛島田加子うしじまたかこ】さんの書を持って来てくれる?」

横向いて誰に言ってるんだろう?

視線の先を辿ってみたけれど、そこには誰もいない。

「え?いや、【丑而摩田加志うしじまたかし】さんじゃなくて。いや、だから田加子さんのを………はっ?それ、本気で言ってる?お前ー…いつも言ってるだろ。ちゃんと整理しろって」

『            』

「わ、分かった、分かったってっ。……仕方ないな。だったら田加志さんと田加子さんの分を……うん。ありがとう」

…誰と話してるのかは解らないけど、目の前の人が言う言葉を聞く限りだと、向こうにいる人?らしい誰か?が何か失敗をして言い争いになったんだけど、逆に言い負かされた、って所かな?

男の人の表情を見る限りそんな感じ。しかし、誰と話してんだろ…?覗き込んで確かめてみたいけど…流石に身を乗り出すのはなー…。

「…ちょっと調べるから、少しだけ待っててくれるかな。決してそこから動かないように」

えー、動いちゃ駄目なのー?暇じゃーん。

と返事をしようとしたけど、目の前で速読なんてレベルじゃない速さで広辞苑より分厚い本を読んでいく。

少しだけって宣言通り、本当に少しだけ待って、その人は本を二冊机の横に置いて私と向き合った。

「あー、じゃあ説明しますね。まずは貴方の死亡動記についてですが」

「志望動機?」

「あぁ、いや。死亡した時の動きを記した物があるんですよ。それによりますと、貴方はまだ死ぬ筈ではなかったようですね」

「………へ?」

「こちらの部下の手違いで、丑而摩田加志うしじまたかしさん(90歳)と貴方の死に際が入れ替わってしまったらしい」

「入れ替わり?え?どゆこと?」

「そこに蝋燭があるだろう?」

「ありますね」

「この蝋燭は人生を表しております。解りやすく言うと、そこの蝋燭は本来の貴女の寿命を表しています。生きとし生けるモノ誰しもが最初の魂が生まれた瞬間【魂の書】というものを持ちます。そしてその魂が新たな生を得た時に【生の書】へと変化します。それは魂によっては【虫生の書】かもしれないし、【猫生の書】かもしれない。勿論【人生の書】もあります」

「って事はそこらにある本棚の本は全部?」

「【魂の書】です」

「で、その蝋燭は?」

「先程も言ったように寿命、正しくはその時の…例えば貴女の魂が人として生きる事が可能な長さを表しています。故にこの蝋燭の蝋が溶け切り燃え尽きた時は貴女の生の終わりを意味し、その蝋燭の残り火で【生の書】、貴女の場合は【人生の書】ですが、それを燃やし【転生の書】へと変化させる。そうすれば貴女の魂は次の生へ転生する事が出来る…のですが」

「まさかとは思いますけど、私の【人生の書】をさっき散々っぱら言い合ってた丑而摩田加志さんの蝋燭で燃やしちゃった、…とか?」

「まぁ、そう言う事ですね」

「はぁ~っ!?じゃあ私死ななくて良かったんじゃんっ!!どうしてくれるのっ!?当然戻れるんだよねっ!?奇跡的生還とか出来るんだよねっ!?」

「あー、それがねー。君、一人暮らしだったでしょう?」

「はいっ。だからこそ戻しやすいでしょっ!?」

「やー、だからこそ、君の体の発見が遅れてしまってね~。君の体、腐っちゃったんだよねー。今夏だしもうドロドロ」

「まさかのっ!?」

「あ、ゾンビ状態だけど、戻る?」

「嫌ですよっ!そっちの間違いで何で私が更に酷い目に合うのよっ!」

「…だよなー。…んじゃあ、やっぱり転生する?」

「…したく、ないけど。するしかないじゃん」

「そりゃそうだね。あー、じゃあ面倒だけど一つずつ確認するよ。まず設問1の質問は、ハの全然ない。これは間違いない?」

「ない。これっぽっちもない。死んだ自覚すらない」

「ま、これは当然だね。因みに君の死因は窒息死ね」

「窒息死?え?だって、私の最後の記憶だとバイクで職場へ向かう途中のカーブで、雨が酷かったこともあってスリップした、だよ?落ちたにしても窒息する様な場所ではなかったと思うんだけど…」

「そう。丁度雨降ってたよね。で、バイクで走っていた君はスリップして、ガードレールを飛び越して落下した」

「うんうん。バイクで走っててスリップした、までは覚えてるよ」

「ガードレールを飛び越えたショックで君は意識を失い、崖下にあった堆肥保管場所に頭から落下した。気を失っていた君は意識を取り戻さずにそのまま…」

「いやあああああっ!!何、その死に方ぁっ!?しかも、窒息って事はっ、窒息って事はっ!!」

「まぁ、早い話が牛糞に頭から突っ込んで窒息したって事だね」

「言わないでええええっ!!」

「これは元々田加志さんの死に方だったんだけどね」

「……ヤバい。田加志さんに罪はないのに恨みそうになってきた……うぅ…」

「それじゃあ、次。転生先の条件…第一希望が平和な世界。第二希望で楽しい世界。第三希望で生きるのが楽な世界。ね。はいはい。考慮しますね」

「絶対考慮しなさそう…」

「設問3の転生時の記憶は、ホの望まない。で設問5でリの消して構わないって事で、じゃあ今のこの記憶は全て消していいんですね?」

「……持ってても疲れそうだしね。牛糞で命を落としたとか忘れたいしねっ…しくしくしく…」

「言う程衝撃的かなぁ、この死に方…次の採用はちょっと考えようかな。あと、残るは設問6だけど…もう一度確認するけど蝋燭はあるんだね?」

「…ある。立派な蝋燭ががっつりと。殴ったら痛そうな太さのが」

「……そっか。じゃあ、最後の名前は【牛島田加子】さん。年齢、二十五歳。性別は女、住所は、北海道の○○町の×市…で間違いないかい?」

「ない…」

「なら、他の情報も間違いなさそうだな。独身、恋人もなし。寂しい人生だね」

「やかましいっ!!自分だって、こんな所に一人じゃないっ!!」

「いや、俺、嫁も娘もいるから」

「ッ!?!?」

「何でそこまで目をひん剥いて驚く?」

「…………こんな性悪神様ですら奥さんいるのに、何で私に出来ないのぅ…」

「あ、あぁー…流石に不幸過ぎるか。…そうだな。よし。次の世界に転生するにあたり、出来る限り君の要望に答えようか」

「え?」

「『  』悪いんだけど、あれ持って来て。帳尻合わせるから。いや、それだと駄目だから、新書として作るよ。引き継ぎ?あぁ、それも俺がやるから。『  』にはこの子のフォローお願い」

また誰かと話してる。聞き取れない所はきっと名前を呼んでるのかな?

私は机に上半身から顎を預けて突っ伏したまま、その会話を聞いていた。

なんでそんな格好してるかって?自分が可哀想過ぎてさっき机にダイブしたんだぁ…ショック過ぎて突っ伏したの。すんすん…。

「この子の転生先はここ。『      』で良いと思う。記憶はいらないそうだ。ただ、能力値は少しばかりあげてやってくれ。高い能力はあげ過ぎても良くはないからな。加減しろよ?…いやいや。俺は引き継ぎ作業と嫁と娘に会いに行くから忙しいんだ」

『                』

「もう五十年も会えてないんだぞっ!!そろそろ会いに行ってもいいじゃないかっ!!」

『                』

「うっ……あぁ、もう、分かった分かった。やるよ。やればいいんだろう。兎に角、これを宜しく頼む。…さて、と。じゃあ次はその蝋燭を」

机から生えている蝋燭をあっさりともぎ取ると、何処から取り出したのか解らないけど、殆ど溶け切っている蝋燭を持っていた蝋燭とくっつけた。何故か長さと太さが変わる。え?なにあれ?どう言う仕組み?

私がその様子をマジマジと見ていると、首を傾げた神様は自分の手元を見て、あぁと納得しながら説明してくれた。

「君が田加志さんの代わりに死んでしまったから、君の人生分を誰かが引き受けて生きなければならなくなる。だから一先ずこれを田加志さんに移したんだ」

「え?でも田加志さんって九十歳とか言ってなかった?そんなんで私の分を足したら長寿どころじゃないんじゃ…?」

「あれ?そうだっけ?……じゃあ、彼と彼の孫辺りに割り振っとくか。あの子なら問題ないだろうし」

「なんで孫?」

「ま、色々あるんだよ。よし。これでいい。…ちょっと孫に振り過ぎたかな?…下手すると200歳くらい生き…ま、まぁ、いいや」

それ本当に良いのか?

と突っ込める雰囲気ではなさそーだし、突っ込む義務もない。

「よし。それじゃあ、早速転生して貰うよ?」

「は~い」

「転生したら、当然まずは赤ん坊として生まれる訳だけど、記憶はちゃんと消去するから安心して」

「は~い」

「それじゃあ……『                  』」

お?何か唱え始めた?

全くもって聞き取れないけど…。

あれ?段々瞼が重く…眠くなって来た…。

成程……眠って目が覚めたら、って奴……ね……。

「それじゃあ、健やかに…今度の人生では幸せに」

あ、凄い。今この人本当に神様っぽく見えて来た…。

『          』

「えっ!?嘘っ!?ちょ、それじゃあ全部逆っ………」

んんんーっ!?

さっきまでの厳かな雰囲気と柔らかな言葉は何処行ったーっ!?

しかも最後に何か逆とか言ってなかったーっ!?

ああーっ!!意識が遠のくーっ!!

どうなるってのよーーーっ!!!!!

意識が遠くなる中、私は心の底から全力で叫んだけれど、届く訳はなかったよね。


神様の詳しくはその内こっちにもアップする予定。

早く知りたい人はアルファポリスの

「乙女ゲームに転生しました。でも私男性恐怖症なんですけど…」

をチェック|ω・)

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