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第十三話 誰一人失わせませんっ!!



「とうとう明日だな」

「うん」

今日は灰の月の十五日。明日【紫の月】は満ちる。

最後の調整も込めて、私は庭でサルと話していた。

「結局お前は明日が【紫の月】が満ちるって事、誰かに言ったのか?」

「言ってない。明日の何時に月が満ちるか解らないし。それに言ったら皆残るって言いそうだもの。満ちて光線が降ってきたら、一気に避難信号を出して避難させる。私はまずその一撃を受け止めて、皆が避難する時間を稼ぐ」

「……因みに俺は?」

「道連れって大事よ?」

「「………」」

沈黙。…道連れって大事よ?

一応大事な事だから心の中で二回目を言っておく。

アレク様とデートした日から、数日後に避難訓練のつもりで皆に一斉に地下都市に飛んでもらうように試して貰った。

ラジオを通じて、他の村とかにいる人達にも試して貰ったから恐らく問題ないはず。

そして、今日の夜には七夕祭りの時に使っている結界張る。そうすれば他領から人が来て被害者を増やす事もない。

「今日はなるべく牛料理食った方がいいかもな。精霊力を高めれるだけ高めといた方がいい」

「うん。と思って今日は牛尽くしにして貰った。私が間違って魔法陣発動させたことにして牛肉を回収してきましたっ」

「……牛肉食いてー」

「鯉じゃなくてピラニアになったら良かったのに」

「確かに…って、俺が好きで鯉になった訳じゃねぇっての」

「鯉こく…」

「いい加減諦めろ」

ちょっと諦められないなー、と笑いながら話していると、屋敷からアゲットの私を呼ぶ声が聞こえた。

「晩御飯かな?じゃ、サル。お休み」

「……カコ」

立って埃をドレスの裾から払っていた時、急に真面目に名を呼ばれて私は首を傾げる。

「…今度は簡単に死ぬなよ」

あんまりに真剣に言うから。流石に茶化せないか。

「当り前でしょ」

ふんっと当然だと主張して私はスカートを翻した。


ダイニングについて、皆席に着くと食事を開始する。

母様とシトリンは霞しか食べられないけれど、私と父様は美味しく牛料理を食べている。

あぁ、でもお菓子なら母様もシトリンも食べれたりしたんだよね。少量なら大丈夫なのかもしれない。

それはそれとして、美味しくご飯を食べていると、話は他領へ留学している下の弟妹の話になった。

「早く家に帰りたいって僕宛ての手紙に書いていたよ」

「あの子達もシトリンと一緒でフローラちゃんが大好きですもんねぇ」

「あははっ。父様に会いたいとは一言も書いてなかったけどね」

「し、シトリンっ。駄目よっ。そんな事口に出しちゃっ。あぁっ、父様、泣かないで。私は父様大好きですよっ!」

「フローラ…優しいね…」

見た目、皆骸骨でも家族の団欒はとても暖かい。この団欒を守らなければいけないのだ。

…下の弟妹だけでも安全な場所にいて良かった。

…考えなくはなかったんだ。余所に皆を逃がすって事を。

でも、多分…これは自意識過剰なんかじゃないけど、皆言うと思うんだ。

『逃げてこの領を捨てるくらいなら、共に散る』って。

だから全員を逃がす事を選択肢に入れなかった。それでも、私は商人の人とか外の領に行けるだけの財力がある人には、態と依頼をして領の外へ行って貰った。出来る限り家族で。

やれることはやれるだけやった。

だから…あとは迎え撃つだけなんだ。

食事を済ませ、皆とまったり会話をして、それぞれが寝る準備に入った。

私は、真っ先に湯浴みを済ませ、部屋に戻る。

念の為に、ラジオに声が飛ばせるように準備だけはしておく。直ぐに避難してって言葉が出せるように。

夜着は着ない。作っておいた武器はサルの側に結界を作って準備している。

戦闘しやすいドレスを作って置いて良かった。ふとくない太ももにライフルを仕込んでいる。

愛用のピザ屋スクーターは空を飛べるように改良した。あと背中には一応パラシュートも装備。

バズーカ砲を両手で抱えて、待機。

なんで明日なのに、既に戦闘態勢なのか、って?

そんなの――。


―――ゴォンゴォンッ!!


「夜中の0時からもう十六日だからに決まってるっ!!」

巨大な鐘の音が鳴り響く。

急いで窓を開けて空を眺めると、そこには私達がいつも眺めていた天体の月よりも何倍も大きい紫色の月が浮かんでいた。


―――ギュゥンギュゥンッ!!


何かが集束されるような機械音が聞こえる。

「カコッ!!発射充填されるまでまだ時間があるっ!!避難誘導を優先しろっ!!」

庭からサルの声が聞こえて私は直ぐに窓から離れ手に持っていたマイクを起動して叫んだ。


『皆っ!!起きてっ!!直ぐに地下に飛んでっ!!今すぐにっ!!』


公爵領内全域に私の声が響き渡る。

当然、父様達にも聞こえたはずだ。

私は急ぎ部屋を飛び出して、母様の部屋に飛び込む。


『精霊石を持ってっ!!家の近くにいない人は側にある地下への滑り台の蓋を取って飛び込んでっ!!急いでっ!!』


母様の手を握って、そのままシトリンの部屋へ飛び込む。

シトリンに母様を抱き上げさせて、今度はそのまま使用人の皆の部屋へ。

使用人の皆は私の声で直ぐに動いてくれていた。

「姉様っ!!」


『【紫の月】の攻撃が来るっ!!避難をっ!!皆逃げてっ!!』


シトリンに呼ばれたけれど、答える事をせずにマイクを離さずに訴え続ける。

まずは、母様だっ。

母様を魔法陣の上に乗せる。

「フローラちゃんっ」

母様の姿が消えた。ワープがちゃんと機能している、良かった。次はシトリンだっ!

「姉様っ!待ってっ!!姉様っ!!」

抵抗するシトリンを魔法陣に無理矢理乗せる。ごめんねと心で謝りながら。シトリンは私がいざ負けた時に公爵家の跡取りになる人間だから。

消えたシトリンに続くように使用人の皆に命令をする。

リアンとマリンが抵抗を示すが、逆らうのは許さないと押し通す。

けれど、アゲットとラバスさんはやはり命令すら跳ね除けて来た。

だが、タイミング良く父様が来てくれた。

「フローラっ!お前、知っていたのかっ!!【紫の月】が光を振らせる日をっ、場所をっ!!」

父様の言葉に私は頷いた。

父様はカッと目を見開いて、それでも今は避難が先だと私の手を掴む。

「逃げるぞっ!!フローラも逃げるんだっ!!その為に、お前は地下都市を作ったのだろうっ!?」

私は静かに首を振る。

父様。私は行けないんだ。アレと戦わないといけないから。

「駄目だっ!!フローラっ!!言う事を聞くんだっ!!」

「……ごめんね、父様」

無事戦い終えたら、ちゃんと謝るからね。

父様から手を引き抜き、その胸をドンと突き飛ばした。

突然の事にふらついた父様が魔法陣を踏み、両サイドで驚いていたアゲットとラバスさんも私は父様の体に触れるように手を引っ張って魔法陣の上に引き摺りこむ。

そうして全員が地下へ跳んだ事に安堵して、ここにある魔法陣を一方通行に切り替えた。


『まだ外にいる人は直ぐに地下へっ!!領の境にいる人も直ぐに逃げてっ!!』


走って。私は自室へ戻る。

空飛ぶスクーターに跨り、窓から飛び出した。

「サルっ!!避難誘導よろしくっ!!」

庭までスクーターで走り、マイクをサルの側に投げる。

「カコっ!多分最初の一撃はあっちだっ!!」

ひれが指し示す方向は、噴水広場の方だっ!!

私はスクーターのアクセルを全開にふかして、広場の方へ向かう。


―――ギュゥゥゥゥンッ!!


集束が終わりそうな、発射寸前の音がする。

現魔法で、急ぎ光線を防ぐビームシールドを最大に展開して、



―――ドォォォォンッ!!



発射されたそのキャノン砲の前に立ち塞がった。

キャノン砲の太さは子供用トランポリン位の太さだった。

いくら盾を作ったと言えど、砲撃を私一人で防ぐのはキツイッ!!

あぁっ、しかも跳ね返った光線が周りに飛んじゃうっ!?

でも、せめて出来る限り守りきらなきゃっ!!

更に出来る限りシールドを大きく展開して街を守る。それに、

「おじょう、さまっ」

「お嬢様っ!!」

まだ逃げ切ってない人達がいるからっ。

やらなきゃっ!!

「逃げてっ!!早くっ!!次が来る前にっ!!」

叫んだ声を聞いて、逃げ遅れた人達はすぐに動いてくれる。


『領にいる人間っ!!お前らのお嬢様が一人であれを食い止めてくれてるっ!!逃げろっ!!お嬢様に悲しい想いをさせたくないなら今すぐ地下に逃げろっ!!』


サルの声が領内に響き、それを聞いた皆は地下に向かってくれる。

何とか光線を防ぎきって。


『各村、各街、長が人数確認しろっ!全員確認したらラジオの横についている黒い球体に向かって報告しろっ!!』


サルが頑張って管理してくれている。

なら私がすべき次の事はっ。

スクーターに跨り、上昇っ!

とは言えど、下に空気を吐き出して上に上がるだけの機能だ。

だから近くの屋根の上にまで移動して、そこをまた走り抜け、更に高い屋根へと移動する。

何処まであの月の近くまで跳べるかっ?

解らないから、今いける一番高い屋敷の屋根まで登って、スクーターを降りて、バズーカを構える。

「まず手慣らしよっ!!いっけぇぇぇっ!!」

ドォンッ!!

バズーカの砲弾が月に向かって飛んでいく。

反動で背後にすっ転んだけど、それは仕方ない。

すぐ態勢を立て直して、飛んでいった方向を見る。

砲弾は紫の月にぶつかり、紫の月は散開した。

「え?嘘?呆気なくない?」

思わずポカンとしたのがいけなかった。

紫の月の欠片はぐもぐもとまるでスライムかアメーバの様に軟体に動き、そして球体となり…最初の月よりは小さいもののいくつもの紫の月が出来上がり…所謂分裂したようになってしまい、しかもその分裂した月全てが光線を充填し始めた。

「やばーっ!!欠片も動くなんて聞いてないっ!!」

これは全ての光線を防ぐなんて無理に決まってるっ!

作戦立て直さないとっ!!


『だからお前は馬鹿だって言うんだっ!なんで初っ端からデカい一発を撃つんだよっ!!』


サルの言葉に言い返せないのが悔しいっ!!

だって、最初に大きいの撃って成功したら、被害でないかもしれないじゃーんっ!!


『光線来るぞっ!カコっ、避けろっ!!』


ひゃあああっ!!

スクーターを走らせて、地面に着地して。

頭上にシールドを展開させて走り抜ける。


――ドォォンッ!


最初の一撃よりは細い電信柱位の太さの光線が一斉に降ってくる。

これ、どうしたらいいのぉーっ!?

光線から逃げつつも、次の手段を考えないとっ。でも分裂するって誰が想定するってのよーっ!


『カコっ!上を見ろっ!!』


運転中に無茶言うなっ!

と思いつつも、何とか上を見ると、放射を終えた月が一つ、また一つとくっついて行っている。

もしかして、球体一つに、戻る?

私の思った通り、紫の月は最初の大きな一つの球体に戻る。

分裂しても戻るのか。

……今の内に私の部屋に戻って新しい武器の調達をしよう。

スクーターのアクセルをふかして、最速で走り抜ける。

公爵家の庭まで戻って。

「サルっ!!」

「カコっ、怪我はっ!?」

「今の所ないっ!!」

「そうか、良かった」

池の側まで来て足を地面に降ろす。

「それよりもっ、あれっ、どうしたら良いと思うっ!?」

「まさか軟体だったとは。固めて破壊したとしても溶けて同じ結果になったら最悪だしな」

「そうなのよ。…完全に消滅する方法をとらないといけない。でも、どうしたら…」

「……燃やしてみるか?」

「でもさっきバズーカ撃ったけど、砕けたじゃない?」

「確かに。…って言うか、あれの正体ってなんなんだ?」

「正体って、神様の道具、でしょ?」

「いや、それは聞いたけどよ。あーもっと解りやすく言うなら、アレって何で出来てんだ?」

「………そう言えばそうね。星ではないんだもんね」

私とサルは空で不穏な音を出し続けている月を見上げた。

「さっきサルは充填するまで時間があるって言ったわよね?」

「発射口が見えたからな」

「そっか。…生物、ではないんだよね。分裂したりしたけれど」

「生物の可能性は低い…と言うより無いだろ。何せ道具と言われてんだから」

「道具だって生き物の場合あるでしょうが」

「生き物を道具だって神が言うなら、俺はその神を崇めたくねぇな」

「それはそうね。でもあの神ならやりそうだけどね」

二人でうぅ~んと唸っている間に、三回目の光線の充填が終了しそうだ。

「とりあえずっ、あの発射口を破壊してみるっ!」

「おうっ」

再びスクーターに跨って自室の窓まで飛びあがって、中に入って目的の弾丸と銃を持って。

今度は屋敷の中をスクーターで走り抜けて、二階の屋根から屋敷の一番高い所の屋根まで登る。

何か、さっきより近づいて来ている?

月が一回り大きく見える。

紫の月を良く見ていると、確かにサルが言ったように、下弦の真ん中位置に発射口が見えた。

あそこをまずは狙ってみよう。

今度もバズーカ砲だけど、これは中身が違う。

「せーのっ!!」

―――ドォンッ!!

発射して、砲弾が見事発射口にぶつかり、弾の中身がぶちまけられた。

あれは粘着弾で、ぶつかったものにくっつくとそのまま固まるという代物だ。

「これで、どうだろ?」


―――ギュオンギュオンギュオンッ。


充填はされていく。が、発射されない。

これは成功か?


―――ボオオオオォォォンッ!!


暴発したっ!!

先程の比でない程、小さい欠片となって散開する。

これならばっ。

そう期待を込めて、次の動きを見ていると、欠片はまたぐもぐもと蠢き、バスケットボール位の月へと変化した。

その大きさならば、近付いて攻撃を仕掛ける事が可能かもしれない。

スクーターに跨って屋根から飛び降り、地上に落ちた紫の月を探す。

二度目の光線により起きた火が少しずつ街を燃やす。

地下に街を作って大事なモノはそこに移動しろと皆に伝えといて良かったと心底思う。

「あ、見つけたっ!」

ナイフ…じゃ、駄目だ。一撃で消滅させなければっ。

そう言えば、さっきサルが燃やしてみるかって言ってたっけ?

「それ採用っ!」

現魔法発動っ!

火炎放射器を作りだして、月に向かって一気に発射する。

『熱い…熱いよぉ…』

「えっ!?」

声がして周囲を見渡す。そこには誰の姿も無い。

もしかして逃げ遅れた子が何処かにっ!?

そう思ったけれど。


『カコっ!全員の避難完了報告来たぞっ!』


サルの放送にそれは違う事が解る。

じゃあ、今の声はっ…?

『…苦しいぃ…こんな、怖いなんて、知らなかった…』

月から、聞こえるのっ!?

『ふざけんじゃねぇよっ!!こんな理不尽な死に方あって堪るかよっ!!』

『嫌よっ、死にたくないっ!!』

あぁ…そうか。この【紫の月】は負の感情の塊。…今まで【紫の月】で亡くなった人達の死ぬ間際の感情もそこにあるのか…。

小さい子から、老人まで…。

炎なんて、使ったらダメだ。

光線で焼けてしまった人だっているのに、その残った辛いと言う心に追い打ちをかけちゃ駄目なんだっ。

でも、じゃあ、どうしたらっ…。

動きを止めるのも駄目。燃やすのも駄目。

そうだ。攻撃と言う行動が既に負の感情を産むんだ。

だけど、そんな事言って私がここで負けを認めたら、また新しい負の感情を産んでこの【紫の月】を肥大させてしまう。

ふわっと風が動き、私の頭上に影が出来た。

見上げた時には、発射口がこちらを向いていて。

しまったっ!?

気付いた時には、もう光が発射口に集まって…。


「お嬢様っ!!」


声がして、体が何かに包まれて飛んだ。

体が地面にぶつかったけれど、私は寸での所で光線から助かる。

「こんの馬鹿お嬢様がっ!」

「そうですよっ、お嬢様のばかっ!!」

「リアン?それに、マリン?…どうして、ここに?」

「話は後ですっ!まずはアレっ!剣は効きますかっ!?」

リアンが私をマリンに引き渡し、月から庇うように立つ。

「け、剣は効かないわっ!分裂して小さくなっていくのっ!でもっ」

「成程っ!なら、復活しない程細かく切れば良いんですねっ!?」

「えっ!?」

言うが速いか剣を抜くのが速いか。

リアンは剣を鞘から引き抜き、【紫の月】へと向かって行く。

そして、動魔法を発動して、一気に速度を上げて【紫の月】を光速で斬りつけて行く。

私の目では全く動きを追えない。

リアンが動きを止めて、ゆっくりと鞘へと剣を戻し、チンッと音を鳴らした瞬間。


―――ボフンッ!


音を立てて【紫の月】は粉々になって消えた。

「う、そ…っ。リアン凄いっ!!」

「リアン凄いっ!!じゃありませんよっ!お嬢様っ!!」

「そうですよっ!何で一人で戦おうなんてっ!!」

マリンがボタボタと涙を零しながら私に抱き付いた。

「ご、ごめん…」

「今、動魔法が使える騎士や傭兵、近衛達が地上に向かってます」

「えっ!?何でっ!?」

「何でじゃありませんっ!!お嬢様が心配だからに決まってるでしょうっ!!お嬢様は、お嬢様は規格外だって知ってたけどっ、ここまでなんて思ってませんでしたっ!!お嬢様の馬鹿っ!!」

「あぁっ、マリンっ、泣かないでっ。ごめんっ、ごめんねっ!?」

どうしようっ、すんごい泣かせちゃったっ!!

あわあわしていると、更に私を呼ぶ声が聞こえる。

「この声は…父様?それにシトリン?」

遠くから凄い速さで私達を見つけて駆けて来た父様とシトリン。

「この馬鹿娘っ!!」

「姉様の馬鹿っ!!」

そして同時に物凄い形相で怒られた。

「どれだけ心配したとっ」

「無事で良かったっ、姉様っ」

二人が同時に私を抱きしめた。

正直に言えば今こんなことをしている余裕はない。

だけど、二人の手が震えていたから。

こんなにもイケメンな父と弟が泣いて…うん?

「二人共、なんで元の姿に?」

「私は一旦カナリーの試練の手伝いを外れた」

「僕は途中返上したよ。姉様が地下に教会を作ってくれたおかげでね」

そっか。成程。

「母様が地下で心配で倒れてしまったんだよ、姉様」

「ご、ごめんなさい…」

「こんなこと、二度とするな。解ったね?フローラ」

「うぅ…はい」

二人の本気の怒りが怖かった。物凄く怖かったけど、真剣に心配してくれたんだと嬉しくもある。

「さて。フローラ。お説教は後でがっつりするから覚悟しておくように。だが今はそれよりもアレだな。どうすればいい?」

「リアンが、さっき光速で斬りつけたら消えました」

「光速で、か。成程な。私達の得意分野だな」

「ですね」

そうこう話している間に、【紫の月】が二体、三体と寄ってくる。

けれど、父様とシトリンは同時に動き、一気に斬り捨てて行く。

「流石スファレ様にシトリン様。国一の動魔法の使い手であるタンザナ様とタメを張るだけのことはあるね」

「リアン。貴女も負けてられないでしょ。行ってらっしゃい」

「あぁっ」

リアンも駆け出してしまった。

バスケットボール級の大きさになったおかげで攻撃が回避しやすくなった。

だけどそれでも当たれば致命傷は免れない。

それに、【紫の月】は感情を吸収して強くなる。

しかもそれはこの世界の生き物全てから吸い込む。【紫の月】のエネルギーは無尽蔵なのだ。

月と交戦する音があちこちから聞こえだした。…けど…。

「人の体力は無尽蔵じゃない…」

今までだって、きっとこうして【紫の月】と戦ったんだ。皆。

それでも被害にあった領以外で暮らす人々が、次は自分達の番だと感じたその【恐怖】もまたエネルギーに。

領の中で戦い続けていた人達の、【焦り】倒せない事への【恐怖】、それに自分達の弱さに対する【怒り】、空に現れた自分を殺す存在である【紫の月】への【憎悪】、その全てがまた【紫の月】のエネルギーとなる。

私は上を見上げた。

そこには【紫の月】があった。

下で粉々にされた【紫の月】の欠片はただの感情となり、再び空へ登り新たにまた【紫の月】として出来上がる。

この無尽に続く供給に、私は薄ら寒さを覚えた。

「あれを…壊すには、なくすには、どうしたら…」

「お嬢様…?」

頭を最大限働かせて、思い付いた考えにごくりと唾を飲む。

「私ね、マリン。何も、失いたくないの」

「え…?」

「強欲、なんだよねぇ。欲しいんだぁ。皆が幸せそうに笑う顔とか楽しそうに騒ぐ姿とか。見てると本当に幸せでさぁ~」

「お嬢様?一体何を…?」

「特に一番欲しいのはアレク様っ!!私、アレク様が欲しいんだっ!!」

「お、お嬢様、どうどう」

私は馬か?

…馬かもしれない。いや骸骨や。

自分の脳内がふざけていて、つい笑ってしまう。

「アレク様を手に入れるには、試練の書。これをクリアしないといけないのよ」

「お嬢様?何を考えてらっしゃるんです?」

「一人で撃破、しないといけないんだよねっ。だから、行くねっ!」

私は走りだす。

現魔法を発動させ、作りだすのは機械の翼。

肩に装着して、空高く舞い上がる。

「お嬢様っ!!」

マリンの呼び止める声。けど振り返らない。

高く高く舞い上がる。

私が【紫の月】に近付く気配を察知した【紫の月】は地上にある欠片を吸収し始めた。

【紫の月】と同じ位置に飛び、そして再び現魔法。

作り上げるは巨大な掃除機。

感情と言うエネルギーの塊だと言うのなら、これで吸い込むしかないじゃないっ!!

壊す事も消す事も出来ないなら、後は封印するしかないじゃないっ!?


「スイッチ、オーンッ!!」


スイッチを押すっ!

すると、【紫の月】を形作る欠片達がどんどん吸い込まれて行く。

おおっ!!

予想通り吸い込まれて行くっ!

後は私の精霊力と【紫の月】の容量の勝負だっ!

【紫の月】を吸い込む度に私の持つ掃除機のタンクが一回り、二回りと大きくなっている。

でも【紫の月】もだいぶ小さくなってきている。

なんかお饅頭の半分齧ったみたいな状態になってきているから、このまま行けばどうにかっ!

油断しない様に、吸い込ませ続けていると、【紫の月】の中央に何か光るものが見える。

あれは―――コア?もしかして、アレを壊せばっ!?


『カコっ!!駄目だっ!!逃げろっ!!』


「―――え?」


サルの声が聞こえて、反応した時には遅く。

私の目の前に数体の【紫の月】の欠片がこちらに発射口を向けていて―――。


……シールドを展開する暇はなかった。


ドォンッ―――。


肩に衝撃走る。

痛みよりも、焦りが脳内を駆けた。

だって、その光線が狙っていたのは私の肩じゃなくて…。


―――タンクだから。


ドォォンッ!!


派手にタンクが爆発し、爆風が―――私を、噴き飛ばした。


戦うヒロインが好き。

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