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第九話 予想を超える令嬢(前編)


「…はぁ~…。本当、あの嬢ちゃんは想像しない事ばかりしでかすな…」

父上がソファに大きく沈み込んだ。

「だらしないですよ、父上」

俺がそう言うと何故か父上は益々ソファに沈み込んだ。

「仕方ないだろ。あー…確実な安パイだと思ったのに。まさか、アレクを持って行こうとするとは…」

「可愛いですよね」

「いやいや、何処がだ。あんな令嬢始めてみたぞ。王にすら噛み付いてくるとはな。カナリーの血が入っていると言えど」

何かぶつぶつ言っているが、構う必要はないだろう。

最後の一枚にサインをして俺は父上に決裁書類の束を渡した。

「父上。必要な決裁書類は以上ですか?」

「んあー?どれどれ…おー、いいぞ。これで問題ない」

「そうですか。では本日はこれで失礼します」

「あー、ちょっと待て待てっ。アレク、俺はお前に聞きたい事があるっ!」

「?、はい、何でしょう?」

「その…今日のパーティでお前言ってただろ?フローラ嬢の事が好きだったって」

「……」

「いつからだ?いつから惚れてた?」

「…………では、失礼しますね」

「おおーいっ!?」

父上が何やら叫んでいたが、内容的に相手する必要がないと判断した俺は父上の執務室を出た。

廊下を歩き自室へと向かう。

「……いつから惚れてた、か。どうだったかな…」

そもそもあんな生命力の溢れている女性に惚れない方がどうかしてる。

それでも最初に姿を見た時、想像以上の姿で驚いた気がする。

ふと、自分の記憶を遡ってみた。


※※※


「おい、アレク。父様達が呼んでいる。さっさと準備しろ」

唐突に人の部屋に入って来て何を言うかと思えば、この兄は相変わらずアホである。

「…それは私も含まれているんですか?」

父上が人を呼ぶ時、大抵俺は含まれていない。簡単な話で俺が兄達に情を沸かせない為。

俺が試練の書を受け取り、開いた一番最初の試練に【王になる事】と書かれていた。

その時点で俺は跡継ぎと決まり、教育が開始され兄弟と慣れ合うどころか会話をする事さえほぼなくなってしまった。

「じゃなきゃ誰が呼びにくるかよ、ばーかっ。無駄な時間とらせやがってっ。早くしろよっ」

……バカはどちらだろうか?

侍従に頼むとかして俺を呼び出せばいいものを。わざわざ自分の足で来るとか…。

はぁ、仕方ないな。呼ばれたなら行くしかないだろう。とは言え…正直気が進むものではない。

「…この格好で行く訳にはいかないので。着替えるので先に行ってて貰えますか」

「ちっ、その無様な体格と地味な顔で今更服だけ着替えても無駄だっつーの。けどまー、おれとしてはお前がいない方が楽で良いし。せいぜいゆっくり準備して遅れて来いよっ」

良く解らない捨て台詞を吐いて出て行った。

無様な体格と地味な顔、ね。間違いではないから今更何も思わない…訳でもない。

祝福ってのは本当に厄介だ。どれだけ鍛え上げようとこの体は痩せる事がない。顔だって両親に似ることなく、可もなく不可もない顔になる。

…なんでこんな祝福を受けたんだか。いっそオニキス兄さんみたいに【感情と反対の言葉が出る】みたいな祝福だったら良かったのに。それだったらまだやれる事があったのに。

姿に関してはやりようがない。祝福を返上するか、受け入れるの二択のみなんて、そんなの本当に祝福を言えるのかと疑問に思えた。

「思った所でこの世に産まれた限り、どうする事も出来ないんだけどな…。さて、着替えるか」

汗を掻きやすいこの体。着替えはいつでも用意して貰っている。それに素早く着替えて俺は王の私室へと向かった。

私室に入ろうとドアをノックしかけて、俺の手は止まった。

どうにも会話が終わって出てこようとしてるみたいだったから。

急いで来た道を戻り、曲がり角の影に隠れる。

すると、中からオニキス兄さんとボルダー兄さん、そして…あれは…あの顔は…。リヴィローズ公爵家が代々与えられている祝福の…完全に骸骨じゃないか。

カナリートル様を見た時も思ったが、女性であの顔は…地獄なのでは?

あの子もドレスを着ている所をみると、恐らくスファレライト元騎士団長の愛娘、って事か。……嫌な予感がするな。

特にあの馬鹿…もとい、ボルダー兄さんが何かやらかしそうだ。

オニキス兄さんのエスコートの下、彼女は隣の客室へと入って行った。

……後を追って入るのも、今は得策じゃない気がする。

俺はボルダー兄さんも中に入った事を確認したのち、そっと扉まで近寄って扉に背中を預け会話を聞く事にした。

「フローラ様はお菓子がお好きですか?」

オニキス兄さんの穏やかな声が聞こえる。ボルダー兄さんの声も聞こえるが、オニキス兄さんがフォローしているんだろう。

これは心配する必要はなかっただろうか?

と、思った直後。

「所でフローラ嬢。一つお聞きしたい事があるのですが」

「…答えられる範囲でしたら」

「貴女が試練の書の半分をクリアしていると言う噂は本当でしょうか?」

「………は?」

(………は?)

思わず心の中で答えた言葉が令嬢と重なった。普通に考えてあんな幼い子、七歳の俺よりも小さい子に試練の書半分なんてクリア出来る訳ないだろ。

「その様子だと、噂は嘘ののようですね。あぁぁ、良かった。焦りましたよ。今おいくつでしたっけ?確か四歳でしたよね?その割に口調も頭の回転も速くて、もしかしたらと思っていたのですが、良かった。でも、そうですよね。そんな見た目をしているんですから祝福返上なんて出来てる訳がないんですよ。アハハハッ」

……あー…、オニキス兄さん、祝福ががっつり働いてる。働いてるとは言え、あれは言い過ぎだ。令嬢、泣いちまうだろ。あんなんじゃ…。

「兄様。だからもう行こうって。こんな骸骨女と同じ空気吸いたくねぇよ」

…馬鹿が追い打ちかけやがった。どうする、いっそ出て行くか?

「えぇ、そうですね。とても女生徒は思えない物質と一緒にいたくはないですね」

…ちっ。思わず舌打ちが出る位には二人の兄が下手を打っている。

少し考えれば解るだろうに。今、この国の財政を支えているのは王都と隣の領であるリヴィローズ公爵領だ。その公爵の令嬢をないがしろにしたらどれだけ国に損害があるか。

駄目だ。本当に乗りこむ必要が出て来た。ドアの取っ手に手をかける。

中ではオニキス兄さんの祝福を理解していない馬鹿が増々煽るような事を言い続ける。止めなければっ!

取っ手を握る手に力を込めた、その時、中から投げてはいけない爆弾を馬鹿が投下してしまった。

「怪物だもんなっ!骸骨女、とっととこっから出てけよっ!お前達みたいのがいるから、騎士団長だってこっちに戻れないだろうがっ!皆死体みたいな見た目してんだから実際同じにしても変わらねーって。な?もう潔く死ねよ。なんならお前の産まれたばかりの弟から」

「あぁっ!?」

ずっと沈黙を保っていた令嬢が令嬢らしからぬ声でキレた。

ヤバいヤバイヤバイっ!!

慌ててドアを開けて中を見ると、

「ふざけてんじゃないわよっ!!」

座ったままの令嬢の背後に、いくつもの火の玉が出来上がっていた。

「こっちはねぇっ!アンタ達みたいなガキの相手をしたくないから黙っていてあげたのよっ!!それも解らないクソガキ共がっ、人の事を骸骨骸骨、しまいには私の大事な家族に死ねですってぇっ!?」

火の玉は令嬢が叫ぶ度に近くの物に当たっては爆発を引き起こす。どうやらその火の玉は良く見ると小さな爆弾の形をしていた。

「現魔法じゃねぇか」

こんなの今の俺には止める事は不可能だっ。

俺は急いで隣の部屋へと走った。

「父上っ!!」

ドアを勢いよく開けると、驚いた大人達が一斉にこっちを見た。

そして、ドォンッと隣から爆発音がまた響く。

「フローラっ!!」

真っ先に動いたのはスファレライト元騎士団長だった。それに続くように父上も母上達も立ち上がり走る。俺もその後を直ぐに着いて行った。

スファレライト元騎士団長が中に入って行って、父上も入り令嬢に冷水を被せた。

「…アレク。一体何があったのです?」

「解る範囲で構いません。説明なさい」

母上達が俺に説明を求めたので、俺はありのままを説明する事にした。

「最初はオニキス兄さんが令嬢の噂を確認する所から始まりました。兄さんは恐らく噂が本当でない事にホッとしたんでしょう。親しみを覚えたオニキス兄さんは小さい子に試練をこなされていなかったと言う安堵から祝福を止められずに口が動いてしまった。そこに未だオニキス兄さんの祝福を理解していないボルダー兄さんがオニキス兄さんの言葉に同調してしまって。言ってしまったんです。骸骨女と」

「……そうなのねぇ?」

「ですが、令嬢はとても賢い子で。相手にしていなかったんです。これならば俺が入ればどうにかとも思ったのですが、ボルダー兄さんが地雷を…彼女の家族や産まれたばかりの弟も死ねばいい、みたいなことを言ってしまって」

伝えるべきことを伝えて顔を上げて、俺はビタッと動きを止めた。

母上達の額に青筋が…これは、ヤバい。本気で怒ってる時の顔だ…。

「私にだってっ!」

ハッキリと耳に届いた令嬢の声に俺は思わずそちらへ目を向けた。

「私にだって守りたいものがございますっ。それを守ろうとする事が罪だと言うのならば私はこの国を見限り、己のやりたいことを貫いてこの生を終えますっ!」

言い切った令嬢の…彼女の姿が俺にはとても眩しいものに見えて。

目が逸らせなかった…。

あんなにも細く、風が吹いたらまさしく飛んでいきそうな見た目で。失礼だが顔も骸骨としか言いようのない人とは言い難い顔をしているのに。

こんなにも逞しく、強く、凛々しく見えるものだろうか…。

「アレク?」

アイオラ母上に声をかけられて、ハッと我に返る。声をかけられなければ俺はずっと彼女を見続けていたかもしれない。

見惚れ続けて、いたかもしれない…。

その事実に気付いて、かぁーっと顔に熱が集まる。このまま母上達といると色々揶揄われる可能性が高い。

「お、俺が伝えるべきは以上です」

「そう。解ったわ。ありがとう。貴方は部屋に戻っていなさい」

タンザナ母上から許可が下りたと同時に俺は自室へ向かって全力で走りだした。

自室へ飛び込んで、真っ直ぐベッドにダイブした。

何だコレ、何だコレっ!

令嬢の姿が瞼裏から消えないんだがっ!?

目を閉じても、目を開いていても姿を思い浮かべてしまうのであれば、と俺は机に戻り勉強に集中する事にした。

暫く集中していると、途中オニキス兄さんとボルダー兄さんが部屋を訪ねて来た。

その時の二人のテンションは両極端で。

オニキス兄さんは落ち込みまくりで、ボルダー兄さんはタンザナ母上に死ぬほど特訓受けさせられた筈なのに元気に怒っていた。

「何だよ、あの女っ!!アイツの所為でおれはタンザナ母様に特訓殺される所だったんだぞっ!!」

…いや、殺されるも何もピンピンしてるじゃないか。大体特訓殺されるってどんな言葉だよ。

「………うぅぅ…」

オニキス兄さん。俺の机にある黒板に文字を書いては俺に読ませて消してってするの止めてくれないか。

因みにオニキス兄さんは、

『どうしよう…女の子に言っちゃいけない事言っちゃった』

『思ってたよりも可愛い子だったのに』

『優しそうな子だったのに、僕はなんてことを』

等々、ずっと書いては消してを繰り返している。

と言うか、まず俺が思うのは。

「兄さん達、そう言う事は自室でやってくれないか」

邪魔だから…とまでは言わないけれど。どうにか察して帰ってくれないかな…。

そんな俺の願いは叶わず、兄さん達は夜通し俺の部屋に入りびたり騒ぎ続けた。……勘弁してくれよ。


……と、その時は一日で終わると思っていた。

が、甘かった。入りびたりは毎日毎日続いたのだ。

やってられっかっ!!

いい加減一人の時間が欲しくて、外出許可を父上に求めた。父上はニクスと一緒ならばと許可をくれた。

ニクスはタンザナ母上の兄の子で。オニキス兄さん同い年の従兄弟だ。騎士の道を歩み、動属性の使い手であるサードニクスはある時から俺の専属護衛として一緒にいてくれる。

兄さん達よりも余程話の通じる人である事は確かだ。

一人の時間が欲しいと言った俺に同情してくれて、即公爵領へ行くのはどうかと提案してくれて、許可をとった後もこうして付いて来てくれた。

だが…一人の時間が欲しかった俺は、正直ニクスですら鬱陶しかった。

結果、俺は夜に一人宿を脱け出して、街を歩き前から興味のあった精霊の森へと向かった。

ローブを深く被っているから誰かにバレる事もないだろう。

精霊の森の手前にある川に辿り着くと、そこに誰かがいる事に気付いた。

見た事もない乗り物に乗っている…あれは、まさかっ、リヴィローズ公爵令嬢かっ!?

テンション高く、川を乗り越えようとしてるのが離れていても解る。

いやいやいや、一人だと絶対危ないだろっ!

俺は急いで彼女に「止めときなよ」と声をかけた。

彼女は何処から声が聞こえたのか解らないらしく周囲を見回している。

持っていたカンテラを少し高めに持ち直して急ぎ彼女に駆け寄った。

「いくらそっちが精霊の森だと言っても、夜の森は危ない」

「あ、はい。そうですね。危険だと思います。じゃっ」

「えっ!?じゃっ、ってちょっと待ってっ!」

全く俺の言葉が彼女に届いてない事に驚き、慌てて彼女の服を掴んだ。

彼女は何故駄目なの?って顔でこっちを見つめる。いや、普通に考えて駄目だろ。

周りを見ても彼女の護衛らしき人は誰もいないし。勝手に脱け出してる俺が言えた事じゃないだろうけど危ないってっ!

「駄目だって言ってるだろ。危ないって」

「え?あ、はい。聞きました。どなたか存じませんが、ご忠告ありがとうございます。それじゃっ」

素早く手を上げて、額に伸ばした手をくっつけて、いなくなろうとしている。

行かせるかってのっ。

「だからっ、止めとけってばっ!」

服じゃ駄目だ。これは本格的に止めなければ。

掴む場所を服から手首に変えて止める。

「あ、あのっ、出来れば手を離して頂きたくっ」

「離したら川を越える気だろっ。離せるかっ」

ハッキリと断言すると、彼女は今度こそ本気で驚いた。

「ええーっ!?な、なんでですかっ!?大丈夫ですよっ!!私、強いですしっ!!」

「そんなに細っこくて強い訳ないだろっ!」

強い事は知っていたけれど、それでも何が出るかなんて解らない。特に彼女は権力と財力を持つ女の子だ。狙われる可能性は高いんだ。

だから、きっぱりと言ってやると。

「確かにっ!!」

「納得するんだ…」

彼女は俺の言葉にあっさりと頷いたのだった。

あまりにあっさり頷くので若干拍子抜けしてしまった。

が、彼女は納得しただけで、諦めてはいなかったらしい。

「でも、行かねばならないのですっ!!精霊に会いに行くのですっ!!」

と再び強い前進姿勢を見せた。

そんな彼女を引きとめつつも、彼女の言葉に驚きを隠せない。

「精霊に…?馬鹿な。会える訳が…」

正気か?と疑いたくなる。精霊に会おうなんて。神の使いに会いに行くと言っている様な物だ。けれど彼女は迷いなく言い切った。

「会えますっ!!」

と。どっから来る自身なのか。

「何を根拠に…」

思わず呟いた言葉を彼女は聞きとっており、

「ウシの生態なら嫌って程知ってますからっ!!いざっ!!」

……【ウシ】ってなんだ…?

なんて考えている余裕はないようだ。

進もうとする彼女を止めようにも、もうどうにも止められない事が解ってしまった。

「いざって…あぁ、もうっ!見てみぬふり出来る訳ないだろっ。俺も連れてけっ!!」

最終手段をとった。

彼女が乗っている乗り物に乗り込んだのだ。俺は祝福の所為で年の割に体重がある。

これで乗り物は動かなくなるだろう。

そう踏んでいたのだが…これも次の瞬間あっけなく覆された。

「レッツゴーッ!!」

俺を後ろに乗せたまま、乗り物は走り出したのだ。

しかも物凄い速度で。

馬よりも速いかもと疑いたくなるこの乗り物から振り落とされたらそれこそ危険だ。

とは言え彼女の細い体に掴まるのも気が引ける。…この座席の裏側のへりにでも掴まっておこう。

「すごいな…。こんな、乗り物初めてみた…」

そう言えば彼女は現魔法の使い手だったな…。この歳で現魔法を使いこなしているなんて…。規格外だと知ってはいたけれど、ここまでだとは…。

森を走り抜けて、一気に視界が開けた場所についた。

草原と言っても良いような平地に周囲を囲む森。ここは森の中央のようだ。

そして、一番驚くべきは精霊の多さだ。こんなに多数の精霊を始めて見た。

「凄い…、こんなに、精霊がいるなんて…」

自分の見ている景色は奇跡に近い光景なのではと、俺は口をぽっかり空けてその光景を眺めていた。

だが、前方から想像もしない言葉が飛んできたせいで、その口は更に大きく開く事になった。

「さて、と。どうしようかな?どのウシから食べよう」

………はい?

彼女が精霊の事をウシと言っているのは理解した。…が、今食べる、とか言わなかったか?

…いや落ち着け俺。もしかしたらウシと言うのが精霊の事ではないのかもしれない。

「お、おいっ、ウシ、と言うのが何かは解らないけれど、もしかして…精霊を食べるつもりかっ?」

そんなこと、ないよな?冗談、だよな?な?

「美味しいんです」

コクリと真剣に頷かれた。嘘だろ…?

本気で?こんな夜中に?精霊と会うどころか食べる為だけに来たって?

しかももう味を知っている?

いや、ホント…規格外にも程があるだろ…。

なんか、なんかもう…呆れる通り越して、面白くなってきた。

ふつふつと笑いが込み上げて来て、我慢が出来なくなって思い切り笑ってしまった。

「こんな真夜中に、国王級の現魔法を使って精霊の森に来るから何かと思いきや、精霊を食べるだってっ!?」

面白すぎて笑いが止まらなかった。ヒーッ、腹いてーっ!

「…美味しいんですっ」

更に真剣な顔で同じ主張をされた。いや、だからさっ、何で味知ってるんだよっ。面白すぎるっ!

大体問題があるだろ。

「どうやって食べるんだよっ。近寄れもしないんだぞっ、精霊はっ」

笑いながら問いかけると、彼女は神妙に頷いた。何でだっ。笑いが止まらなくなる。勘弁してくれっ。

「ウシは足が速いですからねー。しかも私達じゃ捌けませんし。なーのーでー、ここは現魔法を使おうと思います」

笑い死ぬかもしれない。どこまでも精霊を食べたくて仕方ねぇんだな。

どうする気だと問いかけると、罠を張ると返事が返ってくる。

しかも、言った瞬間また乗り物を走らせた。慌ててつい彼女の腰に手を回してしまった。ほっそっ!?

これは掴まったら駄目な奴だっ。…と思ってたんだけど、彼女は一切気にした様子もなかったのでそのまま手を回してる事にした。

少しは知ってから彼女が乗り物を止めたので、俺も彼女から手を離すと、彼女は乗り物を降りて魔法陣を作り上げた。

一体何の魔法陣なんだ?

魔法陣を近くで見てみたくて俺も乗り物を降りて魔法陣を覗き込む。

「それはなんだ?」

素直に問うたが彼女は答えをくれなかった。内緒と言って笑いまた乗り物に乗りこむ。

置いて行かれたら堪らない。これから彼女がやろうとしている楽しそうな事を見逃すなんてそんな事出来ない。

俺も慌てて彼女の背後に乗り込んで。彼女も俺が乗り込むのを確認してから動いてくれた。…それに少し喜びを覚えてしまう。ちゃんと一緒にいる事を認めてくれた、みたいで…。

なんてちょっと喜んでいたら乗り物が急に方向転換して、これは余計な事を考えてたらいけないと慌てて座席に掴まる。

乗り物はギュオンギュオンッと音を立てて走り、精霊達を誘導するように追い立てる様に旋回して。精霊が魔法陣を踏んだ瞬間、ボフンッと音を立てて小さな煙が発生した後、その場所に大きな瓶と綺麗に分断された肉が現れた。

「…マジか…」

驚いて思わず出た俺の言葉を気にした様子もなく、彼女は乗り物を魔法陣の側で停止させると、躊躇いなく降りて現れた瓶と肉の側へと駆けよった。

しかも躊躇いなく瓶の中を覗き込むと、手で白い液体を掬い飲んだ。

あまりにもあっさりと水を飲む様に飲むから、制止も間に合わなかった。

「美味しーっ、濃厚ーっ!」

……目が点になりそうだ。規格外って言葉で足りないな。彼女は。

「君も飲んでみる?」

しかも俺にまで進めてくるって…こっちは一応王子なんだが…いや、解ってる。俺の正体に気付いてないってことは。

……乗り物から降りて、彼女の横に立って瓶の中を覗く。チラッと横目で彼女を見ると、自信満々にこっちを見ている。

これは拒否出来ないな。…まぁ、多少の毒では死なないから大丈夫だとは思うが。

手を白い液体の中に入れて掬い飲む。

すると、爆発的に体に精霊力が染み渡る。

「なん、だ…これっ。凄い精霊力が満ちてくるっ。精霊の力か?」

問うても隣から返事は返ってこない。

そうか。これ、精霊を殺めて手に入れたものだから…。

「けど、精霊を…殺めたんだよな?これ」

敢えて、そう言葉を続けると、彼女は焦ったように言葉を探して。

「殺めたんじゃないよ」

「え?」

「星に返したの。…君は気付いてるよね?私が現魔法を使えるってこと」

……神妙に話し始めたな。

だけど、欲が隠せていない。手際よく木の枝を集めて火を点けて。肉を木の枝に刺していそいそと焼いている。

絶対食欲を満たす為に今言い訳考えてるだろう?

彼女の横に座り、チラッとローブの隙間から彼女を盗み見る。…肉しか見えてねぇ…。

「私は、教会で開示式を受けた時に神の声を聞いたの。神は言っていたわ。精霊がこれ以上増加したら大変なことになると」

……これは、嘘を言っているような感じはしないな。けど、本当だとしても結構な事を言ってるぞ?

「それを食い止めるには、精霊を殺めるしかない。けれど、そんな事が出来る筈がない。なら、そうしたら良いか考えたの。そして思い付いたのがあの魔法陣を使って精霊を一度神の下へ、星に返す事だと。そして星に返した代わりに与えられるのが」

「これだ、と?」

彼女はコクリと頷くが肉から目を離さない。全てが嘘とは言わないが、所々無理があるぞ?

「上手い事考えた作り話だな」

ボロを出させる為にわざと嫌味に言ってみたが。

「やっぱり信憑性足りないかー。もう少し練らなきゃ…」

まさかの否定も言い返しも無く、あっさりとした肯定が。やっぱりこの令嬢はどこか、規格外だ。

「…やっぱりお前が食いたいだけで精霊を殺めてないか?」

「否定はしませんよ。でも神からお告げがあったのは嘘じゃないです」

それは俺も疑ってはいない。

神が率先して精霊を減らせと言う。…確かに、精霊は自分で精霊だと名乗っている訳ではない。人間が勝手に崇めてるだけで。

生物はどれか一つの種族が増え続けると生態系が崩れる。

「…所詮精霊と崇めているのは人間の勝手、そう言う事か?」

「そう言う事です。精霊と私達が言っているだけで、精霊もまた動物ですよ」

「動物は増え続けると生態系を壊す?」

「そうです。ですが崇めている物を急に数減らし何て出来る訳ないですし。結論、人にはそれなりの言い訳が必要です。はい、どうぞ」

美味そうに焼けた肉を渡された。…肉を食ったことが数えるくらいしかないから、若干躊躇いがある。

「…お前の目から見てここの精霊の数はどうだ?」

自分から肉に齧りつくのは…踏ん切りがつかず、彼女に話かけた。すると躊躇いなく肉に齧りついた彼女が唇についた肉汁を指で拭きつつ、言った。

「多過ぎますね。ちょっと予想外の多さです。下手すると食べるものがなくなって街まで来ちゃいますよ」

言ったあと直ぐに肉に齧りつく。幸せそうだな。骸骨の顔なのに、幸せそうに食べるその顔が可愛く見える。

「それで?お前は夜な夜なここに来て精霊を星に返すのか?」

「毎日食べたら飽きちゃいますしねー…どうしようかなー…」

困る所はそこなのか…。笑いが込み上げて来そうで、ぐっと堪える。

「…民にも食べて貰ったらどうだ?」

一つ案を出して見ると、

「あー、それ良いかも知れないですねー。領地の発展にもつながりそー」

軽い答えが返って来た。考え込んでいるってのもあるんだろうが、多分意識の半分は齧りついている肉にあるんだろう。

「あ、思い付いたっ」

「?、どうした?」

「タナバタをしようっ!」

「タナバタ?」

「うんっ。これなら神話としても恋愛話としてもありだし、休みも与えら得るし、皆で一丸となってやれるしっ!良いじゃんっ!!」

「おい?何か良い案でも?」

閃いたんだろうな。疑問形にして言ってみたものの、顔を見たらもう確信してる。何か思い付いたんだろうなって。

「ふふんっ!とっても良い案が思い付いたのっ!」

の割には、案が浮かんだ事より握られた枝の先にある肉に意識奪われまくりだと思うんだが…?ほんと、規格外。ほんと…。

「おかしな奴だな」

思わず呟いた言葉に彼女は一瞬キョトンとしたけれど、

「見た目からしておかしい奴でしょうよ。そんなの気にしてたらこの世界では生きて行けないって実感したんで」

そう、ハッキリといいのけた彼女が妙にカッコよくて。ここまで規格外だともう笑いも抑えきれなくて。

「ハハハッ、確かに」

心の底から同意して、俺は渡された肉に齧りついた。

「…美味いな…」

今まで食べた中でも一番美味い。肉が口の中でとろける…。って言うか、マジで美味すぎるだろ、これ…。

「最高だよね…」

隣で幸せそうに食べ続ける彼女をこっそり盗み見しつつ、自分も肉を食べ続ける。

何か会話をする訳でもない。けれど、この空気感は嫌いじゃなかった。

二人で肉を食べ終えて、瓶の中の白い液体をもう一度飲む。

「そういや、この液体って」

「ウシの乳だよ」

「ちっ!?あ、あ、そう…」

ケロッと言われて反応する方がおかしいよな。でも何か気恥ずかしくてローブを深く被って既に隠れている顔をもっと隠す。

「さて。良い案も思い付いたし、美味しいお肉とギュウニュウも飲んだし、帰ろうかっ」

「え?良いのか?これこのまま放置で」

「大丈夫でしょ。上手くいけば他の食材に変わるかもだし、他のウシ入るかもだし」

そう言って彼女は乗り物に乗り込み、ぺしぺしと自分の後ろを叩いて俺に乗る様に訴えてくる。

「なぁ?」

「ん?」

後ろに乗りこんで、彼女が乗った事を確認してから乗り物を動かした。

「アンタのその姿、祝福だよな?」

「うん。そうね」

「……周りに何かしら言われるだろ?」

実際言われたはずだ。兄さん達に。

「言われるねぇ」

「……嫌にならないか?」

「えー、今更でしょー。祝福ありきの世界に生まれたんだから、そこ気にしてどうなるの」

「その祝福だって貴族ってだけで度合いが」

「まぁねぇ。……でも、私は、私の大切な人達が害されなければそれでいいからなー」

「大切な人…?」

「そそっ、家族だったり、友達だったり、これから出来るかもしれない恋人だったりねっ。自分が何と言われても、私さえ意志を強く持ってたら痛くも痒くもないしねっ」

ふふんっ、と勝ち誇る彼女を俺は凝視してしまった。

月の光が彼女を照らす。望んだ姿ではないのに、胸を張って進む彼女の姿に俺はまた目を離せなかった。

……彼女から目を離せなくなるのは二度目だ。何で、こんなにも魅力的に見えるのか…。

「な、なぁ?さっき恋人って言ったよな?」

「これから出来るかもしれない恋人、ね」

「って事は今恋人って言うか、婚約者とかその候補とかいないって事だよな?」

「いないねー。いる訳ないけどねー、年齢的にも」

そっか。いないのか。…貴族によっては生まれつき婚約者決められてる奴もいるけど、いないなら一安心だ。……って、ちょっと待て?俺。

な、なんで今俺あんな事聞いたっ!?

ぶわっと羞恥心で顔が真っ赤に染まる。

「あ、ねぇねぇ」

「な、なんだっ!?」

焦って声がどもる。だが、彼女は気にした様子もない。それにちょっと安堵しつつ、彼女の次の言葉を待った。

「君の家、どこ?」

「え?」

「私送ってくよ?」

…は?何度俺は目を点にしたらいいんだ?男が女に送られる?あり得ないだろっ!

乗り物は、気付けば俺と彼女が出会った所まで来ている。

川を渡ったのを確認して俺は乗り物から飛び降りた。

「え?どうしたの?」

「ここでいい。こっから来た道を帰るから」

「え?え?でも夜だよ?一人だと危ないよ」

「それはこっちのセリフだ。むしろ俺が送ってってやりたいが…それはアンタも困るだろ?」

「あぅ、それは、そうなんだけど…」

何か葛藤している彼女に俺は笑った。きっと顔は見えていないだろうけれど。

「なぁ、もう一つだけ聞いていいか?」

「え?なに?」

「もし、目が離せなくなる異性がいたら、アンタはどうする?」

「え?なになに?恋バナ?」

恋バナ…?恋の話…?恋の話っ!?

「そうねー。私だったら、その人の事をもっと知りたいと思うかな。で、もしもすっごくすっごく好みだったなら、絶対手に入れるっ!」

「絶対?」

「絶対っ!!」

「もし誰かのモノだったら?」

「奪ってでもっ!!」

グッと天に拳を突き上げて。天井がある乗り物に乗っている事を忘れて天井に拳ぶつけて、うぐぐと痛みに唸っているのはさておいて。

そうか、奪ってでも、か。

「でも奪うってのは、誰かを傷つける行為でもあるからね。最終手段かなー。一先ずは出来る事を出来る範囲でやるよ」

窪んだ目から涙流しながら言う彼女が可愛いく見えて、その髪を撫でたい衝動をぐっと堪える。

「……ハハッ。一直線、だな」

「欲しいなら、足掻かないと」

「そうだな。…まずは、知る所から、かな」

うん。もっと知りたい。

俺は彼女の事をもっと知りたい。次は何をするのか、何に怒るのか、何にその全力の感情をぶつけるのか…知りたい。

その為に、今、俺が出来る事は…試練をこなして父上の心証を良くして、正式に彼女に会いに行く機会を作る事だ。

「……じゃあ、また。会えたら会おう」

背を向けて俺は駆け出す。顔すら見せられない自分にはまだ彼女と向き合うだけの立場にないから。

駆け抜けて宿へと戻る。

「…楽しかったか?アレク」

「……あぁ、とても楽しかった」

窓から戻った俺に仁王立ちで俺を迎えたニクス。けれどニクスは怒る事なく俺の頭をわしわしと撫でてさっさと自分はベッドに潜り込んだ。

おい、護衛…と思わなくもないが、自分の身くらいは自分で守れる。

俺は二つ並んだベッドの空いた方へと潜り込んだ。

沢山笑って、色んな綺麗な物を見て、予想外に美味しい物を食べて…満たされた俺が眠りに落ちるのはあっという間だった。

翌日。心身ともに回復した俺は帰城してすぐ自室にいた兄さん二人を追い出し、試練の書と向き合った。

やるべきことは多々ある。今まではどうせ全てなんて無理だからと諦めていた。だけど…彼女とまた出会う為にこの試練の書はきっと良い武器になる。

父上の心証を上げる為にもこれからは王になるべく教育にも集中して向き合う事に決めた。


お気に入り登録に評価ポイントありがとうございます(ノД`)・゜・。

目に見えて面白いと言って貰えてるみたいで嬉しい!

これからも楽しんでいってくださいませ~(*´ω`*)

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