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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第一章 Soul Research Institute
8/103

8 幽霊屋敷に突撃だ!

 いくらか休憩してから、博士の号令により、新人四人は廃墟の前に並んだ。


「ちぃとばかし予定が狂ったが、まあ問題ないじゃろう」


 先程、坂田が突っ込んだばかりの廃墟の入り口を仰ぎ見て、博士が呆れた顔をしながら言った。

 玄関であったであろう場所には、人が一人通れるくらいの大穴が口を開けている。

 バイクも坂田自身もほぼ無傷であったことは、幸運だったといえるだろう。

 元々、廃墟というだけあって、どこもかしこもボロボロに腐っていたのが幸いしたのだ。



「では、気を取り直して、これより作戦を開始する。早速だが、君らにはこの廃墟に入ってデータを取ってきてもらいたい」


「データを取るって……どうやって?」


 坂田が疑問を投げかける。


「なに、そう難しくはない。君らが、訓練で着けてるゴーグルあるじゃろ」


 そう言って、自分の後ろに止めてあるハイエースの荷台からゴーグルを取り出す。


「こいつは『ソウルアイ』といってな、幽体を視認する為の器具なのだ。実はこやつにはカメラが付いておって、君らが見た映像を記録することもできるんじゃよ」


「へぇー、じゃあそれで心霊映像でも録って来いってか」


 坂田が軽口を叩くと、博士の後ろでエリックが鬼のような形相で睨んでいるのが見えた。


「まさにそのとおりじゃ。それと、記録した映像はそこらのオカルトマニアやTV局に売りつける予定じゃから、そのつもりでな」


「えっ! なんでですか?」


 八坂が抗議の声を挙げる。


「すまんのう、うちも金に恵まれてるわけじゃないのだよ。まあ、声やら顔やらはちゃんと加工しておくから安心しなさいな」


「そういう問題じゃ……」


「もちろん、しっかりと手当も付けるぞ」


「それなら、まあ、いいかな……」


 一応は納得した八坂だが、まだ少し不安な表情ではあった。

 そんな八坂とは対照的に、坂田を始めとした男三人組は無駄にテンションを上げていた。


「場合によっちゃーテレビに出られるかもしれねぇってこった。しかも、金ももらえる。こいつは悪い話じゃねぇですぜ、杉野の旦那ぁ」


「まあ確かに、そうっすね。ってか、手当ってどれくらい付くんですかね?」


「そら、安くはねぇだろうよ。こんなボロッちい廃墟に入るってんだから、ついでに危険手当も付けて欲しいがねぇ」


 坂田の物欲しそうな視線に気づいた博士が顎に手を当てて、何か考える仕草をした。


「ふむ、確かに何があるか分からないしのぅ。よし、特別に危険手当も付けてやろう」


「マジっすか! あざーす!」


 坂田が勢いよく頭を下げたので、他の面々も続けて下げる。


「ちなみに、いくらくらいで?」


 顔だけ上げた坂田が、ずうずうしく尋ねた。


「そうじゃな、これくらいでどうじゃ?」


 そう言うと、博士が指を二本立てた。


「ニ万も!? あざーす!」


「いや、ニ千円じゃ」


「……で、ですよね~」


 坂田からやる気が抜けていったのが分かった。



「それにしても、ちょっと不気味ですね。もし、幽霊じゃなくて不審者が住み着いてたら、どうしようもないですよ」


 神谷が廃墟の入り口を覗き見て、ブルっと体を震わす。


「大丈夫だって。俺、喧嘩で負けたことねぇから」


 そう言って、坂田が力こぶを作る。


「もしも生きた人間が居たら、何もせずにすぐ帰投しとくれ。この土地は市の所有物件じゃから、警察に突き出せばそれでおしまいじゃ」


「俺らはいいのかよ?」


「表向きはこの廃墟の解体作業をすることになっておるから、何もやましいことなどないわい」


「えぇ……」


 坂田が珍しくドン引きしている。


「ああそうじゃ、最初はあくまで偵察じゃから、銃は置いていくように」


「マジか……」


 坂田が残念そうに呟く。

 よほどぶっ放したかったのだろうか、自分のベレッタとコルトパイソンをガンケースへ名残惜しそうに戻した。


「さあ、ここいらでお喋りを切り上げて、そろそろ仕事をしてもらおうか」


 言いながら、杉野たちにソウルアイを手渡していく。


「よっしゃ! やってやりますか!」


 坂田の激励で、杉野も覚悟を決めた。



 先程、坂田が突っ込んだ玄関らしき大穴から中に入っていくと、奥の方から物音がした。


「な、なんですか今の!? やっぱり、誰かいるんじゃ?」


 怯えた様子の神谷が奥を指さすと、震えた声で怖いことを言った。

 ほんとに居たら、どうするんだ


「大丈夫だって、神谷は怖がりだな~」


 意気揚々と先頭を行く坂田に続いて、八坂、杉野、神谷の順で奥へと進んで行く。



 入り口から少しばかり進むと、右側に洋風の扉があった。

 坂田が開こうとするが、向こう側に何かあるようで、どうやっても開きそうにない。

 諦めて奥へと進んで行くと、入り口からの光が届かなくなってきた。

 まだ自分の周りが見えなくはないが、廊下の奥は暗闇に包まれてほとんど視認できない。

 しょうがないので、杉野は端末を操作して、ソウルアイのモードをナイトビジョンに切り替えた。

 すると、視界が緑色に染まり、暗闇の奥が見えるようになった。

 なんだか、スパイみたいでワクワクしてくる。

 廊下の奥には左に二階へ続く階段があり、玄関前のと同じような扉が右奥に一つと左奥の壁にも一つあった。


「どうするよ? まずは一階から攻めるか?」


「そうしましょう。とりあえず、二人で一部屋ずつ攻略していきましょう」


 坂田の問いに答えた杉野は、八坂を追い越して近い方の扉に向かった。


「じゃあ、俺は神谷と奥の方行くわ。杉野は、八坂ちゃんの護衛は任せたぞ!」


「了解です!」


 気遣ってくれた坂田に感謝の敬礼をしてから、右の扉を開く。

 八坂も遅れまいと杉野の後ろに付いていった。



 扉を抜けると、カビの匂いが鼻をついた。

 どうやら、台所のようだ。

 意外に片づけられた室内の隅には、かなり型の古い冷蔵庫が置かれていた。

 試しに中を開けてみるが、何も入っていない。

 ふと、気配がして振り返ると、八坂が部屋の入り口で佇んでいた。

 しかし、何か違和感を感じた杉野が端末をいじる。

 ナイトビジョンに幽体視認機能を追加すると、なんと八坂の肩越しに黄色いもやもやした霧のような何かが見えるではないか。


「八坂さん! 後ろ!」


 杉野が、八坂の後ろのもやもやを指さす。


「えっ! なに? どこ? キャッ!」


 言われた八坂が振り返ると何かが見えたようで、こっちに走ってきた。

 杉野の後ろに隠れて、ぶるぶると震えている。



 杉野が目を離した一瞬のうちに、もやもやは何処かに逃げてしまった。


「もういなくなったみたいだよ」


「ほ、ほんとぉ?」


 かわいらしい声で確認した後に、我に返った八坂がバッと離れる。

 もう少し、隠れていてもいいのに。


「えーっと、他に調べられそうな所は……あっ!」


「な、なに?」


 さっきのゴタゴタで気づかなかったが、部屋の入り口の右隣にも扉があった。

 早速開けてみると、窓から日が射しているのか、かなり明るい。

 明るすぎる光で視界が悪くならないように、ソウルアイのモードが通常モードへ自動的に切り替わる。

 明るいというだけで、この部屋の探索は格段に楽になるだろう。

 それに、台所には窓がなかったので、外が見える分、さっきよりは怖くない。



 中に入ると、埃を被ったソファと今では珍しいブラウン管のテレビがあった。

 ソファの後ろには、あの洋風の扉がほんの少しだけ開いている。

 おそらく、ソファが邪魔をして開かなかったのだろう。

 まず最初に、テレビに近づいてスイッチをいじってみるが何も映らない。

 諦めてソファの方を見てみると、不思議なことに埃が積もってない箇所を見つける。


「ねぇ、これってどう思う?」


「な、なにが?」


 震えた声で、八坂が答える。


「ほら、このソファ! ここだけ埃がない……まるで、さっきまで誰かが座ってたみたい」


「ちょっ、怖いこと言わないでよ! ネズミかなんかがいたんじゃないの!?」


 八坂が反論すると、杉野の後ろからブォンという音がした。

 恐る恐る後ろを振り向くと、なぜかテレビが点いていて砂嵐を映し出している。


「な、なんで!? 電気は通ってないんじゃないの!?」


「お、落ち着いて! テレビが点くくらい幽霊がいるんなら、そう不思議じゃあない」


「落ち着けるわけないでしょ! もう! あのときバックレれば良かった!」


 八坂が悪態をついたと思うと、しゃがみこんでしまった。

 しょうがないので、杉野だけでもテレビに近づいていく。



 画面に広がる砂嵐をよく見ると、真ん中に何かのシルエットが浮かび上がっていた。

 そのまま見つめていると、テレビ画面に人の輪郭のような黒い丸が現れ、中には目と口のような穴が開いていて、そこだけ砂嵐が見えている。

 どういうわけか、杉野はテレビから目を離すことができない状態に違和感を持てなかった。

 もはや砂嵐の音も聞こえなくなるほどに、集中してしまったのだ。

 ふと、横を見ると、杉野のすぐ近くに八坂が立っていた。

 彼女もまた、この不気味な現象に魅入られたのだろう。

 画面から目を離さずに、じーっと見つめている。



 杉野が、ほんの一瞬、テレビから目を離していたうちに、どうやら状況が変わったらしい。

 画面の黒丸の目の部分に、血走った本物の目が開いていて、こちらを凝視している。

 このような異常事態でも叫び声どころか、瞬きすらもできなかった。

 金縛りになってしまったのかもしれないと、杉野は考えた。

 自分の首を動かそうにも、まるで石膏で固められたように硬くなった筋肉を動かすのは至難の業である。

 杉野がどうにかしようと四苦八苦していると、画面の口の部分の砂嵐が口を開けるように上下に裂けていく。

 そこには歯茎を剥き出しにした本物の口が見えた。

 ギシギシと歯ぎしりをしながら、こちらを恨めしそうに睨んでいる。



 その時、台所の方から甲高い悲鳴が聞こえた。

 それに応えるように、テレビの中の顔が大口を開けて叫んだ。


「ぎゃー!!」「きゃー!!」


 杉野と八坂は思わず叫んでしまっていた。

 と同時に、身体が動くようになったので、急いで入ってきた扉へ逃げ出した。

 台所を抜け、階段の所で坂田たちと合流する。


「お、お前ら、大丈夫だったか? なんか叫んでたみたいだけど……」


 坂田がゴーグルを脱いで、心配そうな顔を向ける。


「いや、ちょっとヤバいのを見ちゃったみたいで」


 杉野が、呼吸を整えながら答える。


「マジか……とりあえず、一旦帰投しようぜ。これ以上はヤバそうだし」


「……そうっすね」


 それからは、皆、終始無言であった。



 出口までは何も起こらず、無事に廃墟から脱出できた。

 ようやっと、太陽の下に出てこれて安心したのか、八坂が腰を抜かしてしまった。


「あーあー、相当ショックなもんを見ちまったみてーだな」


 その様子を見て、エリックがニヤニヤと笑っている。


「笑いごとじゃないっすよ! 杉野、肩貸してやれ」


「……はい」


 杉野が駆け寄り、八坂に肩を貸す。

 廃墟のすぐ近くに仮拠点としてタープがあったので、そこのパイプ椅子に八坂を腰かけさせてから、杉野も手近にあった椅子にドカッと腰を下ろす。



「んで、何を見た?」


 いくらか落ち着いたところで、エリックに質問される。


「その前に一つだけいいですか? ここって電気通ってないですよね?」


「もちろんだ。ここは、三十年も前に家主が変死して以来、電気も水道も止まってる」


 やっぱりなという顔をした杉野が、状況を説明する。


「奥の方に古いテレビがあったんですけど、いきなり画面が点いて、画面に人の目と口が浮かび上がったんですよ! それで、なんでか目が離せなくなってしまって、そのうちに台所から声がしたと思ったら画面の中の顔も叫びだして……」


「なるほどな……」


 興奮した様子で一息に説明した杉野を見て、エリックが難しい顔をする。


「こいつはなかなか骨が折れそうだぜ、博士さんよぉ」


 後ろで何か作業をしている博士に、エリックが軽い口調で言った。


「そのようじゃの」


 博士は作業を中断して、こちらに歩いてくる。


「まずは、君らが見たものを我々も見てみる必要がありそうじゃの」


 博士が八坂のゴーグルからUSBメモリを取り出し、持ってきたノートパソコンに挿すと、画面をこちらに向ける。

 画面には、入り口から入って奥へ進む坂田の後ろ姿が、映し出されている。

 杉野と違って夜目が効くのか、八坂はゴーグルのモードを変えてなかったようで、暗くて見難い。



 しばらくすると、坂田達と別れ、台所に入っていく。

 杉野とは違って、台所の入り口で立ち止まっていた八坂の視界は暗い台所全体を捉えていた。

 博士が画面を覗き込み、キーボードをカタカタと叩くと、いくらか画面が明るくなり見やすくなった。

 暗い画面では分からなかったが、よく見ると流しの淵に血だらけの男が半分だけ顔を出している。

 それまで、画面をじっと見ていた八坂がビクッと体を震わす。


「こんなの気づかなかった……」


 そこから場面が進み、杉野がこちらを、正確には八坂の後ろを指さしているシーンになる。

 一瞬、画面が揺れたかと思うと、廊下が映し出された。

 そこには、男のニヤニヤした顔が薄ぼんやりと浮かんでいた。


「こいつは、いわゆる色情霊って奴だな」


 坂田が適当な感想を述べた。



 さらに場面が進み、件のシーンが映し出される。

 それを見て、神谷と坂田の顔がみるみるうちに青くなっていく。


「こんなもん見てきたのかよ……」


「これは……さすがにくるものがありますね」


「ま、こんなもんはうちじゃ、日常茶飯事だがな」


 エリックが画面をチラッと見て、軽く言う。


「マジっすか……」


 坂田が絶句した。



 映像が終わり、博士がUSBメモリを抜く。


「一体だけではここまでの芸当はできん。おそらく、あの部屋だけで二体以上はいるじゃろうな」


「えぇー……」


 今度は杉野が絶句する。


「まあ、大丈夫じゃ。こういう時のためにこいつがあるんじゃから」


 そう言って、机の上のベレッタを手に取る。


「少しばかり休憩したら、一階の幽体どもを退治してもらおうかのぅ」

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