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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第一章 Soul Research Institute
7/103

7 初仕事

 あれから一週間経ち、杉野達全員に体力が付いてきたところで、博士から号令がかかった。



「諸君、ここまでよく頑張った。では、前にも言ったとおり、君らには明日から現場へ行ってもらう」


 地下五階のミーティングルームに集められた四人の前で、ホワイトボードに作戦内容を書きながら博士が説明していく。


「今回の仕事は、ある廃墟に出没するという幽体の捕獲じゃ。なーに、そんなに狂暴な幽体でないことは分かっておるから、さして難しい仕事ではないじゃろう」


 それを聞いて、四人がほっと息をつく。


「じゃが、初めての実践じゃからちょいと時間がかかるかも知れんのう。そうさな……二週間くらいは帰ってこれんじゃろうな」


 それを聞いた八坂がこの世の終わりのような顔をした。


「えっ……そこってお風呂とかあるんですか?」


 女の子らしい不安に、博士は思わず笑ってしまった。


「ハハハッ、大丈夫じゃよ。ちゃんとそこらへんも考えておるからの」


 それを聞いた八坂の表情が多少マシになった。

 杉野も風呂がないのは嫌だが、女の子の八坂にとっては死活問題なのだろう。


「他に質問はないな……では、作戦内容を説明する」


 四人の顔を見回してから、博士は再びホワイトボードにあれやこれやと書き始めた。


「まず、ここからの移動は各々の自家用車で行ってもらう。うちの組織では、仕事をするにあたって大衆に勘づかれないことを第一に考えておるから、大人数で一度に移動するのはご法度なんじゃよ」


「でもよぉ、研究所の裏から出たら普通にバレるんじゃねぇの?」


 坂田が手を挙げて、疑問をぶつける。


「良い質問じゃの。君らにはまだ話してなかったが、あの駐車場からは玉籠市内のあちこちに繋がっている地下通路があるんじゃよ。そこを通り、一人一人違う出口から地上に出て現場へ向かえばいいわけだ」


「んなもん、あったのかよ! 最初に教えてくれたら、もっと楽だったのに!」


 一応、休みの日には四人とも外へ買い物に行ったりしていたのだが、全員例の巨大エレベーターを使っていたので、地上に出るだけで十分くらいかかっていたのである。


「いやはや、すっかり教えるのを忘れておったわい」


「ほんとだぜ。あのエレベーターってば動くの遅すぎっから面倒くさくって、外に出んのも億劫になってたんだからよ~」


「いや~すまんかったのう」


 坂田に申し訳なさそうに謝ってから、さらに説明を続ける。


「さて、肝心の現場についてじゃが、玉籠市内の五聖山(ごせいやま)の中腹にある廃墟に行ってもらう。そこまでの地図を今から渡すから、しっかりルートを覚えておくように」


 博士が四人に、玉籠市内の道が記された地図を手渡す。


「全員出発地点が違うから、間違えないようにな」


 受け取った地図の上の方には杉野の名前が書かれており、スタート地点は山に比較的近い所にある立体駐車場になっていた。

 スタート地点から目的地までのルートは赤いマーカーで道がなぞられており、五聖山の中腹まで続いている。


「次に、ターゲットである幽体についてだが、こやつは十年前からこの廃墟に出没しておる。ただ、なにか危害を加えられたという報告は上がっておらんから、特に注意することもないじゃろう」


 博士が話し終わるのを待って、遠慮がちに神谷が手を挙げた。


「あのー」


「なんじゃ?」


「自分、まだ幽体の捕獲訓練をやってないんですけど、大丈夫なんですかね?」


「なーんじゃそんなことか」


 そう言うと、懐から例の幽体捕獲磁石を取り出す。


「簡単すぎてわざわざ訓練するまでもないわい。銃で撃って弱らせたら、後はこいつで捕まえるだけじゃよ」


 言いながら、手に持った磁石をホワイトボードに描かれた幽霊の絵へ突き刺すように当てる。


「ただ、素人では銃で幽体を撃ちぬくなぞそうそうできるもんじゃないからのぉ。まあ、そこらへんは今迄の訓練でおぬしらが一番分かっておるとは思うがな」


「そうなの?」


 坂田が不安げに答える。


「もっと自信を持て! 最初に入ってきた時よりは、良い腕をしておるぞ。まあ、エリックには到底及ばんがの」


 ホッホッホッと笑ってから、博士は思い出したように付け加えた。


「あーそうそう、明日は現地集合だからな。朝の八時までに着いているように。くれぐれも寝坊するなよ」


 言い終わると、博士は四人の顔を見回した。


「質問がなければ、これでブリーフィングは終わりとする」



 ブリーフィング後、博士にその日の訓練の中止を知らされ、代わりに明日の準備をするように命令された四人は、早速地下九階にある武器庫へと向かった。



 エレベーターの扉が開くと、火薬と鉄の濃い匂いが漂ってくる。

 今迄の訓練で何度も嗅いだ匂いだが、ここまで濃いと咽てしまいそうだ。

 早速、ガンラックから自分が使う銃を取ってガンケースに詰めていると、奥の方からドデカい機関銃を抱えたエリックが姿を現した。


「おー、やってるなぁ! 明日から頼むぜ、新人共」


「なんすか!? そのデッカイの!?」


 坂田が機関銃を指さして叫ぶ。


「あぁ、これか? 俺のコレクションの一つでなぁ。たまに撃ってやらねぇと腕がなまっちまうから、今回の仕事で使えたら使おうと思ってな」


 言いながら、そこらへんに置いてあったサビサビの弾薬箱を左手で持ち上げる。


「そ、それってあのMG42ですよね?」


 神谷が興奮した様子で尋ねると、エリックが嬉しそうに答えた。


「よく知ってるなぁ! こいつは正真正銘ナチスドイツが作ったモノホンの『電動ノコギリ』だ。これを手に入れるのは苦労したぜぇ、スイスで傭兵やってた時に古いGUNSHOPで見つけたんだが、店主がドイツ人でな。アメ公には売らんって言われちまって、毎日通って世間話したり、仕事を手伝ったりして、何とか売ってもらえたんよ」


 それからエリックはニヤリと笑ったと思うと弾薬箱を置き、開いた左手で腰のホルスターから古いリボルバーを抜いた。


「そうそう、そんときについでで売ってもらったのが、この『レマットリボルバー』でな。こいつは四十二口径の拳銃弾だけじゃなく、散弾も使えるんだぜ」


 ほえーといったかんじで、男三人組がその古いわりにはよく整備されたピカピカのリボルバーを凝視する。


「つっても、ほとんど使うことはないがな。一応、腰に差しておきゃーいざって時に使えるからな」


 そう言うと、見事なガンプレイでリボルバーをホルスターにしまった。


「じゃ、自分らの分を運ぶついでによぉ、そこの弾薬箱も駐車場に運んどいてくれや」


 杉野達にめんどくさい仕事を押し付けると、口笛を吹いてエレベーターに乗っていってしまった。


「げぇー、ついでで雑用押し付けられちまったよ」


「しょうがないっすよ。俺ら、まだ入ったばっかの新人なんすから」


「杉野はまじめだな~」


 ぼやく坂田を置いて、自分の準備が終わった杉野は弾薬箱と自分の銃が入ったガンケースを持って、エレベーターへ向かった。



 駐車場へ着くと、エリックと博士が何やら話し込んでいる。


「あとから分かったことなんだが、あいつはある神社の――おぉ、来たか! まあ、そこらへんに置いといてくれや」


 話していた内容が気になるが、あまり詮索しない方がいいだろうと思った杉野は適当な所に弾薬箱を置いてから、カブのリアボックスにガンケースを入れ、足早に来た道を戻った。



 その日の夜は、意外にすんなりと寝つけたので、約八時間ほど睡眠を取ることができた。



 朝六時、起きてすぐに顔を洗い、軽くチョコバーをかじりながら服を着替える。

 ありがたいことに、この組織では制服や専用の作業着などは存在せず、基本的に動きやすい私服で仕事ができる。

 今回の仕事に備えて買っておいたブランド物のMA-1を羽織ると、食べ終わった朝飯の包み紙をポイっとゴミ箱に放り投げて、部屋を出た。



 エレベーターの前に見慣れた人影を見つけ、扉が開く前に声をかける。


「おはようございます、坂田さん。今日は早いっすね」


ふぉう(おう)ふぉふぁふぉう(おはよう)


 振り向いた坂田が、チョコバーをほうばったまま挨拶を返す。


「ごくっ……いや~、さすがに今日は寝坊できんでしょ」


 坂田は普段、始業時間ギリギリまで寝入っているので、ほぼ毎日杉野と神谷で起こす羽目になっている。

 しかし、今日は珍しく杉野よりも早く起きられたようだ。


「今日ばかりは僕らも助けられないっすから、安心しましたよ」


「いや~、いつもすまんねぇ。そういやぁ、神谷は?」


「さあ? もう先に行っちゃったんじゃないですか?」


「つれねぇなぁ~、せっかくだし出発前にちょいとだべりたかったんだけどな~」


 なんだかんだとくっちゃべってるうちに、エレベーターが到着したことを知らせるチャイムが鳴り響いた。



 駐車場に入ると、八坂が出発の準備をしているところだった。


「おっ! 八坂ちゃん、おはよう! 昨日はちゃんと眠れた?」


「おかげさまで三時間しか眠れませんでしたよ」


 そういえば、昨晩は坂田と神谷の二人がポーカーか何かで盛り上がっていた。

 意外と壁が薄いようで、隣の部屋の八坂にもそのどんちゃん騒ぎが聞こえていたらしい。

 なお、この一週間で二人の騒音に慣れ切っていた杉野にとっては、そう大した障害ではなかった。


「いやはや、昨日は思ったよりも盛り上がっちゃってね~。なんなら、今度八坂ちゃんもやる?」


「やりません!」


 吐き捨てるように言うと、さっさとビートルに乗り込んで出て行ってしまった。


「かわいくねぇーの。杉野、ああいうのだけはやめとけ。間違って結婚しようもんなら、一生尻に敷かれるぜ。あと、胸もないし……」


「そこがいいんじゃないすか!」


 杉野が興奮気味に叫んだので、坂田は心底驚いた顔をした。


「えぇー!! 杉野って、八坂のこと好きだったの!? いやー、すまんすまん、そうとは知らず野暮なこと言っちまった」


「いや、いいっすよ。ただ、このことは内密にお願いします」


「もちのロンよ! その代わり、なんか進展あったら教えてくれや」


「了解です!」


 杉野がビシッと敬礼を返した。



 お喋りをそこらへんにして、昨日リアボックスに入れておいた銃がちゃんと入っているのを確認してから、キックペダルを下ろしエンジンをかける。

 ヘルメットを被ると、坂田がバイクごとこちらに寄ってきた。


「じゃ、気を付けてな!」


「そちらも!」


 ヘルメットの中で坂田がニッコリと笑うと、華麗にアクセルターンを決めて、勢いよく地下通路へ走っていた。

 杉野もカブのギアを入れて、自分が使うべき地下通路へと走り出した。



 通路に入ってしばらく走ると、地下駐車場のよりかは小ぶりなエレベーターが現れた。

 壁に付いているレバーを下げて、横開きのシャッターを開いてから、カブを押して中へ入った。

 中に入ると、さっそく操作盤を見つけた。

 カブを適当な所に停めてから近づいてみると、その操作盤には「地下」と「地上」の二種類のボタンしかなかった。

 地上の方のボタンを押してみると、ガシャンと音がして、シャッターがゆっくりと閉まり始めた。



 地上に着き、シャッターが開くが、その先には薄汚れた壁しかない。


「あれー、おかしいなぁ」


 杉野が独り言を言いながら周りを見回すと、隅の方に何かを差し込む穴を見つける。

 試しに指を入れてみるが、特に何か引っかかりそうなものはない。

 大きさ的に端末が入りそうだと考え、早速入れてみると端末の画面が変わった。

 画面には、「SAFE」と出ていた。

 しかし、何も起こらないので、諦めて端末を抜いてみると、ゴゴゴっという音と共に今迄立ちはだかっていた壁が下へ下がっていく。



 外に出てみると、どこかの立体駐車場のようだ。

 ふと、気になって後ろを見てみると、いつの間にか壁が戻っていた。



 駐車場から出て、地図のルート通りに走っていくと、だんだんと山の中に入っていった。

 木々の間からは、紅白に塗られた鉄塔があちらこちらに見える。

 街中ではあまり見ない光景だ。

 いくつかのカーブを慎重に曲がり、上り坂をトコトコと登っていくと、森の中へと続く未舗装路に出た。

 オフロードの経験が皆無な杉野は、ここに来て少しばかり怖気ついてしまった。

 しかし、ここで諦めるわけにもいかないので、覚悟を決めて突入する。

 かなりごつごつした路面ではあったが、慣れればどうということはない。

 郵政カブのサスペンションが思いのほか優秀だったおかげで、かなりデカい窪みを踏んでしまっても、なんとか転ばずに突破できたのだ。



 しばらく、初めてのオフロードを遊びながらしばらく進んで行くと、遠くの方に件の廃墟が見えてきた。

 その前には、坂田と自分以外のほぼ全員が集まっている。

 ゴールに向かって急ぎつつも慎重にカブを操っていると、後ろから豪快な排気音が聞こえてきた。

 ミラーで確認すると、あの赤いフルカウルスポ―ツが猛然と砂煙を上げて向かってきていた。


「うおぉぉぉぉぉ!! どけどけー! あぶねぇぇぞぉぉぉ!!」


 叫びながら向かってくる坂田に面食らって、杉野は思わずリアブレーキを思いっきり踏んでしまった。

 運がいいことに直線だったので、転ぶことはなかったが、後輪が滑ってしまい車体を横滑りさせながらゴールへと向かって行く。

 杉野の方はなんとか廃墟の前で止まれたが、坂田は勢い余って廃墟に突っ込んでいってしまった。



「ったく、何やってんだ! まだ始まってすらいねぇのに面倒ごと増やすんじゃねぇ! 今度やったら減給だぞ!」


「「すいませんでしたー!!!」」


 結局、杉野も廃墟に突っ込んでボロボロになった坂田と一緒にエリックの説教を受ける羽目になった。


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