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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第五章 Milky Way love story
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68 鍾乳洞の怪

 清水に続いて、八坂も加わったところで、いよいよメンバーの過半数が揃った。

 そろそろ作戦内容を教えてくれてもいいのではないかと杉野達若者組が思い始めた矢先、博士からある指令が下った。


「神谷がまーだ来てないからなぁ、ヒック、下手に動けんのだよぉ、ヒック。そこでだぁ、君らぁの親睦を深める為にスペシャルな任務を下してやるぅ」


 酔っぱらってべろべろになりながらも、博士は杉野達のことをちゃんと考えていたらしい。


「それで、その任務ってのは?」


 スペシャルな任務という単語に食いついた坂田が聞いてみると、博士が虚ろな目をしながら答える。


「ここらぁへんに鍾乳洞があーるんじゃがぁ、そーこの調査をしてきてくれぇ。なーに、そう危険な任務では……」


 そこまで言って、酔っ払い老人もとい博士は寝落ちしてしまった。


「ったく、これくらいで潰れるとは……老いとは怖いものだな」


 無様に酔いつぶれた好敵手を肴にして、芦屋は追加で注文した日本酒をくいっと呑んだ。


「おー芦屋ちゃん、良い飲みっぷりやなぁ」「ほんまやなぁ」


「ふふっ、当たり前だ。これくらいで潰れるような者が本部勤めなどできるわけがないのだよ。いいか、君らも覚えておけ! 出世したければ、酒に慣れろ。さすれば、必ずや上へ行けるだろう」


 部下達におだてられたからか、はたまた酔っぱらっているのかは分からないが、芦屋のテンションは妙に高かった。


「なあなあ、あの人っていつもあんな感じなん?」


 試しに坂田が部下達に聞いてみると、少し困った表情で返答してきた。


「いや~、いつもはもっとクールな感じなんやけど、酒が入るとめんどくさくなっちまうんよ。まあ、ほっとけば元に戻るだろうから、酔っぱらいはここに置いていって、ワイらはその任務とやらを遂行しようや」


 そう言った仙石の表情は、少し困っているように見えた。

 彼らも酔っぱらいの相手はしたくないのである。

 もちろん、杉野達だって御免だ。


「ほいじゃ、暇つぶしがてら行ってきますか」


「そですね」「しょうがないわね」「ダーリンかっこいい!」


 かくして、若者達の小さな旅は始まったのであった。



 酔っ払い達を女将に任し、杉野達は屋敷を出発した。

 まだまだ残暑は厳しく、目的地まではここから歩いて行ける距離とはいえ、少々うんざりしてきてしまう。

 山間にある村らしく、一応は涼しい風が吹くこともあるが、所詮風は風。

 ジリジリと肌を焼く日光には勝てない。

 なるべく日陰を選んで歩いてはいるが、田んぼばかりあるような田舎の道では日陰などそう多くはなく、結局灼熱の日向を歩くこととなる。

 杉野は暑さには強い方だが、好きなわけではなかった。

 それも、やっと八月が終わって涼しくなるかと思いきや、まったく変わらずに暑いのだから、勘弁してほしいところだ。

 坂田もまた、暑さにやられたようで、目が虚ろだった。

 八坂はどうかと見てみると、相変わらず自分だけ麦わら帽子を被って、平気な顔をしている。

 無人島の時もそうだったが、八坂はわりとタフだ。

 そういえば、さっき八坂が自己紹介した時に、ここの出身だと言っていた。

 なるほど、それならば暑さに強いのも納得だ。

 これだけ暑い山の中で暮らしていた元野生児ならば、そりゃタフにならざるをえないだろう。



 杉野がそんな失礼な事を考えているとは微塵も知らない八坂は、お母さんにネックレスの事を聞きそびれたのに、今になって気づいた。

 宴会場に行った時には確かにいたのだが、自分の自己紹介をしている間に何処かに行ってしまっていたのだ。

 その場のノリでこの旅に出発してしまったので、探している余裕もなかった。

 とはいえ、出発してしまったものはしょうがない。

 こうなったら、早く任務とやらを済ませて、ちゃっちゃと帰って聞いてしまおう。

 そう決意した八坂の歩くペースは、いつの間にか誰よりも速くなっていた。



 田んぼ道をずんずんと進んで行くと、「この先、鍾乳洞」と書かれた看板を発見した。

 看板が示す先には、鬱蒼とした森が広がっている。


「あともう少しやな」


 仙石がそう言いながら、着ている白いTシャツの袖を捲る。

 そしてそのまま、森の中へと入ってしまった。

 他のメンバーも、先陣を切った仙石に続いて森へ入っていくが、杉野だけは看板を見つめてしまっていた。

 何故かというと、その看板には他にも文字が書かれていたからだ。

 ただ、文字自体が小さすぎて他のメンバーには読めなかったようだが。


「危険なので、原則立ち入り禁止。何があっても、責任は取りません」


 看板には、そんな警告文が書かれていた。

 杉野は悩んだ。

 思う存分、悩んだ。

 悩み過ぎて、他のメンバーを見失ったほどだ。

 この忠告を無視すれば、自分達の命の補償はないだろう。

 しかし、これくらいのことで怖気づいて手ぶらで帰ってしまったら、きっと博士に大目玉を食らうに違いない。

 どちらも嫌だが、杉野にはここで逃げ帰ることの方がより嫌だった。

 八尺様や巨大ムカデと戦った自分達が、こんな忠告に屈するなど言語道断。

 本部組の手前、そんな恥ずかしいことができるはずがないのだ。

 杉野は約三分ほどかけて決心すると、仙石達の後を急いで追いかけた。



 杉野がやっとこさ追いつくと、目の前には岩壁が広がっており、隅の方に小さな割れ目が開いていた。


「ここが鍾乳洞の入り口なん? 随分と、可愛らしい割れ目やなぁ」


 内藤がニコニコしながら、割れ目の中を覗いてみる。

 中は真っ暗で何も見えなかったようで、こちらに向き直った内藤は横に首を振った。


「こいつは、懐中電灯かなんかいるで」


 仙石も覗いてみるが、やはり何も見えないようだ。


「そんなら、これ使おうぜ」


 そう言って、坂田が持ち上げたのは蝋燭が載っかった手持ちの燭台だった。


「んなもん、何処にあったんや!?」


「いや、そこに置いてあったけど」


 言いながら、坂田は割れ目のすぐ横っちょを指差す。

 坂田以外は割れ目に夢中で、燭台に気づいていなかったのだ。


「んで、ライターはあるん? ちなみに言うと、ワイらは煙草吸わんから持ってないで」


「ちゃーんとあるぜ。ちょっとオイルが切れてきたけどな」


 言いながら、坂田はお気に入りのZippoを取り出した。

 ティンっとライターの蓋を開けて火を点けると、燭台に近づける。

 まだ長めの蝋燭の芯に火を灯してから、坂田が燭台で割れ目の中を照らした。

 すると、中の白っぽい岩壁が露わになった。

 あの白いのは全部、鍾乳石なのだろうか。


「はえーこいつはたまげた、天然記念物もんやで、これは」


 仙石も思わず感嘆の声が出てしまうほどに、その光景は幻想的だった。

 洞窟一面に広がる白い鍾乳石、そしてそれを照らす蝋燭の炎、なんとも奇麗なものだ。

 前に見た地底湖の鍾乳石とは違って、小さな物ばかりなので、なんとなく可愛い感じがするのもポイントが高い。


「ちょっと、見てばかりいないで、早く入らないと。こんなゆっくりとしたペースじゃ日が暮れちゃうよ」


「せやねぇ、まだ来てない一人がいつ来るかも分からんのやし、ちゃっちゃと中の調査をして帰らんと」


 女子組が小煩く言ってくるので、鍾乳洞に見惚れていた男共は渋々割れ目の中へ入っていった。



 割れ目自体は狭いのだが、その表面もよく滑る鍾乳石だったので、入るのはそう難しくはなかった。

 ただ、無駄に胸がデカい清水とそこそこデカい内藤だけは多少の苦戦を強いられていた。

 なお、ぺったんこの八坂はすんなり入れた。



 洞窟の中は暗く、坂田の持っている燭台だけが頼りだ。


「スマホで照らせばいいんじゃねぇの?」


 坂田の名案に、杉野達はポケットから自分のスマホを出して、ライトを点けた。

 蝋燭よりも断然明るい光が辺り一面を照らし出し、洞窟の全貌があきらかとなる。

 やはり、壁も天井も床でさえも、全てが白い鍾乳石で出来ていて、そのどれもがライトの白い光に反射してきらきらと光っていた。

 それはまるで、宝石の中にいるようだった。

 ピカピカとあちこち輝いていて非常に奇麗ではあるのだが、眩しすぎてかなり目に悪い。

 これでは調査どころではないので、スマホのライトは封印することにした。



 ライトで照らして分かった事だが、この洞窟はそこまで広くないらしい。

 せいぜい、1LDKくらいの広さしかない。

 これなら、調査などすぐに終わってしまうのではないか。

 杉野はそんな心配をしていたが、それを払拭してくれそうな者が目の前に現れてしまった。

 蝋燭の炎に照らし出されたのは、緑の体に水かきが付いた手足、そしてなによりも目立つのは頭の上のお皿だ。

 それは、紛れもなく河童だった。


「か、河童だぁぁぁぁぁ!!!!」


 燭台を持っていた坂田が叫びながら出口へと走り出したので、他の面々は火に向かって走ることになってしまった。

 突然のことだったので、自分のスマホを使えばいいことを皆忘れてしまい、暗闇の中をがむしゃらに走ったので、あちこちから足を滑らせて尻もちをつく音が聞こえる。

 誰が転んだのかは分からないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 あの化け物から逃げなくては。

 杉野達は普段、幽体や呪いの道具、果てはUMAなども相手にしているが、あんな伝承に出てくるような妖怪を見るのは初めてだった。

 たとえ無害であっても、得体の知れない生き物なだけで充分怖い。

 まだ、幽体やUMAの方が正体がはっきりしている分、マシだ。

 そんな恐怖の対象から、命からがら逃げのびたのは幸運だったのか、はたまたあちらに敵意がないからなのか。

 どちらとも分からぬが、とにかく無事に全員洞窟から出られたようだ。


「全員おるか!? ちょっと数えたるから、その場を動くなよ!」


 最年長らしく、仙石が皆を落ち着かせるために洞窟の外に出られた人数を数えだした。


「いち、にー、さん、しー、ごー、ろく、なな。よし、全員おるな!」


 全員の無事を確認して、ホッと胸を撫で下ろした杉野だったが、妙な違和感を覚えた。

 何かおかしい。

 何がおかしいのか分からないが、とにかく変だ。

 とりあえず、誰がこの場にいるのか、今一度確認してみよう。

 坂田と八坂と清水はいる、もちろん杉野も。あとは仙石と内藤の本部組。

 はて、仙石はさっきいくつまで数えていただろうか。

 確か、七までだったような……。


「あぁ!!!」


「どうした杉野!? なんか忘れ物したか!?」


「いや、一人多いんすよ!」


「多いって、そんなわけ……あれ、ほんまや」


「ってことは……」


 その場にいた全員が、さっきまでは洞窟の外にいなかった緑色の化け物を見た。


「ぎゃああああ!!!」「河童や! 河童が追いかけてきた!」「あらあら、案外ハンサムなんやね~」「きもいきもいきもい!」「なるほど、だから一人多かったのか!」「ダーリン助けてー」


 各々が思い思いのリアクションを取る中、河童は一瞬の隙を突いて、茂みへと逃げていってしまった。

 かくして、ほんの少しだけの出番だった河童は、杉野達に多大なる恐怖心を植え付けたのであった。

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