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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第五章 Milky Way love story
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65 迫りくるはスーパーなカー

 そんな奥多摩でも、奥の方まで来るとさすがに交通量も減って、走りやすくなってくる。

 とはいえ、山道の宿命なのか奥へ進むたびにどんどん道が狭くなり、ついには車一台がギリギリ通れるくらいの狭さになってしまった。


「対向車来たら終わるな、こいつは」


 坂田が嫌な事を言うので、杉野は少し先にあるブラインドカーブが妙に気になってしまった。

 あのカーブの向こうから対向車が来たらどうしよう。

 杉野はそんな不安でいっぱいになってしまったのだ。

 もし対向車が来たら、自分はどうするのが正解なのだろう。

 路肩に寄ったとしても、四輪車とすれ違えるほどの幅などない。

 さらに残念なことに、すれ違う時用の待避所も近くにはなかった。

 なので、対向車と鉢合わせしてしまったら、どちらかが広い道路に出るまで後退するしかないのだ。

 バイク慣れしている坂田はまだしも、昨日乗り換えたばかりの杉野にはできる気がしなかった。

 こんなことで初転倒なんて洒落にならんぞと杉野が青い顔をしていると、何処からか甲高いエンジン音が聞こえてきた。

 一瞬、前から聞こえたのかと思ったが、どうにもそうではないらしい。

 音は杉野達の遥か後方から聞こえていたのだ。

 ホッと安心したのも束の間、その甲高い音はどんどん近づいてきて、ついには音を出している張本人がラリーのミラーに映った。

 それは、古いスーパーカーだった。

 色はくすみのない奇麗な赤色、ボディはピカピカに磨き上げられ、一目見ただけで大切にされているのが分かる。

 肝心の車種は……杉野は平成生まれの若者なので、そこまでは分からなかった。


「坂田さーん、後ろにいるスーパーカーってなんてやつですか?」


 ならばと、坂田に聞いてみると小馬鹿にするような答えが返ってきた。


「おいおいマジかよ!? あのF40を知らねぇのか!? とんだ世間知らずだな」


 その一言で、杉野はカチンときてしまった。


「そんな古い車知ってるなんて、ジジ臭いですね、坂田さんは」


「なんだとこら! そこの崖に落としてやろうか!」


「ほんとの事を言ったまでじゃないですか!」


 杉野達が口論している間にも、そのスーパーカーはジリジリと距離を詰めていき、最終的には杉野達のすぐ後ろにピッタリと付いた。

 車間距離にして、20cmもないほどのビタ付けだ。

 だが、それだけ近づかれても杉野達は口論に夢中でまったく気づいてなかった。


「だからそういうところが――」「杉野だって――」



 ヴェェェェン!!!



 二人の怒りが最高潮になる寸前、後ろから勇ましいエンジン音が鳴り響いた。

 どうにも、痺れを切らしたスーパーカーのドライバーがレブに当たるまでアクセルを踏み込み、こちらを威嚇してきたらしい。

 さらに追い打ちをかけるように、スーパーカーの後方からパンッパンッと爆発音がしたので、杉野は思わず身構えてしまった。

 おそらくはアフターファイアなのだろうが、銃声を聞きなれた杉野にとっては撃たれたのではないかと気が気でなかったのだ。


「ヤバいっすよ! 後ろの人、なんか怒ってるみたいっす」


「んなもん、どうせ前に出れなくてイラついてるだけだっつの。同じ四輪ならともかく、二輪相手にゃなんもできんだろうよ」


 坂田は知っていた。

 よく吠える者ほど、そうそう手を出してこないことを。

 それから何度も威嚇されたが、直接当ててきたりはしないところを見るに、やはりそう大した奴ではないのだろう。

 フロントガラス越しに見えるドライバーの顔も、気難しそうではあるが輩といった感じではない。

 それはそうだ、こんな古いスーパーカーに乗れるような身分の人間がそんな軽率な行動をとるはずがないのだ。

 しかし、坂田はそんなことなど微塵も思いつかなかったようで、蛇行したり執拗に振り返ったりして煽りまくっている。


「あんまやると、ほんとに当ててきますよ」


 杉野が警告しても、坂田の煽りは止まらなかった。


「大丈夫だって、俺らが二輪に乗ってる限りはな」


「ってことは、降りたら締められるんじゃ?」


「そん時は俺の拳が火を吹くだけさ」


 表向きはそんな軽口を叩いていた坂田だったが、実のところ、内心ビビっていた。

 威嚇してくるスーパーカーにではない、そのドライバーにだ。

 一見すると、無害そうなおじさんって感じの見た目だが、よく見ると頭が車の天井に当たっている。

 スーパーカーならそう不思議ではないのではと思うかもしれないが、問題はそれだけではない。

 座席の座り方も、窮屈そうに足が余りまくっていたのだ。

 175cmと平均的な身長の坂田だったら、ああはならないだろう。

 あの足の余り方から察するに、エリック以上の身長はあるのではないか。

 もし、喧嘩となった場合、果たして自分は勝てるのだろうか。

 そんな不安が坂田を襲っていた。

 だがしかし、そんな様子を杉野に悟られるわけにはいかなかった。

 坂田のプライドが許さないのもそうだが、なにより杉野まで不安にさせたくなかったからだ。

 そんな坂田の葛藤を知りもせず、杉野はまだぷんすかと怒っていた。

 まだ、さっきのを根に持っているのだろう。

 また後でご機嫌を取らんとならんなと、坂田は兄貴らしく考えた。

 こんな時は、そういうどうでもいい事を考えた方が気が紛れるのだ。



 それからどれだけ走っても、道は広くならなかった。

 それどころか、だんだんと路肩が縮小しているような気がする。

 もちろん、そんな状況でも後ろの車は煽ってきた。

 坂田が煽り返したことにより、煽りはさらにエスカレートしてきて、エンジン音も心なしか大きくなってきていた。

 さらに最悪なことに、すぐ後ろのスーパーカーのさらに後ろにもう一台車が付いていた。

 その車もまた、ビタ付けしたりクラクションを鳴らしたりしてスーパーカーを煽っている。

 時には怒号も聞こえるほどなので、これはもしかすると当てにいくのではなかろうか。

 杉野がそう考えていると、案の定、その愚かな車はうるさいだけのエンジン音を響かせて、スーパーカーに当てにいった。


「杉野! 一気に加速して逃げるぞ!」


「へっ? あっはい!」


 坂田の指示通りに、杉野はギアをひとつ下げてからスロットルを思いっきり回した。

 すると、豪快なエンジン音と共に凄まじい加速Gが杉野を襲う。


「うわっとっと」


 振り落とされそうになりながらも、杉野はスロットルを緩めなかった。

 何故なら、杉野達へぶつかりそうな勢いで後ろのスーパーカーが加速してきたからだ。

 こちらも全力で加速しているが、さすがにスーパーカーには勝てない。

 このままではぶつかるといったところで、あれだけ殺人的な加速を披露してきたスーパーカーが逆にスピードを落とした。

 どうしたのかと後ろを振り返ってみると、スーパーカーの後ろの車が遥か遠くに置き去りにされていたのだ。

 よく目を凝らしてみると、その車のドライバーが窓から身を乗り出して何か叫んでいるのが見える。

 なんとも狂暴な奴だと杉野が呆れていると、どうにもその姿に見覚えがあるような気がしてきた。

 真っ白い髪に眼鏡、そしてしわがれたその声は間違いなくうちの博士のだ。

 どうやら、博士よりも早く着いてしまったらしい。

 身内がああいう蛮行をしているのを見ると、どうにも恥ずかしくなってしまうのは杉野だけだろうか。

 いや、坂田も恥ずかしいようで、そっぽを向いてなるべく後ろを見ないようにしている。

 仲間がいて良かった。

 杉野が安心している間にも、博士のしわがれ声は風に乗って、100m以上離れた杉野達の耳に届いてきた。


「坂田さん、暇なんで一緒に歌でも歌いませんか?」


「お、おう、そうだな、歌うか」


 そうして、杉野達はそのしわがれ声が聞こえないくらいの大声で二人仲良く合唱するのであった。



 杉野達の合唱が三曲目に入ったところで、周りに建物が増えてきた。

 いつの間にか、崖沿いの峠道が終わり、件の村へ入っていたらしい。

 道も少しは広くなったが、まだ後ろの車達が追い越せるほどの幅はなかった。

 そのため、杉野は後ろからの圧をさっきよりも強く感じてしまっていた。

 気にしてもしょうがないのだが、やはり怖いものは怖いのだ。

 坂田の方はというと、周りに広がる田んぼやボロッちい家々などを見回している。


「どうしたんすか? そんなキョロキョロして」


 杉野が聞いてみると、坂田が首を傾げる。


「いやね、ここらへんに目的地があるはずなんだけど、全然見当たらねぇのよ」


「どうしますか、またそこいらの駄菓子屋で聞いてみますか?」


「そいつはちょいと無理そうだぜ。駄菓子屋どころか人が住んでる家すらねぇんだもん」


 坂田に言われて、杉野も村に点在する家をよく見てみると、あきらかに人が住んでいるようには見えないほど荒らされていた。

 人が荒らしたというよりは台風や地震などの自然災害が原因のようで、障子や窓はことごとく破れ、中の家具はどれも粉砕されていた。

 中には、火事でもあったかのような燃え痕が残っている家もある。

 どれもこれも完全に放置されているのか、修繕の痕はない。

 さらに言うと、さっきから村の中を走っているが、人っ子一人見かけない。

 もしや、今回の現場は無人の村なのか。

 いや、確か博士は民宿に泊まると言っていたから、まったくの無人ではないはずだが。

 杉野があれこれ考えていると、突然坂田が何処かを指差しながら叫んだ。


「あっ! あれだ! あのデッカイ屋敷だよ!」


 坂田が指差した先にあったのは、妙に小綺麗な武家屋敷だった。

 周りの廃墟と比べても、屋根瓦の色があきらかに違う。

 渋い鼠色のその瓦には傷一つ付いてない上に何処か一つだけ抜けていたりとかもなく、屋根を覆うように整然と並んでいる。

 屋敷を囲う壁ですら、塗られたばかりかと思うほどはっきりとした白の漆喰がよく映えていた。

 その壁を伝っていくと、これまた大きな門が見えてきた。

 門も屋根や壁と同じく、真新しい奇麗な柱や新品の金具で止められた扉など如何にも最近作ったような見た目だった。



 杉野達が開きっぱなしの門から中に入っていくと、玉砂利が敷かれた駐車場が門を入ってすぐの所に広がっていた。

 ライダーとしては、駐車場に玉砂利を使うのは止めてほしい。

 普通に歩いていても滑りやすいのに、バイクで通ったりしたら簡単に転んでしまうではないか。

 杉野は転ばないようにバイクから降りて玉砂利の上を押していったが、案の定、足を滑らしてバイクをこかしてしまった。

 こんな所で初コケを披露することになるとは思ってもいなかった杉野は赤面しながらバイクを起こそうとするが、足が滑ってなかなかうまくいかない。

 見兼ねた坂田が手伝うも、ラリーの大きすぎる車体に苦戦してしまい、やはりうまく起こせない。

 二人が苦心していると、その隣に例のF40が停まり、中から長身の男が出てきた。


「ちょっと貸してみろ」


 男はそう言うと、倒れたラリーの周りの砂利をその長い足で払い、踏ん張れるスペースを作ってからラリーを起こしにかかった。


「ふんぬ!」


「はへー」「やっば」


 その男が妙な掛け声と共にラリーを一気に起こしたので、杉野達は思わず拍手などをしてしまった。


「ったく、なんで来て早々こんな力仕事をせねばならぬのだ」


「すいません、起こしてもらっちゃって」


 不機嫌そうなその男にすかさず杉野が謝ると、めんどくさそうな顔をしながら男が答えた。


「ふっ、レースに負けてしまったのだ。これくらいはしてやらねばな」


「レース?」


 杉野が頭の上にハテナを浮かべていると、後ろから車のドアを乱暴に閉める音が聞こえた。


「芦屋! 貴様、ワシの前を塞ぎおったな!」


 誰かと思いきや、ただの激高した博士だった。


「あんたが遅いだけだろう! こっちは遥々京都から来ているのだぞ。少しは労え!」


 博士に負けじと、その謎の男は叫んだ。


「あのー、お二人はどういった関係なので?」


「宿敵じゃ!」「ライバルだ!」


 その内容に反して、二人はほぼ同時に答えた。

 ほんとは仲が良いのではないだろうか。


「ってか、その人ってうちの会社の人なんだよな?」


「ああ、そうじゃ」


「なんで、そんな仲悪そうなんだよ?」


 坂田がそこまで聞くと、博士達は互いに顔を見合わせ、そしてほぼ同時に笑いだした。


「な、なんだよ!? 何がおかしいんだよ」


「いやはや、確かに同じ会社で働いておるのに、ここまで忌み嫌えるのもおかしな話じゃな」


「まったくだ。というか、あんたが私の研究を邪魔しなければよかっただけのことだがな」


「なんじゃと!」「おぉ、やるか!」


 またもや、喧嘩が始まりそうだったので、杉野と坂田の二人で慌てて止めに入った。


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。ってか、まだ自己紹介もしてねぇし」


 坂田のナイスな一言で流血沙汰はギリギリ避けられた。


「あぁ、そうだったな。私の名前は芦屋(あしや)(みつる)、本部勤務のやり手研究者だ」


「普通、自分でやり手とか言わんじゃろがい」


 博士のぼそっと言った一言を無視して、芦屋はさらに続ける。


「今日は君ら、玉籠支部と共同で任務にあたることになったから、よろしく頼むぞ」


「はあ、さいですか。ところで、芦屋さん一人なんすか? 他の人は?」


 共同任務というからには、もう一人二人くらいはいるだろうと思うのはそう不思議ではない。

 現に、杉野達玉籠支部だけでも七人いるのだから、本部ならもっといてもおかしくはないだろう。


「いや、もう二人来る予定だ。もう少しで来るはずだが……おっ、来た来た」


 武家屋敷を囲う壁の向こうから、何処かで聞いたエンジン音が二つ聞こえてきた。

 そのエンジン音が門に差し掛かると、音の主がその姿を現した。


「あいつらは!」


 坂田が驚くのも無理はない。

 その音の主とは、少し前に高速で杉野達とバトルを繰り広げたカフェレーサー達だったのだ。


「遅かったな。おかげで賭けに負けてしまったじゃあないか」


 芦屋がイライラした口調で話しかけると、そのライダー達はバイクを適当な所に停め、二人同時にヘルメットを脱いだ。


「いや~すまんなぁ、芦屋はん。えらい道が混んでましてなぁ」


「ほんま、渋滞は酷いし変なのに追い抜かれるしで散々でしたわ」


 その二人の顔には見覚えがあった。

 確か、電車か何かで見たような……。


「あぁ! あの時の!」


 杉野が思い出す前に、坂田が大袈裟な動作で二人を指差した。


「あぁ~……なんやったけ? いや、ここまで出とるんやけど」


 ライダー二人のうち、男の方が首に手を当てるジェスチャーをしながら答える。


「あれちゃう? あの、奈良の方に行った時の」


「あーあれか。久しぶりやな、二か月ぶりくらいやろか?」


「せやなぁ、それくらいやったと思うで?」


 その関西弁を聞いてるうちに、杉野も思い出してきた。

 この二人は、前に滋賀へ行く道中で会った二人組だ。

 名前は聞いていなかったが、まさか同じ会社の人間だとは知らなかった。

 確かあの時は京都の和菓子職人とか言っていたが、カモフラージュの為の嘘だったらしい。


「おい、自己紹介は後にしろ。さっさとチェックインして、飯にするぞ」


「そうじゃな、ワシも腹が減った」


 互いの部下達が和やかな空気を醸し出しているのが気に入らないのか、博士達二人が屋敷の中へ入るように急かしてきた。


「チェックインってことは、ここが今回泊まる民宿ですか?」


「そうじゃ、豪華じゃろ?」


 杉野もまさかこんな豪勢な所に泊まれるとは思わなかった。

 これでは、民宿というより高級料亭だ。


「なーにをぼーっと突っ立てるんじゃ! 早く来ないと置いてくぞ!」


「あ、あの、他のみんなは?」


「心配するな、そのうち来る」


 少し不安な返答ではあったが、今は博士の言葉を信じるしかない。

 ただ、なるべく早く来てくれないと色々とめんどくさい事になりそうだが……。

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