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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第五章 Milky Way love story
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63 恐怖! 休暇中の呼び出し

 休憩するために入ったのは、大きな観覧車があるサービスエリアであった。

 名前に富士が入っているだけあって、あちこちに富士山が描かれたポスターが貼られている。

 きっとあの観覧車に乗れば、富士山やその周りに広がる街並みを一望できるのだろう。

 とはいえ、今日は伊豆が目的地なので、わざわざ金を払わなくても峠を走ればいくらでも見られる。

 しかも、バイクで走りながら見られるため、峠を攻めながら富士山を堪能することができるのだ。

 つまり、杉野達のようなライダーにとっては、観覧車やジェットコースターになどに乗らなくてもそれ以上に楽しめるのだから、相当コスパが良いわけだ。

 まあ、それ相応のリスクを抱えてはいるが。



 駐輪場にバイクを停めたら、まずやることはトイレ、ではなくバイクの点検だ。

 タイヤのエアチェックはもちろん、各部のナットやボルトなどの締め付けから燃料の確認まで、基本的な点検をやらねばならない。

 一般道ならば、山奥にでも行かない限り、何処にでもバイク屋やガソリンスタンドがあるだろう。

 しかし、高速ではそうは行かない。

 SAやPAはぽつぽつとしかないし、バイク屋なんて高速を降りないとない。

 なので、休憩前に簡単でいいから点検するのが大事なのだ。

 リアキャリアに積んだシートバックにエアゲージやバイク用の手動空気入れなどを入れているのは、これが理由だ。

 特に杉野の方はまだ買ったばかりなので、部品がゆるんでいたりするかもしれないという不安もあるし、やるに越したことはないのだ。



 軽く点検した結果、リアキャリアに多少のガタつきがあった。

 もし、点検していなかったら、高速道路に落とし物をするとこだっただろう。

 やはり、念には念を入れ過ぎるくらいがちょうどいい。

 バイクは身体が剥き出しの分、こういうところが生死を分けるのだ。



 点検が終わったら、あとは適当に休むだけだ。

 トイレに行ったり、ソフトクリームを食べたり、喉を潤したりとSAだけでも色々なことができる。

 その中でも、杉野はソフトクリームを食べるのが好きだった。

 道の駅などでは必ずといっていいほど買ってしまう。

 このサービスエリアには、静岡らしい抹茶ソフトだけでなく、富士山ソフトなるものもあるらしい。

 見た目はまさに富士山って感じで、青と白のクリームが二段に分かれてコーンに乗っている。

 上は普通のミルク味だろうが、下はなんだろうか?

 ブルーハワイとかか?

 杉野はますます気になってきたので、坂田がトイレに行っている間にその甘味を買ってみることにした。



「はい、どうぞー」


「ありがとうございます」


 杉野は早速受け取ったソフトクリームの下段に位置する青というよりは水色のクリームを舐めてみた。

 すると、口の中に爽やかなラムネ味が広がる。

 なるほど、ラムネか。

 良いセンスだ。

 下段だけでなく、上段の白い方もなかなか美味い。

 牛乳の素朴な味だが、これはこれでとても良い。

 改めて見ると、色合いも素晴らしく、実に富士山らしい。

 これを考えた人はきっと天才なのだろう。

 そう思ってしまうほどに、このソフトクリームは美味かった。



 甘味で疲れを癒していると、トイレの近くに坂田の姿を発見した。

 用を済ませてすっきりしているのかと思いきや、どうにも違うらしい。

 どうやら、誰かと口論しているようだ。

 遠くからだとよく見えないので断定はできないが、携帯に向かって怒鳴っているようにも見える。

 どうにも気になった杉野はソフトクリームを早々に平らげて、こっそりと坂田に近づくことにした。



「えっ! 今日って休みっすよね!? いやいや、そんなの聞いてないっすよ!」


 近くまで来ると、坂田の焦ったような声が聞こえてきた。

 坂田の話し方から推測するに、相手は博士か教官だろうか。


「俺達、今から伊豆に行く予定なんすけど!? それならちょうどいい、じゃないっすよ! ちょっと聞いてますか? おーい! あのジジイ、切りやがった!」


 相手は博士で間違いなさそうだ。

 それにしても、休みの日にわざわざ連絡してくるなんて、どういう風の吹き回しだろう。

 今迄、こちらのプライベートへ踏み込んできたことなんてなかったはずだが……。

 杉野は少しだけ嫌な予感がしてきた。


「ったく……あっ、杉野、聞いてたのか? いや~、困っちまったぜ」


「なんかあったんですか?」


 大体予想はついているが、敢えて分からないふりをした杉野が聞いてみる。


「えーっと……実はな、博士から連絡があって、今から東京に来てくれって言われてな」


「東京!?」


 坂田の答えは、杉野の予想を遥かに上回っていた。

 どうせ、会社に帰ってこいと言われたのだろうくらいに思っていたからだ。


「東京って……あの都会の?」


「あぁー、いやそっちじゃなくて、田舎の方。奥多摩だよ」


「奥多摩っすか!?」


 奥多摩、それは田舎ライダーにとって、一度は走ってみたい土地だ。

 かくいう杉野も、昔のローリング族などが走っている動画を見て、密かに憧れていた。

 ぶっちゃけ、伊豆よりも奥多摩の方に行きたいくらいだ。


「奥多摩、良いじゃないっすか! 行きましょうよ!」


「仕事で行くんだぞ、そんな走ってる余裕ないって」


「そんなの目的地に着く前にちょちょーいと走っちゃえばいいんすよ」


「まあ、確かにそうだな。つっても、それが終わったら休日返上で仕事なんだぜ」


「それは……」


 杉野は悩んだ。

 奥多摩を走れるのは良いが、休日がなくなってしまうのはかなり痛い。

 それに、どうせその仕事もろくなものではないのだろうことを考えると、さらに憂鬱になってしまう。

 だがそれでも、奥多摩を坂田と一緒に走れるならば、構わない。

 それほどに、杉野は今日のツーリング、というか坂田と走るのを楽しみにしていたのだ。


「それでも行きましょう! ってか、この暑い中、山で仕事できるなら全然きつくないっすよ」


「それもそうか。よし! こっからは、伊豆じゃなくて東京を目指すぞ!」


「よっしゃぁ、行きましょう!」


 かくして、杉野達の目的地と目的は易々と変更されてしまったのだった。



「ところで、休日返上で仕事になるって言ってましたよね?」


「あぁ、そうだな」


「それって、泊まりなんすかね?」


 今日の杉野達は日帰りツーリングのつもりで出てきたので、宿泊用の着替えなど持ってきていなかった。


「そういや、そこらへんは聞いてなかったな。まあ、最悪現地で服やらなんやら買えばいいさ」


「でも、それって自腹ですよね?」


「いいじゃねぇか、それくらいよぉ。なんなら、博士から小遣い貰って買っちまえば、実質タダで土産が買えるんだぜ。悪い話じゃねぇだろ」


「あーその手がありましたね」


 博士には悪いが、こちらも大きい買い物をしたばかりでお金がないのだ。


「飯とか宿代も出してもらえるんなら、逆にお得まであるしな」


「最初のツーリングでお泊りですか……なんかワクワクしてきました!」


 こうなれば、嫌ってほど博士にたかってやろうと杉野は決意した。

 人の大事な休日を潰したのだから、これくらいは許されても良いだろう。


「ってかよぉ、休日出勤になるなら、遊びながら稼げるんじゃね?」


「確かに! なるべくゆっくりめに行って、その分稼いだ方がお得ですね」


「そういうこと。そんじゃ、もうちょいゆっくり休んでいきますかね」


 杉野達はそれから三十分もかけて、疲れた体を存分に休めたのであった。



 充分過ぎるほどの休憩を取り、さあ出発しようとバイクに跨ると杉野のスマホが鳴った。

 なんとも言えぬタイミングで鳴りやがるなと、少々キレ気味な杉野が自分のスマホをライジャケのポケットから乱暴に取り出す。

 画面には、このツーリングを潰した張本人の名前が映っていた。


「なんですか? こんな時に」


 電話に出て一発目に、杉野は不機嫌な口調で電話の向こうへ聞いてやった。

 せっかく気持ちいい気分でバイクに乗ろうとしていたのに、それを妨害しやがった理由を。


『いやはや、すまんな、君らの貴重な休みを潰してしまって。どうしても、やらねばならん仕事が入ったんじゃよ』


 開口一番、博士は軽い調子で謝罪した。

 しかし、それが杉野の神経を逆撫ですることとなる。


「いえいえ、仕事ならしょうがないですよ。ところで、交通費は出るんですよね?」


 杉野がイライラしながら聞くも、博士は特に悪びれるふうでもなくいつもの調子で答えてくる。


『あぁ、もちろんじゃとも。君らには色々と無理してもらう予定じゃから、それくらいならいくらでも出してやるわい』


「無理してもらうって……今度は何をやらせる気なんですか?」


 怒りを通り越して、もはや呆れてきた杉野はとりあえず何をやるのかだけでも聞き出すことにした。


『おぉ! 興味を持ってくれるのか! 実はな、ある村の調査を本部のお偉いさんから頼まれたのじゃよ。しかも、今回は本部の連中も来るから、うちのメンバーが一人やニ人では示しがつかんのじゃ』


 ということは、神谷も呼び出されたのだろうか。

 可哀そうに、あれだけ楽しみにしていたコンサートを見られなくなるのはさぞ辛いだろう。

 今度、飯にでも連れてってやろうか。



 杉野が神谷へ同情している間にも、博士は仕事の内容をどんどん話していく。


『あーそうそう、今回の宿もちゃーんと取ってあるから心配するな。そう大した所ではないが、静かで良い宿じゃよ』


「はあ、そっすか。ちなみに、宿代もそっちが出してくれるんですよね?」


『それはもちろん、出してやるとも。ま、民宿じゃからそう高くはないがな』


「宿代も出してくれるらしいっすよ!」


「やったぜ! んじゃ、実質タダでバカンスできるじゃねぇか!」


 杉野達が騒いでいるのが聞こえたのか、電話の向こうから博士の怒鳴り声が響く。


『馬鹿もん! 今回の仕事は今後の研究の命運を分けるかもしれないほど重要なんじゃぞ! バカンスなどと浮かれたことを言っとる場合か!』


「すいませんした」


『わかればよろしい。ったく、最近の若もんは……』


 それからしばらく、博士のねちっこい説教を聞くはめになった。



『これくらいにしておくかの。では、なるべく早く来るんじゃよ』


 長かった説教がようやく終わり、博士が話を締めにかかったので、杉野は最後の抵抗をしてみることにした。


「えっと、渋滞が酷くて、ちょっと遅くなるかもです」


『そうか、それは残念じゃのう。本部連中よりも早く着いたら、ボーナスをやろうと思ってたんじゃが』


「あ~今渋滞解消したみたいです。それじゃ、急ぐんで」


『くれぐれも事故には気をつけるんじゃぞ。まったく、現金なや――』


 まだ何か言いたげではあったが、そんなことは微塵も気にせずに、杉野はプツンと電話を切った。


「こうしちゃいられないっすよ、坂田さん! 早く行かないと!」


「あぁ? ゆっくり行くんじゃねぇのかよ?」


「早く着いたら、ボーナスが出るって――」


「よっしゃ、杉野! はよ、出発するぞ」


 そうして、似た者同士の現金な二人は、東京への旅路を急ぐのであった。

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