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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第四章 UMA ATTACKS
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59 無人島脱出大作戦!

 坂田達を連れて戻ってくると、先程まで続いていた論争がちょうど終わったところだったようで、膨れっ面の神谷とすっきりした顔の藤原が握手をしていた。


「やはり、僕の理論は間違ってなどいないのだよ……おっと、もう来たのか。それじゃ、これからの事を説明しようかね」


「これから……すか?」


「あぁ、これからの予定についてだ。実は、先程の戦いで食料と飲み水が全部駄目になってしまってね。ほら、穴だらけ」


 そう言って、藤原が持ち上げたクーラーボックスや水の入っていたペットボトルにはどれも小さな穴がぽつぽつと開いていた。


「ムカデに体当たりされた時に飛んだリベットが運悪く当たってしまったようでね、外に括り付けてあった調味料などは無事だから、狩りや釣りで食料は確保できるだろう。だが、それにも限界がある」


 確かに、一人だけならともかく、五人分の食料を確保するには相当な量の資源が必要だろう。

 下手したら、島中の生き物を捕り尽くすことにもなりかねない。


「このままでは、調査どころではない。なので、一旦、島を出て、研究所に帰ろうと思う」


「それで、俺らはどうなるんだ? また、島に戻って調査の手伝いをやらせるのか?」


「その必要はないよ、あとは僕一人でもできるからね。無事に向こう岸へ着いたら、そのまま駅まで送って、さよならだ」


 それを聞いて、杉野達は歓喜した。

 やっと、このイカレたサバイバル生活から解放されるのだから、当たり前だろう。

 ただ、その中で神谷だけは、少しばかし残念そうな顔をしていたが。



 それからは、砂浜を目指してジャングルを突き進んだ。

 これから帰れると思うと、胸が躍ってしまう。

 杉野が呑気に色々と帰ってからの事を考えていると、唐突に坂田が質問した。


「それでよぉ、どうやって向こう岸に渡るんだ? あの大発とかいう小舟を使うのか?」


「いや、あれは使えない。まだ、ダンクルオステウスがそこらへんを泳いでいるかもしれないからね」


 そういえば、ムカデの事で忘れていたが、まだ退治していない怪物が残っていたか。

 また、上陸前の時のような事態が起こらないとも限らないのだし、他に策があるのならその方がいいだろう。


「じゃあ、何を使うんですか?」


 杉野が質問してみると、藤原が前方に見えてきた錆びついた倉庫を指差した。


「あれを使うのさ」



 倉庫の中には、大型の水上機が一昨日と変わらない姿で鎮座していた。

 塗装は剥がれ、錆びも酷いが、果たしてまともに飛べるのだろうか。

 前に発見した時は、エンジンが無事なら飛べると言っていたような気がするが。

 杉野達の不安げな表情に気づいた藤原が何かを探し出した。

 倉庫には、ボロボロに錆びついて使い物にならない銃や同じく錆びた工具などが乱雑に置かれていた。

 その中から藤原が選んだのは、鉄で出来た緑色の携行缶だった。

 ライダーなどが、よく予備のガソリンを入れるあれである。

 藤原がその携行缶を持ち上げると、上下に激しく振ってみせる。

 すると、中からちゃぽちゃぽと液体が揺れる音が聞こえてきたではないか。


「その中身って、もしかしてガソリンですか?」


「ああ、そうとも。まだ使えるかは分からないが、イチかバチかこの二式大艇に入れてみようじゃないか」


 なかなかに行き当たりばったりな作戦だが、杉野達にはこれ以外の方法は残されていなかった。



 燃料は翼内タンクへ入れることになった。

 胴体下部にも燃料タンクがあるらしいが、何十年も水に浸かりぱなしの胴体タンクに入れるのは、少々リスクが高い。

 それに、見つかった燃料自体もそう多いわけではないので、翼内タンク一つに入れるだけでも精一杯なのだ。

 本来なら、満タンまで入れて7,400kmもの航続距離を発揮できるらしいが、これではせいぜい50kmも飛べば良い方だろう。

 とはいっても、湖のど真ん中から向こう岸へ届けば良いのだから、大した問題ではない。

 問題は航続距離よりもまともに飛ぶかどうかだ。

 何十年も放置された機体に、同じくらい放置されていた燃料を入れて飛ばそうというのだから、心配にならない方がおかしい。

 だからといって、またあの大発に乗って帰るのもそれはそれでキツイ。

 空路ならば、そうそうやられることもないだろうが、それでも警戒はした方がよいだろう。

 あのような怪物が現代まで生き残ってきたのには、それ相応の理由があるのだから。



 なけなしの燃料を入れたら、いよいよ二式大艇の中に入っていく。

 機体の後部、ちょうど日の丸のすぐ近くにあったサビサビの搭乗口を開けると、中から無数の蟹が飛び出してきた。


「うひゃー、なんじゃこりゃ」


「どうやら、蟹の住処になっていたようだね。これは、出発の前に掃除をした方が良いかもしれない」


「げぇー、めんどくせぇなぁ」


 坂田が悪態をつきながら、二式大艇の中に入る。

 しかし、すぐに出てきたと思うと、腕でばってんマークを作った。


「ダメだぜ、これは。中に水が溜まってやがる」


 杉野も中を覗いてみると、坂田の言うように機体の中には藻か何かで緑色に変色した水が溜まっていた。

 よく見ると、さっき出てきたのと同じ蟹やドジョウなどが仲良く泳いでいる。


「二式大艇の防水性能はあまり良くないってのは聞いていたけど、まさかこれほどとは……」


 杉野の後ろから中を覗き込んだ藤原が少し呆れ気味に言った。

 ほんとに、こんなのが飛べるのだろうか。

 杉野はますます不安になってきた。


「まあ、溜まってしまったものはしょうがない。皆で水を掻き出して、最低限飛べるようにしよう」


「マジですか……」「もう無理~」「これ以上、汗かきたくないんですけど」


 神谷を除く三人の若者達からの文句や泣き言に少しムッとした藤原は、提案を怒気を含んだ命令に替えた。

「いいかい、こいつが飛ばなければ、君達は帰れないんだ。分かったら、早くバケツを持ってきて、水を出してくれ」


「へーい」「分かりましたー」「了解であります」「やりますよ、やればいいんでしょう」


 藤原の命令に、四人は渋々といった感じで従った。

 彼らも、これが頼みの綱だというのは理解しているが、限界が近くなっているのだ。

 もし、ムカデが食料を駄目にしてくれなかったらと思うと、ゾッとしてしまう。

 まあ、そうなっていたとしても、藤原の命令を無視して、勝手に帰っていただろうが。



 水を掻き出す作業は、三十分くらいで終わった。

 もっとも、放っておいても水がどんどん入ってくるので、最低限飛べる重量になるまで減らしただけだ。

 早く出発しないと、また水浸しになってしまうので、作業が終わったらすぐに乗り込み、エンジンをかける。

 エンジンを始動させる試みは、最初の何回かは不発に終わった。

 しかし、何度もやっていると、次第にエンジン音がはっきり聞こえてくるようになってくる。

 そして、十五回目のチャレンジで、けたたましいエンジン音と共にプロペラがゆっくりと回りだした。

 プロペラの回る音に混じって、錆びた金属がキイキイと軋む音が聞こえてくるのには、思わず肝を冷やした。

 やはり、油くらいは差しておくべきだったかもしれない。

 まあ、島から向こう岸までの十数kmくらいなら、なんとか飛べるだろう。

 そう、この時の杉野は軽く考えていた。

 だが、現実は油断した者には厳しいということを後々になって知ることとなる。



 緑の巨体がゆっくりと水面を滑り、湖面へその巨大な影を映した。

 七月の太陽は容赦なく機体の表面を焼き、中にいる杉野達を蒸し焼きにしようとする。

 これが現代の航空機ならば、断熱素材で守られた機体にエアコンも付いて、さぞ快適なのだろう。

 残念ながら、今乗っているのは先の大戦の忘れ形見だ。

 機体はジェラルミン――アルミに銅やマグネシウムなどを組み合わせた合金――で出来ているので断熱性能は期待できないし、もちろんエアコンなどという軟弱な物も付いていない。

 そんな過去の遺物の中で、杉野達はひたすら暑さに耐えていた。

 まるで、サウナのようなその暑さに、すぐそこに広がる湖面へダイブしたくなる誘惑に負けそうになったりもする。

 割れた窓から入ってくる水飛沫があるので、まだ平静を保っていられるが、それがなかったら迷わず飛び込んでいただろう。



 だんだんとエンジン音が大きくなってきて、それと同時に窓からの水飛沫も激しくなる。

 いよいよ、飛び立つのだ。


「そろそろかな……皆、何処かに掴まっていてくれ、飛び立った拍子に床が抜けるかもしれないから」


「へぇ!? 床がなんですって!?」


 杉野が聞き返す前に、機体は飛び立ってしまった。

 水飛沫が止み、代わりに質の悪いガソリンの匂いがする黒煙が入ってくる。

 しょうがないので、手近の窓枠を掴んでいると、足元からミシミシと嫌な音がしてきた。


「あのー、なんかミシミシ言うんですけど……」


 杉野が聞くも、藤原は操縦に夢中で答えてくれない。

 そうしているうちにも、床からの音はどんどん酷くなっていき、ついには一部の床が剥がれ始めた。


「おいおいおい! やべぇぞ、杉野!」


「このままだと、僕ら、湖に真っ逆さまですよ」


 向かいにいた坂田と緊迫した会話を繰り広げていると、操縦席の方にいた八坂が何かを持ってきた。


「これ、使って。どっかに巻いとけば落ちないから」


 そう言って渡してくれたのは、藻がこびり付いたロープだった。


「あのー、俺のは?」


「あんたのはない。っていうか、全部で四本しかなかったから」


「そんなぁ」


「じゃ、渡したから」


 それだけ言うと、八坂は操縦席の方へ戻っていった。



「杉野ー、俺も一緒に巻いてくれんかー」


「言われなくても、そのつもりですよ」


「うおぉぉぉん、杉野ーありがとなー」


 坂田が、ボロボロと大粒の涙を流しながら、杉野から渡されたロープを自分の腰に巻いていく。


「一つ質問なんですけど、これって、どっちかが落ちたら、もう片方も道連れになっちゃうんじゃ?」


 あまり想像したくない事を杉野が聞くと、坂田の涙が止まる。


「えーっと、死ぬ時は一緒だぜ! 杉野!」


 かなり物騒な答えが返ってきたので、杉野は益々不安になってきた。



 それからしばらくして、あれだけしていたミシミシ音は、いつの間にやら聞こえなくなっていた。

 代わりに、聞こえてくるのはエンジンからの異音だ。

 先程まで、ぶうぶうと快調なエンジンサウンドを奏でていたのに、現在はプスプスと今にも止まりそうな音に変わっている。


「こいつはまずいんじゃないかね、杉野さんや」


「僕に聞かれても困りますよ。神谷なら、分かるんじゃない? こういうの詳しいでしょ」


 さっきから、探検と称してあちこち歩き回っている神谷を呼び止めて聞いてみる。


「いやー、自分にも分かりかねますが、もしかしたら、入れた燃料が悪かったのかも」


「やっぱ、そうか。ありゃ、相当な年代物だからなー」


 坂田は冗談交じりに言っているが、割と冗談では済まされない状況だ。

 何十年も整備されていないエンジンが動き、そのまま空を飛ぶまでは奇跡だが、それが続くとは限らない。

 このままでは、向こう岸に辿り着くまでにエンジンが止まってしまうのではないか。

 杉野はそんな恐ろしい考えに取り憑かれ始めた。

 それに応えるように、今度は機体全体が揺れ始める。

 どうやら、不調になったエンジンが歪な振動を作りだしているらしい。

 その振動のせいで、さっきまで収まっていた床の落下が再発してしまった。

 ついには、自分の足を置くスペースがほとんどなくなってしまう。

 杉野と坂田は壁に張り付いて、わずかに残ったフレーム部分に足をかける。

 一応、操縦席の方はまだ床が無事なようなので、そこまで辿り着ければどうにかなりそうだ。

 とはいっても、そこまで行くにはフレームの綱渡りを決行しなければならないが。



 意を決して、最初に動き出したのは坂田だった。

 少しずつではあるが、確実な足取りで操縦席へ進んで行く。

 そうなると、ロープで繋がっている杉野も行かなければならない。

 坂田と同じように窓枠を掴みながら、フレームの上を慎重に進む。

 時間はかかりそうだが、ちょこっとずつ進めばなんとかなりそうだ。



 途中、強風で機体が大きく揺れたりもしたが、なんとか無事に操縦席に辿り着けた。



 操縦席には、操縦手の藤原はもちろん、疲れて副操縦席に座っていた八坂やちゃっかり避難していた神谷の姿もあった。

 機体はもはやボロボロだが、搭乗員は全員無事なようだ。

 誰も落ちていないことに安慮していると、藤原が不穏な言葉を口走った。


「エンジン停止! 高度低下! このままでは、墜落する!」


「そんな!? どうにかできないんですか!?」


「手を尽くしているが、どうにもエンジンが駄目になったらしい」


 杉野が絶望していると、窓の外を見た神谷が叫んだ。


「もうすぐ、陸ですよ!」


「ほんとだ! これなら、助かるんじゃねぇか?」


「いや、この二式大艇には着陸用の車輪なんて付いてないんだ。運が良くても不時着した時の衝撃で機体がバラバラになってしまう。運が悪けりゃ、燃料タンクが爆発して皆あのムカデのようになるだろう」


「そんな……」


 陸を見てホッとしていた八坂も、この世の終わりかのような表情で俯いてしまう。


「まだ、諦めるには早いよ。うまく着水すればどうにかなるかもしれないし」


 落ち込んだ杉野達を励ますように、操縦桿を思いっきり手前に倒している藤原が言う。

 確かに、まだ陸までは距離があるので、うまくやれば着水できるだろう。

 だが、もし着水できたとしても、湖にはあの巨大魚がいる。

 陸から遠い所に着水してしまったら、たちまちのうちに食われてしまうだろう。

 そうなっては、空を飛んできた意味がない。


「だから、後ろから追いかけてきているダンクルオステウスを追い払ってくれ!」


 藤原は気づいていた。

 島から飛び立った二式大艇を追いかける、巨大魚の魚影に。


「うわっ、ほんとだ、マジで追いかけてきやがる。しつけぇなぁ、あいつも」


 杉野も後ろを振り返ってみると、吹き抜けになった床から見える水面に、巨大な魚影が確かに見えた。

「こっちには、銃もあるのですから、電気ショック程度で逃げ出した相手なら追い払えるでしょう」

 神谷が自分のライフル銃を構えながら、自信満々に言った。

 他の三人も、神谷に続いて各々の銃を構え、魚影に狙いを定めると、一斉に引き金を引いた。



 カチッ



 銃声は鳴らず、代わりに引き金を引いた時の小さな金属音だけが響いた。


「あれ? おかしいですねー」


 最初に撃った神谷が、排莢を済ませてから、再び引き金を引くも、やはり銃声が鳴らない。

 他の三人も同じようにやってみるが、誰も発砲までは至らなかった。


「もしかして、湿気っちゃったんじゃね?」


 弾はどれも湿気ってしまい、使い物にならないようだ。

 おそらく、先程までの水飛沫に加えて、機体に溜まっていた水を出したりと水に触れることが多かったのが原因だろう。


「他に武器なんて……」


 言いかけた杉野は、まだ武器を持っていたことを思い出した。

 化けムカデから逃げる時に、藤原に貸してもらった軍刀だ。

 腰に差したまま、ずっと返すのを忘れていたのだ。


「そいつでどうすんだよ? まさか、投げんのか?」


「そのまさかです!」


 坂田の問いかけに、杉野は覚悟を決めてから答えた。

 そして、黒い鞘から刀をシュパッと抜き、未だに追いかけてきている魚影へ投げた。

 刀は見事に魚影のど真ん中に命中し、水面下で巨大魚が暴れているのがここからでも分かった。


「藤原さん! 今です!」


「OK!」


 杉野の合図で、藤原は機体を降下させた。

 少しずつ水面が近づいていき、ついに機体の腹が湖に打ち付けられた。

 それなりのスピードで着水してしまったためか、しばらく水の上を滑り、機体が陸に少しだけ乗り上げてから止まった。

 どうにか、向こう岸に辿り着いたのだ。


「ふぅ~、皆、ご苦労だった。これで、兄さんに借りを作らなくてす――」



 グシャリ



 その時、何者かが機体を齧りとるような音が聞こえた。

 杉野達が機体の後方を見てみると、ちょうど巨大魚が尾翼の部分を齧り取っているのが見えた。


「逃げろ! 僕らも食われるぞ!」


 藤原が言う前に、杉野達若者組はすでに逃げて、砂浜を走っていた。


「まったく、近頃の若い子は……」


 藤原が呆れていると、巨大魚がどんどんこちらへ向かってきた。


「僕も逃げないとまずいな……あれ?」


 近づいてくる巨大魚の額に何か見覚えのある物が突き刺さっているのに、藤原は気づいてしまった。

 それは、自分が何よりも大事にしていた、旧日本帝国軍将校が実際に使っていた軍刀だった。



 結局、巨大魚は二式大艇を半分くらい食べてから、湖に戻っていった。



 杉野達が上陸したのは、ちょうど二日前に大発で出発した、あの場所だった。

 どうりで、見覚えがあるわけだ。

 すぐ近くに藤原のセダンが止まっていたので、杉野達はそのまま駅まで送ってもらうことになった。

 車内では、無言の時間が最後まで続き、誰も口を開くことはなかった。

 それは疲労の為なのか、はたまた藤原の宝物を怪物にくれてやったことに対する後ろめたさか。

 どちらかは分からないが、その沈黙はとても居心地の良いものだった。



 駅に着き、帰りの新幹線のチケットを買ってもらい、最後に藤原から労いの言葉を貰った。

 よく頑張ったとかまた手伝ってくれとか、ありきたりな言葉を並べてから、思いだしたようにあの刀の事も付け加える。


「あれは、僕の宝物だった。だから、なくなってしまったのはもちろん残念だ。しかし、あれくらいで君らの命が助かったのなら、安いもんだよ。それじゃ、そろそろ新幹線も来るだろうから、ここでお別れだ」


「うぅ、今迄ありがとうございました!」「お世話になりやした!」「藤原隊長! お元気で!」「色々あったけど、楽しかったです」


 若者達は泣きながら別れの言葉を残していく。

 それは、寂しいという感情と安慮が混ざった変な涙だった。



 それからの記憶は曖昧だった。

 いつの間にか新幹線に乗ったと思うと、気づいた時には会社の自分達の部屋に帰っていたのだ。

 それほどに疲れるようなサバイバル生活を経て、杉野達は一段と逞しくなっていた。



 それから、数日たったある日。

 幽体研究所の下に、一通の手紙が届いていた

 差出人は、あの藤原だ。

 手紙には、その後の調査結果や藤原自身の近況が綴られ、藤原の元気な様子が窺える。

 そして、その手紙には一枚の写真が同封されていた。

 その写真には、かつて探検した古代のジャングルをバックに、充実した日々を過ごせて満足げな藤原と楽し気な様子のヒベルスが映っていた。

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