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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第四章 UMA ATTACKS
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52 ペットは巨大三葉虫

 杉野が戻ってくると、池の前にはアノマロカリスやミクロンミンギア、果ては坂田を襲ったウミサソリなどが山盛りになっていた。

 これを、全て坂田が釣ったのだろうか。

 だとしたら、尊敬に値する。

 その坂田はというと、杉野がここを離れる時よりもげっそりしているように見えた。


「坂田さーん! 大丈夫ですかー?」


 杉野が呼んでも、坂田は何かとんでもない物を処理した後のような表情で呆けていた。

 ふと、坂田の後ろに何かが入っていそうな大きな黒い袋が置いてあるのに気づいた。

 はて、さっきはあんな袋などなかったはずだが。

 そう、杉野が考えていると、後ろから藤原の声がした。

「おぉ、ご苦労さん。それじゃ、そろそろ晩飯の用意を始めようかね」

 何か隠しているような気もするが、めんどくさそうなので無駄な追及はしないことにした。

 今日は色々ありすぎて、杉野は身も心も疲れ切っていたのだ。



 晩飯は、坂田が釣った魚介を使う。

 少々見た目は悪いが、昼飯に比べればまだマシだろう。

 最初に調理するのは、「ハルキゲニア」だ。

 藤原の話では、こいつもカギムシという虫の仲間、というかご先祖らしいが池で釣りあげた食材だからノーカンということにしておこう。

 食材の説明が終わったところで、今度は調理方法を説明していこう。

 こいつには身も肉もほとんどなさそうなので、仕方なしに油で素揚げすることになったのだが、如何せん古生代の生き物なので、どうやって〆たらいいか分からない。

 もし、〆ないまま油に入れてしまったら、大惨事は免れないだろう。

 油がはねて火傷するくらいならまだしも、鍋が倒れて火事にでもなったら、この木と草しかないジャングルで逃げ場などない。

 このままでは調理ができないので困っていたら、サバイバルナイフを持った八坂がまな板の上のハルキゲニアをスパーンと一刀両断してしまった。


「これでよし。早く揚げちゃってよ、気持ち悪いから」


 そう言い放った八坂の目には、生気がまったく感じられなかった。

 おそらく、相当な覚悟だったのだろう。

 手も震え、必死についさっき切った食材を見ないようにしている。

 八坂の勇気に敬意を表し、杉野は真っ二つになったハルキゲニアを煮えたぎった油の中へぶち込んだ。

 しっかり水分が切れていなかったのか、いくらか油がはねたりはしたが、鍋の中のハルキゲニアが暴れることはなかった。

 そのまま、他の個体も同じ要領で〆ていき、無事に「ハルキゲニアの素揚げ」が完成したのであった。



 続いて、「ミクロンミンギア」を刺身にしていく。

 一応、魚類ではあるので捌けば食えるだろうという藤原の安易な考えだ。

 今回は、いつの間にか復活していた坂田にやってもらうことにした。

 なんでも、実家が漁師だそうで、魚を捌くなら任せてくれとのことだ。

 まな板の上に食材を置き、坂田はまず包丁で魚の腹を削ぎだした。

 どうやら、鱗を取っているようだが、残念ながら古代魚に鱗はない。

 引っかかる鱗がないのに包丁の刃を当てている為、ヌルヌルと滑ってしまって危ない。

 放っておくと怪我をしそうなので、杉野が止めに入った。


「坂田さん、その魚には鱗なんてないですよ!」


「ありゃ、ほんとだ。気づかなかったわ」


 どうやら、相当疲れが溜まっているらしい。

 できることなら、杉野が代わりにやってやりたいが、あいにく魚の捌き方など習っていないので、坂田に任せるしかない。

 杉野の心配をよそに、坂田は鱗を取るのを止め、見事な手際であっという間に古代魚を三枚おろしにしてしまった。

 そして、向こう側が透けて見えるほどの薄さに切ると、一旦氷を入れた塩水に漬けて締める。

 こうすると、身が締まって美味しくなるらしい。

 あとは水気を軽く拭きとって、残った食材の頭と一緒にお皿へ添えれば、「古代魚のお造り」の完成だ。



 さあ、いよいよメインディッシュであるアノマロカリスの調理だ。

 他の食材は、せいぜい数センチほどの大きさなのに対して、このアノマロカリスはゆうに1mを越えている。

 なので、鍋やフライパンなどの調理器具は使えない。

 どうすればいいのかと、杉野達が悩んでいると、さっきまで何処かへ行っていた藤原が如意棒のような鉄槍を担いで戻ってきた。


「どうしたんすか、それ」


「こんなこともあろうかと、戦車に積んどいたんだよ」


 藤原が重そうな鉄槍を戦車からここまで運んできたのかと思うと、少し悪いような気がしてきた。

 というか、こんな鉄槍で何をしようというのか。

 杉野は少しワクワクしてきた。


「こいつを、アノマロカリスにぶっ刺して……」


 言いながら、まだ息があるアノマロカリスの口へ鉄槍の先端を刺しこんでいく。

 瀕死とはいえ、生きている生物の口の中に異物を入れれば、暴れまわるのは必然だ。

 鉄槍を入れられたアノマロカリスはビタンビタンと飛び跳ね、藤原から逃げようとする。

 しかし、藤原も逃がすまいと必死に鉄槍を相手の口の奥へと押し込んでいく。

 ついには、鉄槍の先っぽがアノマロカリスの胴体を突き破ってしまった。

 そして、アノマロカリスが暴れないうちに、鉄槍を地面に突き立て、抜けないようにそこらへんに置いてあった金槌で槍を叩き、地面に埋もれさせていく。

 突き刺されたアノマロカリスはというと、観念したのか、まったく動く気配がない。


「よーし、これでいいだろう。そうだ、君達に頼みたいことがあるんだが、いいかな?」


「別に構いませんけど」


 杉野は自分達の為に一生懸命になってくれるこの男に気を許し始めていた。


「ありがとう。じゃあ、そこのジャングルに生えてる木を切ってきてくれ。これを使ってね」


 そう言って渡されたのは、よく切れそうな斧だった。



 このジャングルの木、もとい巨大なシダ植物は見た目ほどの強度はなく、斧だけで簡単に切り倒せた。

 とはいっても、使うのは上の方に付いている枝の部分だけなので、大部分を占める丸太は必要ない。

 少々もったいない気もするが、無駄な労力を費やすわけにはいかないのだ。



 シダの丸太から枝を切り取り、藤原の下へ戻ろうとすると、近くの茂みからガサガサと草が揺れる音がした。

 音のした方を見てみると、何かがこちらを見つめている。


「坂田さん、ちょっといいですか?」


「ん、どうかしたか?」


 怖がりな八坂に知られないように小声で坂田を呼ぶと、杉野が件の茂みを指差した。

 すると、坂田が見ている目の前でその茂みがまたも揺れてみせた。


「なんか、いるな」


 そう言って、茂みへ近づこうとする坂田。


「気をつけてくださいね。もうライフルの弾もほとんどないんですから」


 昼飯の食料を調達する為にライフルを使ってしまったのは、愚策だった。

 おかけで、杉野達のライフルにはあと三発くらいしか入ってない。


「心配しなくても、こっちにはこいつがある」


 言いながら、手に持っていた斧を掲げる。

 そんなやり取りをしていると、いつの間にか茂みから音を立てていた主が飛び出していた。

 それは、巨大な三葉虫だった。

 つぶらな黒い瞳をこちらに向けて、その巨体をのそのそと揺らしながら坂田の方へと近づいてくる。

 どうやら、害はなさそうだ。


「なんだ、三葉虫じゃねぇかよ。ビビって損したぜ」


「ビビってたんすか?」


「なっ! こ、言葉の綾だよ!」


 坂田が顔を赤くして弁解している間に、その三葉虫は坂田の足元へ辿り着き、人懐っこい猫がやるように体を擦りつけてきた。


「こいつ、なんか人懐っこいな! おーよしよし、可愛いやつめ」


 擦り寄ってくる三葉虫を坂田が撫でてやると、嬉しそうに体をフリフリと動かす。


「おい、杉野も撫でてみろよ」


「えぇー、噛んだりしないですか?」


「大丈夫だって、どうせ歯なんてないだろうし、噛まれても痛くねぇよ」


 そういう問題ではないのだが、まあ怪我しないのであればいいか。


「じゃあ、失礼して」


 杉野が三葉虫のつぶらな瞳の後ろ、人間であればおでこにあたる部分を撫でてみた。

 表面はザラザラしており、かつしっとりと湿っている。

 なかなか気持ちいい手触りだ。

 三葉虫も撫でられて喜んでいるのか、ぷるぷると震えている。


「確かに、これは可愛いですね」


「こんだけデッケェんなら、乗っても大丈夫なんじゃね?」


 そう言うと、坂田は三葉虫の大きな背中に乗っかった。


「ちょ、駄目ですよ! かわいそうですって」


「そうか? 平気そうに見えるけどなぁ、ってか、お前も乗ってみろよ! 楽しいぞ~」


 確かに、坂田が乗っても三葉虫は嫌がりもせずにのそのそと動いている。

 本人が嫌がってないのならと、杉野も背中に乗ってみると、なるほどこれは確かに楽しい。

 バイクに乗るのとは違って、スピード感は皆無だが、のんびりしていて何だか眠くなってくる。

 いい大人が二人乗っても、三葉虫はビクともしなかった。

 それどころか、杉野が乗ったことが分かると、微妙に這う速度を上げているようにも思える。

 乗るのを待っていてくれたのだろうか。

 疲れ切った杉野達を乗せて、三葉虫は藤原がいる方向へゆっくりと進んでいった。



 杉野達が帰還すると、出迎えた藤原が三葉虫を見て驚いた顔をした。


「おぉ、戻ったか。あんまり、遅いからしんぱ――な、なんだい、それは!?」


「あー、さっき拾いました。捨て三葉虫です」


 三葉虫から降りた坂田が答えると、先に帰っていた神谷が興奮した様子で三葉虫に近づいた。


「これ、三葉虫じゃないですよ! 『ヒベルトプテルス』っていうウミサソリの仲間です!」


「ウミサソリ? ってことは、あのサソリの仲間かよ!?」


 真実を知った坂田が、さっきまで可愛がってたヒベルトプテルスから距離を取った。

 杉野も降りて、さっきまで乗っていた背中をよく見ると、確かにサソリらしい棘付きの尻尾があった。


「とはいっても、この子は大人しい個体のようだから、そんなに警戒しなくても大丈夫だと思うよ。元々、このヒベルトプテルスはさっきのウミサソリみたいなのとは違って、小さな生き物しか食べないから、気性も穏やかなんだろうね」


「それならいいか」


 そう言って、坂田はまたヒベルトプテルスを撫でまわす。

 撫でられたヒベルトプテルスの顔――といっても目しかないので判別が難しいが――もなんとなく笑っているように見える。


「ところで、その子どうするの? まさか、連れて帰るんじゃないでしょうねぇ」


 八坂が母親のようなセリフを吐き、坂田達を追い詰める。


「それは、その、できることなら飼いたいけどよぉ」


 坂田が名残惜しそうにヒベルトプテルスを見つめながら答える。

 杉野も胸の内は坂田と同じだが、現実的に考えればそんなことは到底許されるはずがない。

 もし、無理にこの洞窟から連れだしたらどうなるかは、自分達が付けているマスクを見ればよく分かるだろう。

 自分達にとって、この洞窟の酸素が濃い空気は毒だが、この子達にとっては必要不可欠なものなのだ。

 自分達の手でこの子を殺すことなどできない。


「せめてよぉ、この洞窟の中にいる間だけでも一緒に過ごせねぇかな」


「それ、いいっすね! 僕は大賛成ですよ!」


 坂田の意見に杉野が即答で賛成すると、藤原はやれやれといった感じの仕草をした。


「しょうがないな。いいだろう、この洞窟から出るまでの間はその子と一緒にいていいよ」


「やったー!」「やったぜ」


「その代わり、ちゃんと世話をするんだよ」


「「「了解です!」」」


 杉野や坂田だけでなく、神谷も嬉しそうに答えた。

 神谷も古代生物の世話をしてみたかったのだろう。



「ところで、この子の名前は決まっているのでありますか?」


「名前? そういえば、まだだったなぁ」


 懐いてきたのだから、名前は必要だろう。

 ついでに言うと、学名のままだと書くのが大変なので早く決めてほしい。

 何処からか天の声が聞こえたり聞こえなかったりしつつ、ヒベルトプテルスの名前を考える会が始まった。


「やはり、ヒベルトプテルスという学名なのでありますから、プテルスなんてのはどうでありますか?」


「いや、ここは三葉虫に似てるから、サンちゃんにしよう」


「僕としては、どっちでもいいですけど、どうせならもっとカッコいい名前がいいんじゃないですか?」


「例えばどんな?」


「サソラーベルトとか」


「なんじゃそりゃ」


「ウミサソリの仲間なんで、その要素も入れてみたんですよ」


「悪くはねぇが、なんか違うなぁ」


「さいですか」


「……ヒベルス」


「へ?」


「ヒベルス、ってどう?」


「なんだ、八坂ちゃんもノリノリじゃん」


「別に、名前がなかったらかわいそうだし」


「なるほどね、優しいとこもあるじゃねぇか」


「それじゃあ、ここまで出てきた名前をまとめると、『プテルス』、『サンちゃん』、「サソラーベルト』、『ヒベルス』、この四つですね」


「どれも甲乙付け高いなぁ」


「えぇーそれでは多数決で決めたいと思います。まずは、『プテルス』がいいと思う人」


「はい」


 神谷一人だけが手を挙げた。


「次に、『サンちゃん』がいいと思う人」


「はーい!」


 坂田が自信満々に手を挙げる。


「はい、では次に、『サソラーベルト』がいいと思う人」


「……」


 今度は誰も挙げなかった。

 何故か、坂田が決を取る杉野を見てニヤニヤしている。


「……こほん、最後に『ヒベルス』がいいと思う人」


「はい」


 八坂が手を挙げる。

 それに続いて、自分の出した案に入れなかった杉野も手を挙げた。


「えぇーでは、多数決の結果、この子の名前は『ヒベルス』に決まりました」


「わー」「ぱちぱち」


「これにて、第一回『ヒベルトプテルスの名前を考える会』は終了です。ありがとうございました」


 杉野が軽く礼をして、壇上代わりの岩の上から飛び降りた。


「おーい、そろそろ終わったかい? ちょっと手伝ってほしいんだけど」


「あっ、はーい」


 藤原に呼ばれたことにより、杉野達は再び仕事に戻っていった。

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